「サル肉を食べる」と聞いた人の中には、「うぇ~、気持ち悪い!」とか、「呪われそう!」とか、批判的な意見を持たれる方も多いと思います。しかし、食材としてのサル肉は、世界的に見てもそれほど珍しい食材ではありませんし、日本でも近世まで猿食(えんしょく)をする文化は各地に存在しました。そこで今回は、サル(ニホンザル)の肉と、その料理方法について、お話をしたいと思います。
ニホンザルってどんな動物?
日本にはタイワンザルやアカゲザルといった色々なサルが生息していますが、日本に古来から生息しているのはニホンザル(Macaca fuscata)1種であり、その他はすべて外来種です。本題に入る前に、まずはこのニホンザルの生態について、軽く理解しておきましょう。
ニホンザルの身体的特徴
霊長目、オナガザル科のニホンザルは、体長(頭から胴までの長さ)約48~60cm、体重は8~18kgです。
毛並みは若いイノシシにそっくりで、シルエットも似ているので、山の中ではしばしば見間違えることがあります。しかしニホンザルはイノシシに比べて上半身が発達しているので、走るときに肩が盛り上がる姿から見分けることができます。
手足が器用な蹠行性の動物
歩行の仕方は、人間やクマ、アライグマなどと同じく『かかと』を地面につけて歩く蹠行性(しょこうせい)です。このタイプに分類される動物は、足(手)を器用に使えるといった特徴があるため、モノを掴んだり、木に登ったり、二足で歩いたりすることができます。
ニホンザルの分布
ニホンザルは北海道を除く日本列島に広く生息しており、特に青森県下北半島の群れは『人間を除く最も北に生息する霊長類』(北限のサル)としても有名です。
英語で”Snow monkey“と呼ばれることもあるように、「雪の降りしきる中、身を寄せ合うサル」の姿は唯一ニホンザルでのみ見られる光景であり、海外からはこの珍しい姿を見るために、多数の動物愛好家が来日しています。
ニホンザルによる被害
そんな愛らしいニホンザルですが、実は近年、問題行動が目立ってきています。特に野菜や果物を食害する農業被害が深刻化してきており、サル特有の頭の良さや、群れで畑を荒らすなどの特徴から、被害防除も難しいのが現状です。
ニホンザル捕獲に関するガイダンス
ニホンザル捕獲の準備編
ニホンザルの“銃猟”編
ニホンザルの“罠猟”編
有害鳥獣駆除で捕獲された肉が、ごくまれに出回っている
そもそもニホンザルは狩猟鳥獣ではないため、狩猟による捕獲が禁止されています。そのため、本来はサルの肉をジビエとして食べることはできません。
しかし、上述したように、近年ではニホンザルによる被害が増えてきており、全国的にニホンザルの捕獲(有害鳥獣駆除)が増えています。
そして、この有害鳥獣駆除で捕獲されたニホンザルの一部は許可を受けた食肉処理場で解体され、ごく一部がジビエとして流通しています。
サル肉ってどんな味?
”ゲテモノ”と思われがちなサル肉ですが、日本では縄文時代の遺跡からサル肉を食べた跡の骨が見つかったり、江戸時代の獣肉店「ももんじ屋」でも取り扱われていたりと、「まったく食べられていなかった」というわけではありません。
むしろサル肉は、滋養強壮の強い食材として重宝されていたという文献も残っており、特に、豪雪部となる東北や中国地方山間部では、冬場の貴重なタンパク源として猟確され、食べられていたといわれています(※参考文献)。
肉質は固く旨味も微妙
サル肉はクマ肉に似ており、強い赤身をしています。食味としては、非常に固い肉質で、旨味はさほど強くありません。
もちろん、「旨味がまったくない」というわけではないのですが、イノシシやシカの旨味、クマ肉の「くまくました旨味」に比べれば、やや個性に欠けると思います。
真の味は脂にアリ
正直言って、大して食味ではないサル肉ですが、実を言うとサル肉の魅力は肉本体ではありません。サル肉の真の魅力、それは脂、正確に言うと『脂分が溶けた出汁』、これが滅茶苦茶美味いです!
サルの脂は繊細で汁によく溶けます。脂が溶けた出汁は金色に輝き、ほんのりと柔らかな甘さがあります。しかも、体の中から熱が上がってくるような不思議な感覚があり、「滋養強壮」のうわさ通り強いエネルギーを持っています。
同じく脂が美味しいジビエに『アナグマ』がありますが、ニホンザルの脂はアナグマよりも繊細で甘味があります。肉や脂身自体は大したことはありませんが、この脂のスープだけでも十分な価値があると思います。
サル肉はスッポンと似ている
この「肉はイマイチだけど、スープに溶けた脂が美味い」という食味は、スッポンに似ています。スッポンも肉自体はそれほど美味しいわけではありませんが、スッポンのコラーゲンが溶けだしたドゥルっドゥルのスープは、強い旨味と滋養強壮にあふれています。
寒い時期のサルは絶品!?
サル肉料理もスッポンと同じように、羹(あつもの:肉と野菜を入れてコテコテに煮た汁物)が最も適していると思います。長野県には「秋猿は嫁に食わすな」ということわざがあるそうなのですが(※参考)、おそらく「夏場の脂の無いサルよりも、秋の脂の乗ったサルの方が美味しい」という意味なのでしょう。
「ニホンザルの旬は秋だった!」、本日みなさまに覚えて帰って欲しいトレビアです。
サル料理が食べられるお店
東京都板橋区志村にある『酒造新潟』
余談ですが、東京都板橋区志村にある『酒造新潟』というお店では、サル肉料理を食べることができます。
酒造新潟の店内は猟師のファンタジーランド。メニューにはイノシシやシカ、クマ、そしてサルなどの、様々なジビエ料理が取り揃えられています。真のジビエ好きには一度は行って欲しいお店です。
2021年時点では閉店している?
と、ここまでご紹介しておいてなんなのですが、2021年7月現在では同じ住所に、別のお店が入っているようです。これはひょっとすると・・・閉店したのかな?
もし近くに住まわれている方は、詳細を教えてください。
まとめ
- ニホンザルは狩猟で捕獲できないが、近年、有害鳥獣駆除が増えてきている
- サル肉の食味は大したことはないが、脂が溶けだしたスープが絶品
- サル肉おすすめの料理は羹(あつもの)。旬は秋猿。