ニホンザルの捕獲許可・追跡・捕獲準備編 〜【サル語】を覚えて捕獲効率UP〜

 サル(ニホンザル)による獣害に対しては、しっかりとした防除に加え『捕獲』による対策が必要になります。そこで今回は、サルを捕獲するために必要な手続き方法と、サルの発見方法などについて、お話をしたいと思います。
 サル駆除に関する話題は、人によって不快感を覚える方も少なからずいらっしゃると思います。苦手な人は無理なさらず、遠慮なくページを閉じてくださいね。

目次

サル捕獲のライセンス

 既にご存知の方も多いかと思いますが、ニホンザルは狩猟鳥獣ではないため、狩猟(狩猟制度)による捕獲はできません。そう、たとえどんなにサルによる被害に苦しめられていても、狩猟中にサルを銃で撃ったり罠で捕らえたりすると、違法になってしまうのです!そこで、サルを捕獲するためには狩猟制度ではなく、捕獲許可制度という枠組みで行う鳥獣被害対策実施隊に入らなければなりません。

鳥獣被害対策実施隊(駆除隊)とは?

 鳥獣被害対策実施隊とは、市町村が『野生鳥獣による被害の防除や駆除』などを行うために組織する非常勤公務員の団体で、「駆除隊」と呼ばれることもあります。銃を所持している人の多くは有害鳥獣駆除という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、その有害鳥獣駆除活動ができるのが、市町村役場から任命された駆除隊に所属するメンバー(対象鳥獣捕獲員)というわけです。
 なお、駆除隊に入っていても必ずサルを捕獲できるわけではなく、市町村が出す許可証に「ニホンザル」が指定されており、さらに許可された捕獲頭数内でなければなりません。

駆除隊には、どうやって入るの?

 よく、駆除隊は「猟友会」とゴッチャにされていることがありますが、駆除隊と猟友会はまったく関係がありません。ただ、市町村によっては「鳥獣被害のことはよくわからんから、地元の猟友会に丸投げしちゃえ~」といったところも多く、そういった市町村の場合は、任命の権限が地元の猟友会にあったりします。
 そうでない市町村であれば、役場の鳥獣被害を管理している農林課などに「駆除隊に入りたい」旨の話をしにいきます。もちろん駆除隊に入るためには相応の狩猟経験を求められるところがほとんどですが、鳥獣被害に困っている市町村では初心者ハンターでも入れる可能性があります。
 私の市町村では、狩猟免許を取得して次の年度から参加できます・・・というか、自動的に参加させられます。「狩猟経験は一年でもあればオッケー」って感じです。

サル駆除の報奨金

 駆除隊に入り野生鳥獣を捕獲すると、1頭当たりに報奨金が出ます。例えば、「シカ1頭7,500円」、「アナグマ1頭2,500円」といった感じですね。猟師として働く私の主な収入は、この捕獲報奨金です。
 サルの報奨金は総じて高額です。だいたい1頭当たり20,000円のところが多いようですが、地区によってもバラつきがあり、私のところは農協からも追加の報奨金が出るため、手取りで22,500円、幼獣だと5,000円になります。
 サルの捕獲報奨金だけ桁が違う理由は、『サルによる農業被害がひどい』ことや『サル捕獲は専門技術が必要』というのもありますが、『大抵の猟師はサルを獲りたがらない』という理由もあります。

サルを捕獲するうえでの心構え

 サルを捕獲するうえでは「周囲から嫌味を言われることも多い」ということを覚えておいてください。前回お話したとおり、サルは人を見て行動を判断するため、弱そうな高齢者や女性の前では集団で現れるのに、銃を持った猟師を見ると一目散に逃げてしまいます。そのため、『一般人による目撃数は多いのに、捕獲は非常に難しい』のです。
 そのため人によっては

「なんであんなに居るのに獲れないんだ?」
と攻められたり、

「散弾銃なんだから1発で6頭ぐらい獲れるだろ?儲かってうらやましいな」
と嫌味を言われたり、挙句の果てには

「あんたが早く来てくれないから野菜(果物)を盗られた」
なんてことを言われることもあります。

「そんなこと言うのなら、駆除の現場を見に来いよ!」
と思うんですが、もちろん農家の人たちはサルの駆除なんて気味悪がって見に来たりしません。

(いったい、誰のためにサルを駆除しているんだか・・・)
と、ちょっと精神的に“クル”こともありますが、そんなことをいわれたときも、

(サルに悩まされてピリピリしているので仕方無い)
と思うようにしましょう。
彼らは被害者。サルによる被害というのは、人の精神を大きく削るほど酷いということなのです。

フィールドワーク

 さて、サルを捕獲するためには、まずは獲物を探さなければなりません。そこで、サルを探すための基本となるフィールドワークについて、お話をしたいと思います。

食跡

 フィールドワークの基本となるのが食跡です。食べ残しを調べることで獲物が近くにいることがわかるだけでなく、「この時期に何を食べているか」といった情報を蓄積することができるため、狩猟技術のレベルアップにもつながります。

 サルは非常に”美食家”なので、苦いところや固いところは器用に捨てて、美味しい部分だけを食べます。例えば、ミカンであれば薄皮を吐き出してあったり、タケノコの場合は皮を剥いてあったりします。

歯で細かく食いちぎるサル特有の食跡

 サルの食跡で特徴的なのは、非可食部を細かくちぎる点です。例えばクリの実は、イノシシの場合は鬼皮(クリの固い皮)を二つに割って食べるため、イガと割れた鬼皮が食跡として残ります。また、シカの場合は鬼皮ごと食べるのでイガしか残りません。
 対してサルの場合は、細かくちぎられた鬼皮とイガが散乱します。これは器用に手を使って歯で非可食部を噛み切るため、このような跡が残ります。・・・てか、イガまで噛み切るとは・・・くちびるは痛くないんでしょうか?

餌を持って移動するのもサルの特徴

 食跡でいえば、サルが畑を襲撃したときは、エサを持って(咥えて)安全な場所まで移動します。このときに、エサを途中で落としてしまうことも多く、果物や野菜が丸ごと道に落ちていたりします。私は坂道で、カボチャが転がってくるのを見たこともあります。
 このような“おとしもの”を見つけたときは、その跡をトレースしていくと群れの通り道を見つけ出すことができます。通り道を見つけることができれば、その先にサルの群れがいる可能性が高いです。

 動物の糞はフィールドワークによく用いられる材料ですが、特にサルの場合は道路を渡るときに残していくことが多いです。そのため、車で走りながら痕跡の調査をすることができるため、サルの追跡にはとても役に立つ痕跡となります。

 サルの糞は季節によって違いがあります。例えば、冬場の糞は木の皮などを食べているため茶色に、初夏ごろの糞は若木の芽をたくさん食べるため緑色に、果物を多く食べるときの糞は種子が沢山入ったりしています。
 ちなみに、人間以外の動物は排泄のコントロールがほとんどできないそうです。なので、全力で逃げようとする動物は、よく糞を撒き散らしながら走っていきます。糞を出して体を軽くする効果があるのかもしれません。

変な声

 濡れた靴で車のペダルを踏むと「ギュィッ!」って音が鳴りますよね?こんな音が聞こえたときは、高確率でサルが近くにいるので、車のエンジンを切って耳を澄ませてみましょう。
 この「ギュィッ!」という音は、竹がしなる音に似ているため、結構間違えることがあります。助手席に乗っていた猟友も反応していたので、間違えるのは私だけではないっぽいです(笑)

通報

 フィールドワークではないですが、サルの発見は地域住民の通報が最も効率的です(笑)。サルがいたときに電話してもらえるよう地域住民の方と手を組んでおくことで、サルを発見する手間は大きく削減できます。地域住民の方に協力を仰ぐときは、電話番号を書いた名刺を作って渡しておきましょう。

地域付き合いも大事

 ただし、人から通報してもらう方法は、こちらの対応が悪いとだんだん協力してくれなくなるので注意しましょう。もちろん、通報を受けたらすぐに駆け付けたい気持ちは山々なのですが、そう都合よくいかないのが普通です。
 そこで協力をお願いするときは、あらかじめ「〇曜日は有害やってます」とか、「お昼過ぎならだいたい動けます」といった、対応できる期間や時間を事前に伝えておきましょう。

サルの鳴き声を覚えよう

 サルを追跡するときは鳴き声から群れの様子や状況を読むことが重要になります。なんだか難しそうに思えますが、「ギャ系」、「ホワ系」、「ホゥ系」の3種類を覚えておけば、あなたもサル語検定合格です!

「ギャ系」は警戒をしている声

 「ギャ!ギャ!ギャ!」や、「ギャ――――ッ!」といった鳴き方は、『威嚇鳴き』とも呼ばれ、同時に木を揺すったりする音も聞こえてきます。
 この鳴き声のときは、サルはこちらの様子を見ています。威嚇鳴きによって「ひるんで瞳孔が狭くなっている?」、「恐れた表情をしている?」、「身体が硬直している?」といった様子を見て、相手が自分たちよりも強いか・弱いかを判断します。

 相手が自分たちよりも強い(敵意がある)と判断した場合は、「危険がすぐ近くに迫っている!」と群れに伝えて、撤退モードに入ります。
 1匹から数匹のサルがしきりにこちらに威嚇してくるときは、おそらくそのサルは“引きつけ役”で、その隙に弱いサル達を逃がしている可能性があります。群れを分断することができると捕獲確率が上がるので、先手を打って行動するようにしましょう。

「ホワ系」は緊張している声

「ホーワーォホワーォ」といった声は緊張状態にある声です。例えば、「畑に人がいる」、「もう少し待て」といった、緊急性が無いけれど、警戒が必要なときに聞こえる声です。
 この鳴き声は、逃走の計画を立てているときにもよく聞かれます。おそらく、誰が先導役になるのか、誰が囮役になるのかを考えているのでしょう。
 そこで、この声が聞こえたときは、こちらも「どのように動くか」、または「どこに待ち伏せるか」といった計画を立て、行動に備えましょう。サルたちが「ギャ!」と鳴き始めたら、追いかけっこが始まります。

「ホゥ系」は仲間に意思を伝達する声

「ホゥ・・・ホゥ」「ホゥホゥホゥ」といった鳴き方は、仲間同士での意思疎通に使われます。「こっちに来い」、「そっちに何かあるのか?」、「あそこに何が見える?」、「あれを見て」といった情報が含まれているように感じます。
 また、追跡をしているときにも聞こえたりします。「私はここに居る」や、「こちらに来い」、「敵はまだ居るぞ」、「あっち方面だ」といった、仲間に指示を出しているときも、この鳴き声です。
 この鳴き声のときは、群れが分断している可能性が高いです。群れからはぐれて混乱している個体がいたり、こちらの位置が掴めていなかったりするので、捕獲のチャンスが高まります。

まとめ

  1. ニホンザルを捕獲するためには、捕獲許可制度における鳥獣被害対策実施隊に入隊する必要がある
  2. サルの食跡・糞・鳴き声を覚えて、追跡の効率をあげよう
  3. サル語は大きく「ギャ系」、「ホワ系」、「ホゥ系」の3種

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この記事を書いた人

りょう@東 良成のアバター りょう@東 良成 専業猟師・ライフルマン

三重県紀和町に住む専業猟師。年間200頭以上の獲物を捕獲しています。主に銃に関する知識や野生鳥獣被害について、Twitterで発信中 。

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