【被害激増】ニホンザル被害について真剣に考えてみた【小さな悪魔】

 日本の昔話によく登場する『サル』。イジワルだけど、どこか憎めないキャラとして描かれることが多い動物ですよね。しかし実際のサルは「憎めないキャラ」と笑っていられるほど、ほほえましい動物ではありません。今回は、現在日本中で深刻化しているサル被害(猿害)について、私が猟師として長年サルと関わってきた経験談を踏まえてお話をしていきたいと思います。

目次

深刻なサル被害

 私の親戚にミカン農家さんがいました。この人は、毎年の売上予想の1000万円に対して、あらかじめ獣害による損失引当を5%見積もっていたり、畑をしっかりと柵で囲っていたりと、鳥獣被害対策をしっかりと行っていました。
 しかし、ある年を境に野生鳥獣被害が激増し、ついには売上の『30%』が被害にあうまでになってしまいました。結局、農家さんは生活ができなくなり廃業。野生鳥獣対策も十分に行っていたはずなのに、一体なぜ・・・。農家さんを廃業にまでいたらしめた原因、それはサルによる被害でした。

サル被害は通常のネットなどでは対処できない

 この農家さんは、背丈ほどに張ったフェンス上部に、外側へ向けた電気柵を3本張って対策をしていました。しかし、この柵はイノシシやシカに対しては一定の効果はあるのですが、サルに対しては全く効果が無かったのです。

電気柵もすぐに突破された

 もちろん、電気柵を設けてしばらくの間はサルによる被害は減っていました。しかし、一度電気の痛みを味わったサルはそのことを学習し、柵を作るために切っておいた雑木を立掛けて侵入したり、支柱を伝って電線に触れないように侵入したりと知恵を凝らすのです。
「サルは頭がいい」という話はよく聞かれるかと思いますが、正にその通り。一筋縄ではいかないのがサル被害の恐ろしさなのです。

目の細い網もすぐに突破された

 サルが登れないような網の目の細いネットであっても効果は一時的です。網の下を潜って進入したり、歯で噛み切ってあっさり進入されてしまいます。
 農家さん達も入られるたびに対策を繰り広げますが、イタチごっこが続きます。そもそも趣味で農業をやっている人も多いので、そこまで対策にお金をかけられるわけでもありません。
 疲れ果てた農家さんたちは「サル被害対策の手間を考えたら、うちで作る野菜はスーパーで買う何倍も高いよ」と、よく自虐されています。

その統率はリトルアーミー

 サル被害が酷くなる原因は群れでやってくる点にもあります。サルの群れは、まず斥候(せっこう:引きつけ役)が偵察に出て襲撃する田畑を探します。そして、安全が確認されると見張り役のサルが本隊に連絡し、田畑に招き入れます。
 人間が近づいてくるなどの危険が迫っていることを感じると、斥候はあえて人間の目の前に現れて騒ぎ立てます。そして、人間が気を取られている隙に、本隊は静かに別方向へと逃げていくのです。
 サルたちの統率された動きは、まさに人間の軍隊のようです!私の地域ではイベントがあると、観光客に茶粥をふるまう習慣があるのですが、そのときに使う予定だったトウモロコシの畑を、目を離していたわずか2時間の間に、すべてサルに食べられてしまったという被害が出たこともあります。

いやらしい食べ方!「せめて残さず食べてくれ!」

 サル被害で農家さんの精神的苦痛になる要因の一つに『イヤらしい食べ方』というのもあります。サルは収穫直前の野菜のことを良く知っており、熟れたころを見計らってやってきます。しかし、食べる物が少ない時期は未熟な作物を襲うこともあり、このときは美味しいところを探すために齧っては捨て、齧っては捨てを繰り返すのです。
 無残にも齧り散らされた農家さんの心境は、怒りを通り越してあきれ顔。「全部残さず食べるならまだしも、こんなふうに散らかされるのは心が痛むよ・・・」という話しをよく聞きます。


 こういった暴食行為は精神的被害だけでなく、実害を起こす場合もあります。例えば、屋根の上に食べカスを捨てられると、トタンが錆びたり、屋根が腐ったりする原因になります。
 また、サルが捨てた果物が熟れてると周囲に悪臭が出たり、食べカスに虫が寄ってきたり、アナグマやハクビシンが来たりといった、二次被害が発生します。
 木の上から屋根にポンポンと食べかけの果物を捨てていくサル。サルカニ合戦のサルは忠実に再現されているように思えます。

さらに深刻な“人間”への攻撃

 サルの被害は農業被害だけではありません。人間慣れしたサルは家に入り込み、お仏壇のお供え物を盗ったり、冷蔵庫を開けて食べ物をあさったりもします。また、ときには人を襲うこともあり、「咬みつきザル」とニュースになることもあります。
 イヤらしいことに、サルは「弱い者」を認識する知恵を持っているので、高齢者や女性、子どもを狙って攻撃します。もちろん男性であっても、目を合わすと威嚇してきたりします。
 私の周りでもサルに引っ掻かれて、腕に長い傷ができた人がいます。サルの爪はあまり鋭そうには見えませんが、けっこう傷は深く残ります。これを執拗にやられたらと思うと・・・ゾッ~っとしますよね。

ニホンザルを知ろう

 サル被害は近年、全国的に多くなっているようです。しかし、サルの情報ってあまり世に出回っていませんよね?そこで私なりにではありますが、猟師としての経験や体験からサルという動物について少し書いてみたいと思います。正確に合っているかどうかはわかりませんが・・・。

サルの分類

 まず前提として、ここまで「サル」という言葉を使ってきましたが、日本に在来種として生息するのはニホンザル1種のみです。
 伊豆大島ではタイワンザル、房総半島などではアカゲザルなどが生息していますが、これらはすべてペットとして飼われていたり、動物園で飼育されていた個体が逃げ出して野生化した外来種となります。
 そのため、今回のお話では、これら外来種のサルには当てはまらない話も出てくるかと思います。あらかじめご了承ください。

ニホンザルの身体的特徴について

視力

 サルはとても目が良い動物で、隣の山からこちらを認識し判別できるぐらいの視力があるようです。離れた場所にいるサルを双眼鏡で見てみると、こちらを「じ~・・・」っと見返してくるほどです。
 よく「サルと目を合わせるな」と言われていますが、これは事実です。特に、対抗する手段(銃)が無い場合は、サルと目を合わせるのは避けましょう。サルは、相手が「強いか・弱いか」、「怯むか・向かってくるか」、「ヤル気があるか・無いか」を表情などから正確に読み取ります

聴覚

 サルの聴覚はおそらく人間程度だと思います。しかし自然の中では、聴覚がより優れたシカと行動して補っていることがあります。
 シカはサルの目の良さと警戒する範囲の広さを、サルはシカの耳の良さと警戒心を、お互いに利用しあって危険を察知しているのです。

運動能力

 サルの手は指が長く、器用に物を掴むことができ、木登りも得意です。指には指紋があるため、スギやヒノキのような枝が無い木でも、スルスルと登り降りします。
 「サルも木から落ちる」なんてコトワザがありますが、確かに木から落ちるサルを見ることもあります(笑)。しかし、落下中に別の枝を掴んで体制を立て直すことの方が多いです。人間にはマネのできないすごい反応速度!
 またサルは、細い枝を揺すってバネのように反動をつけて、違う木に飛び移るといった芸当も見せます。

走る速さ

 サルは二足で立ち上がって、歩くこともあります。ただ、全力で逃げるときは四つ足で走ります。スピード的にはイノシシより少し遅いぐらいでしょうか?
 毛並みの色合いから、逃げる姿は「小さいイノシシ」のように見えますが、肩が上下に躍動する感じでサルとイノシシを見分けることができます。
 また、イノシシは真っすぐに走って逃げることが多いですが、サルの逃げ方はトリッキーです。ジグザグに走ったり、急に止まったり、木の上に登ったりと、動いているところを銃で撃つのはかなり難しい獲物です。

知能

 ここまでに何度もお話しているとおり、サルは学習能力とコミュニケーション能力に優れた動物です。そのため、群れの中で情報を共有することも多く、例えばサル1頭に「ハンター(敵)」として顔を覚えられると群れ全体に情報が共有され、群れに近づいただけで逃げられるようなことも起こります。

ニホンザルの“群れの特徴

 よく「ボスザル」という表現がされますが、サルの群れの行動を決めているのは『年をとったメスザル』だそうです。オスザルにモテるのも、この妙齢のメスザル。その理由は・・・子育てが上手だからだそうです(笑)
 群れの中では上下関係がハッキリしていて、下克上や根回しもあるようです。オスザルの場合は実力を決めるために喧嘩をし、世代交代で追い出された年寄りザルや、地位争いをして負けた落ち武者ザルが、山の中を一匹でウロウロしています。一匹狼ならぬ「一匹猿」ですね。また最近は、奥さんと子どもを連れて群れから離れるサルも増えてます。サルの核家族化でしょうか?

凄まじいサルのケンカ

 サルのケンカは凄まじいようで、ひどい怪我を負うこともあります。耳が千切れかけている個体を見たこともあります。
 また、群れに世代交代があると、仔ザルは無残にも殺されるそうです。なんでも、子どもを殺したらメスザルに早く発情がくるからだとか・・・恐ろしいサル社会。

群れ同士の関係

 サルの群れは、当地では平均20~30頭が多い気がします。ただ、この数はあくまで平均で、もっと少ない小隊や、かなり多い大隊もいます。そんな群れが、私の周りに6群れ、見廻る全体としては12群れほどいます。
 サルの群れは縄張りがあり、移動する道も他の群れとかぶることが無いように、線で書いたようにキッカリと決まっています。

群れを駆除しても他の群れが入ってくる

「縄張り争い」という言葉をよく聞くと思いますが、実際に群れ同士で争っている姿は見たことがありません。おそらく、よその縄張りに侵入することはほぼ無いように思います。
 ただ、何かしらの原因で群れが崩壊したときは、他の群れがその縄張りを占領するそうです。そのためサルの被害防除は、集中捕獲で一つの群れを捕獲しても、また他の場所から群れが入ってきて被害が出ることもあるそうです。サル被害の防除は、本当に難しいですね・・・

ニホンザルの被害防除について

 サルは、柵に登ったり、網を咬んで破ったり、穴を掘って進入したり、隙間から仔ザルを入れて農作物を盗み出したりと、被害を防除するのはとても大変です。対策もイタチごっこになることが多く、体力の無い小規模農家さんは途中であきらめてしまうこともあります。
 私がよく言っていることなのですが、サル被害防除は人が檻の中で暮らすほうが現実的だったりします。ただ、サル被害に困っている人たちに「諦めましょう」というわけにもいかないので、私なりに被害防除についてお話をしたと思います。

とにかく「餌場である」と認識されないようにする

 サル被害防除で初めに取り組まないといけないのは、餌場として認識されないようにすることです。サルは、まず遠くから様子を見て、食べごろだったり、安全だと思うと群れでやってきて荒らします。そして「ここはチョロい餌場だな」と覚えてしまうと、再び同じ時期に襲ってきます。こういった習慣性はイノシシやシカにもあるのですが、サルの場合はもう一段階厄介で、餌場と認識されたあとに対策を行っても効果が薄いのです。
 基本的に野生動物は合理的な生き物なので、餌までのハードル(被害防除対策)を上げれば上げるほど、被害は少なくなっていきます。しかしサルの場合はなぜか、困難を克服して餌にありつこうと努力します。『非合理的』だと予想や計算が立たないため、非常に厄介な習性なのです。

山に餌があっても関係ない

 狩猟に対して”ナイーブ”な人の中には「山の食べ物が少なくなっているから、野生動物が畑に出て来るんだ!原因は人間側にある!」という考えを持たれている方もいます。これはまぁ・・・全くの間違いというわけではないと思いますが、サルに関して言えば山に餌があっても田畑を襲います
 サルは頭がいい動物なので『優先順位』という考えができます。例えば、『山になる果物』と『捨てられた果物』、『人間が大切に育てている果物』の3種類があった場合、最も美味しく、かつ、最も早く無くなってしまうのは、『人間が大切に育てている果物』です。
 そのためサルは、まずは人間が手掛けている農作物を襲います。そして農作物が無くなったら、次に廃棄された農作物を、それも無くなれば、山になる果物を、といった優先順位で食べていくのです。

最終的には“捕獲が必要

 被害防除も難しく、一度味をしめてしまうと効率が悪くても盗りにくる、さらに、自然界に餌を増やそうとしても被害が減らないとなると、やはりどうしても人間による捕獲が必要になります。
 「サルを捕獲(捕殺)する」というのは、多くの人が嫌がる話だと思います。実際に私もサルの駆除をしていると、農家さんから「うわぁ呪われる」と言われたこともあります(「獲ってくれ」と頼むのは農家さん側なんですが・・・)。

まとめ

  1. サルは知能が高いため、イノシシ・シカ用の対策では被害を防げない場合がある。
  2. 農業被害だけでなく、人的被害や、残滓をバラまいて屋根を腐らせたりする実害もある。
  3. サル被害防止は、なによりも『餌場と思われないこと』が大事。

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この記事を書いた人

りょう@東 良成のアバター りょう@東 良成 専業猟師・ライフルマン

三重県紀和町に住む専業猟師。年間200頭以上の獲物を捕獲しています。主に銃に関する知識や野生鳥獣被害について、Twitterで発信中 。

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