【罠猟師】VS【ニホンザル】箱罠・くくり罠でサルを捕獲するテクニック

 さて、前回は銃猟によるサルの捕獲についてでしたが、今回は罠猟による捕獲です。私が経験したことがある罠は、箱罠とくくり罠なので、この二種類について捕獲のコツ・注意点などを書いていきたいと思います。

目次

箱わなの仕掛け方

 頭の良いサルを罠にかけるのは、なかなか難しいことではあります。しかし箱罠は、その地域に餌が少なくなる時期になると捕獲効率が高くなるため、サル被害に対抗する猟師には重要な猟具だと言えます。
 なお、「箱罠って何?そもそも罠って何?」という方は、下記ページも併せてご確認ください。

箱罠の構造

 サルを捕獲する箱罠は、私の場合、少し小さめの物を使用します。サルは一度捕獲すると箱罠に入りにくくなるのですが、少し位置をズラすと、また入るようになります。そのため、箱罠は小さめの方が楽なのです。

ワイヤーメッシュに鉄網で補強を入れる

 サルはイノシシやシカなどに比べて手が器用なので、箱罠の隙間からエサを抜き取ってしまうことがよくあります。フレームにワイヤーメッシュを使った箱罠の場合、一般的な15cm角の物だと手を突っ込まれやすいです。少し高価な10cm角のフレームでも、個体によっては手を入れてきます。
 そこで箱罠には、BBQ用の網や、インテリア用の網を張っておくことをオススメします。100均で買ったもので十分です。針金や結束バンドでも良いですが、咬み切ってしまう場合も多いので過信はできません。

ストッパーは必須

 箱罠には、落ちた扉が再び開かないようにするストッパーが必須です。サルはイノシシほどパワーは無いので「扉に少しオモリを足すぐらいで大丈夫だろ」と思っていたのですが、”ウエイトリフティング”のように扉を持ち上げようとするサルの姿を報告されたため、それ以降は必ずストッパーをかけるようにしています。
 もしこのとき複数頭入っていたとしたら、1頭が持ち上げている間に逃げてしまっていたことでしょう。

箱わなの仕掛ける場所

 サルの捕獲は「有害鳥獣活動」という名目なので、奥山にかけることはなく、被害に困っている人里近くに設置します。ただし箱罠は、サルの餌場になっている畑のど真ん中に設置するようなことはありません。というのも、周りに新鮮で美味しい物がいっぱいあるのに、わざわざ怪しい箱罠に入ってエサを取るようなサルは少ないからです。そこで設置場所は、被害が出ている畑から少しはなれた場所で、そこに通じるルート上を選ぶようにしています。

サル被害に困っている場所では人目に付く場所にしかける

 また、できれば集落の人が目につきやすい場所を選びます。被害に困っているエリアでは、サルが捕まっていたり、誤作動で扉が閉まっていたりすると、すぐ連絡していただけます。どちらに逃げていったかも教えてもらったりすることもあるので、箱罠はコミュニケーションツールとしても役に立つのです。

エサの種類は様々

 箱罠のエサですが、これは地域性がかなりでます。季節の食材である必要は特に無く、逆に、その季節に入手しにくい果物や、お菓子類を好むこともあります
 私の場合は通年、ミカン、サツマイモ、カボチャをよく使っています。トウモロコシやバナナ、リンゴも使う人もいますね。

箱わなのトリガー

 箱罠の扉を落とすトリガーは、かなり工夫が必要です。なぜなら、サルは手が器用なうえに目も良いので、箱罠の外からアチコチをいじったり、揺らしたりします。そのため、暴発を防ぐための対策が必要になります。

蹴糸式を使う

 まず、サルに触れさせる蹴糸には、釣りで使うPEラインを使用しています。PEラインは伸びが少なく反射もしないので、比較的サルに気付かれにくいように思われます。ただし、PEラインはツルツルして結び目がほどけやすいため、ハリス止め(ラインストッパー)を利用した方が良いでしょう。
 蹴糸を張る位置ですが、だいたい低めにしています。「箱罠に入ったサルがエサを拾い集めているうちに、蹴糸に触れて扉が落ちる」というパターンを想定しています。

トリガーの素材ですが、上:PEライン、左:自作ラインストッパー、右:二重リング、それに細い竹の棒を使用しています。

チンチロのしくみ

 構造は上図のように、箱罠のフレームに2本の金属棒が溶接してあり、ここにワイヤーを結んだ竹の棒をセットします。この竹の棒にワイヤーと蹴糸のPEラインを連結し、蹴糸の反対側はラインストッパーで固定します。

 蹴糸にサルが引っかかると、竹の棒が引かれて金属棒との噛み合いが外れます。すると、扉の自重がかかっていた点(竹棒上部と上の金属棒)を軸に竹棒が回転し、扉が落ちる仕組みになっています。

ワイヤーは外からいたずらされないようにする

 注意点として、扉を支えるワイヤーは箱罠のフレームに沿わせ、扉の下部で支えるようにします。以前、扉を上から吊るすようなタイプを使っていましたが、サルが箱罠の上に登ってワイヤーを引っ張るため、暴発が多発していました。

トリガーの別例

 今回お話したのはオーソドックスな蹴糸式ですが、サル捕獲用箱罠のトリガーには色々な種類が考えられます。例えば、別の猟師さんの例では、タマネギ袋などに入れたエサをワイヤーで吊り下げるトリガーを使っています。

 ワイヤーは扉を支えているチンチロとつながっており、サルが袋を引っ張るとチンチロが外れて扉が落ちます。 
 また、これは試験的にやっているトリガーなのですが、「蹴糸を積み上げたエサの上に結んでおき、エサが崩れたら作動する」という作動方式があります。蹴糸に直接触れさせないでも良いため、「捕獲効率が高いトリガーだ!」・・・と思っていたのですが、サルが来てくれないとエサが朽ちて暴発するといった欠点があります。
 トリガーの開発は難しいですが、色々と工夫してみることは大切です。

くくりわなの仕掛け方

 以前お話したように、サルの群れは移動ルートがある程度決まっているので、くくり罠も有効です。サルはだいたい通り道が決まっているので、通り道で細くなっている場所に、くくり罠を仕掛けます。
 

くくりわなの種類

 私の場合、くくり罠のバネは、押しバネを使っています。筒を縦に埋めるタイプと横に寝かせるタイプを用意しておくと、様々な地形に対応できるかと思います。
 ネジリバネ(キック)はサルに使ったことが無いのでわかりませんが、埋めるのが大変そうな気がします。引き罠はサル相手だとイタズラされてダメでした、上手な方だと活かせるかもしれませんが。

くくりわなのトリガー

 くくり罠のトリガーですが、サルは体重が軽くて反応も速いので、なるべく軽く作動するタイプを使用しています。
 私の場合は、カプセルしている塩ビ管をチンチロでつなぎ、蹴糸でスリーブをスライドさせて発動するタイプを使っていました。
 チンチロを使うこの方式は、小さい力で発動力の強いバネを起動させることができるため、一般的な踏板式トリガーよりも捕獲効率が高いと思います。
 ただし、トリガーが軽いということは暴発も増えるということ。サル以外の小動物がかかってしまうことも多かったりします。

サルと他の獲物のちがい

 罠猟において、サルがイノシシ・シカと違う点は、『目が良いこと』『群れで行動すること』の2つになります。そこでサルをターゲットにするさいは、この違いをよく理解して罠をかけるようにしましょう。

くくり罠は完全に隠す

 イノシシ・シカは赤系統の色覚を持っていません。また、動かない物に対する認識力はかなり低いため、罠の色や隠し方は、実を言うとそれほど重要ではありません。
 しかしサルの場合は、人間と同じく3色の色覚を持ち、止まっている物に対しても強い認識力が働くため、罠の色や隠し方が非常に重要になります。具体的にくくり罠の場合、リードのワイヤーも全て埋めるなどして隠す必要があります。

罠をかけているところを『見られない』ようにしよう

 以前、くくり罠の見廻りしていると、罠の周りに3頭のサルがいました。「お?罠にかかったのかな?」と思って近づいてみると、なんとそのサルたちは罠を”見て”勉強していたのです!たいへん研究熱心です。
 このように、サルは罠の存在を認識するため、罠をかけているところをサルに見られないようにする必要もあります。サルは隣の山からでも見る視力を持っているので、周囲の視線には十分注意しましょう。
 しかし、目の良さを逆に利用し、仕掛けた罠が見つかった場合そのままにしておいて、後でこっそり違う場所に増設しする、といった戦術もひとつの手かと思います。 
 

箱罠はしっかりと補強する

 箱罠にかかった獲物の反応は、イノシシの場合は突進、シカの場合は走り回るぐらいですが、サルの場合はかなりバリエーションがあります。
 先ほどもお話したように、サルはワイヤーメッシュの隙間から抜け出たり、噛み切ったり、群れで協力して逃げ出そうとしたりします。よって箱罠の補強やカスタマイズは必須だと言えます。
 私はこれまで同じ箱罠で、3度抜けられたことがあります。集落内には、地域の人がサル用の箱罠をいくつも仕掛けていますが、弱いとこから順に突破されていきます。サルの知能と身体能力の高さには、本当に驚かされてしまいます。

猟師VSサル、よもやま話

 余談になりますが、以前、箱罠の見廻りに行ったら、母ザルが嫌がる子ザルを箱罠に入れて、盗ませたエサを母ザルが横取りするという風景を目撃しました。
 また、ウリボウがかかっていた箱罠にサルが手を突っ込み、ウリボウを引っ張り出そうとしている姿を目撃したこともあります。サル科の動物は狩猟をすることが知られているので、おそらくサルたちはこのウリボウを食べようとしていたのでしょう。

 このように、罠猟におけるサルは『意外なこと』の連続です。サルの群れの中には警戒心の強いサルがいる一方で、すぐに油断するサルや、いうことを聞かないサル、他のサル任せで警戒心が薄いサルなど、色んな性格のサルがいます。
 よってサルの罠猟では、生態や行動などをよく観察し、攻略方法を考えてみることが重要になります。

サルの止め刺し

 罠にかかったサルの止め刺しは、私はほとんどの場合、ロープを使って絞殺しています。ロープはあまり太すぎず、かといって細すぎない物を使ってます。
 最近は塩ビ管にロープを通したアニマルスネアの状態で使っています、補定する場合も止めの場合も同様です。

止め刺しの方法

 アニマルスネアは、首にロープの輪を通して一気に引き、最低でも5分以上は待ちます。30秒ほどで意識がなくなりますが、気絶しているだけだと再び苦しめてしまうことになるため、長めに待つようにしています。今まで起きてきたことは無いですが。
 見た目は完全によろしくないので、見学人がいるときは注意喚起し、納得した上で止めをします。それでも色々言う人もいますが。もっと苦しめない方法があるなら教えていただきたいです。

止め刺しの注意点

 爪も牙も鋭いので気をつけましょう。どんな獣でもそうですが、追い詰められた獣は恐ろしいです。腕のリーチが意外と長いため、不用意に近づくと引っ掻かれます。サルに限らず野生動物の爪や牙には菌が多いので、怪我をした場合はすぐに病院へ。
 私は止め刺しをするときに、ロープの擦れや傷などに気を配っています。サルの首をくくっている最中で切れたら怖いですし、無駄に苦しませて気の毒です。

まとめ

  1. 箱罠はサル用に補強、トリガーはワイヤーのかけ方に工夫が必要。畑の中ではなく、周囲の通路にセットする
  2. くくり罠は、軽めに発動するトリガーを使用。群れの通り道にセットする
  3. サルの罠猟は驚きの連続!群れは個体によって反応は様々なので、都度攻略方法を考えよう

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この記事を書いた人

りょう@東 良成のアバター りょう@東 良成 専業猟師・ライフルマン

三重県紀和町に住む専業猟師。年間200頭以上の獲物を捕獲しています。主に銃に関する知識や野生鳥獣被害について、Twitterで発信中 。

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