【猟師と上手く付き合うコツ3選】私がベテラン猟師と付き合ううえで注意していること

「女子(おなご)が狩猟なんぞ、するものじゃない」

 この一言は、私が『猟歴60年のベテランガチ猟師さん』に教えを乞いに伺ったときに返された言葉です。しかしこのような言葉は差別や嫌味で言っているわけではありません。この真意を汲み取るためには『猟師』という人たちの思考を程度理解しておく必要があります。
 そこで今回は、ベテラン猟師さんと上手に付き合っていくために私がやってきたことについて、お話をしていきたいと思います。

目次

ベテラン猟師の『3つの共通点』

 私はこれまで色んなガチベテラン猟師さんと交流をするなかで、彼らには『3つの共通点』があることに気が付きました。この3つの共通点を念頭に入れておけば、猟師という人たちの考え方がある程度わかってくるはずです。

共通点その1:捕獲数が評価の基準となる『捕獲数絶対主義』

 まず、一つ目の共通点が捕獲数絶対主義です。猟師という人たちは、性別や年収、「どんな会社に務めているか」や、「どんな場所に住んでいるか」といった社会的ステータスで人を見ることはほとんどありません。唯一の評価基準は『狩猟の実力』であり、言い換えれば『獲物を一人で何頭獲れているか』です。
 よって、獲物を捕獲する実績さえあれば、猟師さんは誰であろうと対等な存在として認めてくれます。例え相手が若い小娘であってもです。逆に言うと、例え相手がムキムキマッチョの男性であっても、口ばっかりで全然捕獲実績が無いような人だと、認めてもらえることはまずありません。

共通点その2:野生動物に対抗するための『合理的思考』

「野生動物」というと、どこか掴み所のないフワフワした生き物だと思われがちですが、実際はまったくそうではありません。特にイノシシやシカといった大型野生獣は”超”が付くほど合理主義的な生き物であり、厳しい自然の中で生き残るために、常にシビアな損得勘定で行動をしています。

 そのため、野生動物に対抗する猟師さんもまた、合理的思考で活動しています。例えば、罠をかける場所を選ぶさいも、様々な痕跡や統計といったデータから獲物がいる可能性の高い場所を探し、さらに、直径わずか数十㎝の踏み板を確実に踏ませるポイントに罠をセットします。
 もちろん狩猟者の中には「大量に罠をしかけて、どれか1個でも掛かったらラッキー」という考え方の人もいます。しかし、私が出会った中で「本物の猟師だ」と思える人は総じて、最低限のコスト(手間)で最大限の利益(獲物)を得る人たちでした。

共通点その3:猟師さんは総じて『口下手』

 さて、猟師さんに共通する3つ目の共通点は・・・口下手です(笑)。猟師さんの言葉はとにかく端的で鋭いです。「もうちょっと言い方を変えれば、誤解されないのになぁ~」と思うことがしばしばありますが、これはもう、私たちが慣れるしかありません。
 この理由については年齢的な理由もあるかと思いますが、人とワイワイするより、静かに一人で山に入ることが好きな人が猟師になりやすいからなのではないか?と私は思っています。もちろん、お話が大好きで、巻き狩りをみんなでするのが好きという猟師さんもいますので一概には言えませんが。

ベテラン猟師さんとの付き合い方

 さて、冒頭でお話した「狩猟をするもんじゃない」とあしらわれた件ですが、それから2年後、私はこのベテラン猟師に認めてもらえるようになりました。
「デッカイイノシシが捕れた。応援にきてくれ」と頼りにされることもありますし、「〇〇が使っている新しい罠、試してみたか?」、「そろそろシカが××方面から下りてくるころ。そっちはどうだ?」、「こっちは量が増えてきた。」などといった情報共有をすることもあります。
 それでは、なぜ2年で認めてもらえるようになったのでしょうか?私のエピソードをお話したいと思います。

気にしないで、とりあえずやってみる!

 上の写真は、私が生まれて初めてシカを解体をしたときの姿です。市役所の職員さんの紹介で、近所の猟師さんが獲ったシカの止め刺し&血抜きを見学させてもらい、その後のノリでシカを貰い受けて家に持ち帰りました。
 このときの私は狩猟免許に合格したばかりだったので、解体の知識も無く、持っている道具は出刃包丁1本だけでした。さらに、頼りにしていたベテラン猟師さんからは「おなごが狩猟をするもんじゃない」と一喝されたばかりだったので、頼れる人もいませんでした。

「ええい!大学で学んだラットの解体と基本は一緒だろう!」と思い切って包丁を入れてみましたが・・・
んまぁ~~当然ですが、シカの解体とラットの解剖が同じように行くわけありません。
 長い格闘の末、ようやくお肉にすることができ、夜中の3時にシカ肉を焼いて一人お疲れ会をしたのを、今でも覚えています。いや~、あのときは大変だったなぁ~。

ベテラン猟師からの突然の電話

 さて、それから2週間後、「おなごが狩猟をするもんじゃない」のベテラン猟師さんから、突然電話がありました。(また何か怒られるのかもしれない・・・)と恐る恐る電話口に立ったのですが、ベテラン猟師さん曰く、「どんな罠使ったらいいかくらいなら教えたる。家においで」とのことでした。

真剣な姿勢は言葉がなくても伝わる

(あのときは”けんもほろろ”だったのに、なぜ急に態度が変わったのだろうか?)と初めはわかりませんでしたが、後に会ってお話をしてみると、私がシカの止め刺しを真剣に見学していたことや、実際にシカを一人で解体していたことを他の人から聞き、連絡をしてきたとのことでした。

ベテラン猟師はわたしの身を案じてくれていた

 さらにこのときのお話の中で「本当は女性が狩猟するのは反対だ。危ない。子供を産まんといかん身体なのに」と聞き、(そうか、あの一言は嫌味ではなくて、私のことを本当に心配してくれていたのか)と、「おなごが狩猟をするもんじゃない」の”真意”を知ることができたのでした。
 それから1年ほど経ったある日、私はベテラン猟師さんに「私に初めて会ったとき、どう思ったの?」と質問してみました。すると、「最近狩猟がチョット流行っているみたいで、テレビでも女性がしているのを見るだろ。都会から帰ってきたもんが気まぐれでやり始めたことで、お前もどうせすぐ飽きてやめるんだろと思った。そんなもんに時間をかけて教えるほどワシは暇じゃない。」とボソっと教えてくれました。

狩猟に本気であることを、まずは行動で示そう

 この一言からもわかるように、ベテラン猟師さんとお付き合いしていくなかで最も重要なことは、本気であることを見せることです。猟師という人たちは実力主義であり、合理的思考の持ち主であり、口下手です。そのため、本当に狩猟をしたという気持ちがあるのなら、まずは『行動』で示す必要があるというわけです。

猟師の仲は信用関係から生まれる

 ガチベテラン猟師は個人事業主のようなものです。会社組織のように新人に技術や知識を教える義理はありません。むしろ新参者はライバルでもあります。しかし、自分と同じように本当に山や狩猟が好きな人には「助けてやろうかなぁ」と思うような優しさがあり、モノになるようなら協力し合える関係になりたいと考えています。
 そして、狩猟に真剣に取り組んでいる人を必ず遠くから見ていて、本当に行き詰ったときは適切なアドバイスを投げかけてくれます。また、一人前の猟師になれば、性別や年齢に関係なく対等に付き合ってくれるようになります。

大ベテランの猟師達と交流をして思ったこと

 狩猟という世界は、会社や世間とは少し異色な価値観で動いています。そもそも、80代の男性と30代の女性が一緒になって何かを行うなんて、普通の生活をしていたらまずありえないことだと思います。よって、狩猟の世界ではジェネレーションギャップ(世代間による価値観のズレ)があるのは当たり前なのです。

その人のバックグラウンドをよく見る

 例えば、80代男性の人生を想像してみてください。彼らは戦中、戦後という激動の時代を生き抜いてきた人たちです。この当時の人たちは「女性は家を守り、男性は外で力仕事をする」というのが当たり前の時代であり、特に農村部で生活をしてきた人たちにとって、その傾向は一層強い物になっています。
 余談ですが、ベテラン猟師が過ごしてきた環境は、今のように整備された道路はなく、嫁入りは獣道を通ってやって来る、なんてことも普通だったそうです。その時代の女性は高等学校に行く人はごくわずかで、男性でも「農業するのに何のために大学なんかに行くのだ!?」と両親に怒られることもあったとか。今では想像もつかない価値観です。

ギャップがあって当然。大事なのは猟師としての実力!

 よって、例えベテラン猟師さんから女性であることに対して『色眼鏡』で見られたとしても、気にする必要はまったくありません。むしろそれは当たり前のことだと考えるべきです。
 しかしだからと言って、越えられない壁があるわけではありません。猟師という人たちは『お互いを評価する基準は実力主義』であり『物事は合理的に考える』、そして『口下手である』という3つの要素をマインドセットとして持って接すれば、必ず良い関係を築くことができます。

まとめ

  1.  猟師の世界は実力主義。『捕獲数を上げていること』が人を見るポイント
  2.  猟師は合理的思考で物事を考える。認められるためには、まずは行動しよう
  3.  猟師は口下手。言葉ではなく、その真意を汲み取って理解しよう

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この記事を書いた人

Uri@山本 暁子のアバター Uri@山本 暁子 女性・副業猟師

鳥取県国府町在住の女猟師。昼は猟師の仕事、夜はITを駆使してリモートで仕事をしています。Twitter、Youtubeもやってます。

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