【銃殺・電殺・殴打】罠の止め刺しを“安全に行う”ためのポイントを解説!

 前回お話したように、罠の止め刺しは、運が悪ければ死亡事故につながりかねない危険性があります。そこで今回は『止め刺しを安全に行うためのポイント』についてお話をしていきたいと思います。

目次

何はともあれ『銃』が安全

 止め刺しにおいて、まず知っておいていただきたいことが、銃を使うことが一番安全だということです。

銃は無駄に興奮させない

 罠にかかった獲物は人間が近づいてくることに興奮して暴れまわります。このとき、スネアのかかりが甘かったり、ワイヤーが傷んでいたりすると、罠から獲物が逃げ出して思わぬ反撃を喰らう危険性があります。
 銃が他の止め刺しよりも安全な理由は、ひとえに獲物を無駄に興奮させない点です。獲物が落ち着いている状態から即死させることができれば、暴れることによるリスクを取らずに安全に止め刺しすることができるのです。

銃が無い場合はどうすればよいか?

 銃の許可がない人は、銃で止め刺しができる人に頼める体制をつくっておきましょう。
 私は基本ソロで活動していますが、危険性があると感じたときは仲間に連絡します。逆に、仲間が助けてほしいと連絡があった場合は可能な限りお手伝いしに行きます。
 このようなギブアンドテイクの関係は、狩猟を行う上でも重要ですし、私が一番大切にする事のひとつでもあります。

銃持ちハンターと“取り決め”を作る

 余談ですが、私の地域では、有害鳥獣駆除における止め刺し~処理場への運搬を人に頼む場合、「報奨金から3,000円を支払う」というルールがあります。このようなルール作りをしておけば、気兼ねなくベテラン猟師に頼めるという考え方もあります。

観察する

 事前準備ができたら、さっそく獲物に止め刺しを!・・・ではなく、まずは相手の様子を観察しましょう。初心者のうちは確認事項をチェックリストにしておき、「どういった点に危険が潜んでいるか」を確認しながら観察をしましょう。

☑罠にかかった獲物全体を俯瞰する

 これは見回りをするときの話なのですが、仕掛けた罠に近づくときは、仕掛けた場所の全体が見える位置から観察しましょう
 罠にかかったイノシシはヤブの中に隠れてジッとしていることも多く、不用意に近づいてヤブの中から突進を喰らう事故が結構あるからです。また、近くにヤブが無くても、地面を掘って伏せているケースもよくあります。

 よって、罠に近づくときは、「地面に掘り返された形跡はないか?」や、「リードワイヤーが張っていないか?」、「周囲の木がなぎ倒されていないか?」といった違和感を、猟場全体を見まわして観察してください。

☑ くくり罠は足先にかかっていないか?

 獲物がかかっていたら、まず、くくり罠が獲物の脚の深い位置にかかっているかを観察しましょう。
 くくり罠が獲物の足に浅く入っている場合、足の先をひきちぎったり、蹄の外側だけ「すぽっ」と抜いて逃げることがあります。

☑くくり罠のかかった脚が千切れそうではないか

 獲物の足を見るときは、足が変な方向を向いていないかにも注意しましょう。罠のくくった位置がちょうど関節の部分に入った場合、関節が外れて皮だけでつながっている場合があります。このような場合、近づいたさいに足が切れるリスクが高くなります。

☑ ワイヤーが痛んだり、千切れたりしていないか

 くくり罠がかかっている脚に問題がなさそうであれば、次にワイヤーが切れかけていないかに注目します。
 上の写真はイノシシをトメサシした直後のくくり罠です。ワイヤーの一部が破断し、半分の細さになっています。こういった場合は絶対に近づいたりせず、銃による止め刺しができる人に応援を頼むようにしましょう。

☑ 根付から獲物の距離は最大どれくらいか?

 くくり罠に獲物がかかり大暴れをすると、ワイヤーが草木に絡むことがあります。このような絡みは、獲物がさらに暴れまわることで解けることがあり、思っていたよりも獲物が動ける範囲が広くなることがあります。

☑足元は安全そうか?

 近寄るさいは、足元の状態も見ておきましょう。雨のあとや雪が積もった場所では足元が滑りやすくなっています。足を滑らせて崖から転落したり、獲物の目の前で転んで踏んだり噛まれたり・・・といった事故も実際に起こっているので、注意しましょう。

☑保定を行えるか

 相手がイノシシやオスジカの場合や、根付から獲物までのワイヤーの距離が長い場合は、保定してから止め刺しをしましょう
 保定の方法には、ワイヤーによる鼻くくりやチョンがけ、ロープによる鼻くくりや足くくり、小さい個体であれば胴くくり、シカであれば角をロープなどで保定するなど、色々な方法があります。
 保定に関しては下記ページでも詳しく解説をしています。

銃による止め刺し

 銃による止め刺しは、他の止め刺し方法に比べて安全性は高いのですが、周囲の状況など、気にして置かなければならないことは色々あります。

銃による止め刺しの基準

 まず前提として、罠にかかった獲物を銃によって止め刺しするさいには、行政が決めた基準があります。

  1. わなにかかった鳥獣の動きを確実に固定できない場合であること
  2. わなにかかった鳥獣が獰猛で、捕獲等をする者の生命・身体に危害を及ぼすおそれがあるもの
  3. わなを仕掛けた狩猟者等の同意にもとづいて行われること
  4. 銃器の使用にあたっての安全性が確保されていること

保定した獲物には銃を使えない

 1の「鳥獣の動きを確実に固定できていないこと」とありますが、これはつまり、獲物を保定して動きを封じ込めた状態では、銃による止め刺しはできません

基本的には大型イノシシ・シカに限る

 「2.わなにかかった鳥獣が獰猛・・・」については、かなりあいまいな表現です。具体的に何キロのイノシシやシカが「獰猛だ」とするのか、基準が明確ではありません。
 相手が小鹿でも、転んだところを踏まれたら大ケガするわけですし、タヌキやアナグマのような中型動物も、罠にかかれば狂暴です。
 正直言って、この判断はケースバイケースとしか言いようがありません。

4つのリスクアセスメント

「銃器の使用にあたっての安全性・・・」については、以下の条件を確認しましょう。

  • 銃を撃ってよい場所か?
  • 矢先に民家などがないか?
  • バックストップはあるか?
  • 跳弾の危険性はないか?

また、仲間がいる場合は、自分の後方に待機してもらうよう声掛けをしましょう。

狙う場所

 銃でとめさしする場合、当然ですが、バイタルを狙います。シカの場合は、頭、首、心臓。イノシシの場合も心臓と頭がバイタルですが、頭を狙う場合は、正面からであれば眉間のあたり、横からであれば目と耳の間を狙うのがおすすめです。食用に肉を傷つけたくない場合は横から目のあたりを撃つのが一番良いです。

なるべく距離をとってから狙撃する

 くくり罠の場合は、獲物に気付かれないように遠くから狙撃します。散弾銃(特にスラッグ弾)でとめさしする場合は、どこまで距離を取るかは自分の腕次第です。
 獲物に気づかれて暴れてしまうと照準が定まらないため、相方に手を叩くなどをして獲物の注意を引いてもらい、その隙に撃つと良いでしょう。

箱罠では跳弾に要注意

 箱罠や囲い罠の獲物を銃でとめさしする場合、慣れていないと跳弾の可能性があるので危険です。自信がない人はやめておきましょう。私はよっぽどじゃない限り銃を使いません。

電気止め刺し

 電気ショックを利用した止め刺しは、比較的安全性の高い止め刺しと言われています。しかし、使いかたを間違えると、思わぬ落とし穴もあるので注意しましょう。

感電の危険性

 電気ショックを使用するうえで、一番怖いのが感電です。
スイッチを切り忘れての感電。
金属や水に触れてしまって感電。
道具が動物に蹴り飛ばされてしまって感電…などなど、
感電の可能性を十分想定しながら行いましょう。

ゴム手袋・ゴム長靴着用必須

 万が一を考えて、通電しないようにゴム手袋とゴム長靴を着用し、長袖長ズボンの服装で行うのをオススメします。また、雨の日は電気による止め刺しは控えましょう。

周囲に人がいる場合は声掛けをする

私は仲間と一緒に電気止め刺しする場合は距離を取り、お互い声掛けをします。
「スイッチつけるよ~~、近づくなよ~~」「おーい、スイッチ消したか?近づくよ~?」コレ、お互いのために本当に重要です。

なるべく保定をする

 くくり罠にかかった獲物を電気で止め刺しする場合は、保定をするとより安全です。槍の形状の電気止め刺し機であれば距離をとることができますが、やはり危険であることに変わりはありません。

通電量が十分ではなく獲物が起き上がってしまう

 通電後、「完全に死んだ、大丈夫。」と思っていたのに、いざ放血を行おうとして近づいたときにムクっと起き上がって大暴れ!・・・これは電気ショックを使う上でよく起こるトラブルです。

原因として下記3点が挙げられます。

①電気止め刺し器の性能を十分に理解していなかった

 電気止め刺し器は、
・インバーターの出力量はどれくらいか?
・電極が皮を突き破って通電させることができるものかどうか?
・電極が一本槍or二本槍か?
等をきちんと確認しましょう。
 通電量や電極を当てる位置と深さ(皮をつきやぶるかどうか?)によって獲物の止め刺しや気絶に必要な時間が異なります

②バッテリーの充電が十分ではなかった

 バッテリーの充電量が少ない場合、十分な電気量が出力できず仮死状態になりやすいので特に注意しましょう。

③電気に強い個体だった

 動物にも個体差があり、大きなシカでも電気を流したらすぐに死亡してしまうものもあれば、小さいシカでもしぶとく意識を保ち続けるものもいます。
 動物をよく観察し、止め刺しが出来たかどうかを確認することが重要です。

食肉利用・不要による電気止め刺しの違い


電気止め刺しの方法には、食肉利用前提にする方法と、しない方法の2種類があります。具体的には、

①電気を一定時間流して気絶させ、ナイフで放血して止め刺しする方法

 ・頭と後ろ足に電極をあてて広範囲の神経に通電させる(目安:通電は20~30Wで数秒)

 ・獲物が麻痺したら、すぐに放血を行いその場を離れる

②電気を流し続けて止め刺しする方法

 ・心臓を挟むように電極を撃ち込んで完全に死亡するまで通電させる
 (目安:通電は20~30Wで30秒~1分程。皮の下に差し込むとより有効。)
となります。
より安全にするのであれば、電気を使って完全に心臓麻痺を起こさせる②の方法を。解体施設に持ち込んで販売することが前提の場合は①を選択しましょう。
 なお、適切な電気量と時間で完全に死亡させた後、15分以内に心臓放血を行えば、十分食肉になるという報告があります。

【参考】https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/manyuaru/30_ict_seika/attach/pdf/ict_kenkyu_seika-13.pdf

箱罠での電気止めさし


 箱罠の止めさし時は、電気止め刺しがオススメです。特にナイフが入りにくい中型の箱罠(ヌートリアのような中型動物を狙う箱罠)では大活躍します。
 獲物に直接電気を流すのではなく、箱罠自体に流すという方法もあります。その際は、自分や仲間が不意に箱罠に触れて感電してしまうことがないように十分注意しましょう。

昏倒&刺殺

 止め刺しで最も定番なのが、棍棒などで頭を叩いて昏倒させ、ナイフなどで刺殺する方法です。銃や電殺器といった特別な道具が必要ないので「簡単!」と思われるかもしれませんが、とんでもない!!実はこの方法が止め刺しの中で、最もテクニックが必要な方法だったりします。

イノシシの殴打

「イノシシの眉間を狙って殴るだけ!」そういわれると簡単そうに思えますが、本当に危険で難しいです。イノシシの場合、イノシシの行動範囲に入るわけにはいかないので、こちらに向かって突進してきたところを”迎撃”する形で殴らなければなりません。もし距離感を間違えると、キバで刺されたり噛みつかれたり飛ばされたり…。大変危険です。

シカの殴打

シカは後頭部を狙って昏倒させます。イノシシに比べて昏倒させやすく危険度も低いです。

 小さなシカやメスジカの場合、こちらに突進してくることはあまりなく、近づくと逃げ回ることが多いです。
「これなら安全で楽だな」と思いきや、意外と大変。逃げ回るシカに棍棒を振り下ろすも、空振りの連続。地面を叩いて泥が目に入るわ、石を叩いて手を痛めるわ、意外と大変です。追いかけまわして足を滑らせ、斜面から落下する事故がよくあります。

追い立ててワイヤを木に巻きつかせる

 私は、根付や近くの木にワイヤーを巻き付けるように、円状に獲物を追い立てて行動範囲を狭くした後に昏倒させます。狙いも定めやすく、自分が走り回る必要もないので個人的に気に入っている方法です。

オスジカの場合は無理せず銃を使う

 オスジカの場合は注意が必要です。特に繁殖期のオスは、「お前、イノシシか!?」と思うほど積極的に行動してくる個体もいます。
 足を組んで座り込み、じっとしているオスジカでも、こちらが射程圏内に入ると、立ち上がって角を振りかざしてきます
 このような個体の場合は無理に殴打で仕留めようとはせずに、銃による止め刺しに切り替えてください。

1本角のシカは非常に危険!

 ところで、シカの止め刺しでベテラン猟師たちが「一番危険だ!気をつけろ!」と口を揃えて言うのは、1歳前後のオスジカだったりします。
 この年齢のオスジカは角が一本なので、攻撃を食らうと身体の奥深くまで角が刺ささります
 同様にカモシカも角が1本なので、カモシカに刺されて殺された猟師は意外と多かったりします。

大型はなかなか昏倒しない!

 イノシシや大きなシカを止め刺しする場合は、昏倒させる止め刺しはオススメしません。初心者の方に「失神しないよ~」といって頭を何回も殴り続ける人がいます。なぜ失神しないのでしょうか?

<理由その1>的確に失神する場所を殴っていない

 力任せに殴っても獲物は失神しません。ある程度の強い力で、失神しやすい場所を的確に殴らないと、ただの殴り殺しになってしまいます。
 失神させることができなければ、当然動物は痛みを感じます。そして、より興奮し、敵意をむき出しにして襲ってきます。

<理由その2>頭蓋骨が陥没してしまっている

 失神は脳震盪によって起こすものなので、頭蓋骨を陥没させてしまったあとはいくら殴っても昏倒しません。その場合は失神は諦め、別の方法で止め刺しするようにしましょう。
 昏倒した後も注意が必要です。すぐに起き上がって暴れる個体もいます。動物が失神した後、素早くナイフを取り出して急所を刺し、その場をすぐに離れましょう。イノシシの場合は万が一を考え、槍でとめさしするとより安全です。

箱罠の止め刺し

 止めさしの際は絶対に手を箱の中に入れない、角のあるシカの場合は十分距離をとるようにしましょう。また、扉側には立たないのが鉄則です。扉は側面に比べて強度が低いことが多いからです。
 扉が曲がってしまったら、次回使えなくなることもあります。気になるようでしたら、扉を鉄板タイプにする、見えないようにメッシュに板などを張り付けるなどの工夫もオススメです。こうすることで、イノシシが突進しにくくなります。

まとめ

  1. 止め刺しの前に、まず観察。周囲の状況、罠のかかり具合を確認しよう
  2. 銃殺は使用条件、周囲の状況に注意
  3. 電殺器は感電に注意
  4. 撲殺は簡単そうに思えるが、実は最も技術が必要
  5. 無理をせず銃による止め刺しに切り替えること

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この記事を書いた人

Uri@山本 暁子のアバター Uri@山本 暁子 女性・副業猟師

鳥取県国府町在住の女猟師。昼は猟師の仕事、夜はITを駆使してリモートで仕事をしています。Twitter、Youtubeもやってます。

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