罠猟って実は“超危ない”!罠猟の危険性・注意点についてお話します

 罠猟は銃猟に比べて「手軽に始められる」という点では正しいのですが、決して『安全』というわけではありません。むしろ銃猟に比べて危険な面も多く、このことを知らずに罠猟を始めると、大事故や大ケガを負う危険性があります。そこで、今回は罠猟に潜む様々な危険性と対策について、お話をしていきたいと思います。

目次

罠猟の危険性

 銃と罠を比べたとき、多くの人は「銃の方が危ない!」と言うと思います。しかし実際は、罠も扱い方をひとつ間違えると、銃と同じように人身事故を起こしかねない、非常に危険な道具だったりします。そこで本節では罠猟に潜む様々な危険性について見ていきましょう。
 なお、狩猟初心者の方で「くくり罠ってなに?」と思われた方は、こちらの方も併せてご覧ください。

事故が多いくくり罠のバネ

 くくり罠のバネはイノシシやシカなどの足を瞬時にくくらないといけないため、非常に強力に造られています。そのため、くくり罠の設置中にバネが暴発し、ケガを負ってしまう事故が後を絶ちません。

強力なねじりバネが目に当たると失明の危険!

 特に、ねじりバネ(※写真中央のバネ)は事故の危険性が非常に高いバネです。ねじりバネは鋼線が巻かれた部分を支点に2本の腕が開くように動くのですが、このときの開く速度が物凄く早く、バネの腕が体にぶつかると骨折に至ることがあるほど強力です。
 実際に、このねじりバネが目に当たって失明した人がいます。また、失明には至らなくても、「銃所持許可を諦めなければならないほど視力が低下した」という人が、私の知り合いに3人います。

ワイヤーが切れて突っ込んでくる

 くくりわなに使用するワイヤー(ワイヤロープ)は、一見すると非常に強力に思えます。しかし実際は、結構な頻度で引きちぎられてしまいます
 ワイヤーの引きちぎりは大イノシシだけだと思われがちですが、実際はシカでも80kg(オスの成獣)クラスになると簡単に引きちぎってしまいます。特に、斜面に罠を仕掛けていた場合、獲物が斜面を下る勢いでワイヤーを、または足ごと引きちぎることがあります。
 ワイヤーを引きちぎった獲物が、そのまま遠くに逃げてしまえばまだよいのですが、止めさしのタイミングでワイヤーが千切れると、獲物がこちらに突進してくることもあります。実際に、くくり罠にかかったシカやイノシシに反撃の突進を受けて死傷した事故は、日本全国で起こっています。

箱罠も破壊されることがある

 ステンレスのワイヤーメッシュで造られた箱罠は、くくり罠に比べて比較的安全性の高い罠です。しかしながら、「絶対に」安全かというと、けしてそういうわけではありません。
 まず獲物が100kg級のイノシシの場合、ワイヤーメッシュ程度であれば、突進で破壊することができます。また、クマが錯誤捕獲で掛かった場合、ワイヤーが噛み切られてしまうこともあります。

くくり罠猟のバネ選び

 YoutubeやSNSを見ていると、色んな人が様々な工夫やこだわりを持って、多種多様なくくり罠を使われています。このように罠の選定は人によって様々なのですが、私としてはやはり安全性が高いことが罠選びにおいて一番重要なことだと思います。
 そこで、初心者や女性の方がくくり罠を選ぶさいの基準として、『安全性』という面からお話をしたいと思います。

くくり罠は『押しバネ』からスタートしよう

 ねじりバネを使ったくくりわなは、設置が比較的簡単で、パワーがあるので獲物を捕獲しやすいといった長所があるため、よく『初心者向き』といわれています。
 しかし、私が罠猟を始めたとき周囲のベテラン猟師さんから「初心者や女性(力が弱い人)は、ねじりバネはやめておけ」と口酸っぱく言われたように、ねじりバネは事故を起こしたときのリスクが非常に大きいです。

押しバネは暴発しても大ケガをする危険性は小さい

 そこで、女性や初心者の方は、押しバネ(コイルバネ)式のくくり罠から始めましょう。押しバネは、ねじりバネよりもやや扱い方が難しい面がありますが、暴発したさいに体に当たっても大怪我をするリスクは比較的低いといえます。

 押しバネは、素線(巻かれている鋼線)が太ければ太いほどワイヤーを絞るスピードが増して捕獲率を上げることができます。しかしそのぶんセッティング時にバネを押し縮める力が必要になるので、使用者の体力とバネの強度はバランスが重要になります。
 細かい話は抜きにして、罠メーカーによっては「女性でも使いやすい」と銘打った押しバネが販売されていることも多いので、ひとまずはこれからスタートするのをオススメします。

押しバネ式を楽にセッティングするための道具

 女性向けの押しバネであっても、縮めるのは意外と大変です。実際に、私が押しバネ式くくり罠を指南した20人の初心者のうち半数以上が、「これは大変な作業だ!」と目を白黒させていました。

 そこで押しバネ式くくり罠を使うさいは、押し縮めるための治具を作っておきましょう。この治具があれば、力に自信がない女性の方でも、比較的楽に押しバネを縮めることが可能です。

安全な押しバネの縮めかた

 使いかたは、押しバネ式くくり罠のワイヤー先端を木にくくりつけたら、水道管キャップをワイヤーに引っかけて、腰当てベルトを装着します。このまま腰当てベルトに体重を預けていくと、押しバネのテンションを体重で支えることができます。

 押しバネ式くくり罠で一番大変なのは、『バネが戻ろうとするテンションを片手で抑えながら、もう片方の手でストッパーを締める』という作業です。しかしこの治具を使えば、バネのテンションを体重で支えることができるため、両手でストッパーを締める操作ができます。
 基本的にくくり罠は何個もしかける必要があるので、この治具1つあればセッティングの労力を緩和できます。ぜひお試しください。

ねじりバネを安全にセッティングする道具を使おう!

 先にお話したように、ねじりバネは大事故が起こりやすいバネです。しかし、再設置のしやすさや、捕獲率の高さといったメリットも大きいので、どうしても使ってみたいという人も多いはず。
 そこでねじりバネを使うさいも、治具を使いましょう。ここでは、私がお手本にしているベテラン猟師さんの道具をご紹介します。

300回のヒヤリに1回の大事故が隠れている

 モノづくりの世界では「1回の大事故の裏では、300回のヒヤリ・ハット(ひやりとしたり、ハッと驚く程度の事象)がある」という法則(ハインリヒの法則)があります。
 このハインリヒの法則は罠猟においても同様で、暴発などのヒヤリ・ハットが300回起これば、失明や骨折などの大事故が1回の割合で起きます。
 よって、ねじりバネ式くくり罠の事故を防ぐためには、治具を使ってヒヤリ・ハットの発生回数を防ぐことが重要なのです。

経験値をアップさせて自分でくくり罠を作っていく

 くくり罠は、バネやワイヤーなどの部品を購入して、試行錯誤していくのが醍醐味です。しかし、実際に1から組み立ててみると、スリーブのかしめが弱かったり、部品を間違えて取り付けたり、長さをまちがっていたりetc・・・と、結構ノウハウが必要だったりします。そこで、初心者のうちは、罠猟具のメーカーから販売されている既製品を使うことを強くオススメします。

既製品を研究してみると工夫がよくわかる

 私は工学部出身ということもあってモノづくりには自信があったのですが、捕獲の経験を積んだ上で改めてメーカーの既製品を観察してみると、「あ、ココはこういうことを防ぐためにあったのか」とか、「この部品は〇〇だといいけど××だとだめだな」など、自分では気付かなかった設計の工夫に驚かされてしまいます。
 そこでこれからくくり罠を始める人は、初めから自作罠を作るのではなく、「メーカー既製品で捕獲 ⇒ メーカー既製品を自分でメンテナンス ⇒ 徐々にカスタマイズしていく」という段階でスキルを身に着けていきましょう。
 メーカー既製品のノウハウをパクる・・・もとい”参考にして”自作できるようになれば、それだけ安全で機能的な罠を安く作り出すことができます。

ワイヤーは再利用しない!

 一度獲物がかかったワイヤーは再利用してはいけません。獲物が暴れて『よれ』(キンク)が付いたワイヤーは、その部分の強度が極端に低下して切れやすくなります。また、まったく無傷のように見えるワイヤーであっても、実は内部で金属疲労が起こっている場合があります。

ワイヤロープは急に「プツン」と切れる

 ワイヤロープの破断は、素線が曲がったり捻じれ歪んだむことによる摩擦(フレッティング疲労)によって起こります。そして、この素線が1本でも切れると、ワイヤロープの強度は急激に低下するのです。
 例えば、獲物をくくった『6×19』(素線19本)のワイヤロープがあり、この素線が1本切れたとします。すると、これまで19本で耐えていた素線が18本になるため、素線1本あたりにかかる負荷は大きくなります。さらに1本切れると、素線1本あたりの過重負担は指数関数的に大きくなっていきます。
 このように、くくり罠のワイヤーロープは目に見えない破断があるだけで強度が極端に低下するため、一度でも獲物がかかったワイヤロープは再利用するべきではありません。

普段は大丈夫でも、事故はある日“突然”起こる

 ただ・・・、実際のところ「2、3度と再利用しても大丈夫だったよ~」ということはよくあり、私も初心者のころは使いまわしていました。
 しかしながら、過去に再利用したワイヤーロープに大イノシシがかかり、今にも切れそうになってひやひやした経験をしてからは、ワイヤーの再利用はしないようにしています。
 くくり罠に使うワイヤーは、せいぜい200円~300円程度です。自分の身を守るためにも、また、獲物を確実に捕獲するためにも、一度使ったワイヤーは必ず新品に交換しましょう。

箱罠を安全にするためのポイント

 一見、問題なさそうに見える箱罠であっても、ワイヤーメッシュの溶接部が錆びていたり、ボルトが緩んでいたり、扉のストッパーが上手く動かなかったりすることがあります。こういったメンテナンス不良の箱罠は、思わぬトラブルを起こすので、使用前に必ずチェックをして修繕しましょう。
 また、扉付近の土の除去を忘れないようにしましょう。土のせいで扉が最後まで閉まらなくなり、ストッパーが発動しなくなります。賢いイノシシだと、止めさし時に扉を開けて反撃をしてくる可能性があるので、注意しましょう。

箱罠は定期的にメンテナンス&点検しよう

 箱罠のメンテナンスが大事なことについて、私の『怖い実体験』をひとつ。それは、箱罠にかかったツキノワグマを処理するために現地へ向かったときのことです。

箱罠からクマ、脱走!

現地に着いて見ると、なんとそこには破壊された箱罠がッ!

「クマがおらん!箱罠から逃げてる!」

1時間前まで捕獲されていたはずのクマが、ワイヤーメッシュを引きちぎって逃走。その場に到着したメンバーに緊張感が走ります。
 相手は罠にかけられて激怒しているクマ。いつどこから反撃して来るかわかりません。いつも「ゆる~っ」とした表情のオジサンたちが、とたんに『厳しい猟師の顔』になり、私を囲むように陣形を組んで撤退した経験を今でも忘れません。

破壊の原因はメンテナンス不良

 後に分かったことなのですが、箱罠が破壊された原因はメンテナンス不良。溶接部分が弱くなっていて、そこから噛みちぎられたようでした。
「一応、ひっぱたり蹴ったりして確認して、大丈夫そうだったんだがなぁ~」と、箱罠の持ち主さんはおっしゃっていましたが、やはり「箱罠だから」と過信していたことが、今回のトラブルの原因です。

セッティング時はきちんと安全装置をつける

 箱罠で起こる事故で一番多いのが、セッティング中に扉が落下するトラブルです。通常、セッティング中の扉は落下防止の安全装置を刺して固定しておくのですが、この安全装置が何かの拍子で外れてしまうと、扉が凄い勢いで落ちます。

扉はギロチン並みに危険

 実際に私の知り合の中には、セッティング中に突然扉が落ちてしまい、一緒に作業していた相方の腰骨を折ってしまったと猟師さんがいます。また、落ちてきた扉に手を挟まれて手首を複雑骨折したという猟師さんもいます。
 こういった安全装置の不具合も、日ごろのメンテナンス不良が原因だったりします。「箱罠だから安全」と思い込んでしまわないように、十分注意して取り扱いましょう。

まとめ

  1. くくり罠のバネは超強力!体にぶつかると骨折や失明の危険性が高い
  2. くくり罠のワイヤーは使いまわし厳禁!無傷に見えても強度が低下している可能性がある
  3. 箱罠でも破壊されることがある。設置時にケガが多いので注意すること

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この記事を書いた人

Uri@山本 暁子のアバター Uri@山本 暁子 女性・副業猟師

鳥取県国府町在住の女猟師。昼は猟師の仕事、夜はITを駆使してリモートで仕事をしています。Twitter、Youtubeもやってます。

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