『はこわなの基本』フレーム・扉・トリガーを組み合わせた意外と奥深い罠

 箱わなは、一見すると単純な構造をしていますが、獲物が入った瞬間に扉を閉めるトリガーや、閉じ込めた獲物が暴れても破壊されない頑丈さなど、様々な要素が必要になります。そこで今回は箱わなの仕組みについて詳しく見ていきましょう。

目次

「はこわな」とは?

 法定猟具の1つである箱わなは、獲物を檻に閉じ込めて捕獲する仕組みの「わな」です。とらばさみなどの「わな」に比べて獲物に対する身体的負担が少ないため、有害鳥獣駆除などにも多く使用されています。詳しくは下記ページもご参考下さい。

はこわなの法規制

 箱わなには、くくりわなのような危険猟法・禁止猟法的な扱い方はほとんどありませんが、共通してクマ(ツキノワグマ・ヒグマ)の捕獲には使用できないことに注意しておきましょう。
 ちなみに、クマが出没する地域では、天井に40cm四方の穴を開けておきます。この大きさの穴は、クマならよじ登って抜け出せるサイズになっています。

はこわなの仕組み

 箱わなは、イノシシやシカを捕獲できる大型の物から、ドブネズミを捕獲する超小型の物まで、その大きさは様々です。しかし、大きさの違いによらず、その構造は、フレーム、扉、トリガーの3つに分割して考えることができます。

フレーム

 箱わなのフレームは、一方開放、または二方開放された六面体をしており、箱わなの骨格を作る要素です。フレームには、閉じ込めた獲物が暴れても破壊されない頑丈さや、長期間野外に放置できる耐腐食性、また、獲物に警戒心を与えにくい構造などが必要になります。

フレームの大きさ

 大型箱わなのサイズは、高さ1m、幅1m、奥行き1.5m程度がよく使われています。もちろん、これ以上に大きくすることもできますが、箱わなは「大きいから」といって獲物が入りやすいというわけではありません。一般的には軽トラに積んで移動ができるように、軽トラの荷台のサイズ内に設計されます。

小型箱わなの場合

 小型箱わなのサイズは、高さ37㎝、幅35㎝、奥行き90㎝程度がよく使われています。小型箱わなは、物陰や獣道など狭い場所にしかける場合が多いので、なるべくコンパクトな物がオススメです。

フレームの形状

 一般的に箱わなのフレームは、一枚板ではなく、格子状に組まれた物が用いられます。これは、中で獲物が暴れて体当たりを繰り返したとき、一枚板だとひずんでフレームの溶接がはがれてしまう可能性が高いためです。また格子状の方が中に置いた餌が外から見えるため、獲物をおびき寄せやすくなります。

 格子目の大きさは、イノシシ・シカ用の箱わなでは、1マス10㎝四方が一般的です。格子目の大きさは小さいほど強度は増しますが、止め刺し時に格子目からナイフや銃口が入らないので、注意が必要です。
 アナグマやタヌキなどを捕獲する場合、格子目が10㎝だと抜け出てしまいます。もし大型箱わなで小中型獣を捕獲したい場合は、フレームの下20cmぐらいに、目の細い金網を巻き付けておくと良いでしょう。

フレームの種類

ワイヤメッシュ

 箱わなのフレームによく使用されているのが、ワイヤーメッシュです。ワイヤーメッシュは、鉄製の細長い棒が格子状に溶接された建築資材で、主にコンクリートに埋め込んで耐久力を向上させる目的で使用されます。箱わなのフレームに利用する場合は、このワイヤーメッシュを折り曲げて、つなぎ目を溶接して箱状に加工します。

鉄筋棒

 大型箱わなでよく使われているフレームが、建築物や土木建造物の骨組みとして利用されている鉄筋棒(異形鉄筋)です。この鉄筋棒を箱わなに加工する場合は、鉄筋棒を格子状に組み、四隅は鉄製アングルを溶接します。一般的には太さ1㎝程度の鋼製鉄筋棒に、ペンキなどの耐腐食性塗料を塗って仕上げます。

竹や木などの自然素材

 フレームには、木や竹製の物もあります。植物性のフレームは、強度的にはワイヤフレームや鉄筋棒には劣るものの、野生動物の警戒心は薄くなるため、スレた獲物でも入りやすいといったメリットがあります。
 竹と間伐材で作る箱わなは、愛知県岡崎市のHPで設計図が公開されています。興味のある方は、是非ご確認ください。

クマ捕獲用の特別仕様

 狩猟で使われることはありませんが、クマの有害鳥獣駆除では、ドラム缶を改造した箱わな(バレルトラップ)が、よく使用されます。ドラム缶は中が曲面になっているため、クマの体当たりの衝撃を分散させる効果があります。

 は、フレームを閉鎖するための要素です。フレームと同様に、獲物が暴れても破られない強度や、素早く閉まる仕組み、また、閉じた扉が開かないようにするロック機構が必要になります。

片開と両開き

両開きはこわな

 扉には、フレームの一方が開放している片開タイプと、二方が開放している両開きタイプがあります。両開きタイプは獲物から見て前方が開けているため、『警戒心が緩む』といったメリットがあります。しかし両開きは、扉が落ちた瞬間に走り抜けられてしまうことも少なくありません。どちらを選ぶかは狩猟者の好みによります。

扉を破壊されない仕組み

 扉はフレームよりも強度が弱いため、獲物から何度も体当たりを受けると破られてしまいます。そこで扉には「ハリ」を入れて、強度を増す工夫が施されます。

先が見えない扉は突進されにくい

 また扉には、一枚板を使う場合もあります。扉に一枚板を使うと、中に入った獲物から外が見えなくなるため、扉への突進を抑える効果があります。

ロック機構

 扉には、閉じ込めた獲物が扉を持ち上げて逃げてしまわないように、ロック機構が必要になります。特にイノシシは鼻で扉を持ち上げて逃げてしまうので、ロック機構が必須になります。

大型箱わなで多いカンヌキ機構

 

 ロック機構には色んな方法がありますが、扉に空いた穴にバネで「かんぬき」を刺し込むタイプや、扉が落ちた衝撃で金具が扉に噛み合うタイプなどがよく用いられています。

色々な扉

 箱わなの扉には様々なタイプがあります。ここではその例をいくつかご紹介します。

ギロチン扉

 フレームの開放口にスリットが付けられており、その間を扉が落ちるタイプ。重たい扉でも素早く閉めることができるため、イノシシ・シカ用の大型箱わなによく用いられる。

ななめ扉

 扉が落ちると、斜めに閉まるタイプ。扉が斜めになると、獲物の突進の力を分散できるため、扉が破壊されにくくなる。アメリカのハバハート社製小型箱わなで、よく用いられる。

跳ね上げ扉

 ねじりバネや引きバネを利用して、扉を跳ね上げて閉鎖するタイプ。「シャーマントラップ」と呼ばれる小型の箱わなに、よく用いられる。

スリット扉

 フレームの上部にスリットを設けて、その隙間を扉が滑り落ちるタイプ。小型獣を捕獲する木箱製の箱わなで、よく用いられている。

フタ

 フレームを地面に埋めて、中に入った獲物をフタで閉じ込めるタイプ。法定猟具の「はこおとし」に近い形状で、ノウサギの捕獲罠として用いられている。

トリガー

 箱わなのトリガーは、くくりわなのトリガー以上に、高い信頼性が求められます。詳しくは『箱わな実践編』でお話をしますが、箱わなを選ぶさいは、トリガーを「はかせ」(早く、簡単、正確)に仕掛けられるか、十分確認をしておきましょう。

シーソー式

片開きシーソートリガー

 シーソー式は、フレームの下にシーソー型の踏板を置き、扉との噛み合いと連結させる方式のトリガーです。シーソー式トリガーは、獲物から気付かれにくく、さらに感度に優れた方式なので、主に小型箱わなにわれています。
 このトリガーは大型箱わなにも使えますが、タヌキなどが踏んで暴発させてしまうケースが多いため、あまり一般的ではありません。

両開きシーソートリガー

箱わなのトリガー・シーソー式両開きの場合

 両開きにする場合は、フレームの上部に回転する金具を付けて、両方の扉に連結します。

釣り餌式

 釣り餌式は、扉の噛み合いと餌を連結し、獲物が餌を引っ張ると扉が落ちる仕組みのトリガーです。トリガー自体が獲物の興味を引くため、捕獲率が高く、特に手が発達したアライグマやニホンザルの駆除などに効果的なトリガーです。

 餌釣り式の別バージョンに、「てこ」を使ったタイプがあります。これは、フレーム上部にひっかけた棒と扉をテコで連結し、棒に餌をくくり付けておきます(重たい餌の場合は棒の奥に置く)。獲物がこの棒に触れると、天井との噛みあいが外れて、「てこ」に繋がれた扉が落ちる仕組みになっています。

 釣り餌式トリガーは、フタ型の箱わなにも用いられます。

チンチロ式

 箱わなの扉は大型になるほど重くなるため、くくりわなでも使用されていたチンチロがよく使われます。チンチロ式では蹴糸を自由に設置できるため、例えば箱わなの高い位置に蹴糸を張っておき、背が高い親イノシシとシカのみを捕獲する仕組みにできたりします。

片開扉の場合

 箱わなのチンチロは、太い棒と細い棒を組み合わせた原始的なトリガーもよく用いられます。

両開き扉の場合

箱わな両開きチンチロ式

 チンチロを両開き扉に使用する場合は、チンチロの支点に軸を付け、左右からワイヤーを引っ張るようにしてセットします。バランスの調整が難しく、また、一人でセットするのが大変なので、慣れないうちは両開きタイプでも片側の扉だけを利用した方がよいでしょう。

回転棒式

 回転棒式は、扉を支える支柱を何かしらの方法で外して、扉を落とす仕組みのトリガーです。上図の例では支柱を天井から吊るして扉を支え、木の棒で支柱を支えます。獲物が木の棒に触れて倒れると支柱が半回転して、扉との噛み合いが外れる仕組みになっています。

 この例での支柱は、先端がボルトで回転するようになっており、半回転すると「L」字に曲がるようになっています。言葉で説明すると複雑そうに思えますが、実際に設置してみると、とてもシンプルな構造のトリガーです。

 回転棒式の箱罠は、弊社タイアップ企業の方で取り扱いがあります。ご興味のある方は下記ページも併せてご参考ください。

センサー式

 センサー式は、フレーム上部にモーションセンサーを設置し、獲物が範囲に入るとモーターが起動してトリガーを引くタイプのトリガーです。人の動きを感知して扉を開ける自動ドアの逆パターンと考えてもらえばわかりやすいでしょう。

IcT式

SIM方式

 IcT(情報通信技術)式は、トレイルカメラで撮影した情報を、携帯電話通信網(4Gなど)に載せて転送し、パソコンやスマートフォンに転送するタイプのトリガーです。狩猟者は転送されてきた写真や動画を見て、「いけそう」と判断したらスイッチを入れます。スイッチが入ると、信号が再び携帯電話通信網を通してセンサーに送られ、モーターが起動して扉を落とします。

LPWA方式


 IcT機器の活用は、格安SIMの登場で携帯電話通信網の利用料が大幅に下がり、1カ月数百円程度で運用が可能になっています。携帯電話の電波が届かないような場所では使えないといったデメリットはありますが、現在、LPWA (Low Power, Wide Area)通信技術を利用して、山奥でも使用できるトリガーの開発が進んでいます。

まとめ

  1.  フレームは、獲物を捕獲しておく箱わなの骨組み。頑丈さだけでなく、耐腐食性や獲物の警戒心を抑える仕組みなどが必要
  2.  扉は、フレームを閉鎖するための要素。フレームの大きさや、捕獲する獲物の種類によって、いくつかの種類がある。
  3.  トリガーは、扉を落とすための要素。くくりわなと共通した造りのものもあるが、箱わな独自のトリガーも多い
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この記事を書いた人

罠猟師見習いです。
はじめての人でも役に立つような罠猟の情報を発信しています。

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