エサで獲物を誘引する罠猟『小林式誘引捕獲法』そのメリット・デメリットを解説!

 小林式誘引捕獲法(以下小林式)の話をすると、みなさん決まって「エサでおびき寄せる方法でしょ?」「くくり罠の周りに円状にぐるっと餌を撒くヤツね」とおっしゃいます。確かに小林式誘引捕獲の方法はその通りなのですが、では具体的に『小林式の何がメリットなのか?』、『デメリットは?』といった話は少ないように思えます。
 そこで今回は、考案者の小林さんから直接指導を受け実際に試してみて感じた、”私なり”のメリット・デメリットについてお話をさせていただきたいと思います。

目次

小林式誘引捕獲とは?

 小林式は、林野庁・近畿中国森林管理局職員である小林正典さんが考案された捕獲方法です。くくり罠とエサを組み合わせることで、初心者でもシカやイノシシをくくり罠で簡単に効率よく捕獲できるのが特徴です。

 具体的には、上の写真のように「くくり罠」と「石」と「エサ」を設置します。
石は空はじき防止が目的。こぶし大の石を使い、地面から2cm程頭が出るように置きます。その後、罠を土で隠し、石の周りにドーナツ状に誘引用のエサ(ヘイキューブや米ぬかなど)を撒きます。小林式の具体的な仕掛け方については、コチラの記事も併せてご参考ください。

林野庁のパンフレット(PDFをダウンロード)

正しく理解されていないことの多い小林式

 小林式はメディアでも多く取り上げられ、林業関係の事業でも多く活用されています。罠猟に興味がある人は、小林式がどんな設置方法なのかうっすらと知っている人が増えてきました。
 しかし、実際、小林式にチャレンジしている新人猟師の罠を見せてもらうと、”獣道の上”に小林式でしかけたり、罠の設置場所の選定に30分以上もかけていたりしていました。
 また、大ベテランが

「普通にわなをかけた方が捕れる。なんで若いもんはエサなんかに頼って罠かけるんじゃ」

と自慢そうにおっしゃることもあります。
 ドーナツ型に餌を撒くことは知っていても、小林式のメリットや特徴をご存知ない人が実に多いと感じています。

小林式のメリット

 小林式にはメリットとデメリットがあります。目的に沿っていれば効果的な設置方法ですが、場合によっては「非効率的」だと勘違いされやすい設置方法でもあります。
 その理由は、小林式の特徴によって生じるメリットに複合的なものが多く、説明すると複雑になってしまいがちだからだと私は感じています。
 今回は、なるべくシンプルにメリットを列挙することで、小林式を利用する意味や意図を感じていただければと思います。

メリット1:素人でも簡単にくくり罠の設置場所を探せる

くくり罠を仕掛けるポイント探し初心者には難しい

 通常、くくり罠をかける場所の選定には、次のようなポイントがあります。

  1. 獲物が通る獣道を探す
  2. 獣道の中でも獲物が足を踏みそうな位置を探す(獣道が狭まっていたり、段差があったり)
  3. 足を踏みそうな位置で、かつ、根付のある位置を探す
  4. ③の条件でさらに動物が暴れまわっても問題が起こらない位置を探す
  5. ④の条件でさらに搬出しやすい場所を探す

 これは初心者がすぐにわかるようなことではなく、設置場所を求めて森の奥へ奥へと進んでいくなんてこともあります。

小林式はポイントを“探さなくていい”

一方、小林式の場合は

  1. ある程度シカが通ってそうな位置を探す(草を食べた後、足跡等)
  2. その中でも林道から目視で確認でき、搬出しやすそうな場所を探す(例えばなだらかな平地)
  3. 近くに根付ができそうな雑木等を探す
  4. エサを撒いてみる(←省略してもよい)
  5. エサが食べられていたところに罠+餌を設置する

これだけでOKなので、初心者でも簡単に罠を設置する場所を選定できるのです。

メリット2:設置が楽~慣れれば5分程で

 くくり罠を設置するときに「動物にバレないように設置しなければならない」とよく言われます。また、「よし、獲物は多分ここを踏むだろうから、ココに設置しよう!!」と決めて、いざ罠設置用の穴を掘ると、大きな石があったり、根っこがあったり…。
 実際に罠の設置をしてみると、自分が「良い!」と思った位置に違和感なく罠を隠すのは、かなり骨が折れる作業です。

場所が悪ければすぐに移動できる

 小林式の場合は、そこまで神経質に罠の場所にこだわる必要はありません。「エサに引き寄せられて動物自らが罠を踏みにやってくる」というのがコンセプトの設置方法だからです。
 罠設置用の穴を掘ってみて石や根があって邪魔であれば、場所を少しだけずらし”自分の都合の良い位置”で罠が設置できます。そこまで神経質になって罠を隠す必要もありませんので、初心者でも安心です。
 ちなみに、小林さんご本人は、現地で「罠のバネを縮めてセッティング ~ 表札を掛けるまで」を5分程で行っていらっしゃいました。

メリット3:ひとまず捕獲までを経験してみたい人にピッタリ


「くくり罠を設置したけどずっと獲物が掛からない。もうやめようかな・・・」初心者によくあるパターンです。私も5か月間ほど獲物が掛からない苦しい時期を味わった経験があります。

罠猟の「獲れない」は疑心暗鬼に陥る

「掛ける位置が悪いのか、罠のセッティングが悪いのか、はたまた、自分がかけている場所自体が獣道じゃないのかもしれない・・・。」気軽に質問できる人がいない場合はどうしたらよいのかわからなくなり、成果も上がらないと見回りもおっくうになってきます。空はじきした罠にもうんざりする始末。

とりあえず“1頭”が捕れる

 そんな初心者にオススメなのが小林式です。エサさえ食べてくれる環境であれば、初心者でも手っ取り早く捕獲できるからです。
 一度捕獲の実績がつくと、罠猟がとても楽しくなりますし、今まで学んできた要素が感覚的にわかるようになります。また、とめさしや搬出も体験することができるので、次回からは捕獲後のことをより意識して罠を設置できるようになります。

メリット4:短時間で効率よく捕獲ができる

 前述で、『小林式は、罠の設置場所の選定が楽で(メリット1)、慣れれば5分程度設置できる(メリット2)』とお伝えしました。つまり、小林式は、時間をかけず、たくさんの場所に罠をかけることができるのです。
「下手な鉄砲も数撃てば当たる」とよく言いますが、「当たりやすい鉄砲を数撃つ」とどうなるか・・・?みなさん、もうお分かりですね?

メリット5:捕獲できなかった原因が特定しやすい

 小林式の場合、捕獲できない原因は特定しやすいです。「設置中に気を付けるべきポイントが少ない=捕獲できなかった原因は限られている」からです。
 例えば小林式では、次のように問題と原因を特定することができます。これら問題を一つずつ分割してトラブルシューティングしていけば、捕獲確立をグッと向上させることができます。

エサを食べていない

→ 他に魅力的なエサが多い(誘引力の高い撒き餌に切り替えてみる)
→ 設置した場所の付近にエサに反応する個体がいない(仕掛ける場所を変えてみる)

エサを食べたり、動かした形跡がある

→ 警戒心が強い(数日たてば食べる可能性がある)
→ 本命以外の獲物が多い可能性がある(トレイルカメラや足跡から判別する)

空はじきをした

→ 罠のセッティングに問題がある(罠と石の隙間を調整してみる)
→ たまたま小動物が通った(トリガーを重くしてみる)

メリット5:見回りが安全かつ効率的にできる

 先程もお話した通り、良い罠設置ポイントは道から遠く離れたところになりがちです。しかし、小林式は獣道に罠をかける必要がありません。

車に乗ったまま見回りができる

 罠をかけるポイントの選択肢が多く、見回りがしやすい場所にかけることができるのです。小林さんが推奨しているのは、

  • 見回りする道(林道)からすこし離れた見通しの良い平地
  • 近くに水飲み場がある場所
  • 獲物が頻繁に通る獣道から少し外れた平地
  • 食跡が新しい場所

に仕掛けると、より良いそうです。
 このような場所であれば、車から降りなくてもひとまず獲物が掛かっているかどうか、確認しやすくなり、見回りが効率的になります。
 また、熊の出没する地域などは、くくり罠にかかったシカをクマが襲って食べている現場に遭遇したりすることもあります。小林式の場合、車から目視でひとまず確認ができるので、より安全に見回りできます。

メリット6:同じ場所で再捕獲が可能

 従来通り、獣道の上に罠をかけて捕獲した場合、獲物が暴れて獣道を荒らしてしまうことが多々あります。時には地形が変わってしまうこともしばしば。こうなってしまうと、同じ位置に罠をかけても、次も踏んでくれる確証はありません。
 一方、小林式の場合は獣道以外にかけられるので、獣道が荒れることはありません。別の獲物が同じ獣道を通り、餌につられて罠の前までやってくるのです。

メリット7:錯誤捕獲を防ぐことができる

 小林式は、エサをヘイキューブにすれば、獲物をシカ等に限定して錯誤捕獲を防ぐことができます。指定管理鳥獣捕獲等事業や林業関係の捕獲事業でシカのみを捕獲したい場合などに効果的です。ただし、カモシカなどの草食動物に対しては効果がありませんので、注意が必要です。
 また、そもそも獣道にかけないので、中型動物やクマなどが寄り付かないエサにしてしまえば、錯誤捕獲する可能性がぐっと減ります。

メリット8:食肉利用に最適

 罠にかかった脚は痛んでしまって食肉には向きません。ですから、モモ肉が大量に確保できる後ろ足には、なるべく罠が掛かってほしくないというのが実情です。

可食部の少ない前脚にかかる

 その点、小林式は必ずと言っていいほど前足に罠が掛かります。エサを食べようとして近づき、前足を出したときに罠にかかる仕組みだからです(※下記動画をご参考ください)。
 ジビエの供給源は有害鳥獣駆除の個体、とりわけ罠で捕獲された個体が大半を占めていると言われています。利活用を前提に捕獲するという点でも、小林式にはメリットがあります。

メリット9:奥山での捕獲に向いている

わなによる捕獲が敬遠されがちな奥山。なぜかというと、

  • 奥山までは距離があるので、見回りが億劫
  • ガソリン代が高くつく
  • 長期間、毎日通うのが大変
  • 奥山は電波が届かない&クマもいるので危険性がいっぱい

だからです。そこで、小林式の登場です。

  • 警戒心が薄いのでエサに食いつきやすい
  • 林道沿いに短時間で多くの罠を設置&回収できる

という特徴を利用し、短期間で林道沿いにたくさんのわなを設置し、警戒心の薄いシカのみを捕獲します。林道沿いなので、車から安全にわなの見回りもできますし、捕獲個体も簡単に回収できます。
 何回も通うのは大変なので、「罠設置期間は2週間」等と決めて、その2週間だけ見回りをし、期間終了後、わなを全部回収します。奥山での生息密度を低くするという目的には、うってつけの方法と言えます。

小林式誘引捕獲法のデメリット

このように、メリットがたくさんの小林式ですがデメリットもあります。

デメリット1:ヘイキューブ等の場合、エサ代がかかる

 イノシシなどの獲物も狙う場合は、無料で入手できる米ぬかで対応できます。しかし、錯誤捕獲を防ぐ前提でヘイキューブを利用する場合、ヘイキューブは購入するほかありません。
 農協や畜産関係の会社から購入できますが、割と高いです。鳥取県のJAの場合、個人で買うと30kg 3000円~4,000円。
 ちなみに1基の罠に利用するヘイキューブの重さですが、個人差があります。1kg程使う人もいれば、300g程でも大丈夫という人もいます。

デメリット2:エサが豊富な地域やスレている地域では効果があまりない

 小林式は、エサで獲物を誘引する方法ですので、獲物がエサに興味を示さなければ全く成果が得られません
 私の地元の山では、ヘイキューブを撒いてもシカはあまり反応を示してくれませんでした。ヘイキューブをひとつも食べず、「こんなもの食べないよ~~」とでも言いたいかのように、50cm程近くに糞をして去っていったシカもいました。
 しかし、そこから10km離れた牧場近くの山にヘイキューブを撒いてみたところ、翌日にはシカが食べたのを確認できました。ここでは森林組合が小林式で効率よくシカを捕獲しています。

デメリット3:空はじき防止の石の用意が大変(石が重い)

 小林式は空はじき防止のために、周りに大きめの石を設置します。設置場所周辺に石があれば良いですが、ない場合は集めて現地に持ってくる必要があります
 実はこれが結構面倒。そして石も重たい。現地には、さらにエサも持っていく必要があるので、荷物も多くなってしまいます。
 とは言いつつ、小林式は林道から近い位置に設置できるので、そこまでの重労働になることはないのですけれど…。

デメリット4:ベテランの猟師の捕獲数には敵わない

 小林式は初心者がかけても中堅の猟師レベルで捕獲ができるというのが特徴です。ですが、やはり経験を積んだベテランの猟師の捕獲数には敵わないなぁというのが私個人の感想です。

スマートディア化が進む?

 林野庁のデータによると、小林式は初月の捕獲率が圧倒的に高いようです。個人的な意見ですが、個体が学習して罠を警戒する、初月の捕獲によって一時的にその地域の生息密度が急激に減る、警戒心の高い個体だけ残る…etcが理由だと考えます。
 結局、罠は「動物をどれだけダマして捕獲できるか」にかかってきます。シカやイノシシは太古から生き延びてきた動物。学習能力があります。小林式での捕獲頭数は頭落ちがあります。

まとめ

  1. 最大のメリットは『設置場所を探さなくていい』こと。見切りができない初心者にもピッタリ
  2. 最大のデメリットは餌代がかかること。獲物がスレると効果は落ちる。
  3. 罠猟の一連の流れを覚えるために、まずは小林式で『初めの1匹』を捕まえてみよう!

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この記事を書いた人

Uri@山本 暁子のアバター Uri@山本 暁子 女性・副業猟師

鳥取県国府町在住の女猟師。昼は猟師の仕事、夜はITを駆使してリモートで仕事をしています。Twitter、Youtubeもやってます。

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