三重県の最西部、周囲を深い山並みに囲まれた町に住む『りょう』さんは、年間200頭もの野生鳥獣を捕獲するベテランの職業猟師です。「限界集落」といわれている町で、激化する野生鳥獣被害に立ち向かう職業猟師のりょうさん。果たして彼は、どのような働き方や、生活をしているのでしょうか?
Q1 :『猟師』って・・・本当にそんな仕事があるんですか?
A1:私は(自称)職業猟師です。
「職業は”リョウシ”です」と言うと、ほとんどの方が「漁師」だと思います。いつも「山の」と、後で付け加えています。そのぐらい山の猟師、特に職業としての猟師という存在は、ほとんど認知されていません。しかし、少なくとも私は狩猟だけを生業にしてお金を得ている職業猟師です。
「猟師」という職業が公的に認められているわけではないので、警察で書類の職業欄に何と書いてよいのかわからず、その場で問い合わせてもらったことがあります。その結果得た回答が「自称職業猟師」・・・なんとも胡散臭い名称ですが、公安委員会公認です(笑)
Q2 :『猟師』って、どうやってお金を稼いでいるんですか?
A2:野生鳥獣を捕まえて、捕獲報奨金を得ています。
狩猟を仕事にする方法は、実は色々なパターンがあります。制度について詳しくは別の機会にお話するとして、私の場合は許可捕獲制度の対象鳥獣捕獲員、一般的には『有害駆除捕獲』と呼ばれる仕事で報奨金を得て生活をしています。
報奨金の額は、捕獲する野生鳥獣の種類や、住んでいる市町村などによっても大きく変わってきます。私が住んでいる町の場合は、
- イノシシ 成獣:7,500円
幼獣:2,000円 - シカ 成獣:7,500円
幼獣:2,000円 - サル 成獣:22,500円
幼獣:5,000円 - その他 :2,500円
となっています。この金額が「多いのか?少ないのか?」は、はじめて聞く人にはわからないと思いますが、全国平均でいうとかなり低い金額です。でも、今住んでいるのはかなり田舎なのと、周りの方たちに助けていただいているので、なんとか暮らしてはいけています。
Q3 :『猟師』の仕事ってどんなふうに行うんですか?
A3:やり方は人それぞれですが、私は主に銃を使った捕獲をしています。
最近では「わな」を使う猟師さんが多いですが、私の場合はほとんどは銃で獲っています。銃はブローニングXボルトで、.243ウィンチェスターと呼ばれる弾を使っています。狩猟は「忍び猟」や「流し猟」と呼ばれる猟法をやっています。猟法について詳しくは、また別の機会にお話ししたいと思います。
仕事内容を簡単に書くと、4月~10月いっぱいまではシカ・イノシシ・サルを獲り、捕獲した証拠を役所に提出します。11月~3月いっぱいは自分の中ではオフシーズンですが、サルのみ有害鳥獣捕獲の許可が出ているので、通報があれば出動しています。また、今年から指定鳥獣捕獲事業という県から出る仕事も始めたので、オフ感は無くなりました。「猟師」という言葉には、どことなくノンビリとしたイメージがありますが、意外と忙しく働いています。
Q4 :どこで『猟師』をしているんですか?
A4:三重県南部の県境、熊野市紀和町の限界集落です。
三重県内でも南部のことを知っている方は少ないのですが、さらに秘境チックな県境の集落周辺です。どのくらい田舎かというと、
- 最寄のコンビニまで30分以上。
- 町内の信号機が2ヶ所。
- スーパーマーケットは無く商店が数ヶ所。
- 公共交通機関がバスで1日4回。
田舎としては素敵ですが、住むには不便で覚悟もいる土地です。
昔は鉱山で栄えていたらしいのですが廃鉱となり、元々が不便な土地もあって、人口は徐々に減少していきました。最盛期は、出稼ぎ労働者も含めて1万人以上は居たらしいのですが、2021年現在では1,000人を下回っており、しかも住民はほとんどが高齢者です。集落によっては高齢化率97%という、「限界集落」というよりも「限界突破集落」といった状況になっています。
Q5 :なんで『猟師』をやっているのですか?
A5:『進撃の野獣』に涙する人がいたからです。
「紀州杉」という材木をご存知でしょうか?古くから「質が良い」といわれ盛んに植林されてきたのですが、安価な材木が輸入されるようになると、採算が合わずに放置された杉林が増えました。このような場所は一日中薄暗く、下草もあまり生えないため、獣たちの格好の住処になります。
こうなると獣たちは、田畑や集落内に出没するようになり、様々な被害をもたらします。その過酷さはまさに『進撃の野獣』です。勢いづいた獣の侵攻は、田畑を柵で囲っても防ぐことができないほどです。子どもや孫が来てくれることを楽しみに、成長を見守り、収穫するのを心待ちにしていた畑を、野獣の群れは一晩で、酷いときは”2時間”で壊滅させてしまいます。「文字通り、踏みにじられた」と涙している人にも、何度も出会ったことがあります。
もちろん、大規模な予算をかければある程度の侵攻は抑えられるのでしょうが、限界突破集落のわが町には予算も人材も気力もありません。住んでいる方達は「自分達の代でこの地は終わりだ」とよく言っています。
そこで、少しでも役に立てればと思い、猟師として働き始めました。もちろん、私一人がいくら獲ったところで被害が無くなるわけではありません。しかしそれでも、「微力ながら被害が減らせれば」、「私を受け入れて良くしてくれた住民の方々が少しでも暮らしやすくなれば」、という想いから活動を続けています。
Q6 :『猟師』って楽しいですか?
A6:大変ですが、やりがいがあります。
私はもともとは飲食店で働いていたのですが、元来怠け者な性格であることと、毎日同じようなことを繰り返しているのが嫌になってきたので、新しい仕事を探していました。そこで考えたのが、今の猟師という働き方です。
もともと狩猟は趣味と、少しだけ有害駆除をやっていました。また、お世話になっていた猟場が近くだったので、今の集落に移り住みました。初めは大変な仕事だと思いましたが、地元の人たちと猟の合間や解体中に色々なおしゃべりをしたり、野菜をいただいたりと、前の仕事にはない有意義な時間を過ごしています。
なによりもやりがいを感じるのは「感謝」されることです。以前の仕事ではお客様のためにと考え、「ありがとうございました」と言っていましたが、猟師として働くと集落の人から「ありがとう」と言っていただけます。
受け入れていただいて、猟までさせていただいているので、感謝するのは私の方です。しかしこの仕事では、多くの人から感謝をされてしまいます。こんなに嬉しくやりがいを感じる仕事は初めてです(笑)。
Q8 :職業で『猟師』を選ぶって、将来性はありますか?
A8:現状では厳しいですが、進撃の野獣に対抗できる人間も必要です。
私自身、猟師という仕事であまり儲けようとは思っていないので、ストレスのない現状を維持したいと思っています。しかし、考えようによっては、私の地域とやり方で『なんとか暮らしていけるレベル』にまで成れるのであれば、猟師として生計を立てるのはそれほど難しいことではないのかもしれません。
実際に、私の住む場所とは別の地域には何人か職業猟師さんがいますし、報奨金の高い地域に移り住んで、捕獲方法を効率化すれば、そこそこ稼げるようにはなると思います。私自身、数カ所の別の地域から職業猟師としてヘッドハンティング(?)を受けたこともあります。
また今後、猟師という仕事に需要が増えている一方で、人材が減り続けているという点にも、注目すべきだと思います。この先、行政が大々的に対策を始めることとなったときに『経験とスキル』を持っていれば、貴重な人材として重宝されるかもしれません。そう考えると将来性があるように見えませんか(笑)?
まぁ、そのようなお金の話は抜きにしても、自然の中で好きなように働ける・・・こんなに自由な働き方は、他には無いと思います。
Q7:この先の夢や目標は何ですか?
A7:獣が適正頭数になることです。
野獣たちの猛攻は酷いものですが、私は「駆逐してやる!この世から一匹残らず!!」・・・とは思っていません。将来的には人と獣の住み分けができればいいなと思ってます。
しかしこのままでは、少なくとも20年後の日本には私の住む集落のように、獣に蹂躙されてしまう場所が増えると思います。そこで、もし皆様の中に『守りたい人』や『守りたい場所』があるのでしたら、お手伝いをさせていただければと思います。
私が今持っている狩猟の技術や野生鳥獣への知識は、・・・あくまで”現状”の技術や知識ですが・・・、きっと皆様の役に立てると思います。20年後の未来に向かって戦う皆様と一緒に、共に成長し、共に進撃の野獣に立ち向かって行ければと思います。
まとめ
- 現代社会にも『猟師』という職業はある
- 人口減少や高齢化によって地方は”進撃の野獣”による被害が激増している
- 正直言って儲かる仕事ではないが、やりがいと将来性はあると思う