【銃猟ハンター必見】山の中で効率よく動くための『猟装』講座

 銃猟では銃だけではなく、所持許可証やナイフ、医療品など様々な物を持ち歩きます。さらに山の中で動き回るには、これらの道具をコンパクトに収納して身に付けておく必要もがあります。そこで今回は、山の中を高率に動き回るための猟装(服装や装備)についてお話をしたいと思います。

目次

忍び猟や渉猟などの猟装

 上の写真が私の猟装です。服装はガッチリとした作りのミリタリーウェア。顔にはフルフェイスマスク・・・というのは嘘ですよ。
 「ハンター」と聞いた人の中には上の写真のような猟装をイメージする人もいますが、こんな格好で山を歩くと汗だくになります。マスクは冬の夜釣りに付ける防寒用です。

軽量猟装

 ただ、すべてが冗談というわけではありません。上写真のような装備は、実際に銃猟で使っています。
 もちろん「銃猟」と言っても色んなスタイルがあるわけですが、私の場合は主に単独猟で使っています。こういった装備は機動性が上がるため、次々と猟場を変えていく狩猟スタイルに向いています。
 私の住んでいるエリアでは、猟期中は駆除期間ではありません。なので、趣味の狩猟として、ライフルよりも軽い20番散弾銃をメインにして渉猟をしています。

胸部猟装

 私は胸部にバンダリアを袈裟懸けにし、そこに弾差しとナイフを取り付けています。また、背面には細引きのロープを取り付けています。
 バンダリアはもともと、銃の弾倉などを収納するマガジンポーチを帯状に取り付けた装具を意味します。しかし近年ではマガジンポーチだけでなく、MOLLE(モール)と呼ばれる規格で造られた様々なアクセサリーを取り付けられるタイプが主流になっています。
 私の場合も、このMOLLEシステムのバンダリアを愛用しています。具体的にどのようなアクセサリを取り付けているか、詳しく説明しましょう。

弾差し

 バンダリアには、カカシラボのX-HOLDERを二つ付けています。このアイテムは、弾を抜きやすく、激しく動いても抜け落ちることもなく、カチャカチャ擦れて音が出ることもなく、さらには締め付けを結束バンドなどで調整できるという優れものです。

 私の20番は上下二連式散弾銃なので、胸元の弾差しから2発同時に引き抜き、同時に装填します。発砲せずに脱砲する場合も2発同時におこないます。
 このように取り出しやすくすることで、手元を見ずに獲物を見続けたまま装填することが容易になります。装填動作における腕の動きが効率的になると射撃の回転速度も向上するため、バンダリア+X-HOLDERはとても役に立っています。

胸元のナイフ

 バンダリアには小型ナイフ装着しています。大型ナイフだとバンダリアが重くなってしまいますが、このぐらいのサイズならバランスが崩れることはありません。
 このナイフは、解体場まで持ち出すのが難しい獲物の肉を山中で切り取るときに使っています。このような場面では大型ナイフよりも、胸元に装備した小型ナイフの方が使い勝手が良く、作業の合間にシース(鞘)へスッと収めることができるので便利です。
 解体作業中はナイフを手放すことがよくありますが、このときシースに収めずにほっぽりだすと、だいたい置き忘れてしまったり、探し回ることになります(笑)。
 使用しているのはMakariknivesの「ポケットスキナー」というナイフです。刃が薄いので、切れ味が少々落ちても捌くことができる優れもの。20頭以上、研がずに解体できました。

腰部猟装

 腰には、MOLLEシステムを採用したベルトを巻き、ユーティリティーポーチ、メディカルポーチ、ダンプポーチ、をつけてます。(※現在メディカルポーチの上に小さいポーチを追加で付け、ベルトのナイフは外してあります)
 腰装備の定番と言えばデューティーベルトと呼ばれるタイプで、私も昔はこちらを使っていました。しかしデューティーベルトは、動くとポーチがズレまくるのが気になったので、こちらのMOLLEタイプに替えました。
 これら腰回りの装備は、背中に担ぐ登山用ザックと干渉することが多いため、どちらか一方を使う方が多いと思います。私の場合は銃床を肩付けするときにザックの紐が気になるので、今は腰回り装備で落ち着いています。

背中装備

 普段、私が身一つで行くときの猟装は腰装備だけです、20番には胸装備を追加してます。嫌になったら帰れば良いし、道具も少なく済む、気を遣わずハイキングがてら・・・単独猟も良いものです。
 しかし、少し山奥や険しい場所に行くとき、また、荷物が増える場合などは、リュックを担ぎます。リュックを担ぐと据銃の感覚が変わってくるので、本当はあまり使いたくありません。しかし、単独猟は何かあっても自己責任なので、しっかりとした装備が必要になることも少なくありません。自己責任といっても、山で遭難なんかしちゃうと、結局色んな方にご迷惑をおかけすることになります。

狩猟用リュック

 荷物が少し増えるときは、上写真のリュックを猟装にプラスしています。ピーチスキンで音と反射を抑え、リアルカモパターンの狩猟用っぽいリュックです、これじゃなきゃダメといったことはまったくなく、試しに買ってみたものです。
 リュックを購入するときは、造りがしっかりとした物を選びましょう。山の中では枝に引っかけたり、石に擦れたりして、痛みがとても早いです。
 私のリュックは持ち手が千切れているのですが、これは山で捌いた肉を20kgぐらい入れて持ち上げたときに切れてしまいました。肩紐は無事なのでいまだに使っています。

登山用ザック

 荷物がかなり増えてきそうな場合は、装備をガラッと変更して登山用ザックを背負います。私の使っている登山用ザックは36Lか38Lぐらいですが、シカ肉3頭分ぐらいまでなら入ります。
 前のリュックとの大きな違いは、腰巻きがある点ですね。このザック独自のギミックが搭載されており、身体を捻ったり、傾けたりしてもザックが体の動きに追従するため、移動がとても楽になります。

MOLLEにつけるポーチ類

ユーティリティーポーチ

 ポーチは何個付けても良いのですが、あまり付けると邪魔になったり重くなったりして機動力が落ちます。私の場合は現在「よく使うポーチ」としてユーティリティーポーチ、「滅多に使わないポーチ」としてメディカルポーチ、「一時的に入れておくポーチ」ダンプポーチの3種類を使い分けています。

 ユーティリティポーチには、許可証や予備弾、ビニール袋、解体に使うものなど、頻繁に出し入れする物を入れています。取り付ける位置は、右利きの私が取り出しやすいベルトの右側です。

入れるのは「すぐに取り出して使う物」

 このユーティリティポーチには必要な装備だけを入れるのがお約束なんですが、一番アクセスしやすいので、あれもこれもと突っ込んでしまいがちです。すぐにパンパンになってしまう、頭を悩ませるメインのポーチです。

メディカルポーチ

 メディカルポーチには、ちょっとした医療品や緊急時に使うものなどが入っています。滅多に取り出すことは無いため、右利きの私が扱いにくいベルトの左側に取り付けています。

メディカルポーチの中身

 具体的な中身は絆創膏・ガーゼ・消毒薬・解熱鎮痛剤・鏡・ライター・ライト・アルミシート・レインポンチョ・発煙筒・浄水器。
 ユーティリティポーチとの構造の違いですが、内部の区切り方が違ったり、開け口が広くなっており、必要な物を取り出しやすい造りになっていたりします。

医薬品が入っていることを示す十字マーク

 メディカルポーチには赤十字マークを張り付けています。このマークを付けている意味は、他人にも救急物だとわかりやすいというのと、取ってもらうときに指示しやすいためです。まぁ、大したもの入って無いんですが・・・おまもりみたいなものですね。

ダンプポーチ

 ダンプポーチに入れる物は、語源の通り“dump”(ゴミ)になる物を始め、一時的に入れておきたい物や、地面に置きたくない物などを入れたりします。普段は畳んで小さくしているので、移動の邪魔になりません。
 現地で解体した肉もビニール袋などに入れてダンプポーチへ。真後ろに配置しているので、重い物を入れて歩くと尻を「ぺちぺち」と叩かれます。

新型猟友会ベストは…正直微妙

 余談ですが、旧型の猟友会ベストは背中側がでっかいダンプポーチになっており、銃カバーを入れたりと、すごく使い勝手の良いベストでした(破れやすかったですが)。
 しかし新型ベストはなぜかダンプポーチが廃止されており、前面にポケットが“左右対称”という造りになりました。
 リバーシブルデザイン(右手・左手利きどちらも使えるデザイン)にする意図があったのかもしれませんが。忍び猟用、渉猟用、大容量など、用途別にあると良いのになぁ~、と思っています。

音対策

 猟装はサバゲ―やミリタリーの装備と似たような部分もありますが、1つだけ大きく異なる点があります。それが“音”対策です。

忍び猟師は音に敏感

 音を立てないよう気を使い、ソロソロと忍びながら歩き・・・。
未だこちらに気づいていない獲物を発見し、「あとは撃つだけッ!」と思った最高のシチュエーションッ!

がッ!
そんな時に限って不意に“音”が出る!!

  • 銃床が服にあたる布ズレの音
  • 引っかかって開きそうになったマジックテープの音
  • 金属の負環がスレる音
  • ファスナーなどがぶつかって出る金属音

・・・などなど。
こういった音に反応して、獲物が猛ダッシュで逃げ去っていく。忍び猟では「あるある」のやらかしエピソードです。
 もちろんこれらには避けられないものもあります。しかし、対策できるものは対策しておいても良いかなと思います。・・・まぁ、見た目が悪くなったりもするんですが、猟果優先で泥臭くいきましょう。

衣類の防音対策

 まず、音の出る要因として気を付けたいポイントが衣類です。例えば猟友会ベストのようなナイロン系素材は、動くと「シャカシャカ」と音が出ます。巻き狩りだとあまり問題にならないのですが、忍び猟だと・・・。

衣擦れの音が出ないピーチスキン

 個人的にオススメするのがピーチスキンと呼ばれる布地です。これは、表面にモモの産毛のような微細な毛がついており、衣類のこすれる音が出にくくなっています。
 このピーチスキンは忍び猟に良いと思うのですが、専門的な服はあまり売られていません。私は代わりにフリース素材のものを着ることが多く、こちらもあまり音がしません。しかし・・・『くっ付きむし』が大量に付きます。

道具の防音対策

 忍び猟で特に気を付けておきたいのが金属音です。特にシカは金属がこすれる高音に反応しやすいため、なるべくこういった音が出ないようにする工夫が必要です。
 イノシシは夢中になっていると気づきにくいですが、気付かれてしまうと猛ダッシュで止まらないので、可能性は減らしておきたいです。

 具体的には、負環などの擦れて「カチャカチャ」鳴る部品を、ガムテープやビニールテープで止めるといった方法があります。マジックテープ部にガムテープを貼ったり、まったく使うことが無く閉まらなくても良いのであれば、火で炙るとくっつかなくなって音がしなくなります(炎上注意)。

マジックテープは着火剤にもなる

 余談ですが。ガムテープは色んな事に使えます。壊れたものを一時的に補修したり、マジックテープに張り付けて不用意にはがれないようにもできます。さらに、緊急時には着火剤になるので、ライターに巻いておく人も多いようです。

落とし物対策

 我々ハンターは、落とすとシャレにならないものも多いです。その最もたるが“実包”。落とし物で警察署に実包が届けられ、「銃所持者の管理帳簿を一斉調査!」なんてことになるかもしれません。
 所持許可証も落とすと全国手配になるそうなので、気を付けなくてはいけません。
 こういった落とし物を防ぐために、猟装では他のアウトドアウェア以上に落とし物対策が必須になります。 

ジッパーを過信するな!

 登山などのアウトドア用の服には、ポケットにジッパーがついています。しかしこのジッパーは過信してはいけません
 狩猟で歩く場所は舗装路とは異なり、ちょっとした枝や草なんかが生えていたり、茂っている場所を通過することもあります。時には少し滑ったり、転んでしまったり、ジッパーに枝やイバラが引っ掛かったりすることがよくあります。
 すると、ジッパーは「閉めやすく・開きやすい」ように造られているため、いつの間にか開いてポケットの中の物が落ちてしまっている、ということも少なくないのです。

 そこで、ジッパーはなるべく結ぶようにしましょう。上写真のようにジッパー同士を絡ませておくだけでも効果があります。

カラビナを使用する

 最近、私はジッパーに小さいカラビナを使用するようにしています。このカラビナをジッパーに引っかけておけば、滅多なことが無い限り開きません。なによりも「カラビナをかける」という行動により、締め忘れを防ぐ効果が大きいと思います。

カラビナをつけてても注意が必要

 ただし1つ注意点があり、カラビナはポーチの中身がしっかり入っていないと開いてしまいます。こんな風に↓。

滅多に開かないポーチは“開けにくくする”工夫を

 例えば、緊急医療キットや遭難時に必要な道具が入っているメディカルポーチは、普段開けることはありません。そのようなポーチにはカラビナよりも外れにくい、リピートタイプの結束バンドを付けておくことをオススメします。

滅多に使わない物は装備に組み込む

 私のメディカルポーチは、猟友さんから頂いたサバイバルブレスレットで留めています、小っちゃいファイアスターターと笛とパラコードで構成されています。

持ち物類

 所持許可証や実包以外の持ち歩く装備は狩猟スタイルによっても様々なので、一概に「これが必要!」とは言えません。しかし「備えあれば憂いなし」というのは、猟装における一つの真理です。

救急キットは必ず所持しておく

 例えば緊急医療キットにサバイバルキット。こういった物は「大げさだよ」と思われる人も多いかと思われますが、狩猟というのは他のアウトドアに比べてかなりシビアな世界です。
 もちろん、どれもこれも持っていくというのは、重量過剰で疲れてしまったり、荷造りの不備でバランスを崩してしまったりと、思わぬトラブルを招くこともあります。
 よって、不要な物を引いたり、ちょっとした工夫をして組み合わせてみたりと、試行錯誤をしてみましょう。こういった装備のカスタマイズもしていくのも、終わりのない楽しさだと思います。「シンデレラフィットが脳汁出る」ってやつですね。

装備の点検

 装備はできるかぎりマメに点検しましょう、その際に足すもの引くものなどを考えつつ、収まるようにしましょう。電池の切れたライトや、肝心な薬が入っていない救急キットなど、よくある光景です。私がいちばんやらかしているかもしれませんが・・・。
 ちょっとした楽しみにしてしまうのが一番点検するようになる方法かもしれませんね。

まとめ

  1. MOLLEシステムのバンダリアやベルトを利用して、機能的な猟装を組み立てよう
  2. 猟装がサバゲ―や他アウトドアと大きな違いは、音対策と落とし物対策
  3. 装備類はポーチに収納して管理しよう。定期的なメンテナンスも忘れずに!
  4. 猟装は人によって様々であり、たった一つの正解があるわけではない
  5. 装備はどんどん更新して、自分に合った物を見つけよう

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この記事を書いた人

りょう@東 良成のアバター りょう@東 良成 専業猟師・ライフルマン

三重県紀和町に住む専業猟師。年間200頭以上の獲物を捕獲しています。主に銃に関する知識や野生鳥獣被害について、Twitterで発信中 。

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