野生動物は人間の女性を見下す!?現役女猟師が体験した“屈辱”的な話

 狩猟における女性ならではの問題は、なにも体力的な話しばかりではありません。人間関係や使用する道具、山での「お花つみ」の件など、超えるべき壁は色々あります。そのような中でも、”狩猟特有”の女性の悩みと言えるのが、大型の野生動物にナメられやすいことです。そこで今回は、女性狩猟者と野生鳥獣の間に起こる様々な現象について、お話をしたいと思います。

目次

女性は動物になめられやすい?

 自然界では「大きいオス=強き存在=自分より上」、「小さいメス=弱き存在=自分より下」という認識があるようで、そのルールは人間にも適用される傾向があります。そのため、特にイノシシやシカといった大型動物は、女性、特に小柄な女性に対して挑発するような態度を見せることがあります。

イノシシは小柄な女性に向かって来ることが多い

 私は今まで数十頭ものイノシシと対峙してきましたが、イノシシは30kgを越えたぐらいから、体の小さい人や怖がっている人に対して、非常に攻撃的な面を見せることが多くなります。
 私がそのことに初めて気づいたのは狩猟を始めて半年たったころ。箱罠に105kgのイノシシが捕らえられたときでした。このとき現場にいたのは、大柄な男性、細身の男性、そして女性の私の3人だったのですが、イノシシは大柄な男性が近づくと後ずさりをし、細身の男性が来ると立ち止まるといった、明らかに『警戒』をする動きを見せていました。一方、私が少しでも近づこうとすると、今度は突進してきたり、歯をガチガチと鳴らしながら威嚇をしてきました。これは明らかに、イノシシが人間を「男性か、女性か」で判断しているとしか思えない行動でした。
 このような経験は一度だけではありません。その後も『男性と私』の組み合わせで色んなイノシシと対峙してきましたが、やはり同じように男性に対しては警戒心を高め、女性に対しては挑発するような行動をとるという傾向が認められました。

オスのシカも女性に向かってくることがある

 シカの場合は、基本的には人間から逃げるような行動を見せます。しかし、くくり罠にかかったオスジカの場合は、角の先端をこちらに向けながら威嚇をしてきます。相手が人間の男性であれば威嚇をしてくる程度なのですが、私のような小柄な女性に対しては突進してくることもあります。
 シカのことをほとんど知らない方にとっては、それほど怖い動物のように思われないかもしれませんが、オスジカの角は先端が鋭く研がれており、角に刺されて死亡した猟師さんもいらっしゃいます。
 突進されるリスクが高くなるということは、この角で大ケガをする危険性が高いということ。つまり、女性は野生動物から反撃を受けるリスクが男性よりも高いということなのです。

女性だと動物になつかれやすい!?

 ここまでで、女性は『野生動物からナメられやすい』というお話をしましたが、実を言うとその逆パターンもあります。不思議なことに、野生動物は女性に対してフレンドリーな表情を見せることもあるのです。それを裏付ける体験を2つご紹介しましょう。

エピソード1

 くくり罠にかかった、妊娠中の2歳くらいのメスジカを止め刺ししようとしたときのことです。このときメスジカは、男性が近づくと逃げていたのに、私が近づくと向こうから寄ってきたのです。試しに手を近づけると、私の手をペロペロと舐めるではありませんかっ!「お前は奈良のシカか?」と思わずツッコミをいれてしまいました。

エピソード2

 くくり罠にかかった小さなシカをトメサシしようとしたときのことです。成り行きで、大柄な男性と小柄な男性、そして私の3名で囲んでいたのですが、小ジカはなんと私の横に来てペタンと座り込み、こちらをじっと見つめてきました。「恐ろしい人間のオスから守ってくれるかも」とでも思ったのでしょうか・・・今でもそのつぶらな瞳が忘れられません。

 このように、動物も人間の体格と性別を見分けているのではないかというのが私の持論です。兎にも角にも、女性は男性にくらべて動物にナメられやすい、特にイノシシには襲われやすいということを心に留めておいてください。

箱罠からのスタートがオススメ

 上の写真は体重85kgぐらいのイノシシです。こんなイノシシに山でバッタリと出会ってしまった状況を考えてみてください・・・初心者が憮然とした態度で対峙するのは難しいのではないでしょうか?そこで、女性の初心者にオススメしたいのが罠猟、特に箱罠猟です。なお、「罠猟って何?」って方は、下記ページを合わせてご覧ください!

くくり罠は獲物が動き回るの超危険!

 基本的なくくり罠は、野生動物の足にワイヤーをくくりつけるタイプです。これによって獲物は逃れられなくなるわけですが、ワイヤーが伸びる範囲では自由に動きまわることができるため、決して獲物を完全に拘束できているわけではありません。よって止め刺しで近づくときに、うっかりワイヤーが伸びる範囲に入ってしまい、突進されたり噛みつかれたりする危険性があります。
 また、ワイヤーが伸びる範囲外であっても、突進してきた勢いでワイヤーが切れて、そのまま突っ込まれることもあります。実際にこの事故で、何人もの狩猟者が死傷しています。

箱罠は獲物の動きが限られているので安全性が高い

 その点、箱罠であれば、捕獲した獲物を頑丈な檻の中に閉じ込めることができるため、くくり罠に比べて危険性が低くなります(決して危険性が0になるわけではありません!)。
 このように、比較的安全性の高い箱わなですが、実はかなりのテクニックを必要とする猟具です。この箱わなに関するテクニックについては、また別の機会にお話しできればと思います。
 

箱罠にかかった獲物をじっくり観察する

箱罠に入ったイノシシ

 箱わなは安全性が高いだけでなく、野生動物が自分に対してどのような態度を取るのか、をじっくりと観察することもできます。例えば、同じイノシシでも性格やクセ、顔付きなどが全然違い、個体差がある点についてです。

獲物の観察は狩猟の知見を深める

「観察が何の役に立つのか?」と思われる方も多いと思いますが、このような知見を積み重ねることで、捕獲効率を上げたり、反撃を受けるリスクを下げたりすることができます。
 なぜなら、一般的な狩猟や鳥獣被害対策に関する書籍等では、「イノシシはこういった性格を持っており、こういった習性を持つ、だからこのように捕獲する・・・」といった固定観念しか載っていません。
 しかし実際の野生動物は個体差が非常に大きいため、その都度、過去の知識から対策を考えていかなければなりません。そして知識の引き出しを増やすためには、どうしてもリアルな獲物と対峙する経験が必要となるのです。

箱わな観察でわかった、イノシシの性格の違い

 余談ですが、私は箱罠に入ったイノシシで性格の個体差について試してみたことがあります。観察方法は単純に、箱わなに入った獲物に餌を与えてみて、その反応を観察します。すると面白いことに、怯えて何も食べない個体がいる一方で、口を開けて餌をねだるような行動をする個体もいました。
「同じ野生動物なのに、この違いはなぜ・・・?」。相手は動物なので答えは返ってきませんが、まちがいなく動物にも人間と同じような性格の違いがあるのだと感じました。

人間だけじゃない。イノシシの食わず嫌い

 さらにこの観察では、一度に色々なエサを与えてみて、その反応の違いもテストしてみました。餌の種類は、米糠やピーマン、トマト、ナス、じゃがいも、茹でたじゃがいも、落雁(お仏壇に飾ってある砂糖菓子)、栗饅頭などなど。
 これらを箱わなにかかったイノシシに与えてみたところ、「こんなもの食べれるかよっ」といった感じでピーマンだけを鼻息で吹き飛ばした個体や、ラムネ菓子をいったん口にしたあと「ペッ」と吐き出した個体。さらに、そのラムネ菓子を「あ~美味しいのにもったいない」といった感じで拾い食いする個体など、様々な反応が見られました。
人間に食べ物の好き嫌いがあるように、野生動物にも食べ物に好き嫌いがある、ということですね。

ガチで狩猟する女性ほど、銃を持つべき理由

 女性は野生動物になめられやすく、罠猟では反撃を受けるリスクが男性に比べて高くなります。それではこの問題に対して、どのような対策を練るべきなのでしょうか?結論から言いますと、女性狩猟者は可能な限り、銃を所持した方が良いということです。

銃の“威圧感”は野生動物に伝わる

 銃を構える人間を野生動物は恐れます。野生動物が『銃』という存在を理解しているはずはないので、おそらく銃を持つ人間から”威圧感”が放たれており、それを野生動物が直感で理解しているのだと思います。よって、銃を持つだけでも野生動物から反撃を受けるリスクを抑えることができます。
 また銃は、距離をとったり、木などの障害物に隠れながら獲物を狙うことができます。よって、例え獲物が突進してきたとしても、反撃を受けるリスクを極力減らすことができます。安全が確保された状態であれば、こちらの立ち振る舞いにも余裕が出るため、落ち着いて止め刺しができるというわけです。
 ちなみに、銃は空気銃(猪でも殺傷能力のあるもの)でも散弾銃でも問題ありません。散弾銃は敷居が高いと感じているのであれば、空気銃を持たれるのも良いかと思います。

『安全性』のために銃を持とう!

 女性が「狩猟をはじめたい」と周囲に告げたとき、「百歩譲って罠猟をするのはいいけど、銃猟をするのは反対!」と、親御さんや旦那さんに制止されるケースも多いようです。

しかし!世の親御さん&旦那さん!!

愛する娘 or 妻を大事に思うのであれば、

銃を持たせてあげてください!

 これまでにお話した通り、女性は野生動物から反撃を受けるリスクが男性よりも高くなります。なのに、その危険に対抗できる銃が無くては、危険性が増すだけなのです。狩猟は「銃があると危ない」ではありません。銃がないと危ないのです。これは多くの方に知ってもらいたい真実です。

銃の携帯には気をつけて

 女性が銃を持つうえで男性よりも注意しておかなければならない点として、「銃を奪われる危険性もある」ということを理解しておきましょう。男性であれば暴力に対して筋力で対抗できるかもしれませんが、女性の身としては対抗する術はありません・・・・相手を撃つわけにもいかないわけですし。
 私は山奥で暮らしていますので、狩猟中は人に出遭うことは稀です。しかし、射撃練習等で人が多いところに銃を持って出歩くときは、なるべく銃を持っていることを悟られないようにしたり、常に誰かと一緒に行動したりするなど、男性以上に気を付けています。
 もちろん『銃を奪われる』というリスクは女性特有の問題ではありませんが、銃の携帯時はより一層注意が必要だということを意識しておきましょう。

まとめ

  1.  大型野生動物は人間の女性を『弱い者』、または『優しい存在』として認識する傾向がある
  2.  初めての女性狩猟者は、箱わながオススメ。捕獲した獲物をじっくり観察してみよう
  3.  女性狩猟者の中には『銃の所持』を嫌がる人もいるが、安全性のために出来る限り所持した方が良い

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この記事を書いた人

Uri@山本 暁子のアバター Uri@山本 暁子 女性・副業猟師

鳥取県国府町在住の女猟師。昼は猟師の仕事、夜はITを駆使してリモートで仕事をしています。Twitter、Youtubeもやってます。

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