『進撃の野獣』第五話 ~射撃の技術編~

進撃の野獣第5話

 三重県の最西部、周囲を深い山並みに囲まれた町に住む『りょう』さんは、野生鳥獣を捕獲するベテランの職業猟師です。年間200頭もの獲物をライフル銃で捕獲するりょうさんは、いったいどのような射撃スタイルを持っているのでしょうか?

この記事の3つのポイント

  1.  捕獲する獲物や自分の『好きなスタイル』に合わせて銃を選ぶ

  2.  立射が多い場合は、立木を利用した依託射撃がオススメ

  3.  『銃の精度』と『自身の持つ精度』を確認し、『実際の猟場での答え合わせ』を繰り返して上達していこう


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Q1.どのような銃を使っていますか?

A1.ブローニングXボルトというライフル銃です

 私は12番と20番の上下二連式散弾銃も所持していますが、メインで使っているのはブローニング社のXボルト ステンレスストーカーと呼ばれるボルトアクションライフル銃です。

錆びに強く持ち運びしやすい銃です。

 この銃は、その名の通りステンレスで作られており、通常の銃の素材であるモリブデン鋼よりも錆びに強いといった特徴を持っています。私の狩猟スタイルは以前にもお話したように、山の中を歩き回る『忍び猟』がメインです。なので、少々雨が降っていても出猟できるように、この銃をセレクトしたというわけですね。
 またこの銃は軽量で持ち運びやすいといった特徴もあります。「ストーカー」という言葉は、日本語ではなんとも犯罪チックな響きがありますが、本来の意味は「追跡者」。「獲物を追跡するときでも扱いやすい」といった意味が込められています。
 それと、この銃はお値段も安めです。新銃なら14万~20万円。出回っている数は少ないですが、中古なら10万程度で買えます。Xボルトについては別の記事でも詳しく解説をしているので、興味のある方は是非ご覧ください。

弾は24口径を使用しています。
24口径 243win

 使用している弾は、243ウインチェスターと呼ばれる6mm(24口径)弾です。この弾は威力は低いですが、非常に良好な直進性を持っているため、あまり遠射はしない & 鹿捕獲がメインである私の狩猟スタイルにマッチしています。
 弾頭も軽量なタイプでリローディングしているので、「そんな弾で獲物が獲れるの?」ってよく尋ねられますが、100kgぐらいのイノシシを1発で倒したこともあります。もちろん、あたり所にもよりますが。
 24口径の弾については、別の記事で詳しく解説をしています。ご興味のある方はこちらも併せてご覧ください。

24口径ライフル
 私はTwitterなどから日々、色々なご質問をいただいているのですが、その中でも比較的多いのがライフル銃に関するご質問です。その理由のひとつに、私が使用している6mm(0.24インチ=24口径)とい ...
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銃の選び方は人それぞれ

 私は以上のような理由で銃と弾をチョイスしていますが、決してこれが「正解だ」と思っているわけではありません。ライフルマンによっては「高威力なライフルで、どこでもいいから命中させてしとめる」といったスタイルもあると思います。しかし私は「折角ライフル銃を使っているのだから、できれば正確に部位を狙ってしとめる射撃がしたい」と思い、Xボルトと243ウィンチェスターという組み合わせを使用しているというわけです。
・・・とかなんとか言っときながら、そのうちコロっと考えが変わって強力なライフルを扱うようになるかもしれません(笑)。でもそれはそれで、自分が考えた末に行き着いた結論ならば”良い”と思っています

Q2.銃をどのようにかまえていますか?

A2.木に銃を委託して撃つことが多いです

 一般的にライフル銃で狩猟をするときは、座った状態で構える座射や、伏せて銃を地面につける伏射など、体のブレが銃に伝わりにくスタイルでかまえます。しかし私の場合は立ったまま撃つ立射が一番多いです。座射や伏射をしない理由は、すぐ動けないことやダニが多いこと、また、倒木や草が多すぎて射線が通らないことが多いためです。
 ただし、射撃のときはできるだけ銃を委託するようにしています。これは依託射撃と呼ばれるスタイルで、普通に立って撃つよりもブレはかなり減ります。

依託射撃の方法

 委託射撃は生えている木の種類などによってやり方が変わります。例えば、広葉樹が多い地域では、木の股に銃身を預けたり、枝に乗せたりします。しかし、当地の場合は杉が多いため枝に乗せる委託射撃はほとんどできません。そこで、銃を木に横から押し付けるような姿勢で狙うことが多いです。

 そのさい、可能ならば銃の右側面を木の幹に押し付けます。私は右目でスコープを覗いたまま左目も開いて、両目で照準をつける射撃スタイルです。よって、銃の左側面を押し付けると左目の視界が木に隠れるため、周囲の確認がしにくくなります。対して、銃の右側面を押し付けると左目の視界が確保できるので、周囲を観察しやすくなります。

Q3.射撃の腕をあげるために、どんな練習をしたらよいですか?

A3.まずは自分の得意な射撃スタイルを知っておきましょう

 銃の撃ち方は人それぞれなので、練習方法も人それぞれだと思います。しかし、こう言い切ってしまっては元も子もないので、私の所見も含めながらお話をしたいと思います。

あなたの体はAタイプ?Bタイプ?

 私、中学校の1年間だけ野球部に入っていました。そこでよく、バットを振るときに「脇を締めろ!」って注意されていたんですよね。ただ、私はこれが嫌で嫌で・・・どうしても体が『窮屈』な感じがしてやりづらかったんです。なので、アドバイスを忘れたフリをして脇を開いて打ってました(笑)
 さて、そんな折に、スポーツ医学専門の先生から『人間の筋肉の造りには、大きく2つのタイプがある』という話しを聞きました。それぞれのタイプを要約すると、次のような違いがあるそうです。

AタイプBタイプ
つり革の持ち方指先で握るガッツリ握る
うちわのあおぎ方手首であおぐ肘をゆすってあおぐ
ビールの飲み方脇を締めて手首を使って飲む脇をあけて肘ごと上げて飲む

 ここからは私見なのですが、おそらくAタイプに属する人は『身体を閉じ気味にする』のが向いており、手首や指先を柔らかく使って自然(アナログ的)な動きができる人なのだと思います。
  対してBタイプの人は、『身体を開き気味にする』のが向いており、肘を張ることで手首のブレを抑えることができるので、機械的(デジタル的)な素早い動きを得意としているのではないかと思います。

Aタイプは動的射撃、Bタイプは静的射撃向き?

 この考えかたを仮に”正しい”としてお話すると、射撃スタイルにも得意と不得意が出来ると思います。まず、自然な動きが得意なAタイプの人は、照準と標的の動きを追従させて撃つスタイルが向いていると思われます。つまり、標的が動き回るクレー射撃のような動的射撃が得意な人はAタイプが多いのではないでしょうか?対して、制限時間内に的に向かって正確に撃たないといけない静的射撃はBタイプの人が得意なのではないかと思われます。

射撃の練習は自分の”得意”を見つけるのが先。

 そこで私が思うに、まずはあなた自身が『どちらの射撃スタイルが得意か?』をよく知っておくことが一番だと思います。人間には必ず得意・不得意があります。そして、不得意なこと(嫌いなこと)を克服するよりも、得意なこと(好きなこと)を伸ばしていく方が、成長は格段に後者の方が早くなります。そこから、自分の得意なスタイルの銃を選んだり、射撃スタイルを確立して行ったりと、自分に合った射撃スタイルの練習を進めていくのが良いのではないかと思っています。
 動的射撃を得意とするAタイプと、静的射撃を得意とするBタイプの練習方法なのですが・・・申し訳ございません。私自身はBタイプの人間なので、Aタイプの練習についてお話することはできません。いつかAタイプの練習方法を知る機会があれば、皆さんと共有させていただきますね。

銃の精密性を調べておきましょう。

 さて、Bタイプの人の練習方法ですが、まずは銃の精度を知っておきましょう。精度の調べ方は、射撃場でベンチレストと呼ばれる台に銃を固定して、的に向かって何発か発射してみます。すると、的の弾痕に広がりができるので、「このぐらい距離が離れていたら、これだけ弾はばらけるんだなぁ」と覚えておきます。ココで調べるのはあくまでも目安なので、「集弾率が何パーセントだ~」といった細かいことを調べておく必要はありません。

状況ごとに狙う場所を決めておきましょう。

 次に、あなたが主に狙いたい獲物を考えてみて、頭や首、肺、心臓の大まかな位置と大きさを調べておきましょう。そして、テストした弾痕の集まり具合や、弾の威力などを考慮して、状況ごとに狙う場所を決めます。
 例えば、「このぐらい距離が離れたら首を狙った方が、当たる確率が高いな」とか、「獲物がこの角度でいた場合は、心臓を狙った方が当たる確率が高いな」、また「自分の使っている銃は威力が強いから、この距離で撃つなら肺を狙おう」といった具合です。

狙う場所の決定は『期待値』で考えましょう。

 ここで重要なのは、どこを狙うかは期待値で考えることです。よく「撃つときは獲物の頭部や心臓を狙う」といわれていますが、それは”確かにその通り”です。しかし実際の狩猟では、そのような理想的な射撃が行えることはそうそうありません
 当然のことながら、『山の中で急に出会った獲物を撃つとき』と『射撃場で止まった的を撃つとき』の射撃は、精度がまるで違います。そのため狩猟では無理やり獲物の頭や心臓といったポイントを狙うのではなく、距離に対して『もっとも当たる&倒せる期待値が高い』ところを狙うことが重要になります。もちろん、山の中でいちいち計算じみたことをする余裕はないので、あらかじめ射撃場でイメージしておくことが大事というわけですね。

自分自身の精度も調べておきましょう。
練習射撃

 少し余談ですが、教習射撃で使う22口径のロングライフル銃(スポーツ用ライフル銃)という銃は、弾速が遅いのでスコープ越しに見ていると弾が飛んで行く方向が見えます。この銃を使ってしばらく射撃をしていると、撃った直後に『飛んで行く弾のズレ』が『なぜ起こったのか』が次第にわかってくるようになります
 例えば、狙った点よりも少し右下に飛んで行ったときは「あ、今、少し引きブレを起こしていたな」とか、左にズレた場合は「今、撃つ瞬間に体が左に動いていたな」、上にズレた場合は「今のは脈動の動きと合っていなかったな」・・・といった具合です。

 このように『ズレの理由』が明確になってくると、自分自身の持つ射撃の精度がわかるようになってきます。もちろん射撃では、まったく誤差が出ないように練習することも重要です。しかしながら、銃の精度はどのような状況でも常に変わりませんが、人間の精度はその日の体調や精神状態によって大きな差が生まれます。つまり、射撃の誤差には『銃の精度』という固定値に加え、『射手の精度』という変動値が加わってくるというわけです。
 よって射撃練習では、自身の持つ最も良いコンディション時の誤差の精度を計っておきましょう。そして、自身の誤差の精度がどのような場合に広がっていくのかについては、繰り返し猟場に出ることでその傾向を掴むようにしましょう。

Q4.実際に射撃をするうえで重要なことは何ですか?

A4.緊張と弛緩です。

 上の写真は私が知らないうちに撮られた写真なのですが、腕が凄く脱力しているのがおわかりいただけるかと思います。このとき私は獲物を探すことに集中していたのですが、体は凄くリラックスしています。これが私の思う射撃における需要なポイント、『緊張と弛緩』です。

適度な緊張・適度な弛緩

 この『緊張と弛緩』とは、獲物の発見から引き金を引くプロセスに至るまでの精神の流れ方です。まず獲物を探すときは、視力や聴力、ときには風に乗って運ばれてくる臭いなどの感覚に神経を集中させます。そして、獲物を見つけたら緊張の糸を徐々に解きほぐしていき銃を構えます。そして完全にリラックスした状態で引き金を絞り、激発の瞬間は「なにも考えない」。

山にこだまする銃声・・・

ぱたりと倒れる獣・・・

そして無我の境地・・・。

う~ん、これぞ理想的な射撃!・・・って、毎回こうなら格好もつくんですが、そうはならないのが私です(笑)。
 話をまとめますと、射撃において重要なことは、獲物を見つけるまでは緊張し、獲物を見つけた後は弛緩(リラックス)をして撃つということです。

緊張と弛緩は気分的な要素も強いです。

 これは決して射撃に限った話ではありません。例えばプロゴルファーは、構えるまでは極度に集中して緊張状態ですが、ボールにクラブが命中するインパクトの瞬間は体の力が抜けきってリラックス状態なのだそうです。
 もちろん、獲物との出会いはいつも突然なので「緊張するな」というのも難しいことです。なので、場数を踏むことはとにもかくにも重要です。
 また、撃つ瞬間に「絶対にしとめてやる!」と力むのではなく、「まぁ、当たれば儲けものか」と気楽に構えるのも大事です。外したときに「くそ~!悔しい!!」と感情をあらわにすると、「スコープがズレているのでは?」や「何か致命的な悪いクセが付いたのでは?」といった疑心暗鬼が沸き起こり、次回以降の射撃で精神が緊張しやすくなります。なので、「今回は外したけど、また今度がんばろう~」程度の軽いノリで考えましょう。

Q5.射撃の後に気を付ける事ってありますか?

A5.自分と獲物の状態に気をつけてます。

 発砲して獲物が崩れ落ちる瞬間を見ると『ハンターズハイ』といいますか、妙に気分が高揚します。しかしこのとき気持ちをグッと引き締め直して、獲物の様子を見るようにしましょう。
 撃たれた獲物は倒れたとしても、半矢で生きていることもよくあります。このとき、おそらくアドレナリンがあふれているのか、獣は致命傷であるにもかかわらず非常に狂暴になります。実際に私も逆襲にあったことがありますが、怒れる獣はとても恐ろしい!なので、倒れた獲物に近づくときは油断しないようにしましょう。

射撃時の復習をしっかりしておきましょう。

 獲物の息の根が完全に止まっていることを確認したら、「やったぜ!自撮りしよ~っと」・・・の前に!射撃の復習を行いましょう。狙った場所と命中した場所はどのくらいズレていたでしょうか?射撃時の姿勢は理想的だったでしょうか?
 そして、射撃の結果と自分の体力的・精神的なコンディションを紐づけしましょう。例えば、着弾点が狙った点よりも誤差範囲に収まっていれば「普通のコンディションだな」と判断できますし、大きく外れていたら「う~ん、今日は疲れているのかな?」と判断できます。狙った地点にドンピシャなら「今日は絶好調!」と喜べます。
 この『原因』と『結果』の紐づけは、射撃を行う上でも特に重要です。もし射撃の結果に原因を考えないと、外れても「なぜ外れたのか」が悩みになります、もし当たったとしても「なぜ今回は当たったのか」が悩みになってきます。そして、悩みが大きくなり、自信が失われると射撃が当たらなくなるスランプに陥りやすくなります。
 射撃の結果に対する原因は、初めは”あやふやなもの”で構いません。長く射撃の経験を積んでいくと、ある一定の規則性が見つかってきます。そうなると、「当たった・外した」の原因が理解できてくるようになるので、射撃の腕は加速度的に向上していくはずです。

勇気をもって『撃たない』という選択も大事です。

 撃つ話ばかり書いていますが、狩猟では『撃たない』という選択も非常に重要です。人は思っている以上に、疲れていると集中力が低下します。こんなときはどんなに撃っても当たりません・・・もちろん体力万全のときに外すこともありますけどね。外れても泣かないように気をつけてます。
 射撃を外すだけならまだ良いですが、万が一「獲物だ」と思った相手が・・・「!!」といった危険性もあります。引き金を引いた後は気をつけようがありません。安全第一、獲物は二の次です。

編集後記

『進撃の野獣』第五話、いかがだったでしょうか?「なぜ、撃ってもはずれるのだろう?」は銃猟における誰しもが持つ悩みです。このとき、闇雲にスコープをいじったり、弾を変えてみたりするのではなく、まずは『銃の精度を知る』、『自身の精度を知る』、そして『実猟で答え合わせを繰り返す』の3つを行うようにするのが早道だと言えます。

それでは次回、ご期待ください。


Author情報

「自称職業猟師」 この胡散臭いのが警察で問い合わせてもらった自分の肩書きです。 専業猟師、プロハンター、プロ猟師。 色々な呼び方されますが、猟を生業としてメシ食ってます。 ライフル243win、上下二連12番、上下二連20番。 現在三丁でやっております。 罠もあるけどあまり好みじゃない。
Twitter:りょう@ハンター



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