日本では「散弾銃を10年以上所持しないと、ライフル銃を持てない」というルールがあるため、かつては1年目からでも所持できるハーフライフル銃を選ぶ人が多くいました。しかし、このハーフライフル銃、そして2024年3月に銃刀法の規制強化によって生まれた「ごぶんのいちライフル銃」は、世界的に見ても非常ナンセンスな銃です。今回は、なぜこのような銃が日本で誕生したのか、そして今後どのように変化していくのかについて解説します。
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- ハーフライフル銃の元になったのは、銃身にライフリングを持つ『ライフルドショットガン』
- ハーフライフル銃は、日本の銃規制に合わせて、ライフルドショットガンのライフリングを削り取られた銃
- 2023年3月に、ハーフライフル銃は「ライフル銃」となり、代わりに「ごぶんのいちライフル銃」が誕生した
- 「ごぶんのいちライフル銃」の精度は、少なくともハーフライフル銃以下。今後の精度向上も、あまり期待できない
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ライフルドショットガンとは?

通称「ハーフライフル銃」と呼ばれるこの銃は、日本の法律上の正式名称を「散弾銃およびライフル銃以外の猟銃」といいます。すでに名前からして特殊ですが、一体どういった銃なのでしょうか?
ハーフライフル銃の元となる『ライフルドショットガン』
まず、ハーフライフル銃の元となっているのは、海外でライフルドショットガンと呼ばれる銃です。このライフルドショットガンは、銃身にライフル銃と同じ螺旋状の溝(ライフリング)が掘られており、サボットと呼ばれる特殊なケースに弾頭を詰めて発射します。
サボットを弾頭ごと回転させて撃ち出す

発射されたサボットは、銃身内のライフリングに噛み合いながら進むことで回転が加えられます。サボットが回転すると中身の弾頭も同じく回転するため、射出後にサボットから分離した弾頭は、ライフル弾のように回転しながら滑空していきます。
弾頭を自由に選択できる
ライフルドショットガンのメリットには、「弾頭を自由に選べる」ことが挙げられます。ライフル弾の場合、発射できる弾頭はライフル薬莢の口径に合うサイズでなければなりません。しかし、ライフルドショットガンは、サボットの中に入るサイズなら〝どんな物でも回転させて発射する〟ことができます。

ライフルドショットガンで射出できる弾頭の一例に、プラムバタがあります。この弾頭は、通常のドングリ型(プリチェット型)とは違い「槍」のような形状をしており、これを回転させることで高い精密性を持たせることができます。
余談ですが、サボットと槍状の弾頭は、装弾筒付翼安定徹甲弾:APFSDS(Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot)という、最新の戦車砲弾にも採用されています。
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ハーフライフル銃はライフルドショットガンの〝改造銃〟

ここまでの話だと、ライフルドショットガンは『ライフル銃と同じ』と思われるかもしれません。しかし、ライフルドショットガンは、散弾薬莢(ショットガンシェル)を装填できるため、分類上ではまぎれもなく「散弾銃」です。それでは、なぜ日本では「ライフルドショットガン」と呼ばれずに「ハーフライフル銃」といった名前で呼ばれているのでしょうか?
「10年縛り」を回避するためにライフリングを削った

日本でライフルドショットガンが流通していない理由は、「ライフル銃の扱いになるため」です。日本では法律上「ライフリングを持つ猟銃はライフル銃」と定義されています。そのため、散弾銃であるはずのライフルドショットガンも、国内ではライフル銃の扱いとなり、〝10年縛り〟の規制に引っかかってしまいます。
そこで、ライフルドショットガンのライフリングを半分未満に削り、「これはライフル銃ではない銃です」という〝言い逃れ〟をするために誕生したのが、ハーフライフル銃というわけです。
「10年縛り」はなぜ生まれたのか?

ここまでの話で、「ハーフライフル銃」は「ライフルドショットガン」という銃から〝ライフリングを削って改造された銃〟であり、ライフリングを削る理由は「ライフル銃10年縛り」という日本独自の規制を回避するためだと説明しました。しかし、そもそもの話。なぜ日本には「ライフル銃10年縛り」というルールがあるのでしょうか?
10年縛りが生まれたのは1971年の銃刀法改正
ライフル銃の所持規制強化は、1971年(昭和46年)の銃刀法改正から行われました。当時、日本では1965年「少年ライフル魔事件」や1970年「瀬戸内海シージャック事件」などで『狩猟用に許可されたライフル銃』が事件に多く使われたため、猟銃規制の風潮が高まっていました。
この流れを受けて、当時の国会では「ライフル銃はすべて警察署預りにするべき!」や「民間人に猟銃を持たせるのは、全面禁止にすべき!」といった強硬策が出されました。
しかし、最終的には大日本猟友会が先頭に立って行政と激論を交わし、「ライフル銃を所持するためには、ライフル銃以外の猟銃を10年以上所持し続けなければならない」という折衷案に落ち着いたのでした。
なぜ「10年」?その理由は…
余談になりますが、なぜ、ライフル銃を所持できるまでの期間が「10年」なのか。さらに言うと、なぜ「使用実績」ではなく「所持歴」が10年なのかについては、当初から疑問視されていたそうです。
これはあくまでも噂レベルの話ですが、当時の猟友会のお偉いさんが行政官の前で、「10年ぐらい銃を持ってたら、犯罪に使うことはないんじゃないの?」と〝適当な発言〟をしたことが原因……なのだとか。もちろん、その真相は定かではありません。
それでも、研究が実ったハーフライフル銃

ハーフライフル銃は、日本の規制に無理やり合わせるために改造された銃なので、元のライフルドショットガンに比べて精度は良くありません。しかしそれでも、50年以上にわたる日本の狩猟者や射撃愛好家の努力により、広大な北海道の猟場でも実用可能な銃へと改良されてきました。
ところが2024年3月。これら先人たちの地道な研究と改良の成果を覆すような、とんでもない規制が導入されました。
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大改悪されたライフル銃の所持規制

2023年に長野で発生した「中野市4人殺害事件」を受けて、2024年3月からハーフライフル銃を対象とした規制強化が行われました。この規制強化により、ライフル銃の要件は「銃身の1/2以上」から「1/5以上」に変更となり、従来のハーフライフル銃は「ライフル銃」として扱われるようになりました。
精度を落としまくった、可哀そうな「ごぶんのいちライフル銃」
今回の規制では、ライフリングが「五分の一未満」のライフルドショットガンは、散弾銃と同じ要件で所持することができます。仮に、この銃を「ごぶんのいちライフル銃」と名付けた場合、この銃は、『高精度を誇るライフルドショットガン』の精度を落とした『ハーフライフル銃』の精度をさらに落とした『ごぶんのいちライフル銃』という、なんともみすぼらしい物になります。
迷走しまくりの銃行政
この規制は、合理性が欠けていると言わざるを得ません。本来、ライフル銃を必要とする狩猟者は、広大な北海道のような猟場において、精密な射撃を求められる状況に対応するためのものです。それにもかかわらず、精度を意図的に低下させた銃の使用を強いることは、狩猟の本質から大きく逸脱しており、到底納得できるものではありません。
〝切れない包丁〟を持たせようとする毒親

この話を例えると、「包丁は危ないから!」という理由で「切れ味の悪い包丁」を手渡す毒親のような行動です。
このような「本質を捉え損ねた規制強化」は、さまざまな分野で見受けられる現象ではあります。しかしながら、狩猟業界全体が、この問題の本質を認識できていないという点は、非常に憂慮すべき事態です。
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必要なのは『必要な人』にライフルを所持させること
今回の規制の〝妥当な案〟(そもそも、なぜ事件のケジメを『銃の規制』でとらないといけないのか意味不明ですが)は、「ライフルドショットガン(ハーフライフル銃を含む)の全面的な所持禁止」を導入するべきだったと思います。その代替として、『鳥獣対策などで真にライフル銃が必要な狩猟者が、1年目からでもライフル銃を所持しやすくする』という規制緩和を行うことだったと思います。
ハーフライフルは廃止し、ライフル規制を見直すべき
そもそもハーフライフル銃は、昭和の時代にライフル銃による凶悪犯罪を抑制するために導入されたという経緯があります。現代において、クマなどの大型獣への対策として、より〝高精度の銃が必要とされている現状〟を踏まえれば、ハーフライフル自体を廃止し、ライフル銃を必要とする人々がより容易に所持できるような制度に見直すことが、より合理的な解決策ではないでしょうか。
「ごぶんのいちライフル」の精度は少なくとも〝良くはない〟

この記事を書いている2025年3月の時点では、「ごぶんのいちライフル銃」に関する情報は出ていません。しかし、とある関係者から、「ごぶんのいちライフル銃を試作して実射したところ、精度はとんでもなく悪かったと」いう話を耳にしました。
もちろん、過去のハーフライフル銃のように、研究開発が進めば「ごぶんのいちライフル銃」でもある程度の精度は実現できる可能性があります。しかし、近年の火薬代の高騰や、意味不明な銃規制により狩猟者・射撃愛好家の意欲が削がれ、研究が停滞する可能性も否定できません。
まとめ
- ハーフライフル銃の元になったのは、銃身にライフリングを持つ『ライフルドショットガン』
- ハーフライフル銃は、日本の銃規制に合わせて、ライフルドショットガンのライフリングを削り取った改造銃
- 2023年3月に、ハーフライフル銃は「ライフル銃」となり、代わりに〝魔改造〟された「ごぶんのいちライフル銃」が誕生した
- 「ごぶんのいちライフル銃」の精度は、少なくともハーフライフル銃以下。今後の精度向上も、あまり期待できない
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