狩猟で獲物から得られる猟果はジビエだけではありません。毛皮や羽、角、骨といった 狩猟マテリアル (工芸素材)もまた、狩猟における貴重な山の恵みです。しかし多くのハンターは狩猟マテリアルの”需要”を知らないため、捨ててしまっているのが現状です。
そこで今回は『鹿のトロフィーアート展』から得られた知見をもとに、狩猟マテリアルの中でも代表的な存在である鹿のスカルをどのように売っていけばいいのか、見ていきましょう。
アーティストから見た”スカル”の魅力
去る2019年4月1日、東京日本橋の『egoアートギャラリー』で、鹿のスカルを用いたアート展が開催されました。この鹿のトロフィーアート展には、イラストレーターを始め、映像作家、ジュエリーデザイナー、造形技師、はたまた歌舞伎のメイクアップアーティストといった、様々なジャンルのアーティストが、総勢27名参加していました
作品テーマで多かったのが『死と再生』
取材した日は丁度、アーティストさんたちが集まるコンベンションだったので「作品をどのようなイメージで作ったのか」を伺ってみました。そのなかで最も多く聞かれたのが『死と再生』というテーマです。
もちろんテーマの表現方法はアーティストさんによってまったく違うのですが、インスピレーションとして共通していたのが「頭蓋骨の不気味さと角の躍動感が、万物の二面性や”輪廻”をイメージさせる」という意見でした。
スカルをどうやって販売するか?
さて、今回のイベントには、僕も鹿スカルを提供する側でお手伝をさせていただきました。これまでスカル自体はいくつも作ってきましたが、実際に値段を付けて販売をしたのは初めてでした。
そこで、この経験で得られた知見を踏まえ、鹿スカルをどのように販売すればよいか、考えていきましょう。
鹿スカルの相場は 1万円台中盤 ~2万円台
鹿スカルは合計8種類をメルカリに出品し、価格はアーティスト展への”提供”が目的だったため、利益は考えず3,000円~6,000円としていました。これらのスカルはすぐに完売したので確認のためメルカリの鹿スカルに関する取引履歴を見ると、1万円台中盤から2万円台が現在の鹿スカルの相場だったようです。
送料の負担をどうするか、事前に決めておく
鹿スカルを販売するうえで気をつけておかなければならないのが、送料の扱いです。角の小さなスカルであれば、普通のダンボールで十分ですが、角が立派なスカルは角の先まで梱包しなければ、運送会社は取り扱ってくれません。
なので、鹿スカルは送料が高くなるため、あらかじめお客さんと「送料は売り手持ちか、お客さん持ちか」を決めておきましょう。
スカルの養生は、鼻先と角先
鹿スカルは鼻先の骨が弱いので、プチプチシートなどを巻いて養生しましょう。また、角の先は鋭いので、輸送中にダンボールを突き破って他の配送物を傷つけないように、ダンボールなどの切れ端を巻いておきましょう。
鹿スカルを高く売るためにはどうすればよいか?
僕たちハンターは、『鹿スカルは角が立派で、色が白くないと商品価値がない』と思いがちですが、実を言うと、それはまったく違います。
アート展でインタビューをしてわかったことなのですが、アーティストさんたちはスカルの傷や汚れ、いびつな角の形などを”個性”と考え、そこからインスピレーションを得ているとのことでした
つまりスカルは、傷が入っていようが、角が小さかろうが、商品としての需要は変わらないということです。言い換えると『角が大きいから値段を高くする』というのは、ハンター側(売り手側)の価値観を押し付けているだけだといえます。
情報提供が、鹿スカルの価値を高める
スカルを高く売りたいのであれば、なによりも『情報を提供すること』が重要です。例えば、メルカリでスカルを出品するときに「これはシカのスカルです」や、「このスカルの角は立派です」という説明だけでは、販売はうまくいきません。なぜなら、鹿のスカルを買いたがっている人は極稀ですし、そのような人は他の場所で別のスカルを比較します。よってライバルに勝つためには値段を下げるしかなく、結果的に「手間がかかるわりには儲けが無いから、売るのをやめた」となります。
「シカのスカルが何に使えるのか」、価値を伝える
そこで、スカルを出品するときは「これは画材としてのスカルです」や、「家族を守るタリスマン(魔除け)です」、「結婚披露宴のウェルカムボードに最適です」といった、コピーを付けましょう。
世の中には、鹿のスカルを欲しがっている人は稀ですが、作品のキャンパスを探している人は大勢います。そのような人たちに「鹿のスカルは画材として『死と再生』というテーマを持っている」という情報を提供することで、鹿のスカルに付加価値をつけることができます。
シカスカルの「価値」の例
同様に、家庭のインテリアを探している人に対して「西洋では鹿のスカルが子供を病魔から守るお守り」という情報を。お店のインテリアを探している人に対して、「古来から日本では、鹿の角は稲穂(富)を象徴するものだった」という情報を。結婚披露宴の飾りつけを探している人に対して、「鹿のスカルには”再出発”を意味するオブジェクト」という情報を伝えるとよいでしょう。
狩猟マテリアルは、”ドラマ”を提案できてこそ意味がある。
鹿のスカルに限らず、狩猟マテリアルは、お客さんの『インスピレーションを刺激する』ところに、商品としての価値があるといえます。
狩猟で得られるマテリアルが工場生産のマテリアルと違うのは、ひとつひとつに”ドラマ”があることです。このドラマは、それを捕獲した狩猟者しか知りえないことなので、情報提供は狩猟者自身が行わなければなりません。
よって出品するさいは、欠損した理由(例えば「ここに弾丸が命中したから」)や、処理方法(埋設か?茹で上げか?ムシに食わせたか?)、できれば獲物の年齢や、捕獲した場所、最期をどのように見取ったか、といったストーリーも提供しましょう。
作例『太陽と月』
余談ですが、アート展には妻の『あとねなおこ』も出展したのですが、彼女はオスジカのスカルには太陽をイメージした彩色、メスジカには月をイメージした彩色を施しました。
この作品のインスピレーションになったのは、僕が彼女にした「この2匹は同じ群れにいた”つがい”だった」という話です。この話から彼女は、夫婦を連想させる『太陽と月』というテーマを得たのでした。これも狩猟者がアーティストに対して、価値を提供した一例だといえるのではないでしょうか。
しっかし・・・うちの奥さんはビーズ一粒ずつ張り付けるという気が遠くなるような作業を続けてましたが、まぁ~ようやりますわ。
こんな細かい作業、僕は絶対にマネできません。
まとめ
- 鹿スカルはアーティストに、『死と再生』というインスピレーションを与える
- 鹿スカル相場は1万円台中盤から2万円。送料が高くつく点に注意
- 狩猟マテリアルは情報提供で付加価値を付ける。その情報を発信できるのは、その獲物を獲ったハンター自身