ジビエ処理施設は未来に残された大負債!? 僕が『エミュー牧場』の必要性を感じているワケ。

 近年全国に増えている『ジビエ処理施設』。ジビエの生産販売は獣害が深刻化している地方の“新しい産業”として注目を集めていますが、ちょっと待ってください!そんなに処理施設を作って将来的にやっていける見込みはあるのでしょうか?
 今回は現在のジビエ経営の問題点と『エミュー牧場』がそれを解決する一つの答えになるのではないか?という提案についてお話をさせていただきます。

目次

ジビエ処理施設とは何か?

 イノシシやシカを解体して食肉に加工するジビエ処理施設が、現在、すごいスピードで全国的に増えています。それでは、そもそも「ジビエ処理施設」とはいったいどのような施設なのでしょうか?

畜産物と野生肉の違い

家畜は衛生基準がしっかりした『と畜場』を通して食肉加工される

 ウシやブタなどの家畜(獣畜)を食肉に処理するときは、『と畜場法』と呼ばれる法律で整備された『と畜場』で屠殺しないといけない決まりになっています。この『と畜場』には『と畜検査員』と呼ばれる獣医師免許を持った専門家がおり、家畜の生体前チェックや屠畜後の内臓チェックなどで厳密な衛生管理が行われています。

ジビエは家畜ではないので『と畜場』を通せない

 一方、イノシシやシカなどの野生獣は「家畜」ではないため、この『と畜場』に搬入して検査を受けることはできません。つまり、『と畜検査員』という専門家に診てもらうことができないため、野生獣の肉(ジビエ)は寄生虫や病原菌に感染しているという衛生上のリスクが高くなります。

ジビエの衛生基準を定めた厚生労働省の『ガイドライン』

 この『ジビエの衛生問題』を解決するために、2014年に厚生労働省が作成したのが、野生鳥獣肉の衛生管理に係る指針(ガイドライン)です。このガイドラインにもとづいて設立された施設はジビエ処理施設と呼ばれており、ここで生産されたジビエは「衛生的な食肉」として合法的(※食品衛生法)に流通させることができます。

全国で増加するジビエ処理施設

「日本の田舎にあるのは豊かな自然と獣害だ」と言われるように、現在日本全国でイノシシやシカなどによる獣害被害が激増しています。この問題に重きを置いた農林水産省は『ジビエ利活用』を大きく後押しするようになり、全国でジビエ処理施設が盛んに建設されるようになりました。
 農林水産省の報告によると、令和2年度時点で全国には706件のジビエ処理施設があるとされており、さらに年間70件というペースで増え続けています。しかし、このジビエ処理施設が増加する流れは、捕獲した野生鳥獣の有効活用や地方活性化などの良い面がある一方で、大きな問題も含んでいます

獲物が獲れなくなったら、その施設どうすんの!?

畜産物とジビエの大きな違いは衛生管理だけでなく、資源が不安定という点もあります。この問題についてジビエ処理施設の事業者は今のうちに対策を練っておかないと、将来的に恐ろしいほど非情な“ハシゴ外し”が待ち構えているかもしれません。

ジビエの生産量は、確実に先細り

 野生鳥獣保護管理の理念は害獣の『撲滅』ではありません。イメージとしては上のグラフのように、増えすぎた野生鳥獣を捕獲によって減らし、減りすぎたら保護を行うという、個体数管理を目的としています。これはすなわち、ジビエとして利用できる野生鳥獣の数(資源)は、今後確実に減っていくことを意味しています。

ジビエの資源は“宿命的に不安定”である

 ジビエの資源となる野生動物の量が減るのは、何も遠い未来の話ではありません。例えば野生動物は、市町村や集落レベルで増減を繰り返しているので、「ある年100頭の獲物が獲れた地区で、今年は1頭も獲れない」ということも起こりえます。また、昨今問題となっている豚熱のような感染症の蔓延で、野生動物は居るけど『捕獲した屠体の食肉利用不可』とされるケースもあります。
 ブタやウシのような畜産物であれば、人間が飼育の量をコントロールすることで毎年決まった量の食肉を生産できます。しかしジビエの場合、野生動物は人間がコントロールできる存在ではありません。すなわちジビエは、資源の量が不安定という宿命的欠点を持っていると言えるのです。

増えすぎたジビエ処理施設、未来のこと考えてるの?

 趣味で狩猟を行うのであれば、獲物の増減は仕方がないことだと言えます。歴史的に見ても野生鳥獣が多い時期と少ない時期はありましたし、それでも狩猟という文化が現在でも残っているのは、狩猟にそれだけの魅力があるということです。

平均6,000万円の負債を不安定なジビエ産業で返せるのか?

 しかし、大問題なのはジビエ処理施設の事業者です。ジビエ処理施設は1カ所建設するのに最低でも300万円、場所によっては3,000万円から1億円という巨大資本が投入されています。この資本を回収するためには、とにかくジビエを生産し続けるしかありません。しかし先に述べたとおり、現在の野生鳥獣保護管理の政策は『野生動物を減らすこと』が前提なので、野生鳥獣の捕獲が規制される日は必ず訪れます。
「そんな“はしご外し”みたいなことを日本政府がするわけないじゃん。」と思ったそこのあなた・・・やりますよ、日本政府は!戦前の南米移民しかり満州政策しかり、歴史的に見て日本政府は幾度となく“はしご外し”を行ってきています。それにより多くの人生が狂わされてきているのです。

増やすのがダメなんじゃなくて、代替案が必要だ

 しかしだからといって、「これ以上ジビエ処理施設を増やすのは止めよう!」と言っているわけではありません。実際に現在は鳥獣被害で困っている自治体は多いわけですし、ジビエが田舎の貴重な生産物になっているのも事実です。
 ただ、僕が言いたいのは、ジビエ処理施設の事業者は生殺与奪を“お上”に握られないように、代替案を考えておく必要がある、ということです。

エミュー牧場がジビエ処理施設を救う?

 さて、ここからが本題。先述の通り、現在日本各地で増加しているジビエ処理施設は、いつの日か『田舎に残された莫大な負債』になるのが目に見えています。そこで、僕がこの問題に対して解決案になると見込んでいるのが、エミュー牧場です。

エミュー、おまえはジビエだった。

 日本の法律においてエミューは畜産物(畜獣・家禽)ではありません。そのため、エミューを飼ったり、育てたりするのに特別な施設や免許などは必要なく、さらに食肉への加工は『と畜場』や『食鳥処理場』を通さずに、一般的な食肉処理加工施設、すわなち、ジビエ処理施設で行うことが可能です(※1)。
 つまり、ジビエ処理場に付帯する形で養エミュー業を始めれば、野生鳥獣が少なくなった時期でも処理施設から収入を生み出すことができるようになるわけです。このように僕は、ジビエ処理場の未来は養エミュー業と共にあるのではないか、と考えています。

(※:食肉処理施設の許可要件は保健所によって異なるため、見解が違う可能性があります)

エミューの飼育には手間がかからないのか?

 畜産業を行うにあたって最も重要になるのが、畜産物の繁殖能力と成育期間です。例えば、肉牛の場合は出荷できるようになるまでに30カ月ほどの長い成育期間がかかるため、安定して出荷するためには飼育する個体数を多くする必要があります。そのため肉牛の畜産業は、始めるためには数千万円規模の初期投資が必要となり、事業としてはとてもハイリスクになります。

 対してエミューは、孵化後18カ月あまりで成鳥になり、畜産物としての利用が可能になります。また、年間20~30個ほどの卵を産み、人工孵化では孵化率86%、さらに環境への適応能力が高く、なんと下は-20℃から40℃以上の厳しい環境下でも飼育が可能です。
 このように養エミュー業は、小規模投資で始められ、しかも土地の制約が少ないというメリットがあります。またエミューは、肉、卵、油脂、皮革、羽などの、ほぼすべての部位が利活用できることから、利益率の高い畜産物として注目を集めています。

エミュー+ジビエ処理場の実例:きやまファーム

「ジビエ処理施設でエミューの解体だなんて、机上の空論じゃないの?」と思った方・・・・いえいえ、すでに実例はあるんです。それが、佐賀県基山町にあるエミュー牧場 きやまファームです。

 きやまファームのジビエ処理施設では、主にイノシシとエミューを処理しています。施設の屠体搬入口は1つで、洗浄放血は共有部で行い、内蔵摘出はジビエとエミューで左右別レーンに別れて行われています。

エミューを組みわせたジビエ解体処理の運用例

 ジビエ処理場の問題の一つに『人を雇いにくい』ことが上げられます。
ジビエの処理は2人体勢(雇用主本人+アルバイト等)で行うのが最も効率的なのですが、もしその日に獲物が獲れなかったら仕事が無いため、雇った人の人件費が無駄になってしまいます。
 しかし、養エミュー業を行っていれば、この人件費を無駄にするのを防ぐことができます。例えば、朝に罠の見回りを行い、獲物がかかっていたら捕獲個体を処理し、かかっていなかったらエミューの屠畜を行うという業務ルーティーンを作ります。エミューの解体処理は、解体からパッケージ化まで2人体勢でかねがね4時間なので、1週間(休日1日)に最低でもエミュー6頭分の利益を生み出すことができます。
 先に述べたように、エミューは成育が早いうえ、飼育も簡単です。よって、資源が不安定であるジビエの欠点を“上手く補助する資源”として最適だと思っています。

まとめ

  1. ジビエを合法的に生産するジビエ処理施設が全国で急増しているが、将来的に“莫大な負債”になる可能性がある。
  2. 獲物が捕獲できない時期でもジビエ処理施設を運用するためには、エミューの飼育が最適。
  3. エミュー+ジビエの処理施設は、佐賀県の『きやまファーム』で、すでに実績がある。
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この記事を書いた人

加藤ひろしのアバター 加藤ひろし 副業猟師

元・東京都奥多摩町在住。元・オクタマニア。狩猟だけでなく動画や絵画など様々なコンテンツを発信中。

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