鹿肉といえばローストが絶品なのですが、いつもいつもローストばかりでは飽きてしまいます。ううむ、もっと簡単に美味しい鹿肉料理はないものか?そこで今回は、プロの猟師がオススメする『鹿肉の簡単で美味い調理方法』をご紹介したいと思います。猟師飯ってかなり適当~な料理なんですが、これがナカナカ美味いんだなぁ。
第5位【出汁にする】
さて、第5位は『出汁にする』です。スジや骨の付いたシカ肉を適当にブッた切り、大鍋にブチ込んで煮る。下茹でしたり、酒を入れたり、灰汁を取ったりする必要は一切ありません。
肉の灰汁には旨味が詰まっている
シカ肉は茹でると、灰汁がモコモコと浮いてきます。これを見た多くの人は、丁寧に灰汁を掬い取りたくなるかもしれませんが、ちょっと待って!シカ肉の灰汁は旨味成分なので、これをとってはいけません。
泡になった灰汁は火を通し続けると、塊になって沈んでいきます。なので、最終的な出汁は澄んだ色合いになっていくので気にする必要はありません。
雑味は沈める。旨味は溶け込ませる
ただし、強火で煮立てると塊になった灰汁が鍋の中で踊るので、ゆっくりコトコト煮込み続けるのがコツ。ストーブに鍋をかけて丸一日ほったらかしにしておくぐらいが丁度よい塩梅です。
煮た肉や骨は全部捨てます。肉自体を料理に使ってもいいですが、味が抜けて美味しくありません。
取った出汁には、ダイコンやキノコ、ネギなどの野菜をブチ込んで、みそ味で仕立てにするのが猟師風。個人的には塩・胡椒で味を付けて「ほうとう」を入れたり、牛乳を少量加えてチャンポンにするのが大好きです。
コンソメ・ドゥ・ジビエ
「シカ肉の出汁」というと意外に思われるかもしれませんが、フレンチではコンソメとしてメジャーです。
以前、高級フレンチ店でコンソメを飲ませていただいたことがありますが、濃厚ながらもサッパリとした舌触りで「ありえない」ぐらい美味い。シェフの話では、特にニホンジカのコンソメはフレンチ界でも知る人ぞ知る幻の一品なのだそうです。
第4位【醤油に漬けて揉む】
第4位は『醤油で揉み込む』です。シカ肉のイメージ的には『洋風』が合いそうですが、シカ肉、ことニホンジカの肉には和風がよく合います。
鹿肉には醤油の「まろ味」が合う
これまで私はウスターソースやナンプラー、焼肉のたれ、わさび、塩こうじ、果物など、色んな調味料で試してみましたが、一番おいしかったのは醤油。ニホンジカの肉って、なぜか穀物由来の旨味と相性が良いんですよね。
料理の仕方は焼肉が簡単で良いです。ただ、普通に焼いてしまうとパサパサになって『砂糖醤油味の何か』になってしまいます。なので、シカ焼肉は『炭火の遠火』でじっくりと火を通します。
シカ肉は火が入ると「ぷ~」っと膨らむので、パンパンに張ったころが食べごろです。火を通しすぎるとしぼんでしまうので、タイミングを見極めるのが大事。
タマネギ+和風味でシャリアピンステーキ
しょうゆベースにタマネギを加えて漬けこむと『シャリアピンステーキ』になります。こちらも肉質が柔らかくなり美味しいですよ!
第3位【ヨーグルトに漬ける】
第3位は『ヨーグルト漬け』です。「肉をヨーグルトに漬ける」という料理方法は、中東ではごく一般的な料理方法。ヤギやヒツジといった、シカと同じくクセの強い肉料理によく見られます。
脂肪の少ない肉質に無理やり脂肪をねじ込む
シカ肉をヨーグルトに漬けることによる効果には2つあり、まず、臭みが緩和されます。ヨーグルトに含まれる乳脂肪分が臭み成分を吸着する(正確には、鼻粘膜に脂肪分が付着する)ため、臭みを感じにくくなります。
そしてもう一つの効果が、柔らかくなること。肉にヨーグルトの脂肪分が入り込み、熱を加えてもパサパサになりにくく、ふっくらと仕上がります。
高級和牛の味わいだが、シカの風味は殺してしまう
料理方法としては、ターメリック(ウコン)、クミン、コリアンダーシードなどのスパイスを加えて、油で炒めまるタンドリーチキン風料理、タンドリーベニスンとでも言いましょうか。
ヨーグルトに付けたシカ肉は、脂分を吸って高級和牛の赤身のような肉質になります!・・・ただ、逆に言うと「牛肉もどき」になってしまうため、「純粋にシカ肉を楽しみたい」という人には注意が必要です。
第2位【ミンチ】
第2位は『ミンチにする』です。シカ肉をミンチにすると、調理に使う油や香辛料が良く混ざるので、特有の臭いがほとんど気にならなくなります。ただ、鹿肉特有の旨味は引き立てられるので、ブタ挽肉や合いびき肉とは一味違った食材になります。
細挽きは「ぼろッ」っと崩れる肉質がたまらない
ミンチには『細挽き』と『粗挽き』によって、調理方法やレシピが変わります。まず細挽きは、適当に切ったシカ肉を、ミンサーやフードプロセッサーにかけて、肉質がネチャネチャになるまで崩します。
なお、鹿肉はスジが多いため、ミンサーを使うのはオススメできません。目がすぐに詰まってしまうので、無理やりハンドルを回すと折れてしまいます。
シカ肉には脂分がほとんどないため、細挽きシカ肉を火にかけると細かい団子状になります。一見すると「肉肉しい」感じがしまうが、噛むと「ボロッ」っと崩れて口の中でバラバラになるので、非常に食べやすいのが特徴です。
私の妻は「肉肉しさ」の食感が苦手なので、シカ肉も肉状では食べてくれません。しかし、この細挽きシカ肉で、マーボー豆腐やボロネーゼ風パスタを作ると、これだけは喜んで食べてくれます。
荒挽きするときは包丁で叩く
粗挽きシカ肉は、適当に切ったシカ肉を包丁で叩きます。包丁は普通の出刃包丁でも良いですが、スジがかなり固いので、菜切り包丁のようなデカくて重い包丁で叩きつけるように切るようにします。『ズルチ』と呼ばれるトルコの大型ミンチングナイフを使う人もいます。
粗挽き鹿肉餃子は嗜好の一品
粗挽きシカ肉は、細挽きよりも圧倒的に「肉肉しさ」が増します。私は「肉肉しい肉」が好きなので、一人で料理をするときは、この粗挽き肉をよく使います。
オススメの調理方法は餃子ですね!粗挽きシカ肉の餃子は、焼くとほんのりピンク色になります。ブタ挽肉の餃子を食べると「餃子を食べているな」としか思いませんが、粗挽きシカ肉餃子は
「うおぉん!俺は今、肉を喰ってるぞッ!」
とテンションが爆上がりします。
粗挽きシカ肉に味付けをして、ピーマンや万願寺唐辛子に詰めて焼くのもオススメ。細挽よりもシカ肉に主張が出てくるので、「肉を食べてる!」という感動があります。
ミンチのメリットは小分けにして冷凍できること
シカミンチの良い点は、料理のレパートリーが増えること、挽方によって食感・クセを調整できることに加えて、保管が楽というのがあります。
ブロック状態の肉は冷蔵庫を占領するので、妻からよく文句を言われますが、ミンチのシカ肉は小分けして冷凍できるので場所を取りません。私の場合、1週間かけて消費できないシカ肉は、すべてミンチに加工しています。
第1位【片栗粉をまぶす】
さて、栄えある第1位は『片栗粉をまぶす』です!それだけですが、シカ肉は劇的に美味くなります。
片栗粉バリアが肉汁を閉じ込める
調理方法は簡単、油を多めにしいて、フライパンでジャーっと焼くだけ。火加減なんて気にしなくてOK。
都度都度「シカ肉は火を入れすぎるとダメ!」と言ってきましたが、シカ肉に片栗粉をまぶすと、どんなに適当に料理をしても美味しく仕上がります。これは片栗粉が肉表面にバリアを作り、シカ肉の肉汁が閉じ込められるためだと思われます。
同じく「ふんわりと焼き上げる」調理方法には、第3位に上げた『ヨーグルト漬け』があるのですが、ヨーグルト漬けは料理のレパートリーが制限されるといったデメリットがあります。しかし片栗粉の場合は、片栗粉自体には味やクセが無いので、どんな料理にも使えます。
味が良く絡むので、中華風がよく合う
オススメレシピは鉄板焼きですね。片栗粉をまぶしたシカ肉を焼いて、醤油・豆板醤・ウスターソースで味付けし、切った野菜と一緒に焼き上げる。これが美味いんだなぁ~・・・。
ちなみに、同じく「焼くとパサパサする肉」としてお馴染みの鶏の胸肉も、片栗粉をまぶして焼くとふんわり仕上がります。この調理方法は妻から教えてもらったんですが、シカ肉でやってみたらこちらも絶品!・・・ってか、今まで「火加減どうのこうの」と言っていた自分が恥ずかしくなるほど衝撃でした。
いや~、手の込んだ美味しい料理は素晴らしいけど、簡単で美味しい料理ができるなら、それに越したことないよね。
まとめ
- 骨・スジ・肉を大鍋にブッ込んで出汁を取る。灰汁は旨味なので取らないように
- シカミンチは「肉肉しさ」が苦手な人は細挽で、好きな人は粗挽きで
- 最高に美味しく簡単なシカ肉調理方法は、“魔法の粉”をかけるだけ