ナイフは、獲物を止め刺ししたり、皮を剥いだり、肉を切り分けたりに使用する、狩猟における超重要なツールです。そこで今回は『狩猟ではどんな種類のナイフが必要なの?』といったお話をしていきたいと思います。
狩猟におけるナイフの用途は大きく6つ
キャンプなどの一般的なアウトドアでは、食材を切ったり、ヒモや紙を切ったりするぐらいがナイフの用途ですが、狩猟ではその比にならないほど多彩な用途で使用します。それではまず、狩猟におけるナイフの用途について、一つずつ見てみましょう。
① 獲物の急所に刺して、血を抜いて止めを刺す
最も“狩猟的”なナイフの用途に、獲物への止め刺し(血抜き)があります。特に罠猟では、罠にかかった獲物を殴打、感電、窒息などで気絶させたあとに、「確実なとどめ」としてナイフで刺して失血死させます。
銃猟でも、猟犬が獲物に絡んで銃が撃てないような状況では、ナイフを抜いて“白兵戦”をすることもあります。
② 枝やヤブを切り払う
銃を構えて獲物を待ち伏せするとき、射角に木の枝やツタなどがある場合は、ナイフでそれらを切り払って視界を確保します。
また、獲物をしとめた場所から引き出すとき、ツタや小枝を払って進路を確保する「ヤブ払い」にも使います。
③ 皮を剥ぐ
狩猟でとれた獲物の皮をはぐときにもナイフを使用します。動物の皮は肉と密着しているため、皮下組織を切り取る必要があるためです。
④ 肉から骨を外す
皮を剥いだ後は関節や骨を削ぎ取って分離します。関節は非常に細かくなっているので、細かくて精密な作業ができるナイフが必要になります。
⑤ 肉をブロックに分ける
骨を外したら、次に肉を部位ごとに切り分けます。さらに部位ごとに分けた肉から、固いスジを取り外すスジ引きという工程にもナイフを使用します。
⑥ ちょっとしたロープやヒモを切る
狩猟でも他のアウトドアと同様に、ナイフは何かちょっとしたものを切るときに必要になります。例えば、罠猟では小枝を切って道を造成したり、解体用ロープの痛んだ部分を切ったりと、本当に「ちょっと」したことにナイフは使います。
それぞれの用途に最適なナイフを考えてみる
狩猟におけるナイフの用途は、上記の通り大きく6つあります。
それでは、それぞれの使い方で最適なナイフとはいったいどういったものなのでしょうか?
① 止め刺しに最適な狩猟刀
止め刺しに用いられるナイフは、狩猟刀(ハンティングナイフ)と呼ばれます。狩猟刀は獲物に刺し込みやすいように、切っ先が細く、鋭くなっています。しかし、獲物が暴れて折れたりしないように、ブレード(刃)には厚みがあるように作られています。
また狩猟刀は、血糊りで手が滑って指を刃で切らないように、フィンガーグルーブや、フィンガーガード(つば)が付いているのが特徴です。
イノシシやシカを狙う大物猟では、刃の長さは猪や鹿の胸元から心臓に届く距離がだいたい10㎝ぐらいなので、最低でも12㎝(3寸)は必要になります。ハンターに人気のサイズは25㎝(6寸5分)ぐらいで、それ以上長くなると山の中では少々重たく感じます。
② アウトドアにも必携、ヤブ払いにはナタが便利
山の中で邪魔な木の枝やヤブを払うときは、ナタ(鉈)が便利です。ナタは普通のナイフとは異なり、振りかぶったさいに手からすっぽ抜けないように、グリップの先端が膨らんでいます。また、重心が刃の先端に来るように設計されており、太い木の枝や薪に対して”重みの乗った一撃”を叩き込めるようになっています。
ナタと同様な用途で使用されるナイフには、ハチェットナイフやブッシュナイフと呼ばれるタイプもあり、林業家や、山で活動するアウトドアマンに人気があります。
③ 刃が“切れにくい”ようにできているスキナーナイフ
皮はぎ専用として使われるナイフに、スキナーと呼ばれるタイプがあります。普通ナイフは「よく切れるもの」が良しとされますが、スキナーナイフはあえて“切れにくい”ようにできています。
どういうことかというと、皮を剥ぐときに皮を切ってしまわないようにするためです。皮をナイフで突き破ってしまうと、毛に付いた汚れが刃に付いてしまいます。また、毛皮をなめして加工したい場合も、突き破ってしまうと「おじゃん」になってしまうからです。また鋭く研がれたナイフは、刃に脂分が付くと逆に切れ味が悪くなります。という2つの理由があります。
スキナーナイフには、背中側にガットフックと呼ばれる刃が付いたタイプもあります。このガットフックは獲物の腹を裂くための刃で、腹の皮にフックを引っかけて、ジッパーを引くように動かすと、内臓を刃先で傷つけることなく腹を開くことができます。
④ 小型で細かい作業がしやすいケーパーナイフ
骨すき作業には、ケーパーと呼ばれるナイフが便利です。ケーパ―ナイフは、小型で切っ先が細いため、関節の隙間や脊柱の細い軟骨に刺し込みやすく、普通のナイフよりも作業しやすくなります。
⑤ スジを綺麗に取り除くためのブッチャーナイフ
筋引きや精肉にするナイフには、1回のストロークで長く切れる刃先の長いブッチャーナイフが使われます。
⑥ ちょっと使いに小型のフォールディングナイフ
ちょっとした用途で使用するナイフには、折り畳みナイフ(フォールディングナイフ)がオススメです。カモなどを狙う鳥猟では、腸抜きフック(ガットフック)や、銃のメンテナンス用のドライバーなどが付いたマルチツールナイフも便利です。
狩猟初心者がまず揃えたい2種類のナイフ
狩猟に必要なナイフは、狩猟刀、鉈、皮剥ぎ、骨すき、筋引き、携帯用の6種類あれば、どんな状況にも対応できます。しかし狩猟初心者が、始めからこれらのナイフを全てそろえるのは大変です。
そこでひとまずは、剣ナタとユーティリティという、2種類のナイフだけ準備しておきましょう。残りのナイフはひとまず狩猟に慣れてきてから、徐々にお気に入りのものを集めていけばよいでしょう。
① 狩猟刀とナタが一緒になった”剣ナタ”
狩猟用ナイフとして、まず用意しておきたいのが剣ナタです。剣ナタは、刃先が狩猟刀のように鋭利になっており、ツカは振りかぶっても手が滑りにくいようにナタの形をしたナイフで、山刀(ナガサ)と呼ばれることもあります。
② とりあえず万能に扱えるユーティリティ
小型ナイフの中には、ケーパーのような細かい作業から、スキナーのようなエッジを使う作業まで万能に扱えるユーティリティと呼ばれるタイプがあります。
ユーティリティは、軽量でグリップもしっかりとしていないため、止め刺しやヤブ払いに使うのには難があります。しかし、解体作業や、ちょっとした用途に使うのであれば、これ1本だけで十分に対応できます。
狩猟ナイフは廉価品を使い潰すのがオススメ
狩猟に使うナイフは種類が多くデザインも豊富なので、ついつい高価なものを選んでしまいがちです。しかし、できれば初心者のうちは、1本3000円~1万円程度の廉価品を使うことをおすすめします。
狩猟ナイフは山の中で失くしやすい!
廉価品のナイフを使った方がいい理由の一つが、ナイフは山の中で失くしてしまうケースが多いためです。ナイフに限らず山の中で物を落とすと、まず見つかることはありません。
その亡くしたナイフが3000円程度の廉価品であれば、「しょうがないか・・・」とあきらめもつきますが、数万円もする高級ナイフだとしたら・・・おおッ!その精神的ダメージは計り知れません!
廉価品で刃物の扱いと砥ぎを覚える
またナイフには、正しい動かし方があります。例えば、ナイフ初心者がやりがちなミスに、固いものに刃先を入れたあとに”こじる”ことがあります。ナイフは引く方向、もしくは押す方向に対しては強度がありますが、横の動きに対しては弱く、刃をこじるとすぐに欠けてしまい、使い物にならなくなります。
また狩猟用のナイフは、獲物を刺したり、固いものを割ったりするため、定期的に砥がないといけません。刃物の研ぎは、砥石の当て方や力加減など練習が必要です。これを適当にやっていると刃は”バカ”になってしまい、切れ味が戻らなくなります。
こういったナイフの正しい扱い方は、頭で覚えるよりも身に付けた方が早いです。よって初めのうちは、安物ナイフをボロボロになるまで使い潰すことをおすすめします。
まとめ
- 止め刺し(ハンティング)、ヤブ払い(ハチェット)、皮剥ぎ(スキナー)、骨外し(ケーパー)、筋引き(ブッチャー)、色々使える(ユーティリティ)
- 初心者はとりあえず、止め刺し用ナイフとして剣鉈と、ユーティリティを1本づつ持っておこう
- 初めは安物を買って定期的に研ぎ、1本を使い潰してナイフの扱いを覚えよう