『ライフル弾頭』ってどんな弾?小指ほどの金属片に込められた”驚きの工夫”の数々

 ライフルの弾頭は、一見すると、ただの尖った金属片にしか見えません。しかし実を言うとライフル弾頭には、長い銃の歴史の中で培われた様々な工夫があり、その研究は現在でも続けられているほど奥深いのです。そこで、今回はライフル弾頭について詳しくお話をしていきたいと思います。

目次

ライフル弾頭とは?

 ライフル弾頭と散弾銃のスラッグ弾の一番の違いは、ライフリングとの”噛み合い”にあります。そこで歴史的な側面から、ライフル弾頭の特徴について見ていきましょう。

ライフリングとは?

 ライフルとは、銃身内部に刻まれた螺旋状の溝(ライフリング)を持つ銃の総称です。このライフリングは電車の”レール”のような役目を持っており、弾頭がライフリング上を滑っていくと、弾頭に回転が加わります。

※ライフリング跡が付いた弾頭。発射後に無傷で回収された弾頭。

ライフルが400年以上停滞していた理由は弾にある


 ライフルは19世紀の第一次世界大戦前後に急成長した銃です。そのため、紀元前からさかのぼる銃の歴史から見ると、ライフルは非常に新しい発明のように思われます。
 しかし実を言うと、ライフリングの原理自体は15世紀ごろにはすでに確立しており、実際に戦場で使われたこともありました。ただ、この時代のライフルは”ある問題”で使い勝手が非常に悪く、発明から400年以上「使えない銃」として闇に葬られていたのでした。

 その”ある問題”とは『弾が入れ辛い』ことです。さきほど説明したように、発射される弾頭はライフリングの溝を滑って回転を行いますが、そのためには弾頭の直径がライフルの口径よりもわずかに大きくなければなりません。


 よって、19世紀以前に使われていた、弾頭を銃口から入れて発射する銃(前装式マスケット)では、無理やり弾を押し込んで入れる必要があり、「ライフルは命中精度は確かに高いのだが、装填するのが遅すぎて役に立たない」という扱いを受けていました。

実包の誕生でライフルは実用化された

 ライフルが日の目をみるようになったのは、1830~40年代にかけて薬莢が誕生してからでした。この薬莢は、弾頭と火薬、雷管がセットになっており、これにより弾丸を銃口ではなく、銃身の後ろ(銃尾:ブリーチ)から挿入するようになりました。
 この後装式銃(ブリーチローダー)の銃が生まれたことで、銃口よりも大きい弾丸を火薬の力で「メリメリ」と押し込んで進ませることができるようになり、1860年代になるとスナイドル銃(イギリス)やスプリングフィールドM1865(アメリカ)、タパティエール銃(フランス)といった、実用的なライフルが誕生しました。

ライフル弾頭の構造

 ライフルが実用化される前後の弾丸は、球体のB.B.(ボールバレット)や、ミニエー銃などに使われるドングリ型のプリチェット弾でした。しかし現在のライフル弾頭は、より精度とパワーが出るように、様々な改良が加えられています。

弾頭の素材

 ご存知の方も多いと思いますが、ライフルの弾頭は鉛で作られています。鉛が使われている理由には、

  1. 金属密度が高く、小さい体積でも重く作ることができること
  2. 金属としては柔らかく、命中時に潰れて運動エネルギーを効率よく仕事に変換できること(※詳しくは後述)
  3. 融点が低く加工しやすいため、成形が簡単なこと
  4. 地球上に豊富にある資源なので、安価であること

などが上げられます。
 また、鉛のコアは銅と亜鉛の合金(真鍮)でめっき処理されており、この皮膜部分をジャケットといいます。真鍮が使われているのには、

  1. 腐食に強いので、鉛の酸化や水分による腐食などを抑えることができる
  2. 傷に強く、鉛の変形を抑えることができる
  3. ツルツルしているので、ライフリングの滑りがよくなる
  4. 鉛とのひっつきが良いので、皮膜がはがれにくい

といった理由があります。

 素材硬さ(鉛:1)比重( 鉛:1 )
鉄(スチール)約5~8倍約0.7倍
軟鉄(ソフトスチール)約3~5倍約0.7倍
ビスマス約1~2倍約0.9倍
タングステン約2倍約0.9倍
スズ約0.5倍約0.7倍
約3~5倍約0.8倍
非鉛製弾の鉛との硬さ・比重の違い

 弾頭のコアは鉛以外にも、銅や鉄が使われる場合があります。このような鉛が使われていない弾丸は非鉛製弾(リードフリー)と呼ばれており、土壌の鉛汚染や、半矢で死亡した獲物を肉食鳥が食べることによる野鳥の鉛中毒を防ぐ目的で使用されています。
 非鉛製弾を使ったライフル射撃は、集弾率や獲物に与えるダメージなどが鉛弾と大きく異なります。鉛弾と非鉛製弾の違いについて詳しくは、また別の機会にお話することにしましょう。

弾頭の口径

 日本の狩猟制度では『5.9mm(23口径:23インチ)以下、または10.5mm(41口径:41インチ)以上のライフル銃は狩猟に使えない』とされています。従って、狩猟用ライフルでは、6㎜口径(24口径)から10mm(39口径)までが使用できます。実際の狩猟では、6.17mm(24口径)、7.62mm(30口径)あたりがよく使われています。

 「インチ」で言われるとピンと来ないかもしれませんが、ライフルの口径は想像以上に小さいです。1円玉で言えば、数字の「1」がギリギリ隠れる程度。散弾銃と比較すると、一般的な12番よりも半分ほどの大きさしかないことがわかります。ライフル弾頭は口径を小さくすることで空気抵抗を減らし、遠くまで正確に飛ばすことができます。

弾頭の重さ

 弾頭は重ければ重いほど命中時に獲物に与えるダメージが増加します。ただ、「重ければ重いほどいい」というわけではありません。なぜなら弾頭が重くなると加速しずらくなるため、弾の速度が遅くなります。弾速が遅いと落下量(ドロップ)が大きくなり、正確に命中させるのが難しくなります。
 また、重い弾頭は軽い弾頭に比べて反動が大きくなるため、銃の跳ね上がりや肩にかかる負担などが大きくなります。

軽くても、重くてもいいというわけではない

 それでは逆に「軽ければ軽いほどよいのか?」というと、それも良いとは言えません。なぜなら、軽い弾頭を高速で発射すると、揚力で弾道が不安定になるからです。軽い紙飛行機を「ふわっ」と投げたら安定して飛んで行くのに対し、思いっきりブン投げたら軌道が反れてすぐに落下します。これはライフル弾頭でも同じような現象が起こるのです。

弾頭の重さや火薬の量は“レシピ”どおりに行う

 よって弾頭の重さは、使用する火薬の量や質、薬莢の種類などを考慮して決めます。これらのデータは、弾頭を作っているメーカーから弾道特性表(バリスティックチャート)として公表されています。
 もちろん、ライフル射撃では、自分好みに火薬量や薬莢の種類を調整し、自分の体格や狩猟スタイルにあった調整をしていくことも大事です。しかし基本的には、この弾道特性表のデータを軸にして調整をする必要があります。

フラットベースとボートテール

 ライフル弾頭の後部は、平べったくなっているフラットベースと、少しテーパー(傾斜)が付いたボートテールの2種類があります。
 それぞれには長所と短所があり、まず、ボートテイルは後部に生まれる空気の渦(カルマン渦)が発生しにくいため、フラットベースに比べて速度が落ちにくく、さらに横風の影響(ドリフト)も少ないという長所があります。
 しかしボートテールは、発射時にガスの圧力が弾丸の前に回り込んでしまうため、フラットベースに比べて初動の安定性が欠けると言われています。

※ボートテールは発射圧が弾頭を追い超してしまい、弾道上に渦を作ってしまう(0:30)。対して、フラットベースは発射圧が弾頭の後部で跳ね返り、渦の影響を受けない(1:10ごろ)。この動画投稿者によると、ボートテールよりもフラットベースの方が、200mほどの距離であれば精密性は高いと結論付けている。

キャネルア

 弾頭の中には、腹囲にキャネルアと呼ばれる溝を持つタイプがあります。この溝は、弾頭がライフリングに沿って銃身内を滑るときに摩擦を小さくして、弾頭の摩擦熱による変形を抑える効果があります。
 キャネルアには、くぼみの中にギザギザの模様が付いたナーリング・キャネルアや、溝の中に細かい縦の線が入ったエンボス・キャネルアなどがあり、さらに、キャネルアの数も1本線から複数線入っているものまで様々です。 

 キャネルアは摩擦を抑えるだけでなく、弾を製造(ローディング)するさいに、弾頭を薬莢のクランプ(口)に取り付けやすくする効果もあり、この目的で掘られた溝をクリンプ・グルーブ・キャネルアと言います。
 なお、正確にはキャネルアではないのですが、弾頭を圧着したさいに出来た溝も「キャネルア」と呼ばれることがあるそうです。

先端の種類

 ライフル弾頭の先端は、目的に応じて様々なタイプがあります。ここでは代表的な先端形状について詳しく見ていきましょう。

フルメタルジャケット

 フルメタルジャケットは、コアを真鍮でコーティングした、通常タイプの弾丸です。真鍮は鉛よりも20倍以上硬いため、対象に命中しても弾頭が変形せずに貫通しやすい造りになっています。
 後述する理由から狩猟に使用されることは無く、主に軍事で利用されています。

ソフトポイント

 フルメタルジャケットの先端を削り、コアの鉛を剥き出しにしたタイプです。柔らかい鉛の先端は、命中すると先端からコア中心にかけて潰れます。このとき、衝突面が大きくなって抵抗が強くなるため、貫通しにくくなります。
 後述する理由から、狩猟にはもっぱら、このソフトポイントが利用されます。

ラウンドノーズ

 ソフトポイントの先端を丸くしたタイプです。一般的にライフル弾は、マッハ2という音速を超えて飛んで行くため、先端は空気抵抗を抑えた尖った形状をしています。しかし、競技用ライフルや拳銃などの弾速が遅い銃では、先端を尖らすよりも丸い方が空気中を安定して進むため、このタイプが用いられます。
 ちなみに、超音速で飛ぶ戦闘機の先端形状が尖っているのに対して、音速以下の旅客機の先端が丸くなっているのも、同じような理由からです。

ワッドカッター

 ワッドカッターは、先端が平たくなっているタイプです。ワッド(厚紙)をカット(切る)という意味のとおり、厚紙で作られた的紙に、弾頭で綺麗な円の弾痕を残すための弾頭です。
 ワッドカッターは通常、狩猟で使われることはありません。しかし、弾丸が一直線に並ぶ弾倉を持つレバーアクション式ライフルでは、前方の弾の雷管を傷つけないように、ワッドカッターやフラットノーズが使われていたようです。

ホロ―ポイント

 弾頭の先端(ポイント)にくぼみ(ホロ―)を施したタイプで、命中すると、くぼみの中の空気が押し縮められて衝撃波を発生し、弾頭が裂けてバナナの皮を剥くように潰れます。
 殺傷力が高いため狩猟でも使われていますが、弾けた弾頭が破片(フラグ)となって体内に残ることも多いので、食肉目的では「あまりよろしくない」と言われることもあります。

バリスティックチップ

 前述のホローポイントは、先端に穴が開いているため、空気抵抗を大きく受けてしまうという欠点があります。そこで、この穴にチップと呼ばれるプラスチック製の先端を取り付けて、弾道特性(バリスティック)を改善させたのがバリスティックチップ弾です。
 バリスティックチップは、鉛弾頭ではそれほど効果は高くないという意見もあります。しかし、鉛よりも硬い非鉛製弾では、潰れやすくするためにくぼみを大きく作るため、このタイプの恩恵が高くなると言われています。

弾頭の『潰れやすさ』

 先ほどのフルメタルジャケットとソフトポイントのお話の中で触れたように、狩猟において弾頭は潰れることがとても重要な要素になります。本題に入る前に、まずは弾頭の持つ『パワー』について知っておきましょう。
 

マズルエネルギーと空気抵抗による減衰

 まず、弾頭は銃口から飛び出す瞬間まで、火薬が燃焼することによって発生するガスの圧力を受けて加速します。このとき、弾丸に与えられたエネルギーはマズルエネルギーと呼ばれます。
 空中に飛び出した弾頭は、マズルエネルギーと同じ運動エネルギーを持って飛翔しています。しかし飛翔中に弾丸は空気抵抗を受けることによって徐々に運動エネルギーを失い、速度が遅くなっていきます。

命中による仕事と貫通によるエネルギーロス


 弾頭が獲物に命中したとき、弾頭は獲物の生体組織を破断させる”仕事”を行いながら、運動エネルギーを減少させていきます。
 さてこの後、弾頭が獲物の体内で止まった場合を考えてみます。この場合、弾頭の持っていた運動エネルギーは、すべて細胞組織の変位(破壊)に変換されたと考えることができます。対して、弾頭が獲物を貫通した場合、貫通後に弾頭が持っている運動エネルギー分だけ、 仕事に変換されるはずだったエネルギーが無駄になったと考えることができます。

 このような理由から、狩猟に使われる弾頭は『貫通しにくい』の方が望ましいといえます。そのため弾頭が命中後に変形しやすいソフトポイントやホロ―ポイントといった弾丸が用いられるのです。
 

狩猟においては死亡させることが重要

 余談になりますが、それではなぜ軍隊では、殺傷力の高いソフトポイントやホロ―ポイントではなく、貫通力が高いフルメタルジャケットを使っているのでしょうか?その理由は、『戦争において敵兵を撃つこと』と『狩猟において獲物を撃つこと』が、考え方からまったく違うからです。

 戦争では、銃によって相手を殺すよりも重症を負わせた方が、敵国に与える損失は大きくなります。なぜなら、兵士を一人殺した場合の損失は『兵士一人分の戦闘力』でしかありませんが、兵士に重傷を負わせた場合は兵士一人分の戦闘力に加え、数多くの物資と人の手間が損失になるからです。
 つまり兵器としての銃と狩猟のための猟銃は、設計コンセプトがまったく違うのです。日本で民間人が所持できるのは『猟銃・空気銃』であり、武器としての銃(例えば拳銃)は所持ができません(※一応持てますが基準がムチャクチャ厳しい)。この違いはしっかりと理解しておきましょう。

まとめ

  1. ライフル自体は15世紀からあるが、実用化されたのは19世紀にライフル弾頭が開発されてから
  2. ライフル弾頭は、大きさや重さ、先端形状などで性能が変化する
  3. 狩猟で使われる弾頭には『潰れやすさ』が重要

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この記事を書いた人

東雲 輝之のアバター 東雲 輝之 株式会社チカト商会代表取締役・ライター・副業猟師

当サイトの主宰。「狩猟の教科書シリーズ」(秀和システム)、「初めての狩猟」(山と渓谷社)など、主に狩猟やキャッチ&イートに関する記事を書いています。子育てにも奮闘中。

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