カモ撃ち作戦は奇襲 or 狙撃 ~実践編~

 日本のカモ撃ちでは「獲物の死角から近づいて撃つ『奇襲』」か「獲物の油断している距離から撃つ『狙撃』」の2パターンが主な作戦になります。今回はこの作戦を立てるコツについて、詳しく見ていきましょう。

目次

散弾銃猟で有効な『奇襲』

カモ猟の作戦『奇襲』

 基礎編でも少し触れましたが、飛んでいる獲物を狙える代わりに射程距離が短い散弾銃手(ショットガンナー)の場合は、獲物に接近することを考えなければなりません。そこで有効となるのが、死角から近づいて獲物に奇襲をしかける作戦です。

カモの聴力は“ヒトナミ”


 カモなどの鳥類は、視力は人間以上の鋭さを持っていますが、聴力や嗅覚は人間程度と言われています。 よって、遮蔽物や地形を上手く利用して散弾銃の射程距離まで近づくことで、獲物の不意をつくことができます。この猟法は人数が多ければ多いほど有利ですが、単独で行うこともできます

死角を利用して獲物に近づく

カモ猟の作戦「土手を一気に駆け上がる」

 日本の猟場で最も死角を作りやすい猟場は、ため池です。ため池は氾濫を防ぐために土手が作られているため、この土手を乗り越えるだけでカモに対して奇襲を仕掛けられます。

 この作戦をイメージ化すると、上のようになります。注意点としては、装填は必ず獲物を確認してから行うようにしましょう。「もたもたしてたら逃げられてしまう!」と焦る気持ちもわかりますが、カモは水面を飛び出してから上昇するまで時間がかかるので、獲物の姿を確認してから「足場の確認」、「装填」、「照準」と準備をする時間は十分あります。焦って暴発を起こすようなトラブルだけは絶対に避けるようにしましょう。

カモを飛ばして待ち受ける

 複数人でカモ撃ちを行う場合は、メンバーを奇襲班待ち伏せ班の二つに分けて行動すると、より猟果アップが期待できます。カモなどの体が重たい水鳥は、飛び立ってから上昇するまで時間がかかるため、森などに囲まれた水場では、どっちに飛んで行くかある程度予想できます。そこで、初めに奇襲班が死角から射かけ、カモが飛んだら待機している待ち伏せ班が迎撃をする、といった作戦が効果的です。
 この猟法は 『カモの巻き狩り』とも言えます。イノシシやシカを捕獲する巻き狩りも、猟犬や勢子で奇襲を仕掛け、逃げた獲物は待ち伏せているタツマが捕獲する、という2段構えの作戦になっています。

 この作戦をイメージ化すると、上のようになります。奇襲されたカモは必ず狩猟者とは逆の方向に飛び立ち、さらに、高度が上がるまで障害物となる森を避けないといけないため、水面に沿うように飛ぶことが予想できます。そこであらかじめ、別の狩猟者が予想経路に待ち伏せをしておきます。

“ラン&ガン”で猟場を攻めていく

  奇襲作戦では、獲物がいるか・いないかは、実際にその場に行ってみるまでわからないため、獲物が居なければすぐに別の場所に移動するラン&ガンを行います。そこで猟場は少なくとも10か所は見つけておきましょう。

 猟場はGoogleマップで探すのが簡単です。まずGoogleマップで水場を調べ、ハンターマップと比較して狩猟が可能な場所か確認します。次にマップを航空写真にして地形をチェックしましょう。このとき周囲に民家や道路が無いか、ある場合は射撃に問題は無いかなどを検討してください。ある程度猟場に目星がついたら実際に現場に行って 、 状況を確認してみましょう。

 有用そうな猟場が見つかったら、その情報をスマホの地図アプリに登録しておきましょう。猟に出る前にルートパターンを作っておけば、スムーズに猟場間を移動することができます。

無線があると便利

 カモ撃ちの奇襲では、大物猟の撒き狩りと同じように無線機があると便利です。狩猟用の無線機を新しくそろえるのであれば、断然デジタル簡易無線機がオススメ。
 カモの猟場は起伏が少ないため、特定小電力トランシーバーでも十分通信ができますが、せっかくならデジ簡5W機で統一するのがオススメです。

エアライフル猟で有効な『狙撃』

 飛んでいる獲物を狙うショットガンナーに対して、エアライフルマンの場合は水面に浮かんでいる獲物しか狙えません。そこで有効となるのが、獲物に対して射程距離まで近づいて、狙撃を行う作戦です。

射程距離とフライトディスタンス

 危険を感じた鳥が「飛んで逃げるか・耐えてやり過ごすか」を決める距離間は、フライトディスタンスと呼ばれており、鳥の種類によってある程度決まっています。そこで、浮いているカモを狙撃するときは、このフライトディスタンスに入らないように射程距離を詰めていくように行動します。

射程距離 = ゼロイン調整した距離

  ここで言う「射程距離」は、照準器のゼロイン調整した距離のことです。スコープのゼロイン調整をした距離まで近づくことができれば、レティクルの中心で照準を付けることができるため、命中させるのが簡単になります。もちろんゼロイン調整よりも遠い距離からでも撃つことは可能ですが、この場合、弾の落下量を考慮して照準を付けないといけないため、命中させるのは難しくなります。

 獲物との距離はレンジファインダーと呼ばれる道具を使うと便利です。レンジファインダーは、レンズを覗いた状態でスイッチを入れると、前方の障害物との距離を画面上に表示してくれます。ひと昔前まではとても高価でしたが、最近ではゴルフで使用できるようになったため、1万円以内で買えるモデルもあります。

カモの様子でわかる警戒レベル

 カモの警戒心を上げる要因はフライトディスタンスだけでなく、こちらの行動にも大きく影響します。例えば、カモは動物の“黒目”を遠くからでも判断して、視線を察知する能力を持っているため、あまり「まじまじ」と見続けていると、早い段階で警戒心を上げてしまいます。よってカモに近づくときは、視線の向け方がとても重要になります。
 余談ですが、肉食動物に目の周りが黒かったり、白目が目立たない種類がいるのは、相手から視線を読まれにくくする目的があると考えられています(参考資料)。 よってカモ猟のときは、サングラスやフェイスガードを付けておくと効果的だと言われています。

狙撃作戦では、銃の腕か・獲物に近づくテクニックか

 狙撃によるカモ撃ちでは、「遠距離狙撃を決めるテクニック」か「獲物の警戒心を上げないように近づくテクニック」のどちらか一方を極めることで、猟果を上げることができます。
 例えば、精度の低いエアライフルしか持っていない場合でも、警戒されにくいように近づくテクニックを身に付ければ、獲物を捕獲することは可能です。逆に言うと、 獲物に近づくテクニックが低くても、遠距離狙撃ができる銃の性能と腕があれば、同様に獲物を捕獲できます。「銃の腕」と「近づくテクニック」の、どちらをスキルを伸ばしていくかは、その人の興味が深い方で決めると良いでしょう。

その他の猟法

 ここまで、カモ撃ちには『奇襲』と『狙撃』の2種類とお話ししてきましたが、実はそれ以外にも色々な作戦があります。

鳥屋撃ち

 前回でも少し触れた鳥屋撃ちは、日本では日没後に射撃ができないためメジャーな作戦ではありません。しかし、休んでいるカモたちを“拡散”させる手段がある場所では、国内でも鳥屋撃ちが行われています。

 その一例が、ゴルフ場を利用した鳥屋撃ちです。ゴルフ場内にある池はカモが多く集まるスポットですが、このような場所では狩猟ができません。しかしゴルフ客が池にボールを入れるとカモは驚いて飛び立つので、ゴルフ場外に鳥屋を組んで待ち受けるようにします。この鳥屋撃ちは、その土地の特殊性に注目した、非常に面白い作戦だと言えます。

赤犬猟

 長野県の野尻湖でかつて行われていたカモ撃ちに赤犬猟という猟法があります。これは、赤犬(毛並みが茶褐色の犬)を湖畔の放ってウロウロと歩かせると、湖の沖にいたカモが近づいてくることを利用した猟法です。
 この沖にいるカモが岸に近づいてくる理由は、カモが赤犬を天敵であるキツネと勘違いして追い払おうとするモビング(偽攻撃)という習性を利用しています。

現在、野尻湖は鳥獣保護区になっているため伝統的な赤犬猟は行われていません。しかしこの猟法はモビングという動物の習性を利用しているため、野尻湖という場所に限らず、どこでも応用が可能な作戦だと言えます。

沖き撃ち

「淡水ガモ・海ガモ」という言葉があるため、よくマガモやカルガモは海に居ないと思われていますが、波が穏やかな晴れの日は淡水ガモでも海岸に出てきます。ただ、このような場所は遮蔽物が少なく奇襲ができないうえ、飛んで行く方向が読めないため待ち伏せもできず、さらに岸から離れているので狙撃もできません。よってこのような場所では、ボートを使った沖撃ちが有効になります。

  沖撃ちは、なによりも船頭の経験がモノを言います。天候や時間によってカモが集まっている場所を知っておく経験と、警戒されないようにボートを近づける操舵技術が必要とされます。一般人がカモ撃ちのためにモーターボートを購入するのはハードルが高いですが、カヤックを利用してカモ撃ちをしている人は、意外と多いようです。
 なお「沖撃ち」は、通常は海でのカモ撃ちを指す言葉ですが、川でボートに乗る場合も沖撃ちと言うそうです。

まとめ

  1. 奇襲作戦は猟場選びが重要。Run&Gunで沢山の猟場をめぐる
  2. 狙撃作戦は獲物のフライトディスタンスと、こちらの射程距離を縮めていく行動が重要
  3. 奇襲・狙撃以外にも、カモ撃ちには色々な作戦がある

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この記事を書いた人

東雲 輝之のアバター 東雲 輝之 株式会社チカト商会代表取締役・ライター・副業猟師

当サイトの主宰。「狩猟の教科書シリーズ」(秀和システム)、「初めての狩猟」(山と渓谷社)など、主に狩猟やキャッチ&イートに関する記事を書いています。子育てにも奮闘中。

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