散弾銃は、バードショット(散弾)やバックショット(粒弾)を発射するイメージが一般的ですが、実際はスラッグショット(一発弾)と呼ばれる弾頭もよく使用されます。このスラッグ弾頭は、ライフル銃所持が厳しい日本において、イノシシやシカの大物猟でよく使用されていますが、意外とその種類や特徴については知られていません。そこで今回はスラッグ弾頭について、代表的な5種のタイプを解説したいと思います。
スラッグとは?
スラッグ弾は、英語では”Slug shot”と言います。”Slug”は「なめくじ」と訳されますが、本来は鉱石を精製するときに発生する「鉱石クズ」を指す言葉で、後に「金属などでできた武骨な塊」を「スラッグ」と呼ぶようになりました。
スラッグ弾はB.B.に改造を加えた弾頭
スラッグ弾は、16世紀ごろに誕生したマスケット銃(滑腔式歩兵銃)で使われていた、ボールブリッド(B.B.)が大本になります。
単純に鉛の弾を球形にした B.B.は 、製造が簡単で大量生産ができるという長所を持っていましたが、球という形状は回転が加わると、野球ボールの変化球のように弾道がそれるという大きな欠点を持っていました。そのため、19世紀ごろになると世のガンスミスたちは、より正確に射撃ができる弾頭を目指して、B.B.に改良を加えた様々なスラッグ弾頭を開発していきました。
ライフル弾とは何が違うのか?
スラッグ弾頭はしばしばライフル弾頭と混同されますが、その一番の違いは”大きさ”にあります。スラッグ弾を発射する一般的な散弾銃は、12番(約1.85㎝)や20番(約1.57㎝)という口径の大きさなのに対し、一般的なライフル銃の口径は0.3インチ(約0.76㎝)です。
すなわち、12番の散弾銃で発射するスラッグ弾頭は、30口径のライフル銃で発射するライフル弾頭に比べて、およそ2.4倍ほど大きくなるため、重量もスラッグ弾の方がはるかに重くなります。
ライフル弾頭に比べて威力は高いが精密性は落ちる
スラッグ弾頭はライフル弾頭に比べて重量があるぶん、ターゲットに与えるダメージが大きくなります。しかしスラッグ弾頭は表面積が大きくなる分、空気抵抗による速度の減衰が大きくなるため、有効射程は大きく落ちます。
そのためスラッグ弾は、遠距離射撃が必要となる狩猟には向いていませんが、木々がうっそうと茂り、獲物との対面距離が近くなるような猟場で効果を発揮します。特に日本の里山はこのような猟場が多いため、大物猟でよく使われています。
なお海外では、その強力なパワーから、扉の鍵や蝶番を破壊する『ドアブリーチング』用の弾としても利用されています。
散弾実包について詳しく知りたい方は、下記ページも併せてご覧ください。
代表的な5種類のスラッグ弾頭
マスケット銃のボールブリッドから、「滑空銃身(散弾銃の銃身)で正確な射撃を行うための弾」というコンセプトのもと改良が加えられてきたスラッグ弾頭は、19世紀から現在にいたるまで様々なタイプが生み出されてきました。この種類には、現在でも使用されているタイプがあれば、廃れてしまったタイプもあり、また、空気銃のペレットのように分化していったタイプもあります。
そこでここでは、数あるスラッグ弾頭の中でも、現在日本で一般的に使用されている5種類のスラッグ弾頭について見ていきましょう。
始めて商業的に成功した『ブリネッキ型』
スラッグ弾頭の黎明期に商業的な成功を収めたのが、1898年にドイツのガンスミス、ウィルヘルム・ブリネッキが開発したブリネッキ型です。この弾頭には、フェルトやセルロースを固めたベースがネジ止めされており、重心が先端に集まるように設計されています。
そのため発射されたブリネッキ型弾頭は、バドミントンのシャトルコックのように重たい方を向けて滑空するため、B.B.で問題となっていた回転による軌道の変化を抑えることができます。
さらにブリネッキ型弾頭の後部は、発射時に銃身内に密着して”ガスシール”のような役割を持ちます。そのため、火薬の燃焼による発射圧を漏らさず受け止めることができるため、従来のスラッグ弾頭よりも大きな推進力を得ることができます。
スラッグ弾頭の黎明期からあるブリネッキ型弾頭ですが、直進性が優れていることから、現在の日本でもよく使われています。しかしブリネッキ型弾頭は重量があるため、射出時の反動が強くなります。特に近年の軽量化された散弾銃でブリネッキ型スラッグを発射すると、肩が腫れ上がるほどの反動を感じることがあるので、銃との相性には注意しましょう。
アメリカで開発された『フォスター型』
1931年にアメリカのカール・M・フォスターが開発したのが、フォスター型スラッグ弾頭です。この弾頭は、半球形の鉛玉をくりぬいた形状になっており、ブリネッキ型と同じように弾頭の先に重心が寄るように設計されています。
フォスター型弾頭は、弾を中空にすることで、衝突したさいに潰れるという特徴を持っています。このように命中した弾が潰れる(=速度が0になる)と、持っていた運動エネルギーを、すべて衝突のエネルギーに変換することができるため、ターゲットに与えるダメージが大きくなります。
ヨーロピアンスラッグと呼ばれているブリネッキ型と、アメリカンスラッグと呼ばれるフォスター型は、日本市場でも人気を二分しています。どちらを使うかは所持している銃との相性によるところが大きいですが、ブリネッキ型はシカの単独猟で遠距離射撃用として、フォスター型は巻き狩りなどの近距離射撃用として使用している人が多いようです。
スラッグ弾頭に風切溝を付けたタイプ
現在一般的に流通しているフォスター型やブリネッキ型は、胴体に斜めの溝が掘らたライフルドスラッグと呼ばれる形状になっています。
この斜めの溝は、弾頭が銃身内を動く際に、接触面を最小限に抑えることで銃身やチョークに与えるダメージを抑える仕組みになっています。また側面の溝は、弾頭が滑空している際に、空気抵抗を受け流して直進性を向上させる効果も発揮します。
”ライフルド”という名前が付いているため、よくライフリングによって回転していると思われがちですが、実際は空気抵抗を受けて風車のように回転しているだけです。よってライフルドスラッグは、ジャイロ効果(ライフリングで弾が安定する原理 )を持っているわけではないことに注意しましょう。
驚異的な殺傷力を生む『リーサル型』
デストロイヤー(破壊者)やR.I.P.(安らかに眠れ)などの異名を持つリーサルスラッグ弾頭は、弾頭にいくつかの切れ込みが入った姿をしており、高速で衝突すると先端が割れて花が咲いたように広がり、花びらのような破片が千切れて飛び散ります。この弾が獲物に命中すると、命中地点から破片が放射状に体内を進んでいくため、名前の通り”リーサル(致命的)”なダメージを与えることができます。
スラッグ弾の中では新しい仕組みのように思われがちのリーサルですが、実はボールブリッドの時代からすでに存在しており、アフリカのサファリガイドが、襲い掛かってくるサイやバッファローなどの猛獣から、観光客を守るための最終手段として使用されていました。
この形状の弾頭は、獲物の動きを止める威力(ストッピングパワー)は高いものの、肉へのダメージが大きいため、肉を得る目的の狩猟には、あまり向いていないと言えます。
クッションとシーリングが取り付けられた『ワッズ型』
近年人気があるのが、ワッズ型(またはプラムバタ型)と呼ばれるスラッグ弾頭です。このワッズ型弾頭は、ブリネッキ型と同じように、後部が射出時のガスシールの役割を持っているため、大きな推進力を発揮します。さらに燃焼ガスが弾頭にかかる瞬間の衝撃を、柔らかいワッズがクッションとなって受け止めるため、ブリネッキ型などに比べて反動が少なく感じます。
後部がネジ止めされているブリネッキ型とは違い、ワッズ型は滑空中に弾頭と分離します。そのためワッズ型弾頭は、散弾銃の口径よりも小さめの弾頭を使うこともできます。
ライフル弾頭を発射できる『サボット型』
ワッズ型の一種であるサボット型は、銃口よりも小さな弾頭をプラスチック容器で包んだタイプで、散弾銃身にライフリングが施されたライフルドショットガン専用のスラッグ弾頭です。
「製造が簡単な散弾銃の銃身で、ライフル弾を発射したい」という要望から考え出されたこのサボット型弾頭は、硬質なサボットをライフリングと噛み合わせて発射することで、サボットごと中の弾頭に回転を加えるような仕組みになっています。この回転が加えられたサボットと弾頭は、射出後に分離し、弾頭だけがライフル弾と同じ原理によって、安定した軌道で滑空します。
まとめ
- スラッグ弾頭は、マスケット銃で使われていたボールブリッド(B.B.)に改良を加えて、19世紀ごろに誕生したもの
- 現在、日本でよく使われているスラッグ弾頭は、大きく5種類。中でも代表的なのが、ブリネッキ型とフォスター型
- 近年は、ワッズ型スラッグ弾頭も人気。ライフルドショットガン用のサボット弾も、ワッズ型スラッグの一種