散弾銃に限らず、銃を扱う際に最も基本となるメンテナンスが、銃身内と外部の清掃です。特に狩猟や射撃の後には、この清掃作業を欠かさず行うことが、銃を長持ちさせ、安全に使用するための鍵となります。今回は、その重要な清掃作業について、具体的な手順やポイントを詳しく解説していきます。
メンテナンスの頻度
人によって考え方は異なりますが、『銃』のメンテナンスは、毎回徹底的に行うことが必ずしも〝最善〟とは限りません。なぜなら、メンテナンスで銃を分解したり部品を洗浄するごとに、銃の寿命や精度はわずかではありますが、確実に落ちてしまうためです。
そこで銃をメンテナンスするさいは、まず「日常的に行うメンテナンス」と「定期的に行うメンテナンス」に分けて考えるようにしましょう。
主に銃身を掃除する『日常メンテナンス』
日常メンテナンスは、『狩猟やクレー射撃から帰ってきた後』に行う簡単なメンテナンスです。主に銃身内や外部の清掃を行い、汚れや水分を除去します。
銃身清掃や拭き上げは、こだわればいくらでも時間がかかります。しかし、こういった作業に時間をかけすぎると、「今日は忙しいから後回しにしよう」といった理由をつけて、怠ってしまうこともあります。そのため、日常メンテナンスは『習慣として継続しやすい方法』で行うことが大切です。
トリガーユニットを分解する『定期メンテナンス』
定期メンテナンスは、例えば『猟期が終わった後』や『数カ月間、散弾銃を使用しない予定があるとき』に行うメンテナンスです。このメンテナンスでは、銃身の清掃だけでなく、トリガーユニットなどの機関部を分解して清掃し、各部品にオイルを塗布して防錆対策を行います。
緊急的なメンテナンスは、できれば自分で行わないこと
狩猟中に「銃が撃てなくなった」や「機関部から変な音がする」といった異変を感じた場合、問題の箇所を特定するための『緊急的なメンテナンス』が必要です。しかし、この作業は個人で行うことはできるだけ避け、プロの銃砲店に任せるようにしましょう。
銃砲店の方によると、「〝ココ〟が故障しているから修理してほしい」と依頼してくるお客さんの多くは、実際には原因を誤っていることが多いそうです。これは人間の怪我や病気と同じで、素人が「不調の原因」や「問題箇所」を自分で特定しようとすると、ほとんどの場合間違ってしまい、かえって損傷を広げるリスクがあります。そのため、銃に異常を感じた場合は、自力で対処するのではなく、まずは銃砲店に〝検査〟を依頼することが大切です。
「日常」と「定期」の区別は、銃の使用頻度によって変わる
「日常メンテナンス」と「定期メンテナンス」には、特に明確な基準はありません。例えば、もしあなたが「1回の出猟で1〜2発程度しか撃たない」大物猟のハンターであれば、毎回機関部を開いて部品を洗浄する必要はないと言えます。一方で、もしあなたが「年間数千発を撃つシューター」であれば、銃身・外部の清掃だけでなく、機関部のメンテナンスも行ったほうが良いでしょう。自身の銃の使用頻度や、どのように銃と付き合っていくかを考慮しながら、「日常」と「定期」のメンテナンスを決めると良いでしょう。
散弾銃をテイクダウンする
散弾銃のメンテナンスを行う際、最初にテイクダウンを実施します。テイクダウンとは、「分解」を意味しますが、銃の用語では「工具を使わずにできる範囲の分解作業」を指します。
中折式のテイクダウン
上下二連式や水平二連式といった『中折式』のテイクダウンは、射撃教習や狩猟免許試験の課題で行っているため、難しいことはないと思います。
薬室を開いて脱包が完全にされていることを確認してください。
自動式・手動式のテイクダウン
自動式やスライドアクション式については、メーカーやモデルによってテイクダウンの方法が違います。そこで、購入時に銃砲店で確認するか、前オーナーから詳しい方法を聞いておきましょう。
ボルトや遊底を操作して薬室を開放し、実包が入っていないことを確認してください。また、弾倉内に弾が残っていないことを確認してください。
銃身の清掃方法
銃身や外部の清掃には、さまざまな種類の清掃道具がありますが、今回は基本的かつ〝必要十分〟な清掃を行うことができる、以下の道具を揃えておくことをおすすめします。
防錆潤滑剤
銃身内や外部の清掃には、汚れを浮かせたり水分を弾いたりする効果を持つ防錆潤滑剤を使います。このオイルは、いわゆる「機械油」とは異なり、粘度が低くベタつきが少ないといった特徴があります。
防錆潤滑剤には色々な種類がありますが、オススメなのは「WD-40」と呼ばれる商品です。WD-40はホームセンターなどで市販されており、プロの銃砲店でも使用されています。
ウエス
「ウエス」とは、簡単に言えば「雑巾」のことです。銃の清掃では、ウエスに防錆潤滑剤を染み込ませて、薄く延ばすように拭き上げます。
ウエス自体はどんなものでも構いませんが、よく使われるのが「キムワイプ」や「キムタオル」と呼ばれる使い捨てウエスです。これらは、通常の紙製ウエスに比べて千切れにくく、ケバ立ちや紙粉がほとんど出ないため、綺麗に拭き上げることができます。
クリーニングロッド(洗い矢)
クリーニングロッドは、銃身内を清掃するために使用する細長い棒状の道具です。先端はブラシ類を取り付けられるようになっており、ロッドを銃身に突っ込むことで内部を清掃することができます。
クリーニングロッドは銃の口径に合った物を選びましょう。また、散弾銃の場合は「スネークボア」と呼ばれるタイプもあり、こちらはロープ状の構造で、素早く簡単に清掃できるのが特徴です。
銃身の清掃
散弾銃の銃身は、「散弾」を撃っているか「スラッグ弾」を撃っているかで、清掃の方法が変わります。
散弾実包のみを撃っている場合
散弾銃の実包には「ワッズカップ」と呼ばれる容器があり、その中に装弾が収められているため、基本的に銃身内に鉛が付着することはありません。したがって、一般的に「銃身の清掃」と聞いてイメージされるような「ブラシでゴシゴシ」する必要はなく、防錆潤滑油を塗布したウエスで軽く拭き上げる程度で十分です。
スラッグを撃っている場合
スラッグ弾は散弾実包のようなワッズカップはありません。そのため、スラッグ弾の鉛が銃身内にこびりつきやすくなるため、ワイヤブラシを取り付けて銃身内を数回擦る必要があります。
なお、銃身に付着した鉛や金属がどうしても落ちない場合は、「ソルベント」と呼ばれる金属除去剤を使って清掃する方法もあります。特に鉛のこびり付きが気になる場合は、防錆潤滑剤の代わりにソルベントを使用してみましょう。
銃口側にウエスを敷いて、薬室側から防錆潤滑剤(またはソルベント)を吹きます。
スラッグ弾を撃つと、特に薬室側に鉛がこびり付きます。クリーニングロッドの先端にワイヤブラシを取り付けて、擦るように清掃します。
クリーニングロッドの先端を取り外して、防錆潤滑剤を塗布したウエスを取り付けます。ブラッシングと同様に薬室側からクリーニングロッドを入れて、2,3回拭き上げましょう。
ボアスネークを使う
ボアスネークは、散弾銃の銃身(スムースボア)専用の清掃ツールです。このボアスネークは、長い紐状のコットンにブラシが付いた構造になっており、銃身内を一度通すだけで金属カスや汚れを取り除くことができます。
銃身側から出た紐を足で踏むか、何かに固定したら、銃身をしっかりと持って引っ張りましょう。こうすることでボアスネークが銃身内を通り抜け、内部が清掃されます。
防錆潤滑剤を塗布したウエスを銃身に2,3回通して、内部を拭き上げましょう。
ロッドは一方向のみに動かす(ゴシゴシしない)
銃身内を掃除するときに使用するウエスやブラシは、一方向にのみ動かすようにします。たとえば、薬室側から挿入した場合、銃口からウエスやブラシが出たら一旦取り外してロッドだけ引き抜きます。2回目以降も同様に、ロッドにウエスやブラシを取り付けて薬室側から遠し、銃口から出たらウエスやブラシを取り外してロッドを抜きます。
銃身外部の清掃
銃を手に持つことや屋外で使用することによって、銃身外部には汗や手の油、湿気や埃などが付着します。これらの汚れを放置しておくと錆びの原因となるので、拭き上げ清掃を行いましょう。
『リブ』は汚れが付きやすい
散弾銃の銃身を拭き上げる際は、特にリブ部分に注意が必要です。リブの表面には日光の反射を抑えるために細かな凹凸があり、また、熱による歪みを防ぐための橋状構造になっています。こうした箇所は水分や汚れが溜まりやすいため、丁寧に拭き上げ、しっかりと汚れや湿気を取り除くよう心がけましょう。
『ヒンジ』部分にはゴミが溜まっていないことを確認
中折式の場合は、機関部と銃身を繋ぐヒンジ部分にゴミや汚れが溜まっていないかを必ず確認してください。この部分に汚れが付着していると、銃を折りたたむ際に傷が付いてしまい、最悪の場合、閉鎖不良を引き起こす原因となります。
『撃針孔』と『銃尾栓』のチェック
実包の雷管が機関部に密着する「銃尾栓」と、撃針が飛び出す「撃針孔」には汚れが付いていないか必ず確認しましょう。通常、これらの部分に異物が入り込むことは少ないですが、錆や傷があると閉鎖不良や不発の原因となります。銃の外部を拭き上げる際には、これらの部分も念入りにチェックしましょう。
自動式の場合は『ガスポート』もチェック
自動式の場合、銃身に開いているガスポートも忘れずにチェックしましょう。このガスポートは、排莢・装填機構を作動させるためのガスが通る重要な部分です。ガスポートが汚れで詰まっていると、機構が正常に動作せず、排莢不良や装填不良を引き起こす原因となります。定期的にガスポートの汚れを確認し、必要に応じて綿棒などを利用して清掃を行いましょう。
『機関部』に錆が無いことを確認
機関部(レシーバーユニット)に錆がないか確認してください。機関部は厚い金属でできているため、多少の錆で破損することはありませんが、錆が浮いている場合は、銃に施されたブルーイングなどの防錆塗装が剥がれてきているサインです。できるだけ早く再塗装を含めた、本格的なメンテナンスを行いましょう。
木部品は乾いたウエスで拭くだけでOK
銃床や先台などの木製部品は、乾いたウエスで軽く拭き上げるだけで十分です。これらの木製部品には、オイルフィニッシュやウレタン加工が施されているため、防錆潤滑剤などを使用すると、かえって表面を劣化させる可能性があります。
よほど汚れがひどい場合は中性洗剤で汚れを洗い流して、乾いたウエスで水分をしっかりと拭き上げましょう。
まとめ
- 散弾銃の日常メンテナンスは『銃身』と『外部』の清掃が基本
- 散弾実包のみを発射した場合はウエスで拭き上げ。スラッグ弾を使った場合はブラシで擦る
- 外部の清掃では、リブやヒンジなどの汚れが溜まりやすい場所に注意する