プロ猟師が教える『射撃・狩猟トレーニング法』猟期前は自宅で練習!

 猟期が近づいてくると、遠足前のようなウキウキ気分が抑えられない人も多いのではないでしょうか?こんな気分のときは、野球の走り込みや素振りのように自宅でできる“狩猟の練習”がしたくなるはずです。そこで今回は猟期スタートダッシュが切れるような練習法をご紹介します。

目次

射撃の練習法

 昔の猟師は「据銃1000回!」なんて言いながら、毎日のように練習したそうです。しかし、どのようなスポーツでも言えることですが、やみくもに同じ動作を繰り返す練習には、あまり意味がありません。

据銃トレーニング

 例えば野球の素振り練習でも、一振りごとにバッティングフォームを意識しながら練習をしなければなりません。闇雲な素振り練習はフォームが崩れるだけでなく、筋肉を傷めたりもします。これは射撃練習の基本である据銃練習においても同様です。

ほほ・肩・視線の3点を意識する

 据銃練習では、肩・頬・目の位置を確認しながら行いましょう。まずは銃を持って肩にグッと押し付ける肩付け、次に銃床に頬をピッタリと押し付けるほほ付け、そして照準器を真っすぐに見ること(スコープの場合はアイレリーフにも注意)の、3つの動作に分けて行いましょう。

ゆっくりでいいので1行動ずつ意識的に行う

 据銃練習は“ゆっくり”と行いましょう。「据銃練習は獲物が急に飛び出したときに対応する練習だ」と思っている方もいますが、それはちょっと違います。まずは正しいフォームを意識的に体に覚えさせ、徐々に無意識に据銃できるようになり、最終的に素早い据銃ができるようになるのです。
 自転車に乗る練習を思い出してください。誰でも初めから全速力で自転車をこげるようにはなりませんよね?据銃も同じです。初めはゆっくりでいいので、据銃時に「体のどの筋肉がどのように動いているか?」を意識して練習をしましょう。

照準トレーニング

 据銃練習は据銃だけ、照準練習は照準だけに集中して行った方が良いのですが、私はあんまり練習をしないので、据銃と照準の練習を一緒に行っています。ただ、この方が「実猟向けの練習かな~」と思っています。

視線が照準と合うように据銃する

 照準のトレーニングは、まず肉眼で目印となる物を見ておき、そのままの目線で銃を構えます。そして、目印にレチクルの十字線がピッタリと合うように繰り返しましょう。ちなみに両目は開いて行います。

慣れてきたら動きのある物で練習する

 止まっている目印に十字線が合うようになってきたら、次に少し動いている目印で同じ練習を行ってみましょう。私の場合は窓開けて、風で揺れる電気の紐で行っていました。かなり地味な練習ですね(笑)
 スコープを使っている場合は低倍率で行うと良いそうです。照準がしっかりと出来ていれば、猟場で高倍率に切り替えても十字が乗るようになります。(私のスコープは6倍にしっぱなしですが・・・。)
 私の場合はこの練習を繰り返したことにより、発砲までに余裕が生まれました。これによって、速射や、2頭目、3頭目の連射が出来るようになりました。

ガチでやるなら走り込み!

 それと照準の練習と言えば、現代の静的射撃スポーツ選手は、脈動を少しでも抑えるために走り込みをするそうです。アスリートはストイックですね。
・・・え?私?、いえ、日々の生活でも大変なので、そんな余裕はありませんよ。

スイングトレーニング

 散弾銃でカモ猟をする人は、出猟前にクレー射撃(特にスキート)を練習しておくと良いそうです。

壁の目印を照準で追う

 自宅でできるスイングトレーニングとしては、部屋の壁に目印となるものを2ヵ所以上貼り付けて、その目印に向かって照準を付けたまま上半身ごと銃を大きく振ります。このとき、目印でピタリと止めるのではなく、目印に向かって照準が一定のスピードで通過するようにしてください。

失敗しても最後までスイングしてみる

 スイングしたとき、照準の軌跡が目印から外れたとしても、そこで終わらずに次の目印に向けてスイングをしましょう。スキートでは射撃チャンスは1度らしいですが、カモは旋回して飛んでいるのでチャンスが何度かある場合があります。そこで1発外しても執拗に照準で追い続ける練習をしておいた方が良いと思います。
 練習では目印のスタート位置、通過する目印の順番を変えて、何パターンか練習しておくとよいでしょう。

引き金を引くトレーニング

 空撃ちというのは良い練習になります。薬室に空撃ちケースを入れてトリガーをゆっくり引き、どこで切れるのかを何度も試して体に覚えさせます。
 このような練習をしておくことで、激発をする瞬間がわかるようになります。撃発のタイミングと自分の意識がリンクしていれば、本番の射撃で自信が持てますし、外したときに反省をする基準にもなります。

プロ猟師はみんな練習をしている

 余談ですが、猟を始めて3年ほどで安定して獲っておられる方に空撃ちケースを見せていただいたのですが、私のケースより傷だらけでした。
 普段から山に入っていることは知っていましたが、自宅でもかなりの練習を積まれているようでした。「自分も見習わなくてはいけないなぁ~」と感じました。

イメージトレーニング

 引き金を引く練習をするときは、様々なシチュエーションをイメージして行いましょう。

狩猟のシーンを想定する

 過去の経験や動画などから獲物の動きを想像し、『獲物が潜んでそうな場所』、『獲物がどう逃げるか』、『撃つ場所の位置は?バックストップは?障害物は?』など、狩猟のシーンをできるだけ鮮明にイメージします。

 もちろん、初心者の方はわからないことだらけだと思うので、「ゆる~いイメージ」から始めていきましょう。例えば、

  • 獲物が撃ちやすいポイントで餌を食んでいる。
  • 獲物はこちらにまったく気付いていない。
  • ゆっくりと据銃して、照準を付ける。

・・・といった感じです。
 少し慣れてきた方は、頻繁にある・いつものシーンから少しアレンジを加えてイメージしてみましょう。

私の場合のイメージングの例

例えば私の場合、

  • 杉林の中にある平坦な場所。
  • 雑木の陰にいたメスジカ3頭が群れている。

といった、普段からあるシチュエーションに対して、

  • 鹿に気づかず、走り出して気づく。
  • 尾根に向かって走っていく。
  • 視界は木々が遮っており、その隙間をぬって射撃するしかない。

といった条件を加えてイメージを膨らませます。
 イメージトレーニングは『気持ちの良いイメージ』ではなく、うまくいかなかった・難しいことを想定することが重要です。

銃を下ろすトレーニング

 剣道や弓道などでは、動作を終えた後に「残心」を行います。射撃においてもこの残心は重要で、撃った直前・直後に思考したことを記憶として残し、後の反省や改善点探しにひつようになります。

銃はすぐに下ろさず「残心」を意識する

 射撃における残心は具体的に、獲物に命中してバックストップにあたるぐらいまで時間を意識します。そこで、練習で空撃ちをするときは、『獲物を撃ちぬいてバックストップまで到達した』ことをイメージしてから、銃を下ろすように練習しましょう。二の矢を掛けることを想定して練習するさいにも、残心を忘れないようにしましょう。

複合トレーニング

 これらのトレーニングを組み合わせて、より実猟・実践向けに想定した練習です。鹿を発見し、スッと構え発砲(空撃ち)、排莢装填しつつ別の鹿を見続け、木々のあいだを走る鹿に向かってスイングし、尾根に上がられるまでに発砲(空撃ち)といった感じのことを状況を変えて練習しています。

射撃練習をするさいの注意点

 射撃練習をするにあたっては、当然ではありますが、実包を装填してはいけません。引き金を引かない練習であっても暴発の危険性があるので、実包を用いた練習は絶対にやめましょう。

近所の人に見られないように!!

 次に、自宅で練習をするときは、外から見えないようにしてください。私が小さかったころ、オモチャの銃を買って友達の家に遊びにいったのですが、その銃を見た友達のお婆さんが悲鳴を上げ、その場にかがみこんでしまったという嫌な経験があります。
 おそらく、銃を見た瞬間に、戦争のトラウマがフラッシュバックしてしまったようです。銃という道具は、見た目だけでも人を威圧する力があります。自宅での練習時に人に見られないようにすることは、防犯という意味もありますが、周囲の人への配慮でもあります。

 あ、それと。銃を振り回すときは、周囲の物に注意しましょう。電気の笠をブッ壊した者からのアドバイスです。

猟場を歩いてみる

 前猟期からまったく山に入っていない人は、猟期前に少し山歩きをすることをオススメします。もちろん、ガチガチに山歩きをする必要はありません。銃の代わりにオヤツなんかを持って、ハイキングみたいにゆっくり時間掛けて歩いてみると意外な発見があったりします。

季節ごとに同じ山に入ってみる

 猟期前に、同じ猟場へ何度か足を運ぶのも良いです。同じ季節内であっても、猟場の雰囲気は日によって違いがあります。この変化がわかるようになると、その猟場独自の獲物の動きというか、猟場のクセなんかもわかって面白いですよ。
 また、猟場のロケハンにもなります。「この先、大変だから余力を残して歩こう」とか、「あの辺に獲物の痕跡が多かったから慎重に歩こう」とか、ルート設計が行いやすくなります。

痕跡を探してみる

 山歩きをする機会があれば、できれば誰かを誘って一緒に歩いてみるのもよいでしょう。人の眼を借りると、自分の目では見つからなかったことも見えてきたりします。
 私は山に入ると、「木の陰に獲物が潜んでいないか?」といった、獲物の姿ばかりを探してしまいます。しかし、巻き狩りで勢子をやっている先輩と山に入ると、先輩は痕跡を中心に探しているのがわかりました。足跡や糞といった、いわゆるフィールドサインです。
 同じ狩猟という行為でも、こういった人とアプローチの違いを見つけると、とても勉強になります。

動画トレーニング

 さて、ここまで実戦的な練習法をお話してきましたが、「そんなの面倒くさいよ~」って方も多いと思います。そういう方にオススメなのが、動画トレーニングです。

人の狩猟動画は参考になる

 動画トレーニングとは?それは、Youtubeなどで他人の撮影した狩猟・射撃動画を見ることです!アルコールを摂取して銃を触るのはご法度ですが、動画を見るのであれば飲酒OK。ビールを片手に他人の動画をダラダラとみましょう。家族にも勉強しているんだと言い訳もできます。(呆れられても当方は責任を負えません)

まとめ

  1. 据銃トレーニングは、はじめはゆっくりと焦らないで。徐々に早くして速射できるように練習する
  2. 引き金を引く空撃ちトレーニングでは、イメージトレーニングも併せると効果的
  3. 猟期前に猟場を歩いて、雰囲気を掴むようにしよう

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この記事を書いた人

りょう@東 良成のアバター りょう@東 良成 専業猟師・ライフルマン

三重県紀和町に住む専業猟師。年間200頭以上の獲物を捕獲しています。主に銃に関する知識や野生鳥獣被害について、Twitterで発信中 。

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