みなさんは『スコープ』、好きですか?スコープを使った狙撃は銃猟の醍醐味!…しかし、スコープの仕組みについて調べてみると、なんだか色々と専門用語が並んでいて難しいですよね?そこで今回はスコープの仕組みや用語について解説をしていきます。
スコープとは?
スコープは、正式にはテレスコピックサイト(Telescopic Sight)と呼ばれる照準器の一種です。「望遠鏡(テレスコープ)と同じ物」と勘違いされることがありますが、スコープは望遠鏡と造りが全く異なります。
目の前の物と遠くの物の焦点が合う”不思議”
その違いの一つがレティクル(レチクル)です。レティクルとは、スコープ内部に刻まれた線(多くの場合は十字線)のことで、狩猟ではこのレティクルを獲物に合わせることで正確に狙いを定めることができます。
「そんなの、望遠鏡のレンズに十字線を描いただけじゃないの?」と思われるかもしれませんが、それは違います!
なぜならレティクルはスコープの中、距離で言えば『目の前数センチ先』に描かれているのに対し、獲物は数十メートルも離れたところにいます。
例えば、目の前に針を立てた状態で遠くの景色を見てください。あなたは『針』と『景色』の両方に目のピントを合わせることができますか?そうなんです、近くの物(レティクル)と遠くの物(獲物の姿)を両方一緒に見ることができること、これがスコープと望遠鏡の最大の違いなんです。
スコープの内部構造
では、スコープの中身はどうなっているのでしょうか?ざっくりと説明すると上図のように、外側の鏡筒の中に、さらに小さな鏡筒が”入れ子”になっています。
スコープでは、まず、獲物の姿(光)を対物レンズと呼ばれる大きなレンズで集めて、内側の鏡筒のレンズに焦点を作り出します。このままでは像が真逆になっているので、もう一度レンズを使って像を反転させます。そしてこの像を接眼レンズと呼ばれるレンズを使って目の網膜に像を作ることにより、正立した拡大像を見ることができます。
第1焦点面、または第2焦点面
さて、獲物の像にレティクルの像を重ねるには、獲物の像が作られるポイント(焦点)にレティクルを描いたガラス板を置けば実現できます。
このポイントには上図のように、対物レンズに近い第1焦点面(FFP:ファストフォーカルプレーン)と、接眼レンズに近い第2焦点面(SFP:セカンドフォーカルプレーン)の2パターンが考えられます。
FFPとSFPは「獲物の像にレティクルを重ねる」という目的においては同じですが、スコープの倍率を変えるときにちょっとした違いが起こります。具体的に言うと、FFPは倍率を変えたときに『レティクルごと拡大縮小される』のに対し、SFPの場合はレティクルの大きさは変わりません。
この話は初心者向きではないため、興味がある方は『エアライフル辞典』のFFP/SFPの項目をご覧ください。
ゼロインを実現するための仕組み
スコープが望遠鏡と違うもう一つの点は、ゼロインという考え方があることです。ゼロインを簡単に説明すると、スコープを使って遠くを狙う場合に調整する、弾の発射方向(銃身線)と照準器の中心(照準線)の交差点のことです。
ゼロインについて詳しく知りたい方は、下記ページも併せてご覧ください。
照準線に角度を付けるためには
さて、ゼロインを実現するためには、上図のように『銃身線』に対して『照準線』を傾けなければなりません。
では、照準線を傾けるためにはどうすればよいか?最も基本的なアイアンサイトと呼ばれる照準器の場合は、上図のように照門を”高く”することで、銃身線に対して角度を付けることができます。
じゃあ、「スコープの場合も傾けて取り付けたらよいのか?」と思われるかもしれませんが、スコープでそれをやるとうまく遠くを狙うことができません。
というのも、”数百メートル先”を正確に狙うスコープは、取り付け角度が「数分」違うだけで、着弾点が数センチ狂います。
「分」という角度の単位は聞きなれないかもしれませんが、1分とは60分の1度、つまり『0.0166°』のことです。手元に分度器があれば見ていただきたいのですが、「0.0166°」なんて角度を正確に測ってスコープを取り付けることなんて、とても人間には無理です!
ダイヤルで細かな角度が調整できる
そこでスコープにはダイヤルが付いています。このダイヤルを回すと、先に説明した『中に入っている小さな鏡筒』の角度を「0.0数°」(※)の単位で動かすことができます。
(※動く角度はM.O.AやMILといった規格によって変わります)
このような仕組みにより、スコープは取り付け角度を変えなくても、ダイヤルを回すだけでゼロインの調整ができるというわけです。
ダイヤル・ノブの役割
スコープにはダイヤルやノブ(※)が沢山ついています。一見すると複雑そうですが、エレベーションダイヤル、ウィンテージダイヤル、フォーカスノブ、パワーセレクター、ディオプターダイヤルの5種類を知っておけば十分です。
(※ デジタルに切り替えられるツマミがダイヤル、アナログに調整できるツマミがノブ)
エレベーションダイヤル (Elevation Adjustment)
エレベーションダイヤルは、照準線の上下を調整するダイヤルです。先に解説した『ゼロイン』では、このダイヤルを回すことで調整できます。
ダイヤルには『UP → 1/4” 1CLICK』といった表示がされており、矢印方向にダイヤルを1目盛り回すことで「100ヤード先で1/4インチ照準を上げる」ことができます。4メモリ回すと「100ヤード先で1インチのズレ」、メートルに直すと「約100m先で2.5㎝のズレ」を調整ができます。
ちょっと難しい話ですが、ゼロインにおける「上がる」という表現は、レティクルの中心が上がるのではなく、着弾点が上がることを意味します。
例えば、的紙に向かって弾を撃ったとき、弾痕が照準線(レティクルの中心)よりも「下」に付いた場合、ダイヤルは「UP」の向きに回します。対して、弾痕がレティクルの中心よりも「上」についた場合、ダイヤルは「DOWN」の向きに回します。
上記について「?」と思った方は、ゼロインに関する記事をご覧ください。
ウィンテージダイヤル (Windage Adjustment)
ウィンテージダイヤルは、視界の左右方向を調整するダイヤルです。このダイヤルには『L ↔ R 1/4″ 1CLICK』といった表示がされており、矢印方向にダイヤルを1目盛り回すことで、1/4インチ左右に照準を調整できます。
このダイヤルもエレベーションダイヤルと同じように、回すとレティクルではなく着弾点が移動します。例えば、着弾点が3インチ右にずれていた場合、着弾点は左に3インチ移動させないといけないので、ダイヤルはL方向に12目盛り回すことになります。
フォーカスノブ (Parallax Focus Knob)
フォーカスノブはピントを合わせるためのつまみで、ピントリングとも呼ばれます。フォーカスノブには、スコープの左右どちらかに取り付けられたCF:サイドフォーカス(またはAS:アジャスタブル サイド)タイプと、対物レンズ(オブジェクトレンズ)の周囲に取り付けられたFF:フロントフォーカス(またはAO:アジャスタブル オブジェクト)の2種類があります。
どちらを利用するかは好みにもよりますが、サイドフォーカスは銃を構えた状態で操作ができるため、すぐにフォーカスを合わせられるといったメリットがあります。対してフロントフォーカスは、銃を構えたままでは操作しずらい位置ですが、ノブの径が大きいので、サイドフォーカスよりも小さい力で回すことができます。
フォーカスリングの役割は「獲物をしっかりと視認するため」だけでなく、「視差(パララックス)を消す」という目的もあります。
パララックスを簡単に説明すると、「フォーカスが合っていない状態で狙いを定めると、のぞき込む角度によって着弾点がズレる」ことです。
このパララックスの影響は、特に獲物が小さいエアライフル猟においては深刻なので、エアライフル猟ではフォーカスを素早く変更できるサイドフォーカスタイプがよく使われます。
なお、パララックスの説明が「ようわからん!」と思われた方は、上図のように透明の下敷きを2枚使って実験をしてみましょう。パララックスの意味がよくわかると思います。
ディオプターダイヤル (Recticle Focus Ring)
ディオプターダイヤルは、レンズの度数を調整するダイヤルで、視度調整リングとも呼ばれます。眼鏡と同じ機能なので、個人の視力によってディオプターダイヤルを調整し、もっとも見えやすい設定を見つけましょう。
パワーセレクター(Magnification Adjustment Ring)
パワーセレクターは、スコープの倍率を設定するダイヤルです。ダイヤルには数値が書かれており、目印の位置に合わせることで倍率を設定できます。
スコープの最小倍率・最大倍率は、スコープの名前に『〇-×』と表記されます。例えば「3-9×44」という表記では、『最低倍率3倍、最高倍率9倍の性能を持っている』ということを示しています。
スコープの構造
スコープにはダイヤルにも、様々な要素があります。ここではすべてではありませんが、最低限覚えておきたい、対物レンズ径、アイレリーフ、ひとみ径、チューブ径、F.O.V.について理解しておきましょう。
対物レンズ径
対物レンズ径は、大きければ大きいほど取り込める光の量が多くなるため、視界の透明感や明るさが良くなります。
「じゃあ、大きな対物レンズ径のスコープがあれば、獲物をクッキリと見ることができて良いの?」と思われるかもしれませんが、スコープは銃との「取り付け高さ」の問題があるため、望遠鏡のようにバカでかい対物レンズを乗せることはできません。
スコープは一般的にマウントリングと呼ばれる部品で銃の上に取り付けられるのですが、対物レンズ径が大きすぎると下面が干渉してしまい取り付けることができません。
「じゃあ、背の高いマウントリングを使ったら?」と思われるかもしれませんが、スコープの取り付け位置が高くなると、銃に顔を押し付ける「ほほ付け」が高くなってしまいます。すると、発射時に銃が跳ね上がってしまい、上手く狙いを付けられなくなります。そのためスコープの対物レンズは40~60mmの物がよく使われています。
なお、スコープの名称における「×以降の数字」は対物レンズ径を指します。例えば「3-9×44」の場合は「最低倍率3倍、最高倍率9倍、対物レンズ径44mm」のスコープの事を指します。
アイレリーフ
アイレリーフとは接眼レンズの焦点距離の長さです。もう少し噛み砕いて説明すると、『接眼レンズと目までの最適な長さ』のことで、スコープを覗き込む位置がアイレリーフよりも遠かったり、近かったりすると、獲物の姿を上手く見ることができません。
望遠鏡の場合、接眼レンズに目をベタ付けするため、アイレリーフは短いのが普通です。しかしスコープの場合は発射時の反動があるため、目をベタ付けしていると反動で”目つぶし”を喰らってしまいます。そのためスコープでは望遠鏡よりもアイレリーフが長くなるように設計されています。
ひとみ径
ひとみ径(射出瞳径:しゃしゅつひとみけい)は、目の網膜に送る光の大きさを表す数値です。このひとみ径は(対物レンズの口径)÷(倍率)で計算でき、値が瞳孔の大きさ以下だった場合はスコープを覗いたときの像が暗く見えてしまいます。
例えば、対物レンズ径44mmで倍率が3~12倍のスコープがあったとします。このスコープのひとみ径は、上記の計算から14.6mm~3.6mmになります。
一般的に人間の瞳孔は、明るいときで約2.5mm、暗いときで約7mmなので、このスコープは暗い場所(瞳孔のサイズ>3.6mm)において、最大倍率(12倍)は使えないと判断できます。
近年、安価なスコープの中には”高倍率”をウリにしているのもありますが、実際にひとみ径を計算してみると「少しでも暗くなると、最大倍率が使い物にならない」といった商品が売られていたりします。安物買いの銭失いにならないように覚えておくと良いでしょう。
チューブ径
チューブ径はスコープの鏡筒の太さのことです。先にお話したように、スコープはマウントリングで銃と取り付けるわけですが、マウントリング径とチューブ径が合っていないと取り付けることができません。
現在流通しているスコープは、チューブ径が「1インチ(25.4mm)」と「30mm」の2種類があります。マウントリングを購入するときは、あらかじめチューブ径をメモっておき、買い間違いをしないように注意しましょう。
F.o.V .
F.o.V.(フィールドオブビュー)は、スコープを覗いたときに見える視界の広さです。例えば、倍率が3~12倍、F.o.V.が10~2mのスコープの場合、『3倍率で覗いたときの視界の広さが10m、12倍率で覗いたときの視界の広さが2m』という意味になります。
まとめ
- スコープと望遠鏡の大きな違いは、レティクルの存在と、ゼロインのために照準線を上下できる機構
- スコープに付いている主なツマミは、エレベーション(上下)、ウィンテージ(左右)、フォーカス(ピント)、パワーセレクター(倍率)、ディオプター(視度)の5種類
- スコープの用語で覚えておきたいのが、対物レンズ径(解像度)、ひとみ径(明るさ)、アイレリーフ(スコープと目の距離)、チューブ径、F.o.V.(視野の広さ)の5種類