散弾実包は、狩猟やクレー射撃をする散弾銃所持者はもとより、ゲームや映画で見たことがある人も多い、おなじみの”弾”です。しかし多くの人は、その中身がどういった仕組みになっているのか、知らないのではないでしょうか?そこで今回は散弾実包について、その仕組みについて見ていきましょう。
散弾実包の仕組み
散弾実包(ショットガンシェル)は、発射体となる弾(ショット)、弾を発射する推進力を作る火薬(パウダー)、火薬に着火するための雷管(プライマー)、弾と火薬の間でクッションの役割を持つワッズ、それらすべてを一つに収める薬莢(ケース)、の5つの要素で構成されています。
薬莢(ケース)
散弾薬莢は、本体となるシェルに、真鍮製の金属冠(ロンデル)が取り付けられた構造になっています。ロンデルにはプライマーポケットと呼ばれる雷管を取り付ける部分があり、雷管が衝撃を受けると高圧の火花がシェル内に噴出されます。
ケースの番径と全長
散弾薬莢は、薬莢口の大きさ(番径:ゲージ)と、ケースの長さで、色々な種類があります。番径は、散弾銃の歴史では16種類存在していたと言われていますが、現在ではもっぱら、狩猟・クレー射撃用の12番、海外ではメジャーな16番、スラッグ射撃などによく使われる20番、ライフル銃身を改造した散弾銃に用いられる410番の4種類が代表的です。
ケースの長さは、日本では2・3/4インチ(70mm)、ヨーロッパでは2・1/4インチ(65㎜)がよく使われています。また、薬莢内により多くの弾を込められるように3インチ(76mm)というサイズもあり、マグナムと呼ばれています。
使用できるケースの種類は、散弾銃の薬室の大きさによって決まる
ケースの番径は、散弾銃の機関部のサイズで決められています。すなわち、12番用の散弾銃では、20番、410番などは使えません。
火薬店では、販売する実包が銃に適合するサイズなのか確認するため、弾を取り間違えることは絶対にありえませんが、万が一サイズが違う実包を入れて発射すると、銃が破損するなどの大事故になるので注意しましょう。他の実包と間違えやすい20番実包の薬莢は、黄色で統一されているので、一目で見分けることができます。
ケースの長さは、薬室長70mmならケース長65㎜を、薬室76mmマグナム用なら ケース長 65mmと70mmが”一応”使えます。
ただし薬室長とケース長が違う場合は、射撃の精度が落ちるともいわれているので、原則として銃身の薬室の長さと合った物を使用しましょう。
ケースの末端処理はロールクリンプかスタークリンプ
ケースを閉じる方法は、紙巻ケースの時代は厚紙の丸いフタをかぶせて周囲を蝋で固めるパイクリンプと呼ばれる方法が一般的でした。
しかし現在のプラスチックケースでは、散弾の場合は、末端をじゃばらに折り込んで閉じたスタークリンプ、単発弾のスラッグでは、末端を巻き込んだロールクリンプが主流です。
ワッズ
ペーパーカートリッジの時代にあった、火薬と弾の間に挟んでいた紙の代わりになるのがワッズです。紙巻薬莢時代のワッズは、その名の通り、羊毛や布を固めたもの(wad)で作られていましたが、プラスチックケースが主流になっている現在では、ワッズも薄いプラスチックで作られるようになりました。
ワッズの役割
ワッズの役割は、火薬の燃焼熱から発射体(ペレット)を守ることです。もし火薬の燃焼熱がじかにペレットにかかると、鉛が溶けて粒同士がくっ付いたり、銃身内部に張り付いたりします。
また、散弾に使用されるワッズカップには「足」が付いており、発射時のクッションの役割をしています。
複雑で色々あるワッズの種類
そもそも「ワッズ」は、先に述べたように羊毛や布を固めた物を指します。なので、散弾に使われるワッズは「ワッズカップ」と呼ばれます。ただ、ペレットを包むタイプのワッズは「サボット」とも呼ばれており、特に一発弾(スラグ弾)を込めるタイプをスラグサボットと呼びます。
なおスラグ専用のワッズには、弾の後部に差し込んで凧のヒモのように空中で安定化させるプラムバタと呼ばれるタイプもあります。
日本ではサボットといえば、硬質プラスチックでワッズ包んだハーフライフル用のワッズを指すことの方が多かったりします。この硬質な部分を使って、ライフリング中の弾ごと回転させるというわけです。
ワッズの呼び方や分類は、メーカーや人によってバラバラだったりするので、ここでは「ワッズと言っても、色んな種類があるんだな~」ぐらいに覚えておいてください。
ハーフライフルに付いて詳しくは、下記のページでも解説をしています。興味がある方は是非ご参考ください。
火薬(ガンパウダー)
現在使用される銃用の火薬は、無煙火薬(スモークレスパウダー)と呼ばれるもので、ニトロセルロースを主原料に様々な添加剤を加えて安定化させたシングルベースと呼ばれています。
火薬にも、散弾銃用やライフル用など、たくさんの種類がある
ひとことで「火薬」といっても、散弾実包に使用される火薬と、ライフル実包に使用される火薬には、性能に大きな違いがあります。火薬はサイズや形状によって燃焼するスピードが変わってきます。
雷管(プライマー)
雷管の中には「強い衝撃を加えることで爆発する」というジアゾジニトロフェノールなどの化学物質が詰められています。いうなれば「超強力なカンシャクダマ」です。
雷管が無いと火薬は効率的に燃えない
薬莢に込められた火薬は、雷管の爆発(爆轟)が無ければ効率よく燃焼しません。実際に散弾銃の火薬にマッチで火をつけると(※注)、「ショボボボボボ・・・・」っと花火のように燃えて煙を出すだけ。弾を勢いよく発射するパワーで燃焼しません。
(※ 猟銃用火薬を用途外で使用するのは違法です。マネをしないように)
つまり火薬は雷管の高圧・高熱の衝撃波を受けて、はじめて弾を勢いよく発射するほどのパワーが出せるのです。
ちなみにですが、雷管の衝撃波だけでは弾を発射することはできません。昔、「火薬を入れ忘れてハンドロードした人」の射撃を見たことがあるのですが、「ポン!」という軽い音と共に、3mぐらい先にワッズがポトリと落ちていました。弾を勢いよく発射するためには、雷管の衝撃波→火薬が瞬時に燃焼→高圧の燃焼ガスが発生というコンボが必要になるのです。
弾(ペレット)
散弾薬莢に充填するものは、鉛製の小粒弾(ショット)や、単発弾(スラッグ)といった弾(ペレット)です。しかし散弾銃はペレットに限らず、薬莢に収まる物であれば、基本的に何でも撃ち出すことができます。
散弾銃は「なんでも撃ち出せる銃」
散弾銃で撃ち出せるものは、例えば、花の種(フラワーシードショット)や、爆竹(バードボム)、鳥を追い払うための笛(ホイッスルショット)、弾頭や矢状のダーツショット、マグネシウムの塊を発射して火炎放射器のように使うドラゴンブレスといったものまで、実に様々です。
もちろん当然ながら、日本では散弾銃を狩猟か標的射撃でしか使用することができないため、ドラゴンブレスやフラワーシードなどは国内に売っていません。あしからず。
国内で流通しているショット
日本国内で使用されている粒弾(ショット)は約13種類ほどあります。ショットは大きさによって、バックショット(00B、BB)と、バードショット(1号~10号)に分かれ、狩猟する対象によって使い分けます。
ショットを使い分ける目安は、上表のようなことが一般的に言われていますが、ぶっちゃけあまり厳密に決まっておらず、2~3号で仕留めるとされているカモも、7号の弾で落とせたりします。よってショットを選ぶときは弾のサイズよりも、獲物との距離や、撃つタイミングなどの方が重要になると思います。
スラッグ弾にも色んな種類がある
薬莢にペレットを一発だけ入れるスラッグ弾は、粒弾やライフル弾よりも、はるかに古い歴史を持っています。よって世界には何十種類以上ものスラッグ弾が存在し、その弾の起動や性能はまったく変わってきます。
スラッグ弾の話もとても面白いので、下記ページも併せてご覧ください。
おわりに
- 散弾実包は、薬莢、火薬、雷管、ワッズ、弾の5つで構成されている
- ワッズの種類は色々ある。ワッズの一種サボットはハーフライフルに使用される
- 弾の発射は雷管の爆轟→火薬の燃焼のコンビネーションが必要