「定期メンテナンス」では、銃の機関部を分解し、内部のパーツを洗浄・点検します。これは「日常メンテナンス」と異なり、射撃や狩猟のたびに行う必要はありませんが、銃の性能を長期間安定して維持し、故障を早期に発見するためにも欠かせません。
必要な道具
定期メンテナンスでは、日常メンテナンスで使ったウエスの他に、以下のような道具が必要になります。
パーツクリーナー
パーツクリーナーは、部品に付着した汚れや固まった油分を取り除くための溶剤です。細かい部分にスプレーできるよう、細いノズルが付いたタイプのものを選びましょう。
特別に「銃専用品」として販売されているものはなく、ホームセンターで手に入る一般的な製品で十分に対応できます。
ガンオイル
ガンオイルは、機関パーツに使用する銃専用の潤滑剤です。一般的な潤滑剤(例えば「WD-40」)でも代用可能ですが、「ガンオイル」は特に温度変化に強い素材で作られている点が特徴です。発砲時の高温環境でもオイルが燃えたり蒸発したりせず、また極寒の環境下でも「オイルが固まって動作不良を引き起こす」といったトラブルを防ぐことができます。
なお、同じ「ガンオイル」の名称で販売されている商品でも、Amazonなどで手に入る〝ホビーガン用〟オイルは耐熱性能がありません。実銃用ガンオイルは銃砲店で購入してください。
プライツール
プライツールは、銃の機関部を開放して内部の点検や清掃を行う際に必要な工具です。銃の種類やメーカーによって機関部の開き方や分解方法が異なるため、それぞれの銃に適した工具を準備することが重要です。
基本的に用意しておきたい工具としては、コインネジ、ピンセット、ポンチ、ハンマーなどが挙げられます。これらの工具は100円ショップなどで簡単に手に入れることができます。
上下二連や水平二連などの元折式の場合は、銃床とレシーバーを結合するネジを外す専用ドライバーや、サイドプレートを外す専用プライツールが必要になる場合があります。詳しくは、その銃を購入する銃砲店に問い合わせてください。
スナップキャップ
スナップキャップ(空撃ちケース)は、組み立て直した機関部が正常に作動するか確認するための道具です。空撃ちは、薬室が空の状態で行うと撃針を傷めるリスクがあるため、内部に衝撃吸収機構を備えたスナップキャップを薬室に装填して行います。
稀に、スナップキャップの代用品として〝空薬莢〟を使用する人もいますが、これは絶対にやめましょう。万が一にも実包と混ざってしまう可能性があり、重大な事故が発生する恐れがあります。
機関部品の分離
トリガーユニットの分離
機関部を開放するために、まずはトリガーユニットをレシーバー(機関外殻)から取り外します。レシーバーとトリガーユニットは、コインネジやピンなどで止まっているので、それらを抜く必要な工具を事前に揃えておいてください。今回は代表的な散弾銃である『レミントンM1100』を例に解説をします。
銃種によっては、レシーバーとトリガーユニットが固く嚙み合っていたり、オイルが固着して取り外しにくくなっている場合があります。無理に引っ張ると危ないので、プラスチック製のプライツールを隙間に入れるなどして外してください。
分離したトリガーユニットは撃鉄が上がっている「コッキング状態」なので、引鉄を引いて落とす「デコッキング状態」にしましょう。このとき、そのまま引鉄を引くと撃鉄が勢いよく飛び出して危険です。デコッキングは、撃鉄を指で押さえた状態で引鉄を引いて、撃鉄を落としてください。
パーツのチェック
パーツの種類は銃によってまったく異なりますが、レミントンM1100の場合は次のように分けることができます。これらパーツに加え、細かい部品であるピンやリング類は失くしやすいので、パーツケースなどに入れて管理しましょう。
- トリガーユニット:引鉄や撃鉄などがセットになったパーツ
- ボルトユニット:銃尾栓(ボルト)に撃針が内臓されたパーツ
- アクションバー:排莢や次弾装填を連携して行うパーツ
- リンク:反動を利用して薬室の開閉を行うパーツ
- ピストン類:射撃時の圧力を利用してボルトのロックを外すためのパーツ
脱脂洗浄
分離が完了したら、パーツの下にウエスや新聞紙を敷いて、パーツクリーナーを吹きかけて脱脂洗浄を行いましょう。これにより、パーツに着いた泥や砂、水分、固まった古いオイルなどをいっぺんに除去することができます。
なお、パーツクリーナーは気管に対して強い刺激を与えるため、必ず換気の良い場所でマスクを着用して作業をしてください。
トリガーユニットの洗浄
トリガーユニットは、特に撃鉄バネ付近に汚れが溜まりやすいので、パーツクリーナーの細いノズルを使って念入りに洗浄しましょう。
レシーバーの洗浄
狩猟に出ると、レシーバー内部には泥や砂、木の葉などが良く入り込むので、レシーバー内部もパーツクリーナーを使って洗浄してください。
注油
脱脂洗浄が完了したら、ガンオイルを吹きかけて注油しましょう。注油作業のコツとして、WDー40などの潤滑剤と同じように、ガンオイルも薄く延ばして使用します。ガンオイルの缶を少し遠目から「シュッシュ」と2回ほど吹き、ウエスでパーツ全体に伸ばすようにして、まんべんなくオイルを付着させましょう。
組み立て
すべてのパーツに注油が完了したら、分離した逆の作業で銃の組み立てを行います。初めて機関部を分離する際は工程を忘れないように、スマートフォンで撮影をして記録を取っておきましょう。
動作確認
組み立てが完了したら、一連の動作をテストしましょう。具体的に、スナップキャップを弾倉に込め、ボルトハンドルを引いてコッキングを行い、引鉄を引いて撃鉄が落ち、再度ボルトハンドルを引いてスナップキャップが排莢されるか確認をします。
古い中古の銃に多いトラブルでは特に、正しく組み立てを行っていてもパーツの〝噛み合い〟が微妙に悪くて、動作がスムーズにいかない場合があります。獲物を目の前に「いざ射撃!」という場面で「動作せず!」というトラブルは心に悪いため、スナップキャップを利用した一連の動作テストを強くオススメします。
元折れ式の場合
排莢のためにレシーバーが開放する自動式や手動式に対して、上下二連式や水平二連式は機関部の開放部分はほとんどありません。そのため、これら中折式の銃の場合、機関パーツの洗浄は一般的に「不要」とされています。
しかし、愛銃を長く使用するためには、「機関部をどのように開くのか?」、「内部がどのような構造になっているのか?」を知ることは、決して無駄ではありません。そこで今回はオマケとして、機関部の分離方法をご紹介します。
元折れ式の分解
多くの元折式は、銃床とレシーバーが繋がっています。この結合を外すためには、柄の長いボックスレンチが必要になるので、事前に調べて準備をしておきましょう。
レシーバーは銃床とネジで結合してあるので、ドライバーを使用してネジを外します。
水平二連式の場合は、機関パーツが両側のプレートに取り付けられているので、このプレートを外します。このプレートの外し方は銃によって異なりますが、特にアンティークな銃の場合は〝隠しネジ〟になっている場合も多くあります。
後は、自動式などと同じように、脱脂洗浄後にガンオイルを塗って組み立てます。
注意点として、サイドロック式の撃針は銃床と一体化しているため、木製部分にはパーツクリーナーやオイルを使わないようにしましょう。どうしても汚れが気になるようであれば、ウエスで軽くからぶきする程度でおさえておきましょう。
まとめ
- 散弾銃の定期メンテナンスは『機関部』の清掃と注油を行う
- メンテナンス後は一連の動作がスムーズにいくか、スナップキャップを使ってテストする
- 上下二連、水平二連などの中折式は、基本的には機関部のメンテナンスは不要