タヌキ肉を食べよう!

タヌキ肉アイキャッチ

 「タヌキの肉は臭くて食べられない」という言葉を耳にされたことはありませんか?確かにタヌキ肉には、食べると胃の中から「ズモモモ・・・」と盛り上がってくる独特の獣臭があります。
 しかし、だからと言ってタヌキ肉が『たべられない』というのは、正鵠を射た言葉ではありません。ジビエの世界では、『肉が臭い』と『料理が臭い』は、まったく別物として考えなければなりません。

3つのポイント
  • 臭う・臭わないは個体差、特に食習慣によって変わる
  • 皮下脂肪・内臓脂肪はたっぷりだが、肉には脂肪分が少ない
  • 骨ごと料理して出汁を取ると、脳内に日本昔話の風景が広がる


タヌキ肉の臭いは個性によって強さが違う


 平野や雑木林、里山、河原など、人里に近い場所に生息するタヌキは、むかし話にもよく登場する、日本人に馴染み深い動物です。狩猟対象としては、太古から毛皮をとるために盛んに猟獲されていましたが、現在タヌキを目的として狩猟をしている人はほとんどいません。

 しかし、タヌキは警戒心が薄く、イノシシやシカ用にかけた箱わなに簡単にかかるため、トラッパー(わなハンター)にとっては小憎らしい相手です。
わなにかかったタヌキは、「もう来るなよ」とリリースされるのが普通ですが、家庭菜園やごみ箱を荒らすような輩には”サムズダウン”が下されることもあります。

タヌキ肉の臭いは、洗ってない犬臭


 タヌキ肉には独特の臭いがあります。この臭いは、料理をしているときや、肉を噛んでいるときはそれほど気になりませんが、食べたあとしばらくすると、胃の奥から鼻にかけて、洗ってない犬の臭いが、むわぁ~・・と登ってきます。

獣臭は食べているエサによって強さが違う


 タヌキ肉の持つ臭気は獣臭と呼ばれますが、この獣臭はタヌキに限らずほとんどのジビエが持っており、その臭いの度合いは食べているエサによって大きく変わります。
 これは別に科学的に証明されているわけではありませんが、獣臭は動物性のエサを食べている個体は強い傾向があります。中でも、サワガニやタニシのような水棲生物を多く食べている個体は、肉に強烈な臭いを持っていることが多く、解体中でも肉から臭気が立ち上ってくるほどです。
 

雑食のタヌキは、特に臭いの差が激しい

 タヌキは「目についたものは何でも食べる」という好機主義的雑食と呼ばれる習性を持っています。 そのためタヌキは他の動物に比べて、個体差による臭いの差が大きく出ます。

 これは体験談ですが、私が初めて千葉の山で獲ったタヌキは、肉にほとんど臭みがありませんでした。しかし後日、別の場所で獲ったタヌキは、そのあまりの激臭に解体中も顔を背けっぱなしになるほど強い獣臭がありました。
 今となっては、その原因が食べ物であることを証明する術はありません。しかし少なくとも、同じ時期に獲ったタヌキにこれほど大きな差が出るということは、個体差が大きいということだけは確かだといえます。

臭いは人によって感受性が違う

 なおジビエの持つ獣臭は、人によって感じ方が変わるということを覚えておきましょう。
 以前、闇ジビエというイベントで、参加者に(同意のもと)なんの肉かわからないようにしてタヌキ肉を出したのですが、「臭くて食べられない」という人もいれば、「臭いは気にならない」という人、「この肉の香りが好き!」という人など、感想は様々でした。
 他の肉でアンモニア臭がする肉に対しては、ほぼ全員が「悪臭」と答えていたのを見ると、獣臭は人によって感受性が異なるようです。
臭いに対する感受性の違いは、パクチーの臭い(青葉アルデヒド)なんかでも見られます。

脂肪は多いが、肉にはほとんど付いていない

 
 猟期中(11~2月)にかけて獲れるタヌキは、身に大量の脂肪を蓄えています。ただしその脂肪分は、牛や豚のしっかりとした脂肪とは異なり、泡のような脂の膜が皮下と内臓を”覆っている”感じです。

肉質は牛肉の赤身のようだが、旨味はそれほど感じられない

 タヌキの脂肪は筋肉を覆っているだけなので、肉の内部にはほとんど脂肪が付いていません。肉の断面は牛の赤身のようですが、肉にはそれほど旨味はなく、脂分もないため、食感はパサパサしています。

マズイ料理しか作れないのは、料理人のウデが問題だ

 タヌキ肉は、獣臭が強く、肉に旨味も少ないため、よく「臭くてまずい」と言われます。しかし・・・確かに肉は美味しくないかもしれませんが、料理が美味しくないのは料理人の問題です。

 例えば、ヨーロッパに生息しているノウサギ(ヤブノウサギ)は、その肉に強烈な獣臭を持っており、普通に焼いただけではとても食べられたものではありません。しかしヤブノウサギの肉をワインを加えながら三日三晩煮込み、臭みを十分に揮発させると、『リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル』と呼ばれる、数あるフレンチの中でも”最高峰”と呼ばれている味わいになります。


 
 ジビエ料理を楽しむうえで重要なマインドなので、ここまでの話をまとめておきましょう。 私はジビエ料理の面白さは、これら一クセも二クセもある食材を”いかにうまく使いこなすか”というところにあると思っています。

①『美味しくないジビエ』は、野生動物が人間に食べられるために生まれてきたわけではないので、当然存在する。

②『美味しくないジビエ料理』は、その料理を作った料理人に問題がある。料理人に食材を使いこなすウデがあれば、この世にマズイ料理は存在しない。

臭いは揮発させる。旨味は骨から引き出す。


 臭いを緩和しながら旨味を足す料理方法としてオススメなのが、骨と一緒に長時間煮ることです。
 タヌキ肉の獣臭が、なんという化学物質なのかはハッキリとわかりませんが、基本的に人間が食材から”臭い”と感じる物質は窒素化合物です。この窒素化合物は100℃付近で揮発するので、水から煮出してガンガン沸騰させれば、臭い成分を消すことができます。

 ちなみに、ハーブや香辛料といったものは、『臭いを消す』ではなく、『臭いをごまかす』食材なので、胃の中から立ち上る獣臭に対しては、あまり効果がありません。

旨味は骨まわりに多く含まれる


 またタヌキ肉を煮るときは、骨付きのまま火にかけましょう。牛テールや豚骨スープ、またフォン・ド・ボーのように、動物の骨には多くの旨味成分が含まれています。そこで骨付きのまま煮ることで、肉に旨味成分を移してやることができます。また骨付きのまま茹でると、肉が骨に引っ張られて縮まないため、食感が柔らかく仕上がります。

タヌキ肉は滋味豊かな味わい


 このように時間をかけて臭みを消し、旨味を足したタヌキ肉は・・・具体的に説明するのが難しいのですが、なんというか日本昔話に出てきそうな味がします。

囲炉裏の前に座ったおばあさんが、ゆるゆると鍋底をおたまで掻き、割れ茶碗に注ぎ込まれた汁を「ズズズ」とすする

  ・・・みたいなイメージで、体の奥から滋味があふれ出す、なんともホッコリとした気分になれる味わいです。

 「料理にそんな手間をかけたくない!」という人もいるでしょうが、ジビエ料理はファーストフードではありません。食材と対話しながらゆっくりと料理を作る楽しさがあってこそジビエの味が引き出せる、最高のスローフードなのです。

おわりに

 今回は、ちまたで”臭い”と噂される『タヌキ肉』についてお話をしました。チカト商会ではタヌキ料理だけでなく、その毛皮を使って皮をなめす方法などもご紹介しています。合わせてご覧いただけましたら幸いです。

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