「森の番人」と呼ばれるツキノワグマは、本来、人間との接触を避ける用心深い動物です。しかし近年、ツキノワグマが里山に出没し死傷事件を起こす凶悪な事例が後を絶ちません。この理由は、ツキノワグマが「人間が弱くなっている」ことに気付いたからだと思われます。
ツキノワグマってどんな動物?

日本に生息するクマは、四国の一部と本州北部に生息するホンツキノワグマと、北海道に生息するエゾヒグマの2種類です。
両者は混同されがちですが、体重はエゾヒグマの方が2倍以上大きく、習性も全く異なります。まずは「北海道のクマはヒグマ」、「北海道以外のクマはツキノワグマ」と覚えておきましょう
森の番人としての役割

ツキノワグマは、木になっている果実を採るために枝を折ったり皮を剥いだりして木を枯らす原因を作ります。そのため、「ツキノワグマは自然を破壊する悪い動物だ」という意見もありますが、それは間違いです。

例えば、ツキノワグマが枝を折る行為は、森の風通しを良くして木々の病気を防ぎ、日当たりを良くすることで背の低い草木が育ちやすい環境を整えます。また、樹皮剥ぎは古くて弱った木を枯らして新しい木が育つ余地を作り出し、森の新陳代謝を活性化させる効果があります。

杉やヒノキ、果樹などの木は、人間が剪定や間伐によって適切に管理しています。一方、人間の手が届かない深山では、ツキノワグマが剪定や樹皮剥ぎをすることで森の健全性を維持しています。森を破壊しているように見えるツキノワグマが「森の番人」と呼ばれるのは、このような理由があるからです。
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ツキノワグマとどう付き合うか?

近年、ツキノワグマが人間を襲う事件が多発しています。この理由は様々な要因が考えられていますが、その一つに、少子高齢化や里山の荒廃によって〝人間社会が弱体化している〟ことが挙げられます。
ツキノワグマを守るために狩猟をする

ツキノワグマからの被害を防止するには、何よりも「人間に近づくと非常に危険だ」とツキノワグマに理解させる必要があります。そこで必要になるのが〝狩猟〟です。人間のテリトリーに近づくツキノワグマに、銃や猟犬によってプレッシャーをかけることで、人間との間に無用な接触を防ぐことができます。
人間の住めない土地は自然に返す努力も必要
狩猟によって追い払いを行うとともに、人間が住めなくなった地域は、元の自然に戻していく努力も必要になります。人間の生活する範囲と、野生動物たちが生活する範囲を線引きにして、相互に不要な接触を防ぐゾーニングが、今後の課題だといえるでしょう。
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ツキノワグマの肉の味は?

ツキノワグマの肉について話すと、よく「牛肉っぽい?それとも豚肉っぽい?」という質問があります。はっきり言っておきますが、クマ肉は「クマ味」であり、牛肉とも豚肉とも全く違います。
植物食性が強いツキノワグマは、肉の臭みが少ない
ツキノワグマは肉食性の動物と思われがちですが、実際には木の芽やドングリ、柿やキイチゴなどの果物を主食とする「植物食傾向の強い雑食性」です。そのため、ツキノワグマの肉はキツネやイタチのような強い獣臭はありません。
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クマ肉料理のコツは、油を野菜に吸わせる

冬に捕獲されたツキノワグマは、肉に厚い脂肪がついています。そのまま料理すると油っぽくなってしまうため、クマ肉は必ず一度焼いて油を落としましょう。
ツキノワグマの脂は臭くはありませんが、独特の「乳臭さ」があります。この臭いはかなり強いので、ゴボウやニンジン、大根などの根菜と一緒に炒めて油を吸わせましょう。こうすることで臭いが和らぎ、野菜にクマ脂独特の旨味が染み込みます。
じっくり煮込んだクマ汁

クマ肉は肉質が固いため、厚い鉄鍋でじっくりと時間をかけて煮込んだ「あつもの(羹)」が最適です。その味は、牛肉とも豚肉とも全く違う‥‥なんとも表現しづらい「クマクマした味」です。
好みが人によってハッキリと分かれる
この「クマ味」は、人によって好みがハッキリと分かれます。個人的には、このクマ味はあまり好きではありません。しかし、一緒にクマ鍋を囲んでいた人は「クマ肉がジビエの中で一番好きかも」と述べていました。人によって好みがハッキリと分かれるという、ある意味でとても面白いジビエだと言えます。
まとめ
- 日本に生息するクマは、北海道のエゾヒグマと、北海道以外のツキノワグマ
- 頭が良いツキノワグマからの人身事故を防ぐためには、狩猟による『追い払い』と、住み分けによるゾーニングが必要
- ツキノワグマの肉は独特の乳臭さを持つ『クマ味』
- クマ味は人によって好みが分かれる