イノシシ肉と双璧をなす人気のシカ肉は、脂肪が少なくヘルシーなジビエです。赤身の旨味がたっぷり詰まった シカ 肉ですが、料理の仕方がかなり難しく、火の入れ方を間違えると「パサパサ」でレバー臭い料理になってしまいます。
“鹿肉”には色んな種類がある
野生動物の肉(“Wild meat”)や狩猟肉(“Game meat”)といえば『鹿肉』を示すほど、シカはジビエの代表的な存在です。しかしひとことに鹿肉(“Venison”)といえど、世界にはおよそ30種類の鹿がおり、それぞれ見た目も、習性も、肉の食味も違います。
鹿肉は種類によって食味がまったく異なる
例えば、アメリカ大陸やユーラシア大陸の北部に生息しているヘラジカ(ムース)は、3mを超える体格を持つシカです。ヘラジカの肉は強いクセと臭いがあるため、一般的に調味料と香辛料をたっぷり使って料理されます。
対して、台湾などに生息しているホエジカ(キョン)は、大型犬程度大きさしかありません。肉質にはクセが無く、揚げ物や炒め物などの簡単な味付けで料理されます。
その他にも世界中には、ノロジカやダマジカ、オジロジカなどの鹿が生息しており、それぞれの肉質は大きく違います。
ニホンジカは、蝦夷・本州・九州・屋久島・対馬・馬毛の6亜種
世界には多くの種類のシカがいますが、日本にはニホンジカと呼ばれる1種しか生息していません。しかし、このニホンジカはさらに細かく、北海道に生息するエゾジカ、本州に生息するホンシュウジカ、九州・四国に生息するキュウシュウジカ、屋久島に生息するヤクジカ、対馬に生息するツシマジカ、鹿児島の馬毛島に生息するマゲジカの6亜種に分けられます。
エゾジカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、ヤクジカの肉は、それぞれがまったく異なる食味を持っており、最適な料理方法や味付けの仕方も変わってきます。
ニホンジカ、味くらべ
ニホンジカは亜種によっても、まったく味わいが異なります。ではそれぞれでどのような味の違いがあるのか?上の図にまとめてみました。
ジューシ ーで肉厚なエゾジカ
ニホンジカのジビエで最も流通量が多いのが、北海道のエゾジカです。エゾジカの肉は、厚みのある肉質と強いコクが特徴で、欧米のアカシカに似た『THE 鹿肉』といえる、王道の味わいを持っています。
バランスの取れた味わいのホンシュウジカ
ホンシュウジカはエゾジカに比べ、味のジューシーさでは劣りますが、そのぶん肉質が柔らかいため、「エゾジカの強い野性味が苦手」という方でも安心して食べられる鹿肉です。
産地としては山梨県や長野県などが有名で、近年では特産店やインターネット通販などで流通しています。
独特の香りと強い旨味が特徴のキュウシュウジカ
キュウシュウジカは、見た目はホンシュウジカにそっくりですが、肉質はホンシュウジカよりも柔らかくなります。肉に独特な“乳臭さ”があり、この臭いを苦手とする人もいますが、身の旨味はホンシュウジカ以上で、近年少しづつファンが増えているようです。
産地としては福岡県が有名で、特に“霊山”として知られる英彦山周辺で獲れたキュウシュウジカは絶品です。
ヤクジカの味わいは「山マグロ」
ヤクジカは滅多に流通していませんが、ジビエ専門レストランで稀に見かけます。肉質は脂っ気がまったくない強い赤身で、クセはほとんどありません。
よくイノシシ肉は「山クジラ」と呼ばれますが、ヤクジカの肉は、言うなれば「山マグロ」です。
鹿肉の部位は大きく7種類
シカ肉の部位は、クビ肉、カタ肉、背ロース、内ロース、バラ肉、スネ肉、モモ肉の7種類に分けられます。さらにモモ肉は、筋肉の付いている場所で食味が変わるため、内モモ肉、シンタマ、外モモ肉に分類できます。
また獣肉処理場によっては、カタ肉を『ミスジ・トウガラシ』、シンタマを『トモサンカク』という部位に分けることもあります。
背ロースは薄くスライスして「もみじ鍋」に
鹿肉で人気なのが、首元から背中にかけて伸びる”背ロース”と呼ばれる部位です。背ロースは、固いスジがほとんど無いため、そのまま薄くスライスして「しゃぶしゃぶ」にします。背ロースを薄切りにした肉は、真っ赤な色合いが「紅葉」に似ていることから、よく『もみじ』と呼ばれます。
内モモ肉はロースト、外モモは煮込み料理に
モモ肉は肉質が柔らかい順に、シンタマ、 内モモ 、外モモに分けられ、シンタマと内モモはオーブンでじっくり焼き上げたローストに最適です。
スジの多い外モモは、ぶつ切りにしてシチューなどの煮込み料理や、細かく叩いて餃子やハンバーグに使われます。個人的にはオリーブオイルでじっくり熱を通して作ったコンフィにするのがオススメです。 外モモと同じようにスジが多く料理しにくいスネ肉は、圧力鍋で煮るとトロトロになり、美味しく食べられます。
カタ肉はスライスして、下味を付けて焼肉に
鹿肉は背ロースとモモ肉ばかりが注目されていますが、私がもっとも美味しいと思う部位がカタ肉です。カタ肉は運動量が多く身が引き締まっているため、旨味が濃い部位です。しかし、そのまま焼くとパサパサになってしまうので、リンゴやオレンジなどの果汁に浸け込み、よく下味を付けてソテー(焼肉)にするのがオススメです。
スライスしたカタ肉をヨーグルトベースのソースでマリネし、串に刺して焼くシカケバブは、知る人ぞ知る絶品料理です!
火の入れすぎはレバー臭の原因になるので注意!
鹿肉を調理するさいは、火の入れすぎに注意しましょう。シカの筋肉中には、アラキドン酸と呼ばれる成分が多く含まれており、これが熱により筋肉中の鉄分と結合すると、レバー臭と表現される、嫌な味と臭いがでます。
このレバー臭を予防するためには、火を入れすぎない・・・極端に言えば生(刺身)で食べるのが、もっとも失敗が無いのですが、当然ながら野生肉の生食は食中毒などのリスクがあるのでオススメできません。
低温調理を使いこなそう!
そこで、鹿肉料理でオススメの調理法が低温調理です。低温調理は、レバー臭が出にくく、なおかつ細菌が死滅する温度で、時間をかけて熱を通す料理方法
で、鹿肉の生の旨味を残したまま、安全な料理を作ることができます。
一例として、写真の左が低温調理した鹿肉、右が火を通しすぎた鹿肉です。その断面からも、低温調理の方が、肉汁が豊富に残っており、食感も柔らかくなることがお分かりいただけると思います。
鹿肉料理は味付けの仕方でも
鹿肉はタンパクな肉質なので、料理のしかたで味わいが大きく変わります。下記にオススメの鹿肉料理方をご紹介していますので、併せてご覧ください。
ちなみに、個人的に一番好きな鹿肉法理法は『ブルーベリーソース』と合わせることですね。意外と合うんですよ。鹿肉とブルーベリーソースって。
まとめ
- ひとくちに「鹿肉」といえど、沢山の種類があり味わいも大きく異なる
- 鹿肉の部位は、クビ肉、カタ肉、背ロース、内ロース、バラ肉、スネ肉、モモ肉の7種類
- 鹿肉料理は火加減に注意する。外れの無い調理法は低温調理