大災害発生!そのとき自宅に保管している猟銃は、どう管理する?

 地震、津波、大雨、土砂災害などの自然災害は、いつ何時、私たちに襲いかかってくるのかわかりません。特に銃を扱うハンターは、有事における猟銃の管理について、事前にシミュレーションをしておく必要があります。そこで今回は『災害が発生した場合の銃の管理』について、考えていきましょう。

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災害時は自宅に銃を置いたまま避難する

 20xx年のある日、あなたは突然の自然災害に襲われ、銃を保管している自宅から避難をせざるおえなくなりました。この時、あなたは銃を持って避難するべきなのでしょうか?それとも、自宅に置いたままにしておくべきなのでしょうか?

災害発生!まずは銃のことより身の安全!

 災害が発生したときは、まず何よりも自分の身を守ることを優先しましょう。そのため、人命救助の役に立たない猟銃や弾のことは一旦忘れて、緊急物資だけを持って避難をしてください。
 銃を自宅に置いたまま避難をすると、空き巣に銃を盗まれるのではないかと心配になります。しかし、自然災害中における人災については、”二の次”と考えましょう。

銃は避難所生活の場に持ち込んでも良いのか?

 被災から一夜明けた翌日、あなたは今回の災害の規模と、『しばらくは避難所生活を余儀なくされる』という情報を得ました。自宅には未だに銃が保管してあります。このときあなたは、銃をどのように管理すればよいのでしょうか?

銃刀法には災害時の管理について明確な指針がない

銃砲刀剣類所持等取締法第10条

 第四条又は第六条の規定による許可を受けた者は、それぞれ当該許可に係る用途に供する場合その他正当な理由がある場合を除いては、当該許可を受けた銃砲又は刀剣類を携帯し、又は運搬してはならない。

銃砲刀剣類所持等取締法   https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=333AC0000000006#428

 避難所での生活を余儀なくされた際、「銃を避難所に持ち込んで身近に置いておく」という管理方法が考えられます。しかしこの案については、銃刀法に『災害時における銃の運搬・管理』に関する規定が無いため、原則として”不可”だと考えましょう。

”宿泊地”での取り扱いと同じように、避難所でも銃を保管できるのでは?

 これは明確に法律で定められているわけではありませんが、狩猟や射撃競技の遠征でホテルや旅館などへ宿泊する場合は、その宿泊場所に銃保管設備が無くても、銃刀法の保管義務違反に問われません。よって「避難所でも銃を保管しておくのは大丈夫なのでは?」とする意見もあります。しかしその理屈は、原則としてNGです。
 なぜなら宿泊場所における銃は、”保管中”ではなく”運搬中”という扱いなるためです。このため、銃を持ち出す理由は『所持許可を受けた用途』のいずれかでないと認められません。
 例え銃刀法第10条の『正当な理由』として避難所に銃を持ちこんだとしても、銃の扱いは『銃の運搬』として厳密な管理(例えば四六時中、銃を身から離さない)が求められるため、現実的に考えて不可能です。

近所に被災を免れた銃砲店がある場合は委託する

 移動できる距離内に被災を免れた銃砲店がある場合は、すぐに銃を委託保管できるか確認をとりましょう。
 災害の規模が大きく、銃砲店だけでは対応ができない場合は、警察署で一時的に保管をしてくれる可能性があります。ただし、これについては地元の銃砲店と所轄警察署の間で取り交わしがあるため、その意向に従うようにしましょう。

銃の適正保管で覚書

大規模災害が発生した場合でも店舗や個人宅にある猟銃や火薬類を適正に管理し事件事故を防ごうと、県銃砲火薬商協会(長谷川晴彦会長、会員20社)と県警は6日、石岡市国府2丁目の銃砲火薬店で、緊急事態に関する覚書を締結した。
県警生活環境課によると、緊急時における銃砲類の保管について、同様の協会と警察が覚書を交わすのは全国初。東日本大震災を教訓に、同協会が「被災店だけで適正保管に努めるのは難しい」(長谷川会長)として、県警に連携を要請して実現した。
覚書は、緊急時に①協会員が店舗の保管状況を警察署に通報②会員店舗は被災して保管不能になった場合、近くの店舗に移動③協会と県警は個人所有者に適正保管を呼び掛ける④県警は会員に連絡し保管の調整や警戒を行い情報提供―などの内容。 
 協会によると、全国的に震災で被災した店舗はなかったが、原発事故後に警戒区域になった福島県富岡町内の店舗が銃砲類の盗難に遭った。長谷川会長は「緊急時に我々だけで運ぶのは難しい。一時的に警察署に保管できるシステムがあれば安心できるし、運ぶ際にも力を借りたい」と話した。県警生活安全部の綿引昭部長は「銃や火薬が紛失すると事件事故につながる。いち早く連絡を取って対応するのが一番」と話した。

茨木新聞 2012年9月6日  https://www.youtube.com/watch?v=ICnUJu3qNas

ボルトやトリガーユニットなどの重要なパーツだけを避難所に持ち帰る

 災害直後の警察署は、てんやわんやの大騒ぎになっているため、銃の管理については対応が後手になる可能性も考えられます。その場合は、ひとまず自宅に保管している銃の重要なパーツ、例えばボルトやトリガーユニットなどを取り外し、パーツだけを避難所に持ち帰って管理すると良いでしょう。
 これら重要なパーツが無ければ、万が一銃の盗難があったとしても、すぐに悪用されるリスクを抑えることができます。

銃や弾を紛失!この場合の対応は?

 避難所生活から数日後に自宅に戻ってみると、あなたの自宅は瓦礫と化し、ガンロッカーや装弾ロッカーも紛失していました。このように、災害によって銃や弾を紛失した場合、あなたはどのような対応をとればよいのでしょうか?

災害による紛失でも、必ず警察に忘失届を提出すること

 災害により所持してた銃や、保管していた火薬類を紛失した場合は、すみやかに所轄警察署へ忘失届を出してください。もし後日、銃や弾が発見された場合、亡失届が出されていないないと、たとえそれが自然災害による紛失だったとしても、銃刀法の管理義務違反、または火薬類取締法違反になる可能性があります。

豪雨災害のゴミから散弾銃実包 土砂に流された? 岐阜

 岐阜県警は15日、豪雨災害の廃棄物集積場から、散弾銃の実包36発が見つかったと発表した。水にぬれており、発射できない状態という。現時点では持ち主から申告はないという。
 関署によると、15日午前、浸水被害があった関市上之保地区の集積場で廃棄物の分別をしていたボランティアが土囊(どのう)袋に入った実包を見つけた。土砂に流されたとみられる。実包は銃とは別に金庫で保管する義務があり、署が火薬類取締法違反容疑で調べている。紛失の届け出もないという。

朝日新聞デジタル 2018年7月15日  https://www.asahi.com/articles/ASL7H6G43L7HOHGB01N.html

被災中に所持許可が失効!この時の対処は?

 大規模災害になると、避難所生活や仮設住宅暮らしが長くなり、銃の管理のことなど考えている余裕もありません。それでは、災害によるやむおえない事情により銃の更新が出来なかった場合、どのように対応をすればよいのでしょうか?

銃所持許可更新の通常フロー

 本題に入る前に、まずは通常の所持許可更新の流れを見ておきましょう。銃所持許可の有効期限は、『所持許可証が発行された日から数えて3回目の誕生日まで』と決まっています。そして、所持している銃を引き続き所持したい場合は、『3回目の誕生日の2カ月前から1カ月前の間』に、必要書類を集めて所轄警察署の生活安全課へ更新申請を行うことになっています。
 銃の更新において注意しておかなければならないが、猟銃等講習会(経験者講習)と、技能講習(空気銃の場合は不要)の存在です。これらの講習会は一般的に1カ月に1,2回程度の開催なので、最低限、所持許可が失効する3か月前には講習を受けておかないと、更新期間に申請が間に合わない可能性があります。

罹災により更新期間中に申請できなかった場合

 災害によって更新期間中に申請ができなかった場合は、市町村が発行する罹災証明書(またはそれと同等の理由を証明できる書類)を添付することで、3回目の誕生日の1日前まで更新申請ができます
 この場合、新しい所持許可証は旧所持許可証が失効してからの発行になるため、原則としてこの間は、狩猟や射撃はできません。

罹災により所持許可が失効した場合

 所持許可証の有効期限が満了してしまった場合は、どのような理由があったとしても所持許可は失効します。そのため所持していた銃は50日以内に、銃砲店などに譲り渡す形で手放し、所持許可証も返納しなければなりません。もし再び同じ銃を所持したいのであれば、猟銃等講習会・初心者講習からやり直す必要があります。
 ただし、所持許可証が失効した日に罹災者であることを証明できる書類があれば、災害に起因するやむおえない事情が終わった日から1カ月までは、更新申請と同じ流れで、同じ銃の所持許可を申請することができます。なお、これは”更新”ではなく、新しく所持許可を交付する形になるため、ライフル銃所持のための銃所持累積10年はリセットされます。

罹災により講習を受けられなかった場合

 罹災によって、技能講習を受ける前に所持許可が失効した場合は、災害に起因するやむおえない事情が終わった後であっても、技能講習に使用する銃が無いため、原則として初心者講習からやり直さなければなりません。
 このようなトラブルを回避するためにも、技能講習はできるだけ早めに受けるようにしましょう。

特定非常災害特別措置法による特例措置が適用される可能性もある

特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律

第一条 この法律は、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るため、特定非常災害が発生した場合における行政上の権利利益に係る満了日の延長、履行されなかった義務に係る免責、法人の破産手続開始の決定の特例、相続の承認又は放棄をすべき期間の特例、民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)による調停の申立ての手数料の特例並びに建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)及び景観法(平成十六年法律第百十号)による応急仮設住宅の存続期間等の特例について定めるものとする。

特定非常災害特別措置法 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=408AC0000000085

 罹災によって講習などを受けられなかったり、申請が間に合わなかったりした場合は、法律に従って所持者の”不利益”になる形で処理されます。しかし災害時には、特定非常災害特別措置法という法律により、修了証明書の有効期限延長や、申請期間の延長が行われる可能性があります。これらの特例がどのような形で設けられるかは、災害規模によって変わるため、しっかりと情報のアンテナを張っておきましょう。

熊本地震で通達された特定非常災害特別措置法 (抜粋)

平成28年5月11日
平成28年熊本地震による災害は、特定非常災害特別措置法に基づく 特定非常災害に指定されました。 これにより一定の地域の方々を対象に、運転免許のような許認可等 (平成28年4月14日以後に満了するもの)について、 存続期間(有効期間)が最長で平成28年9月30日(金)まで延長されます。

●猟銃及び空気銃の所持の許可に係る講習修了証明書を有効に行使できる期間の延長
●猟銃の所持の許可に係る技能講習修了証明書を有効に行使できる期間の延長
●猟銃の所持の許可を受けることができる期間及び技能講習修了 証明書を有効に行使できる期間の延長
●猟銃の所持の許可を受けることができる期間及び技能講習修了 証明書を有効に行使できる期間の延長
●猟銃の所持の許可に係る合格証明書を有効に行使できる期間の 延長
●猟銃の所持の許可に係る教習修了証明書を有効に行使できる期 間の延長
●猟銃又は空気銃の所持の許可の有効期間の延長
●更新された猟銃又は空気銃の所持の許可の有効期間の延長
●許可後、銃砲又は刀剣類を所持するまでの期間の延長
●射撃教習を受ける資格に係る教習資格認定証の有効期間の延長

平成28年熊本地震への特定非常災害法適用についての被災者向けご案内
http://www.bousai.go.jp/kohou/oshirase/pdf/20160511_02kisya.pdf

まとめ

  1. 避難では、自宅から銃や弾は持ち出さない
  2. 避難所生活時も銃を持ちこむのは原則としてNG。所轄警察署の指示に従って、銃砲店や警察署へ銃を預ける
  3. 罹災により更新申請期間を過ぎてしまった場合は、有効期限1日前まで更新申請が可能
  4. 罹災により所持許可が失効した場合は、やむおえない事情がやんだ日から1カ月間まで更新申請と同じ手続きで所持許可申請が可能
  5. その他、特定非常災害特別措置法により特例が設けられる場合がある
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この記事を書いた人

東雲 輝之のアバター 東雲 輝之 株式会社チカト商会代表取締役・ライター・副業猟師

当サイトの主宰。「狩猟の教科書シリーズ」(秀和システム)、「初めての狩猟」(山と渓谷社)など、主に狩猟やキャッチ&イートに関する記事を書いています。子育てにも奮闘中。

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