日本には『散弾銃を10年以上所持しないと、ライフル銃を持てない』という決まりがあるため、イノシシやシカを専門に狩猟をする初心者ハンターの中には、1年目からでも所持できるハーフライフル銃(サボット銃)を選ぶ人が多くいます。
しかしこのハーフライフル、実は世界的に見るとかなり“ヘンテコ”な銃だったりします。今回はハーフライフル銃とはどういった銃なのか?、また、なぜハーフライフル銃が誕生することになったのかについて、お話をしたいと思います。
(2024年3月から「ハーフライフル」の要件が規制強化されました。詳しくは別の記事で紹介をしています。)
ライフルドスラッグガン(RSG)とは?
通称として「ハーフライフル銃(サボット銃)」と呼ばれるこの銃は、日本の法律上の正式名称は「散弾銃およびライフル銃以外の猟銃」といいます。もうすでに名前から“ヘンテコ”ですが、果たしてどういった銃なのでしょうか?
元々「R.S.G.(ライフルドスラッグガン)」という銃
ハーフライフル銃はもともと、海外では「ライフルド・スラッグガン(R.S.G.)」と呼ばれる銃です。このR.S.G.は、銃身にライフル銃と同じ「らせん状の溝(ライフリング)」が掘られており、上写真のようなサボットと呼ばれる特殊なケースに弾頭を詰めて発射します。
サボットを弾頭ごと回転させて撃ち出す
発射されたサボットは、銃身内のライフリングを滑ることで回転が加えられます(上図①)。サボットが回転すると中身の弾頭も同じく回転するため、射出後にサボットから分離した弾頭(②)は、ライフル弾のように回転しながら滑空していきます(③)。
R.S.G.は“散弾銃”の一種
さて、ここまでの話だと「R.S.G.とライフル銃は同じような銃」と思われそうですが、両者には大きな違いがあります。それはR.S.G.が撃ち出すサボットは散弾薬莢(ショットガンシェル)に込められているため、分類上R.S.G.は“散弾銃”です。つまりR.S.G.は「ライフル銃のように精密な射撃ができる散弾銃」というわけです。
弾頭を自由に選択できるのがR.S.Gのメリット
R.S.G.のメリットは「弾頭」を自由に選べることです。ライフル弾の場合、発射できる弾頭はライフル薬莢の口(マウス)に合うサイズでなければなりません。しかしR.S.G.の場合、サボットの中に入るサイズなら“どんな形状の物でも”回転させて発射することができます。
その一例がプラムバタと呼ばれる弾頭です。この弾頭は、通常のドングリ型(プリチェット型)とは違い「槍」のような形状をしており、これを回転させることで高い精密性と貫通力をもたせることができます。
ちなみにこの「槍状」の弾頭は、『装弾筒付翼安定徹甲弾:APFSDS(Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot)』という戦車用砲弾にも採用されていたりします。
R.S.G.を改造して作ったハーフライフル銃
それでは、なぜ日本では「R.S.G.(ライフルドスラッグガン)」と呼ばずに「ハーフライフル銃」や「サボット銃」、「散弾銃およびライフル銃以外の猟銃」といった名前で呼んでいるのでしょうか?
この理由はズバリ、『日本でR.S.G.を販売するためにはライフリングを半分以下に削って流通させないといけないため』です。
「10年縛り」を回避するためにライフリングを削ったR.S.G.
日本でR.S.G.のライフリングを削っている理由は、日本の銃刀法上に「散弾銃を10年以上所持していないとライフル銃を所持することはできない」という決まり、俗にいう『ライフル銃“10年縛り”』があるためです。
ライフル銃に該当させないためにライフリングを削る
日本では法律上、「ライフリングを持つ銃はライフル銃」という扱いになっています。よって、散弾実包を扱う“列記とした散弾銃”であるはずのR.S.G.も、国内でそのまま流通させると“10年縛り”の掟に引っかかってしまいます。
そこでR.S.G.は“10年縛り”を回避するために、あえてライフリングを半分以下に削って、「これはライフル銃ではない銃です」という見せ方をしているというわけです。
そもそもの元凶、“10年縛り”はなぜ生まれたのか?
ここまでの話で、「ハーフライフル銃(サボット銃)」とは、R.S.G.という「ライフリング付き散弾銃」のライフリングを削って造られた銃であると説明をしました。ライフリングを削っている理由は、日本のライフル銃“10年縛り”を回避するためです。
ん?でもこれっておかしくないですか?そもそもR.S.G.は“散弾銃”なわけですから、ライフル銃として規制されること自体がおかしな話です。ピストルや戦車砲にもライフリングは刻まれていますが、これらの銃は「ライフル銃」とは呼ばれません。つまり、たとえ銃身にライフリングがあったとしても、散弾実包を装填する銃は「散弾銃」なわけですから、ライフル銃として規制を受けるのはおかしな話です。
この問題についてもう少し詳しく知るために、そもそもの元凶である「ライフル銃10年縛り」はなぜ生まれたのか見ていきましょう。
10年縛りが生まれたのは1971年の銃刀法改正
ライフル銃“10年縛り”は何も大昔からあったわけでなく、その発端は1971年(昭和46年)の銃刀法改正にあります。当時日本では、1965年「少年ライフル魔事件」や1970年「瀬戸内海シージャック事件」などで『狩猟用に許可されたライフル銃』が事件に多く使われたため、猟銃規制の風潮が高まっていました。
この流れを受けて、当時の国会では「ライフル銃はすべて警察署預りにするべき!」とか「そもそも民間人にライフル銃を持たせるべきではない!」といった強硬策が出されたのですが、そこは当時の大日本猟友会が先頭に立って行政とすったもんだの大激論。
最終的に「ライフリングを半分未満に削った銃であれば『ライフル銃以外の猟銃』として認める。ただしライフリングがある銃は「散弾銃」とは認めないので、『散弾銃およびライフル銃以外の猟銃』として認める」という折衷案に着地したのでした。
なぜ10年?なぜ所持歴?…その理由は闇の中
余談ですが、なぜライフル銃を所持できるまでの期間が“10年”なのか?ライフル銃を所持する要件が散弾銃の「使用実績」ではなく「所持期間」なのか?といった規制の在り方については、当初から疑問視されていたそうです。
一説によると、大日本猟友会のお偉い人が行政官の前で「散弾銃を10年ぐらい持っとけばいいんじゃね?」と“適当なこと”を言っちゃったことが原因と噂されていますが・・・その真相は定かではありません。
ライフル銃を規制するのはそもそも意味があるのか?
日本では上記の理由で、民間人のライフル銃所持が厳しく規制されています。ただ、これって本当に必要なことなのでしょうか?規制の引き金になった様々な凶悪事件も、ライフル銃があったから起こったわけではありません。
「銃が人を殺すのではなく、人が人を殺すのだ“Guns don’t kill people, people kill people.”」という言葉は全米ライフル協会の有名なスローガンであり、これについて色々な意見があるのはわかりますが、それでも銃は「道具」であり、刃物と同じく「使い用」が重要です。
ライフル銃は散弾銃の上位ではない
また、そもそもライフル銃の所持基準が「散弾銃の所持」というのもおかしな話です。ライフル銃と散弾銃は、そもそも使用用途が大きく違います。ライフル銃は遠方の標的を精密に狙撃する銃であり、散弾銃は動いている標的を撃ち落とす銃です。例え同じ「銃」であっても『用途』が違うため、本来であれば両者は分けて考えるべきではないでしょうか?
ハーフライフルは10年縛りで生まれた“負の申し子”
「ライフル銃10年縛りはおかしい」という意見に対して、しばしば「銃の扱いが慣れていないうちは精密射撃(静的射撃)は難しいから、まずは散弾銃でクレー射撃(動的射撃)を練習した方が良い」という人もいますが・・・う~ん、それってやっぱりおかしいと思います。
「サッカーを上手くなりたければ、まずボールに慣れるために野球をしろ」とは言われないように、やりたいことが精密射撃なら、練習内容も精密射撃でなければ意味がありません。実際に静的射撃と動的射撃は、サッカーと野球ぐらいの違いがあります。
規制のために『命中精度を下げた』ハーフライフル銃
ハーフライフル銃は、まさに日本の「ライフル銃に関する不思議な法規制」や「射撃に対するおかしな解釈」によって生まれた“負の申し子”だと言えます。
なぜなら、冒頭に述べたようにハーフライフル銃は、海外でR.S.G.という“完成された銃”から、わざわざライフリングを削るという『改悪』を施して生み出される銃だからです。
現在日本では、大型獣による被害を防ぐために若手ハンターの育成が急務とされています。しかし「10年縛り」のために、若手ハンターはライフル銃ではなく、命中精度が下げられたハーフライフル銃で練習をせざるおえない状態になっています。今、このおかしな制度を見直すときではないでしょうか?
おわりに
- ハーフライフルの元は、海外で販売されているライフルドスラッグガン(RSG)という散弾銃
- 日本に輸入するときにRSGの銃身からライフリングを半分消ずったのがハーフライフル(サボット銃)
- 失注時の「流れ弾」のリスクを抑えるために、精密性を“下げる”という意味の分からない加工。ハーフライフルは正直言ってイビツな存在