くくり罠に使用されるトリガーは色々なメーカーから様々な物が販売されています。そこで今回は代表的なトリガーから『5種類』をご紹介します。仕組みの話だけでなく「こういった猟場での使用」や「こんな狩猟スタイルにオススメ」といった話もするので、皆さんのくくり罠選びの参考になれば幸いです。
トリガーの基本
くくり罠の構成は、獲物の体(主に足)をワイヤで締めて付けて拘束するスネア、スネアを引き絞るための動力、そして、動力を起動させるトリガーの3つで構成されており、各メーカーからセットとして販売されています。
最適な組み合わせは狩猟スタイルによって変わる
くくり罠のトリガーには様々な種類がありますが、その良し悪しは、その人が通う猟場や、その人の性格や狩猟スタイルによって大きく変わります。
土質で最適なトリガーが変わる
例えば、猟場の地質が柔らかい腐葉土の場合、浅く埋めるトリガーでは踏まれた時にグラついて上手く起動できないので、深く埋めるタイプのトリガーが向いています。
逆に、竹林や杉林など地面に根が強く掘り返し辛いような地質では、深く埋めるトリガーよりも、地面をほとんど掘らなくても良いトリガー、または地面に置くだけで設置可能なトリガーが向いています。
気候・狩猟スタイルによっても最適なトリガーは変わる
地質以外の要素でも、例えば「地面が凍結しやすい場所」や、「積雪の深い場所」、「罠をしかける獣道が狭い場所」といった猟場の環境や、「頻繁に罠を掛けなおす人・ずっとかけっぱなしにして置く人」や「多数の罠をしかけて獲物をたくさん獲りたい人・1年に1回でも良いので大物を狙いたい人」といった、狩猟者の性格・狩猟スタイルによっても変わってきます。
直接型・間接型トリガー
トリガーには、初めから動力(主にバネ)がスネアを締めている直接型と、動力のテンションがいったんトリガーにかかり、トリガーが外れることで動力のテンションをスネアにかける間接型の2種類があります。
直接型トリガーの例
直接型は、トリガーが落ちてから、スネアが獲物を捕らえるまでの時間が短いといった長所があります。
例えば直接型の代表例である二重パイプ式では、上図のように獲物が踏板を踏んだ時点で獲物の脚はスネアに入っています。よってトリガーが落ちたタイミングで、獲物の足を素早く捕らえることができます。
間接型トリガーの例
間接型は、トリガーの場所によらず、スネアを自由に配置できるというメリットがあります。
例えば間接型の代表例である蹴糸式では、「トリガーの糸は空中に張り、スネアは地面に張っておく」といった、直接型にはできない使い方ができます。
ただし間接型は、トリガーが落ちてバネが立ち上がるため、スネアが絞まるのに一瞬の遅れが生じます。この時間差を考えてスネアの設置場所を考える必要があるので、比較的上級者向きと言えるでしょう。
横引き・縦引き
動力はスネアを引く向きによって、縦引きと横引きという2つの使い方ができます。
例えば押しバネの場合、バネを立てて埋めるタイプが縦引き、地面と寝かせて設置するタイプが横引きになります。ねじりバネの場合、腕が回転する方向を上にして埋めるのが縦引き、寝かせて設置すると横引きになります。
トリガーには、縦引きに向くタイプと横引きに向くタイプ、またはどちらにも使用できるタイプがあります。そこでトリガーを選ぶ際は、自身がどのような種類のバネを使い、どのように運用するかを考えておく必要があります。
二重パイプ式
直接型・踏み込みトリガー | ||
〇:縦引きの場合、設置可能だが埋めるのがやや面倒くさい △:横引きの場合、空ハジキが多発しやすい |
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◎:縦引きの場合、扱いやすく捕獲率が高い △:横引きの場合、空ハジキが多発しやすい |
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× :一般的な方法では利用できない | ||
〇:内筒にネジがある設計は、適度な隙間を作るため耐凍結の効果を持つ | ||
〇:踏板によほど雪が積もらない限り、特に影響はない | ||
× :筒の間に泥砂が噛んで動かなくなることが多い | ||
・深く埋めるので地面に馴染みやすい ・トリガー荷重があるので、小動物の錯誤捕獲が比較的少ない ・初心者にも扱いやすい |
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・ 深めに地面を掘らないといけないので、設置に手間がかかる ・ 掘り返す量が多いので、獲物に警戒心を抱かれやすい ・ かさばるので保管や持ち運びが不便 ・ 値段がやや高い |
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オーエスピー商会:しまるくん 鎌田スプリング:踏み込み式くくり罠 |
二重パイプ式は、2つの円柱パイプが入れ子になった形状のトリガーで、外パイプをガイドにして内パイプがその中を滑り落ちるようになっています。
そこで、スネアを内パイプの上端に巻き付けておくことで、滑り落ちたときに外パイプに押し出され、スネアがひき絞られる仕組みになっています。
ねじりバネとの相性が良いトリガー
二重パイプ式は特にねじりバネとの相性が良いトリガーで、獲物が内筒を踏むと素早く獲物の脚をくくることができます。
欠点としては、穴を深く掘るため掘り返す土が多くなり、イノシシに対しては見切られやすい場合があります。対策として、イノシシが地鼻(餌を探すために地面に鼻を擦りつけながら歩くこと)を使わない餌場周辺での使用は控えると良いでしょう。
変形型:内パイプレス型
二重パイプ式は外筒だけの使い方もできます。例えばビニール袋を外パイプにかぶせ、スネアを巻きつけます。この状態で獲物がビニール袋を踏むと、ビニール袋が内側に滑り落ちると共にスネアが擦り上がり、獲物の脚をくくることができます。
ただしビニール袋を使ったトリガーは、「ジャラッ」とした感触で獲物が足を引くこともあります。そこで平地に設置するよりも、獲物が飛び降りてくる坂の降り口に設置した方がよいでしょう。
跳ね上げ式
直接型・踏み込みトリガー | ||
◎:横引きの場合、扱いやすく捕獲率が高い × :縦引きの場合、暴発しやすく設置が非常に難しい |
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〇:横引きの場合、設置可能だが、バネの重みで発動が遅くなる場合がある △ :縦引きの場合、設計によっては暴発しやすい |
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× :一般的な方法では利用できない | ||
△:羽の軸受けが凍結すると不発になりやすい | ||
△:羽に雪が積もると不発になりやすい | ||
× :設計によっては泥砂が噛んで不発になる | ||
・二重パイプ式よりも浅く埋めるため、仕掛ける手間が少ない ・羽でバネを放り上げるため、獲物の脚の高いところをくくることができる ・初心者でも扱いやすい |
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・ 荷重調整をしないと、暴発や空ハジキ、錯誤捕獲の危険性が高い ・ 二重パイプ式よりも浅く埋めるため、地質によっては不安定になる ・ 金属部品(軸受けなど)が錆びると、不発の原因になる ・ バネの種類によっては暴発しやすく、設置に手間がかかる |
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オリモ製作販売:踏み上げ式 オーエスピー商会:M式トラップ 鎌田スプリング:オール塩ビ 他、「笠松式くくりわな」と呼ばれるタイプはこのトリガーを持つ |
跳ね上げ式は踏板の左右に羽がついており、獲物が踏板を踏むことで、羽が「逆ハの字」に開きます。このとき羽を締め付けていたスネアは、噛み合いが外れて動力にひき絞られながら、羽も一緒に内側に巻き込むように動きます。結果的にスネアは、羽に跳ね上げられたような軌跡を描きながら絞まります。
足の高い位置をくくることができる
二重パイプ式のようなトリガーでは、トリガーが落ちる寸前に獲物が足を引いて空ハジキになったり、獲物のヒヅメを引っかける浅掛かりになることがあります。
その点、跳ね上げ式トリガーはスネアを放り上げるように動くため、獲物の足の高い位置をくくる可能性が高くなります。
部品が多いほどトラブルの危険性は高まる
跳ね上げ式は二重パイプよりも軸受けやネジといった部品が多くなるため、このような部分に凍結や泥が詰まると不発(獲物がトリガーを踏んだのに、動力が起動しない状態)になる可能性が高まります。
言い換えると、跳ね上げ式は二重パイプよりも環境変化に強く影響を受けるため、あまり長くかけっぱなしにすることができません。
グラつきやすいので下敷きをしく
また、二重パイプよりも浅く埋めることができるので設置が楽という反面、土が柔らかすぎる場所では設置が不安定になりやすいといったデメリットもあります。
対策としては、地面に硬い板(下敷きなどでもOK)などを敷いておくと良いでしょう。
暴発しやすいので注意
跳ね上げ式は押しバネ、ねじりバネのどちらでも使用できますが、縦引きに利用するとバネのテンションが羽の駆動方向にかかるため、設置時に暴発しやすくなります。
この暴発対策として、縦引きにセットしたときのテンションが垂直方向に逃げにくくなるように、羽に角度を付けたタイプもあります。
ジャンプ式
直接型・嵌合トリガー | ||
◎:横引きの場合、扱いやすく捕獲率が高い 〇:縦引きの場合、設置可能だがメリットがあまりない |
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〇:横引きの場合、設置可能だが、バネが重いので立ち上がりが遅くなる ◎:縦引きの場合、扱いやすく捕獲率が高い |
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× :一般的な方法では利用できない | ||
◎:凍結による影響はあまり受けない | ||
△:踏板に積もった雪が邪魔になって、嵌合が上手く外れないことがある | ||
△:泥砂が堆積してトリガーのバネが上手く起動しないことがある | ||
・ 横引きでも足の高い位置をくくることができる ・ 穴を掘る量が少ない |
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・ トリガーを跳ね上げるバネが劣化すると不発しやすい ・ 踏板の噛み合い部分に寄った位置を踏むと不発しやすい ・ 枠(跳ね上がる部分)を踏まれると不発する |
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太田製作所:Wジャンプ 日本一安い罠の店:Xジャンプ |
ジャンプ式は外枠にバネが仕込まれており、「X」字状に跳ね上がるような仕組みを持つトリガーです。
ジャンプ式のコンセプトは跳ね上げ式と同じですが、トリガーにバネ(ねじりバネ)が仕込まれているので強力にスネアを放り上げることができます。そのため、跳ね上げ式では不安があった凍結、積雪といった環境変化に対して耐性があります。
外枠にバネが付いている
ジャンプ式の設置方法は、まず、外枠を上写真のように折って、内部のバネ(ねじりバネ)を圧縮します。
次に、踏板を外枠に噛み合わせて固定します。
この状態から外枠にスネアを巻きつけて、踏板が落ちる程度に掘った穴の上に設置します。
獲物が踏板を踏むと、踏板の嵌合(噛み合っている部分)が外れて、外枠のバネが立ち上がります。すると、スネアを高く持ち上げるので、跳ね上げ式と同じように獲物の足の高い位置をくくることができます。
縦引きでも安心して使える
跳ね上げ式では構造上難しかった縦引きでの利用ですが、ジャンプ式では踏板が嵌合しているので、縦引きでも利用できます。
また、トリガー自体が立ち上がるため、二重パイプ式や跳ね上げ式よりも地面を掘る量が少ないといったメリットもあります。
バネの「へたり」に要注意
ジャンプ式はトリガーにバネを使っているため、バネのへたり(金属が塑性変形を起こして動作しなくなる現象)によって不発する可能性があります。
バネのへたりは、圧縮されている時間が長いほど、使用回数が多くなるほど、大きくなる傾向があります。そのため長期間かけっぱなしにしていると、不発する可能性が高くなります。
レバー式
間接型・嵌合トリガー | ||
× :横引きの場合、一般的な方法では利用できない ◎:縦引きの場合、扱いやすく捕獲率が高い |
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× :横引きの場合、一般的な方法では利用できない ◎ :縦引きの場合、強力なダブルキックバネが特に有効 |
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〇:踏板で引きバネを起動させることができる | ||
◎:凍結による影響はほとんどない | ||
〇:踏板に雪が積もって暴発する危険性もあるが、荷重調整によって防ぐことができる | ||
◎:泥砂による影響はほとんどない | ||
・ 埋めるタイプのトリガーの中では、環境変化の耐性が高い ・ レバーの先に踏板を乗せることで、小さな力で起動できる ・ チンチロを使う設計では、小さな力で起動できる ・ トリガー、動力、スネアを埋める位置を、比較的自由にすることができる |
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・ 構造上、横引きで使用するのは不可能(もしくは非常に難しい) ・ 柔らかい地質では、踏板が踏まれても嵌合部が外れないことがある ・ 扱いに慣れていないと、暴発をして怪我を負う危険性が高い |
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オーエスピー商会:A式トラップ(押しバネ)、C式トラップ(ねじりバネ)、W式トラップ(ねじりバネ・ダブルキック) 三生:スーパーマグナム |
レバー式は、バネの力を抑え込んでいる部分をレバーで噛み合わせ、この嵌合部を外すことで起動するトリガーです。
原理自体はジャンプ式と似ていますが、ジャンプ式はバネの力がスネアにかかっている直接型なのに対し、レバー式はバネの力がトリガー(嵌合部)にかかる間接型になります。
環境変化による耐性が比較的高い
レバー式は二重パイプや跳ね上げ式といった地面に埋めるタイプの中でも、比較的凍結や積雪といった環境変化に強いトリガーです。
そのため、冬場にマイナス気温になる地域での罠や、北海道のような積雪が厚いところといった、厳しい環境でよく運用されています。
自由度の高いトリガー
このトリガーは、バネ・スネア・トリガーの位置を離して埋めることができます。例えば、動力のレバーにヒモを取り付けて踏板(トリガー)の位置から離したり、トリガーとは別の位置にスネアを設置して、トリガーを踏んだ足とは別の足をくくったり、といった方法で使えます。
構造上、バネが駆動する方向に対してレバーを押し下げなければならないため、バネを横引きに使用することはできません(アイディアによってできるかもしれませんが、実用上難しいと言えます)。
ねじりバネ+レバー式の設置例
ダブルキックバネを改造したトリガー。
ねじりバネの上腕にレバーが付いています。
レバーを下腕に引っかけてセットします。
レバーからワイヤーを伸ばして地面に埋めます。
レバー・踏板の工夫で引きバネにも使える
一般的に引きバネは蹴糸を使ったトリガーが用いられますが、レバー式は引きバネのチンチロを組みわせることで、引きバネ+踏板のくくり罠を作ることができます。
上の写真では踏板(100均に売っているステンレスの網)を直接チンチロに止めていますが、ここをレバーのような物に置き換えることで、踏板とバネの位置を離して設置することもできます。
蹴糸式
間接型・空中設置トリガー | ||
× :一般的な方法では利用できない | ||
× :一般的な方法では利用できない | ||
◎:設置方法に高い自由度がある | ||
◎:チンチロが凍結するリスクはほとんどない | ||
◎:積雪の影響はほとんどない | ||
◎:空中に設置するため、影響はほとんどない | ||
・ 穴を掘る必要が無い ・ 蹴糸を張る位置を変えられるので、獲物の体高によって掛け分けることができる ・環境変化による影響をほとんど受けない |
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・ 荷重調整が難しい ・ 蹴糸が見切られる可能性がある ・ 設置に慣れが必要 |
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オーエスピー商会:B式トラップ |
蹴糸式(または「蹴糸・チンチロ式」)は、空中にヒモやワイヤーを張っておき、それに獲物が引っかかったらバネを起動させるトリガーです。
このトリガーは間接型なので、トリガーにはバネの荷重がかかることになります。しかし、獲物に気付かれないような細いヒモではバネの力に耐えることができないため、蹴糸とバネの間にチンチロと呼ばれる部品を挟むような仕組みになっています。
チンチロの仕組み
チンチロには色々な設計がありますが、最も原始的なのは上の図のような構造です。原理としては、1本の棒で「てこ」を作り、小さな力(獲物がヒモを引っ張る力)でバネが起動する大きな力を操作します。
色々なチンチロ
一例として、オーエスピー商会で販売されているチンチロは上図のような仕組みになっています。部品の形状は違いますが、原理としては初めの絵と同じです。
チンチロは上写真のように、金属製のリングと釘を使ったタイプもよく使われています。
蹴糸のサイズ
蹴糸に用いられるヒモは、獲物に見破られないように細くする一方で、引っ張れても切れにくい物でなければなりません。よって、0.28mm(#28番)ほどの針金や、タチウオなどを釣るためのワイヤハリスなどが利用されます。
蹴糸は、あまりピンと張りすぎると獲物が触れたときの違和感が大きくなるため、ある程度たわみを付けて設置します。このへんの調整は慣れが必要なので、蹴糸式は比較的上級者向けのトリガーと言えます。
まとめ
- トリガーには、直接型と間接型の2種類がある
- 今回紹介するのは、二重パイプ式、跳ね上げ式、ジャンプ式、レバー式、蹴糸式の5種類
- トリガーは自分の通う猟場や、狩猟スタイルによって最適な物が変わる