【クレー射撃実践編(番外)】スラッグ弾・サボット弾を使用する射撃競技『ブルズアイターゲット・ランニングターゲット』を楽しもう!

 散弾銃は「散弾」だけでなく「スラッグ」と呼ばれる大きな一粒弾を発射することも可能です。そのため散弾銃はクレー射撃だけでなく、「固定標的射撃(ブルズアイターゲット)」や「移動標的射撃(ランニングターゲット)」といった競技を行うこともできます。そこで今回はクレー射撃の〝番外編〟として、スラッグ弾を使ったこれらの射撃競技について解説していきます。

目次

スラッグ弾を撃つための散弾銃

 スラッグ弾を使用する射撃競技には、クレー射撃用の上下二連式を使うこともできますが、できればより精度の高い散弾銃を使用するのがオススメです。

『スラッグ専用散弾銃』がオススメ

 スラッグ弾を使用する散弾銃は、銃身の長さが26インチで、チョークが無いシリンダー(平筒)であることが望ましいと言えます。
 単発弾であるスラッグ弾は、散弾を撃つチョーク付き銃身(銃身長28~30インチ)でも発射は可能です。しかし銃身が長くチョークが強い銃身では、スラッグ弾が銃口を抜けるまでにかかる抵抗(弾抜抵抗)が高く、射手への反動が大きくなるため、精度を損ねる大きな要因になります。

 もしも専門的にスラッグ弾の射撃を行いたいのであれば、スラッグ弾専用の散弾銃を購入するとよいでしょう。特に、20番のボルト式散弾銃であるミロク製作所製『MSS-20』は、スラッグ専門のシューターに高い人気があります。

精度の高い散弾銃に『ハーフライフル』があったが…

 精度の高い射撃をしたい人に人気があった銃に『ハーフライフル』があります。この銃は「サボット」と呼ばれる専用スラッグ弾をライフリング付き銃身で回転させて発射するため、50~100m内であればライフル銃並みの高精度を持っています。
 しかし、2024年7月の銃刀法が改正されたことにより、これまで散弾銃と同じ要件で所持できていたハーフライフルは、ライフルと同じ要件でしか所持できなくなりました。よって、これから銃を所持しようと考えている人は、ライフリングを「5分の1未満」にした「ごぶんのいちライフル」を選択する必要があります。
 なお、この「ごぶんのいちライフル」については、下記記事でまとめていますので、ご興味があれば併せてご覧ください。

照準器を吟味する

 スラッグ弾で射撃をする場合は、銃に搭載する照準器を吟味することも大切です。クレー射撃では高速で飛ぶクレーに〝ざっくりとした照準〟を付けるために、ビーズサイトやリブといった簡易的な照準器で十分です。しかし、スラッグ射撃は1発の弾を正確に命中させるために、より精度の高い照準器を使用する必要があります。
 照準器の選定には射手の〝好み〟が大きく影響しますが、ランニングターゲットでは標的が動くため、広い視野を確保できるリフレクタサイト(ドットサイトなど)がよく使われます。また、等倍から4倍程度をカバーするショートスコープや、オーソドックスなアイアンサイト(照門と照星を持つ金属製の照準器)を使う人もいます。

固定標的射撃競技

 固定標的射撃は、固定された的紙(ブルズアイターゲット)に向けて行う射撃競技です。「的が動かないからクレー射撃より簡単だ」と思うかもしれませんが、実際にはスラッグ弾を正確に命中させるためには、体の微妙な振動を抑えるコントロールと強い集中力が必要です。

スラッグ弾が使える『大口径ライフル射場』

 スラッグやサボットといった一粒弾を使った固定標的射撃は、大口径ライフル射場で行います。射場の規模は一般的に100mで、国内では最長で300mの距離があります。50m、100m、300mの地点には的紙を設置する架台があり、射手が好みに応じて標的までの距離を選ぶことができます。
 射撃場全体は跳弾の危険性を防ぐため、コンクリートで囲まれた覆道式や、バッフル式と呼ばれる複数の隔壁を備えた設計になっている射場も多いです。

固定標的射撃のルール

 エアライフル、ライフル、ピストルの場合は、固定標的射撃競技に国際ルールがあります。しかし散弾銃でスラッグ弾を使用した射撃には正式なルールはなく、国内でも個人や猟友会が射撃大会を主催している場合が多いようです。
 よってルールは大会ごとに違いがありますが、一般的には50mまたは100m先の的紙に対して伏射、膝射、立射の3姿勢で制限時間内に規定の弾数を発射し、的紙の中心から着弾点がどのくらい近いかで点数を付けます。

着弾点確認用の『スポッティングスコープ』を用意しておく

 固定標的射撃では、弾がどこに命中したかを確認するために、スポッティングスコープという望遠鏡が使用されます。高価なものでなくても構わず、バードウォッチング用のものが1万円程度で販売されているので、あらかじめ準備しておくとよいでしょう。

ライフル射撃場でのマナー

 ライフル射撃場では、射座が区切られており、各射手は正面に設置された的のみを狙います。間違って別の人の的紙を撃たないように注意しましょう。
 的紙を架台に設置または交換する際には、射場に備え付けられた警報器やブザーを鳴らして射場に入る必要があります。他の射手が警報を鳴らした際には、すぐに銃から弾を抜き、銃に触れてはいけません。
 また、固定標的射撃では、1発ずつ弾を装填して発射します。連射行為はマナー違反となりますので注意してください。

固定標的射撃は〝動的〟とは別物

 クレー射撃のような動的射撃と、固定標的射撃のような静的射撃では、同じ銃を使用する場合でも射撃方法がまったく異なります。例えば、クレー射撃では体を大きく動かして素早く照準を合わせる動的な射撃を行います。一方、静的射撃では脈動による腕の振るえさえも考慮し、極力体を動かさずに静止した状態で照準を付けることが求められます。このため、動的なクレー射撃と静的な固定標的射撃をどちらも行う場合は、それぞれに合わせた射撃技術を身に付けていく必要があります。

ランニングターゲット

 移動標的射撃(ランニングターゲット)は、レールに沿って動く標的を狙う射撃競技です。この競技は、特にイノシシやシカを専門とする狩猟者に人気があり、猟犬に追われた獲物を待ち伏せして射撃するシチュエーションを再現した練習として活用されています。

ランニングターゲット競技のルール

 ランニングターゲットは、50mまたは100m先に設置された標的紙が左から右、右から左に動きます。標的の動きはスロー(5秒)とファスト(2.5秒)の2つがあり、射手は標的が移動しきるまでにスラッグ弾を1発発射します。
 この競技には国際射撃連盟(ISSF)のルールや、民間団体によるRT部会ルールがありますが、一般的には猟友会や銃砲店、個人の呼びかけで射撃会が開催されることが多いようです。なお、非公式の大会では的紙ではなく風船を使うことも多く、「命中したか否か」を観客がわかりやすくする工夫がされていたりします。

ランニングターゲットは〝リード射法〟の練習として最適

 イノシシやシカなどの大物猟では、逃げる獲物に対して『リード射法』で照準を付けるのがセオリーとされています。そこでランニングターゲットもリード射法で行い、このときできる限り『どのくらいのリードを付けると命中するのか』を意識して練習しましょう。
 なお、リード射法については『スキート競技』のページで解説をしているので、よければ併せてご参考ください。

『リード距離感』を身に付けることで大物猟の命中率を高める

 実際の大物猟では、獲物の距離や速度が毎回異なるため、照準をリードする距離は勘に頼るしかありません。しかし、ランニングターゲットを繰り返し練習することで「リードの距離感」を把握できるようになります。
 例えば、50mのランニングターゲットを何度も練習し、「照星2つ分先をリードする(見越す)と当たりやすい」といった結果が得られたとします。この情報を基に、実猟で50m以上の距離を走る獲物に出会った場合は、「照星2つ分より長くリードを取る」と判断できます。また、ランニングターゲットの標的より遅い獲物と出会った場合は、「リードを照星1つ分短くする」といった判断ができるようになります。
 このようなリード距離感があれば、「なんとなく」でリード距離を決めるよりも命中率ははるかに高くなります。もちろん、リード距離は使用する銃(弾速)と照準器によって見え方が大きく変わってくるため、ランニングターゲットの練習では実猟に使う銃と照準器を用いる必要があります。

まとめ

  1. スラッグ射撃を行う場合は、できればスラッグ専用銃、またはスラッグ専用の銃身を用いる
  2. 固定標的射撃(ブルズアイターゲット)は、一発弾を精密に命中させる技術が必要になる
  3. 移動標的射撃(ランニングターゲット)は、大物猟(リード射法)の練習に最適

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この記事を書いた人

学生時代に空気銃競技をはじめ、20代でクレー射撃を始めました。狩猟はやっていません。火薬代が高騰しすぎていつも金欠。

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