精密な射撃が求められるライフル銃には、ライフリングの清掃が欠かせません。しかし、どのくらいの頻度でライフリングの清掃をするのかは人によって意見が異なり、その方法もバラバラだったりします。そこで今回は、ライフル銃のメンテナンス方法について、詳しく解説をします。
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- ライフリングの清掃頻度・清掃レベルは、射撃スタイルによって異なる
- ライフリングを清掃するときは、フェルトやブラシは「薬室側→銃口」へ一方向に動かす
- 半自動式など薬室から銃口まで一直線でない銃は、銃口からロッドを入れた後に、薬室側でフェルトやブラシを装着する
- 拭き上げ清掃では、銃口に汚れやゴミが付いていないか必ず確認する
- 引き金、弾倉など、人の手が触れる部分も重点的に拭き上げる
- ボルトアクション式は、銃床と機関部の取り付けネジ(アクションスクリュー)のトルク確認も行う
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メンテナンスの頻度はどれくらい?

ライフリングに汚れが溜まりやすいライフル銃は、散弾銃以上に頻繁な清掃が求められるように思われます。しかし実を言うと、ライフリングの清掃頻度は「頻繁=良い」とは限りません。
過剰な清掃は、ライフリングや銃口を痛める

ライフリングの清掃は、銃の性能を維持するために不可欠ですが、やりすぎは禁物です。清掃には通常、金属製のブラシを使いますが、このブラシを銃腔に通すたびに、ライフリングはごくわずかですが摩耗していきます。
特に注意したいのが銃口です。銃口の状態は、ライフル銃の命中精度に直接関わる非常にデリケートな部分。清掃のたびに硬いブラシが接触することで、気づかないうちに傷つけてしまうリスクがあります。
このように、過剰なクリーニングは、良かれと思っていても、かえって銃の寿命を縮めてしまうことになりかねません。「掃除すればするほど良い」というわけではないことを、まず覚えておきましょう。
銃の使用頻度によってメンテナンスは変わる
どのくらいの頻度でライフリングの清掃を行うかについては、ライフルの「使い方」によって大きく変わってきます。
例えば、射撃競技などで1日に数百発も撃つようなアスリートであれば、精度を維持するために毎回ライフリングを清掃するのが理にかなっています。
一方、一般的なハンターのように、年間に十数発〜数十発程度の使用頻度であれば、「猟期が終わった後に清掃する」程度の頻度で十分な場合が多いでしょう。
「85点」のメンテナンスを目指す
ライフル銃のメンテナンスは、使う道具や手順も人それぞれで、突き詰めれば非常に奥が深い世界です。そこで「完璧」を目指そうとすると、手順はどんどん複雑になり、高価な専用ツールも必要になってきます。
しかし、これからライフル銃のメンテナンスを始める方や、一般的な使用状況の方であれば、最初から完璧を目指す必要はありません。まずは「必要十分」と言える「85点」くらいのレベル、つまり「実用的なメンテナンス」を目指しましょう。
拭き上げは毎回行う

ライフリングの清掃頻度は使い方によって異なりますが、銃の外側のお手入れは別です。狩猟や射撃で銃を使ったら、その日のうちに銃身や機関部などの外側をきれいに拭き上げることを習慣にしましょう。
メンテナンスの基本ツール
ここでは、一般的なライフル銃のメンテナンスで使用される基本的な道具をご紹介します。銃の種類やこだわりによって使う道具は変わりますが、まずはこれらを参考に、無理のない範囲で揃えてみましょう。
ライフリング清掃用品
クリーニングロッド

クリーニングロッドは、銃腔内にフェルトやブラシを通すための棒です。先端にはジャグやブラシを取り付けることができる構造になっており、押し込むことでライフリングに沿って自動的に回転する構造になっています。
ジャグ

ロッドの先端に取り付け、フェルトやパッチを固定するためのアタッチメントです。フェルト用は針状、パッチ用は先端が割れている形状があります。
クリーニングフェルト・パッチ

銃腔内の汚れを拭き取ったり、オイルを塗布したりする際に使用します。フェルトは円筒形で中央に穴が開いており、ここにクリーニングロッドのジャグを刺して使用します。
クリーニングパッチは一枚の布製で、ジャグに挟み込むようにして使用します。
ブラシ(鉛落とし):

銃腔内の鉛や銅を除去するためのブラシで、銅製やナイロン製など素材に種類があります。狩猟用ライフル(大口径)の場合は銅ブラシ、射撃競技用(小口径)には柔らかいナイロンブラシを使用しますが、どちらを使うかは狩猟者の好みによります。ただし、銅を溶かすソルベント(溶剤)を使用する場合は、銅製ブラシは使えないので注意が必要です。
オイル等
ガンオイル

錆止めや潤滑を目的とした低粘度のオイルで、火薬の燃焼で高温になる銃内部でもスラッジ(油が劣化してできるドロドロの物質)ができにくい物性をしています。
使用するオイルは、銃砲店で購入できる〝専用品〟が望ましいですが、「バリストール」と呼ばれる汎用オイルも良く使われます。
防錆潤滑剤

拭き上げなどに使用するオイルはガンオイルでも良いですが、高温にならない銃身外側や機関部周りは、低粘性の防錆潤滑剤がおすすめです。
プロの銃砲店では、カー用品店やAmazonでも手に入る「WD-40」と呼ばれる商品が、よく使用されています。
耐熱グリス

銃の動作部分で特に高温になるパーツに使用するグリス。一般的なガンオイルよりも高温・低温に強く、火薬の燃焼熱にさらされるボルトや撃鉄(ハンマー)周辺のスムーズな作動を維持するために使用します。
ソルベント(今回の解説では不使用)
鉛や銅などの金属を化学的に溶かす溶剤で、徹底的なクリーニングを行う際に使用します。一般的なメンテナンスではそれほど必要性はないため、今回は使用しない前提で解説します。なお、使用する場合は、製品の指示に従い、換気を十分に行ってください。
拭き上げ用品
ウエス

銃の外側などを拭き上げる布。毛羽立ちや糸くずが出にくい紙製ウエスがおすすめです。「キムワイプ」と呼ばれる紙製ウエスがよく使用されています。
綿棒

薬室内部や細かい部品の清掃に使用します。一般的な綿棒でも十分ですが、大小色々なサイズを揃えておきましょう。一番大きな綿棒はペット用品として売られています。
その他の便利アイテム
トルクスレンチ

銃床と機関部を固定しているネジ(アクションスクリュー)、また、スコープマウントの締め付けトルクを確認するための工具。緩むと精度に影響するため、定期的なチェックが推奨されます。適正トルクは銃の種類によって異なります。
セーフティフラッグ

自動式の場合、装弾が装填されていないことを明示するために、セーフティフラッグを薬室に挟んでおきましょう。
バイポッド

銃を立ててメンテナンスを行う際に便利です。バイポッドが無い(または銃に取り付けられない)場合は、ベンチレストや柔らかいクッションを用意しておきましょう。
ダミーカートリッジ

空撃ちによる撃針への衝撃を和らげるためのダミー弾。長期保管時に撃鉄バネを休ませる目的でも使用されます。ただし、1年に1回以上使用するのであれば、撃鉄バネを休ませる必要性はありません。誤装填を防止するために、近年では〝非推奨〟とされています。
ライフリングの清掃

ライフリングの清掃方法は、ボルトアクション式とそれ以外(半自動式など)で異なります。まず、有名なボルトアクション式ライフルであるレミントンM700を例に、ライフリングの清掃方法について見ていきましょう。
ボルトユニットの手入れ
ボルトアクション式は、ボルトを取り外すことにより、薬室から銃口まで一直線になります。そこで、まずはボルトを取り外し、ボルトの清掃を行いましょう。

ハンドルを操作してボルト(ボルトアセンブリ)を銃から取り外します。このとき、錆や傷がないか目視で確認します。

薬莢の底が当たる面(ボルトフェイス)の汚れを、綿棒などを使ってきれいに拭き取ります。

ボルトから撃針を取り外すためには、専用の工具が必要になります。レミントンM700の場合は、ボルトハンドルの後部に専用の工具を挟むことで、中の撃針を取り外すことができます(工具が無い場合、撃針の清掃は必須ではありません)。





撃針の先端やボルト内部の汚れを綿棒で拭き取ります。撃針の先端や摺動部(擦り合う面)に、ごく少量の耐熱グリスを塗布し、綿棒で薄く延ばしましょう。ボルト内部にも薄くグリスを塗ります。


工具を使って、撃針をボルトアセンブリの中に戻します。ある程度ねじると、撃針バネが伸びて撃針がボルトフェイスから飛び出します。ねじりすぎるとパーツを痛めるので注意しましょう。

ボルト先端付近にある、銃身と噛み合ってボルトをロックするための突起(ロッキングラグ)に、耐熱グリスを少量塗り、綿棒を使って薄く延ばしましょう。
ライフリングの清掃(荒掃除と注油)
ライフル銃の銃腔内には、弾頭が通過する際に鉛や銅合金(ジャケット材)が付着します。これらを放置すると、異種金属間でガルバニック腐食と呼ばれる錆が生じます。そこで、まずは銃腔内の大きなゴミや汚れを除去し、ガンオイルを塗布しましょう。

作業がしやすいように、銃口を下に向けた状態で固定します。バイポッドが無い場合は、柔らかいクッションなどを置きましょう。

クリーニングフェルトをジャグに取り付けます。ジャグはクリーニングロッドの先端に取り付けましょう。

ボルトを取り外した開口部から、フェルトを取り付けたロッドを挿入します。ロッドはライフリングの溝にそって回転するため、ゆっくりと力を入れながら挿入していきましょう。

ブラシが完全に銃口から抜けたら、ロッドを引っ張って抜きます。使用済みのフェルトはジャグから自然に落下します。

初めに乾いたフェルトを通すことにより、銃身内に残る大きなゴミや汚れを除去することができます。

新しいフェルトにガンオイルを染み込ませます。オイルを付けすぎると拭き取るのに手間がかかるため、数滴程度で十分です。

オイルを付けたフェルトを銃腔に通します。これにより、銃腔内が湿潤し、次のブラッシング工程での滑りが良くなります。
ブラッシング
ガンオイルで湿らせた後はブラシを使って、ライフリングに残る付着物を除去します。

ロッドの先端をジャグからブラシに交換します。

フェルトと同様に、ボルトの開口部から銃口に向けてブラシを押し出します。このとき、ブラシの固さによっては摩擦が大きいため、ゆっくりと力を入れて押し出しましょう。

ブラシが銃口を抜けたら、必ずブラシを取り外してからロッドを引き抜きます。ライフリングを清掃する作業は必ず「薬室→銃口」に向けて一方向に動かします。もしブラシを銃腔内で「ゴシゴシ」と往復させると、ライフリングに細かなバリが発生して精度を損ねる可能性があります。なお、ブラシを通す回数は「1回」で十分です。

再びロッドの先端をジャグに戻し、新しいクリーニングフェルトを取り付け、薬室側から銃口へ通して汚れを拭き取ります。

新しいフェルトに交換し、汚れが薄くなるまで3、4回程度フェルトを通します。ある程度、黒い汚れが残ったままでも問題ありません。逆に、あまり拭き上げをやりすぎると、銃腔内の油分を完全に取り去ってしまい、かえって錆びやすくなる可能性もあります。
半自動式のライフリングの清掃

中折式やボルトアクション式以外のライフル銃は、構造上、薬室開口部から銃口までがL字型の経路になります。そのため、ロッドを挿入する方向が銃口からになります。ただし大原則として、フェルトやブラシを動かす方向は「薬室側→銃口」になるため、ジャグやブラシを取り付けるタイミングがボルトアクション式の場合と異なります。

まず、先端に何も取り付けない状態のクリーニングロッドを銃口からゆっくり挿入します。ロッドの先端が薬室の開口部(排莢口)まで到達したら、そこでクリーニングフェルトを取り付けたジャグを、ロッドの先端に取り付けます。

クリーニングフェルトを取り付けたら、銃口をしっかりと手で握ってから、ロッドを〝引っ張り〟ます。これによってクリーニングフェルトは、薬室→銃口の向きに動かすことができます。この作業を、荒掃除→オイリングの2回行いましょう。

ブラッシングも同様に、ロッドを銃口から入れた後に、薬室内でブラシを装着しましょう。ブラシを装着したまま銃口からロッドを差すと、銃口を傷つけてしまうため厳禁です。

ライフリングの清掃が終わったら、綿棒にガンオイルを薄く付けて、ボルト(遊底)を清掃しましょう。
全体の拭き上げと安全確認

銃腔内の清掃が終わったら、銃全体の手入れを行います。なお、ライフル銃は散弾銃とは異なり、原則としてトリガーユニットなど機関内部の分解は行いません。メーカー側も分解を推奨していない場合が多く、分解すると保証が受けられない可能性があります。トリガーの不調や弾詰まり(ジャム)が頻発する場合は、無理せず銃砲店に相談しましょう。
傷のチェックと拭き上げ

拭き上げ清掃を行う際は、ウエスに軽くガンオイル(または防錆潤滑剤)を塗布して拭き上げます。拭き上げ時は、特に銃口に汚れが残っていないことを確認しましょう。
銃口以外にも、人が触れるパーツ(引き金や用心鉄)もガンオイルを軽く塗布して拭き上げましょう。手の脂が付着したままになっていると、錆が発生する原因になります。
弾倉の拭き上げ

弾倉内部は、ゴミや汚れが溜まりやすい部位なので、傷や痛みが無いことを確認しながら拭き上げをしましょう。

ライフル銃の弾倉は、一体型かボックス型のいずれかが一般的です。それぞれの形状に合わせて拭き上げましょう。
トルクのチェック

ボルトアクション式の場合は、機関部と銃床を結合するネジ(アクションスクリュー)が緩んでいないことを確認しましょう。ここにガタがあると精度が大きく狂ってしまう原因になります。アクションスクリューは適切な力(トルク)で締めるようにするため、トルクがわかるトルクスレンチを使用しましょう。

照準器のマウントリング周辺も、拭き上げとトルクのチェックを行いましょう。
セーフティフラッグを薬室に挟む

清掃後、保管する際には薬室にセーフティフラグ(チャンバーフラッグ)を挿入してガンロッカーに保管します。ボルトアクション式の場合は、ボルトを取り外した状態で銃本体はガンロッカーに保管し、ボルトは別に鍵のかかる引き出しなどに入れておきましょう。
まとめ
- ライフリングの清掃頻度・清掃レベルは、射撃スタイルによって異なる
- ライフリングを清掃するときは、フェルトやブラシは「薬室側→銃口」へ一方向に動かす
- 半自動式など薬室から銃口まで一直線でない銃は、銃口からロッドを入れた後に、薬室側でフェルトやブラシを装着する
- 拭き上げ清掃では、銃口に汚れやゴミが付いていないか必ず確認する
- 引き金、弾倉など、人の手が触れる部分も重点的に拭き上げる
- ボルトアクション式は、銃床と機関部の取り付けネジ(アクションスクリュー)のトルク確認も行う
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