正しく知ろう『血抜き』のこと。ジビエの〝レバー臭〟は血抜きではなく、火の入れ方の問題です

シカの血抜き

 捕獲した獲物の血を抜く「血抜き」は、安全で衛生的なジビエを得るために重要な工程です。しかし、多くのハンターが口にするジビエの「レバー臭」と血抜きとの間には、実はほとんど関係性がありません。今回は血抜きに関する正しい知識と、ジビエのレバー臭を出さないようにする調理法について解説します。

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  1. ジビエの血なまぐささの原因は「血抜き」ではなく熱の入れ方にある
  2. 血抜きをする1つ目の理由は、獲物の体温を素早く落とし、品質を保つため
  3. 血抜きをする2つ目の理由は、解体作業中に血液による汚染を防止するため
  4. 血抜きをする3つ目の理由は、「確実なとどめ」をさすため

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目次

血は美味しい食材でもある

 よく、食材の嫌な臭いを表現するときに「血なまぐさい」という言葉が使われます。確かに、人間の血は鉄っぽい独特の臭いがありますよね。しかし、〝血〟自体は決して臭いわけではありません。むしろ海外では料理に使われることも多い食材だったりします。

血の味は、ほとんど無味無臭

 血の料理として有名なのは、中国や台湾などの屋台料理で出てくる鴨血(ヤーチェ)でしょう。鴨血はアヒルの血をそのまま茹でて固めただけの食材ですが、まったく血生臭さはありません。
 ・・・というよりも、匂いも味もほとんどありません。食感を楽しむ「ところてん」のような食材だったりします。

代表的な血の料理「ブラッドソーセージ」

 ヨーロッパやモンゴルなどでは、ブタの血を腸に詰めたブラッドソーセージがよく食べられています。ブタの血もカモの血と同じくほとんど無味無臭ですが、熱を加えるとケーキのスポンジのような、面白い食感になります。

「血が臭い」というのは、単なるイメージ

 さてこのように、血自体は臭くも不味くもありません。しかし、狩猟の世界ではよく、「血抜きができていないと、ジビエがレバー臭くなる」という言葉を聞きます。
 結論から言うと、ジビエがレバー臭くなる要因は、調理時の火の入れ方にあります。

レバー臭の原因は〝調理法〟にある

 ジビエを食べたときに感じるレバー臭の原因は、酸化アラキドン酸という物質です。「アラキドン酸」とは、動物の筋肉中に一般的に含まれている脂肪酸の一種で、この物質自体に臭いはありません。
 しかし、このアラキドン酸が100℃以上に加熱されると、まわりの鉄分と結合して酸化アラキドン酸となり、あの嫌なレバー臭が発生します。

生レバは臭くないのに焼きレバが臭い理由と同じ

 この話を聞いて「信じられない!」と思われる方も多いと思いますが、ここで「生レバ」のことを思い出してください。
 今ではすっかり食べられるお店がなくなりましたが、生レバって全然レバー臭さがないですよね?対して、焼肉屋などで食べる「焼きレバー」や焼き鳥の「キモ」なんかは、レバーの臭さがします。
 ジビエのレバー臭さの原因も、まさにこれと同じ〝熱〟に要因があるというわけです。

アラキドン酸は筋肉に含まれるので、血を抜いても無駄

 アラキドン酸は、筋肉の細胞の中にも多く含まれています。よって、例え〝一滴残らず〟血を搾り出したとしても、筋肉中のアラキドン酸まで出すことはできません。
 余談ですが、狩猟者の中にはジビエを水に漬けて肉汁(ドリップ)を落とす人もいます。確かに、この方法であれば筋肉中のアラキドン酸も少なくなるので、レバー臭も出にくくなります。
 ただ・・・そんな〝搾りカス〟にしてまでジビエを食べる意味があるのでしょうかね?どうしてもそのジビエを食べる必要性があるのなら止はしませんが。

レバー臭さを出さずにジビエを料理するためには?

 ジビエをレバー臭さを出さないように調理するためには、先にも述べたように熱のかけすぎに注意することです。ただし、火の入れ方が不足すると、食中毒のリスクが高くなります。
 具体的な火の入れ方については、下記記事で紹介していますので、併せてご覧ください。

血抜きをする意味とは?

箱罠に入ったイノシシにとどめをさす

 ここまでお話したとおり、「血抜き」という行動と「血なまぐさい」というジビエの食味には、大きな関係性はありません。では、血抜きは必要のない行為なのでしょうか?いいえ、そういうわけではありません。血抜きにはちゃんと、やるべき理由が存在します。

体温を素早く低下させる

 血抜きのメリットの1つが、屠体の体温を下げるためです。仕留めた後の屠体は時間と共に腐敗が進んでいきます。このとき体温が高い状態が続くと微生物の増殖が加速し、「腐敗臭」を出す原因になります。そこで血液を抜くことで、残体温をできるだけ素早く落とすようにします。

解体場所を汚さないようにするため

鹿肉の解体、モモ肉を外す

 解体作業では部分肉に分解するときに、太い血管を切断します。このとき体内に血が残っていると肉に付着してしまいます。
 血には臭いはあまりありませんが、非常に多くの栄養素が詰まっています。そのため血が付いた場所は細菌が繁殖しやすくなり、腐敗臭を出す原因になります。

確実なとどめを刺す

アナグマの血抜き

 血抜きには獲物への「とどめ」という理由もあります。特にタヌキやアナグマといった獣は偽死(死んだふり)をする習性があり、「仕留めた」と思っても息を吹き返し大暴れすることがよくあります。これを防ぐために、血を抜いて「完全なるとどめを刺す!」というわけです。

血抜き用ナイフは必ず1本持っておこう

 血抜きに使うナイフですが、これはハンターによって好みが違います。初心者の方が持つ「初めの一本」でおすすめなのは、モーラナイフのステンレスモデルでしょうか。ナイフについて詳しくは、下記記事で紹介しています。

まとめ

  1. ジビエの血なまぐささの原因は「血抜き」ではなく熱の入れ方にある
  2. 血抜きをする1つ目の理由は、獲物の体温を素早く落とし、品質を保つため
  3. 血抜きをする2つ目の理由は、解体作業中に血液による汚染を防止するため
  4. 血抜きをする3つ目の理由は、「確実なとどめ」をさすため

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