狩猟で捕獲した鳥を食べるためには、腸抜きや羽毟りなどの下処理が必要です。本記事では、マガモやキジなどの大型鳥と、ヒヨドリやキジバトなどの小鳥に分けて、下処理の方法について詳しく解説します。
大型鳥の腸抜き

狩猟で回収したカモやキジは、できるだけ猟場で腸を抜いてしまうことが推奨されます。専用のガットフックがあると便利ですが、100円ショップで購入できる編み物用のカギ針などでも代用可能です。
腸の抜き方

腸抜きの具体的な手順は以下の通りです。まず、足の付け根付近の羽毛をむしり、肛門の位置を確認します。次に、ガットフックの先端を肛門に挿入し、腸の内壁に引っかけるように1.5回ほど回します。そのままゆっくりと引っ張り出すと、腸をスムーズに抜くことができます。
腸抜きをする理由
腸抜きを行う主な理由は、食中毒のリスクを減らすためです。一般的に「肉に臭いがつくのを防ぐため」と考えられていますが、気温が10℃以下で、捕獲後半日程度であれば、腸が腐敗して肉に影響を与える可能性は低いとされています。
しかし、鳥の腸、特に大腸には、食中毒菌や鳥インフルエンザなどの病原体が潜んでいる可能性があります。家庭に持ち込む前に腸を抜いておくことで、これらの感染リスクを低減できます。
途中で切れても気にしなくてよい

鳥の腸は、完全に除去する必要はありません。肛門付近の腸はピンク色をしており、この部分が大腸で、病原性細菌が付着している可能性が高いです。
しばらくすると黒ずんだ腸が出てきますが、この黒い部分まで出てきたら、あとは自然に切れるまで引っ張りましょう。
血抜きは基本的に不要
大型獣の場合、〝確実なとどめ〟を刺すために血抜きは必須ですが、カモなどの鳥類の場合は、それほど気にする必要はありません。カモの体は比較的小さいため、捕獲後すぐに冷えやすく、血液から腐敗が進行するという心配も少ないからです。
余談ですが、カモの血液自体には、生臭さやレバーのような臭いはありません。フランス料理には、カモを窒息死させて熟成させる「エトフェ(窒息ガモ)」という調理法があり、カモの風味を豊かにする方法として知られています。また、中国や台湾では「鴨血(ヤーチェ)」という、臭みのない寒天のような食材として親しまれています。

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熟成(フェザンタージュ)

カモやキジなどの大型鳥は、羽を付けたまま吊り下げて熟成させるフェザンタージュという方法で、より美味しくいただくことができます。寝かせた状態で熟成させると、接地面に水分が溜まり腐敗しやすくなるため、必ず吊るして保管しましょう。
キジは足、カモは首から吊り下げる
鳥を吊るす方向は、どちらでも構いません。しかし、吊るすことで鳥の体内の水分が重力によって下がり、肉が水っぽくなることがあります。そのため、キジの場合はモモ肉の食感を良くするために、足を縛って吊るすのが一般的です。一方、カモは胸肉の食感を良くするために、首を吊るす方法が一般的です。
温度は0~8℃をキープする
熟成時の温度は、0~8℃を保つことが重要です。温度が低すぎると熟成が止まり、高すぎると腐敗が進行してしまいます。日中の外気温が10℃を超えない場所であれば、屋外に吊るしていても問題ありません。
冷蔵庫が普及していなかった時代には、捕獲したカモやキジを軒先に吊るしておくのが、冬の風物詩だったそうです。
熟成期間は最長2週間程度

熟成期間が長いほど、旨味成分は増加します。しかし、時間をかけすぎると、熟成と同時に腐敗も進行します。そのため、熟成期間は最長で2週間程度を目安にしましょう。
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大型鳥の羽毟り

フェザンタージュを行わない場合は、羽は猟場で処理してしまうのが効率的です。体温が残っている間は毛穴が柔らかく、羽が抜けやすいため、冷えてから行うよりも容易に処理できます。
足を木にぶら下げて羽をむしると楽

羽毟りを行うさいは、足を木にぶら下げると作業がしやすくなります。吊るした鳥の下にゴミ袋を敷き、薄手のゴム手袋を着用して羽を毟っていきましょう。抜いた羽毛は細かく舞い散るので、マスクの着用も推奨します。
羽の流れとは逆に引っ張って抜く

鳥の羽は、翼に付いた「風切羽」、尾に生えている「尾羽」、そして体全体を覆う「羽毛」の3つに大きく分けられます。風切羽は、一度根本から折って引っ張ると抜けやすくなり、尾羽はそのまま引っ張ることで簡単に抜けます。
羽毛は頭から尾に向かって生えているため、その流れとは逆向きに、尾から頭方向に向けて毟っていきます。羽毛の下には柔らかいダウンが付いており、手にくっついてしまうため、綺麗に取り除くことができません。ダウンは後で焼くため、ある程度残しておいてもかまいません。
手羽を利用しないなら切っても良い

カモやキジの手羽には、あまり肉が付いていません。羽を毟る時間を短縮したい場合は、翼を根本から切り落としてしまっても良いでしょう。
翼は、関節部分からナイフで切り落とすか、ボーンノッチ(刃のくぼみ)が付いたハサミ、またはラチェット式ハサミを利用して切り落とします。
お湯に漬けると羽が毟りやすくなる

鳥の羽は、お湯を沸かしてしばらく浸すと、毛穴が開いて剥きやすくなります。カモが大量に獲れた場合は、時間短縮のために活用してみましょう。
ダウンを焼く

残ったダウンは、ハンドバーナーを使って焼きましょう。ダウンが残っていた部分は黒炭が残りますが、後で水で洗い流せば、ある程度綺麗になります。
皮ごと羽を除去しても良い

皮下脂肪があまり付かないキジや、皮に独特の臭いがあるカラスなどの鳥は、皮ごと羽を除去する方法も有効です。獣の「剥皮作業」と同様に、皮と筋肉の間に刃を入れて引っ張ることで、羽ごと皮を剥ぐことができます。
熟成させる場合はペットシートに巻く
羽を剥いた大型鳥も、余裕があれば冷蔵庫で2日程度熟成させましょう。このとき、羽を剥いた鳥はペットシートにくるんで余分な水分を除去します。
タンパク質は分解時に水分を出すので、皿の上やラップにくるんでしまうと、接地面がベチャベチャになります。腐敗の進行も早くなるので、水分の除去はしっかりと行いましょう。
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ダックワックスを使った羽の除去

大型鳥の羽毛除去には、ダックワックスと呼ばれる蝋を使用する方法もあります。ダックワックスは脱毛用ワックスと同じ成分で構成されているため、食品に使用しても問題ありません。この方法を用いることで、細かい羽毛まで効率的に除去できます。
ダックワックスの利用法

大鍋にダックワックスを入れ、弱火にかけて溶かしておく。強火にしすぎると燃えるので注意。

表面の羽を1/3ほどむしり取り、羽の中までワックスが染み込むように荒剥きをする。

ワックスが完全に溶けたら、カモの頭を持ち、鍋に浸して2~3回揺らし、羽に蝋をしっかりと染み込ませる。鍋から取り出した後、15分ほど置いて固まるのを待つ。

表面を軽く叩いて「コンコン」と音がする程度にワックスが固まったら、翼を握って強く引っ張り、付け根部分のワックスに割れ目を作る。

割れた部分から指を入れ、固まった蝋ごと羽を引き剥がす。
ダックワックスは使いまわせる
ダックワックスで固まった羽は、再び火にかけると溶けるため、濾して再利用することが可能です。ただし、繰り返し使用するうちに臭いが付着するため、再利用は2~3回程度に留めておくのが良いでしょう。
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小鳥の下処理

ヒ ヨドリやキジバトなどの小鳥も、カモやキジと同様に下処理を行うことができます。しかし、小鳥の場合は、キッチンでより手軽に下処理をする方法があります。
小鳥の簡単な下処理手順

水道から流水を当てながら羽を剥く。水が羽に付着することで、羽が飛び散るのを防ぐことができる。

ボーンノッチの付いたハサミを使って、翼の根本から切り落とす。

同じように、足を切り落とす。

首を根本から切り落とす。このとき、素嚢(鳥の胃袋にあたる臓器)から木の実などが漏れ出るので、洗い出しておく。

鳥の胸を上向きにして、付け根に刃を入れていく。

大腿骨の関節まで刃を入れたら、逆向きに足を曲げて関節を外す。そのまま足を引っ張って、モモを外す。

胸骨の突起に沿って刃を入れ、胸肉に切れ込みを入れる。

鎖骨(フルシェット)に沿って刃を入れ、胸肉とささみを胴体から切り離す。
内臓を出さないため衛生的肉

この方法は、内臓を取り出さずに、胸肉とモモ肉のみを取り出すため、キッチンを内容物で汚すリスクを低減できます。しかし、骨(ガラ)が手に入らないため、スープなどに利用したい場合には適していません。
水流で羽を剥く方法は大型鳥でも効果的
水流で羽を剥く方法は、羽が舞い散らないため、キッチンで行う場合に推奨される方法です。キジやカモなどの大型鳥にも応用できますが、大量の羽が出るため、排水溝が詰まらないように注意が必要です。
内臓と皮を一緒に除去する

大量に小鳥を捕獲し、羽毟りが大変な場合は、皮ごと羽を剥ぐ方法も有効です。小鳥の皮は手で剥くことができるため、羽の付け根にナイフで切れ込みを入れ、そこから皮を剥ぎます。
この際、内臓も同時に除去できます。まず、首の付け根から気道を切り取り、胸骨の下を切開します。そのまま皮ごと内臓を引っ張って取り出し、最後に肛門付近の皮を切って取り外します。
小鳥の熟成は必要ない

小鳥も熟成させると旨味が増します。しかし、銃で捕獲した小鳥は、肉の傷みが大きく、熟成させると傷口から腐敗が進行する可能性があります。そのため、網で捕獲した場合を除き、小鳥の熟成は避けたほうがよいでしょう。
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まとめ
- カモやキジは捕獲後に腸抜きを行う
- 腸抜きは、キッチン内に病原性細菌を持ち込ませないのが主な目的
- 腸抜きをした大型鳥は、4日程度熟成(フェザンタージュ)させる
- 羽毟りは、吊るして行うとやりやすい
- ダックワックスを使った羽の除去方法も便利
- 小鳥は内臓を出さずに肉だけ切り取る方法もある
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