「ハトに始まり、ハトに終わる」。『キジバト肉』は“ジビエの基礎”が詰まっている

 狩猟の世界には「ハトで始まり、ハトで終わる」という格言があります。これは「子供のころは空気銃(※)でキジバト撃ちから狩猟に入門し、年を取ったら体力を使わないキジバト撃ちで余生を送る」という意味だそうです(※空気銃での狩猟は昭和33年までは無免許でOKだった)。このようにキジバト猟は初心者からベテランまで楽しめるだけでなく、その肉の調理も奥深いものになっています。

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キジバトってどんな鳥?

 野鳥のことをあまり知らない人は「キジバトってどこにいるの?」と疑問に思うかもしれません。しかしそのような人でも、早朝にどこからともなく聞こえる「ドゥードゥー・ポッポウ」という鳴き声は聞いたことがあると思います。そう、あのちょっと“不気味”な旋律で鳴く鳥こそ、キジバトです。

“亀”のウロコのようにも見える羽のハト

木に留まったキジバト

 キジバトは全長約33㎝のハト科の鳥で、羽色がキジのように見えることからその名前が付けられています。英語では羽の色味が「亀のウロコっぽい」ということで“Turtle dove”と呼ばれています。
 日本で観察できるキジバトは「オリエンタル・キジバト」と呼ばれる種類で、日本列島を含めた東南アジアの東部にのみ分布しています。しかし『キジバト属(ストレプトペリア)』で見ると、その生息域はアフリカ大陸から南ヨーロッパ、熱帯南アジアまで広く分布しており、アメリカ大陸にもかつて持ち込まれた種が急速に生息範囲を広げています。

最大の特徴は『首のしましま』

 キジバト属の最大の特徴は、首元の羽が黒くなっている点です。日本に生息するオリエンタル・キジバトの場合は、この部分が黒と白のしま模様になっており、遠目からでも目立ちます。

カワラバトとの誤判別に注意

キジバトに似た鳥

 公園や都市部でも広く見かけるカワラバトは、首元がエメラルド色になっている点など、キジバトと見た目が大きく異なるため、誤判別することはまずないと思います。しかし逆光で色味が判らない場合、シルエットはそっくりなので注意しましょう。
 その他、日本国内で見かけるハト科の鳥にアオバトがいますが色味が全然異なるので、見分けることは難しくないと思います。
 国内で観測されるキジバト属にはシラコバトベニバトがおり、両者とも『首元にしま模様』があるのでキジバトとの見分けが難しくなっています。ただし、シラコバトは生息域が関東北東部に限定されており、ベニバトは迷鳥として年に1、2羽程度確認されている程度です。出会うことが稀なので錯誤捕獲のリスクは低いと考えられますが、一応覚えておきましょう。

キジバトはどうやって捕獲する?

 キジバト猟は、キジバトが群がる木を探し、空気銃(エアライフル)を持って飛んでくる獲物を待ち構える待ち猟のスタイルがオススメです。
 一応、散弾銃を使って『飛んでいるキジバトを撃ち落とす』というスタイルも可能ですが、キジバトはヒヨドリに比べて飛行速度が速く、“鳴き声を上げて飛ぶことがない”ため、その難易度はかなり高いといえます。

猟場探しは“人目に付きにくい場所”であることも重要

 キジバトは畑の近くにある立木や疎林、河川敷など、私たちの身近に生息しています。そのため、一昔前までは「子供が遊びで捕獲する獲物」と考えられていましたが、困ったことに近年は開発が進み、あちこちに道路や住宅地ができているため、かつてキジバト撃ちができたような猟場は激減しています。
 さらに近年は皆が携帯電話を持っているため、人目に付く場所で銃を持っていると、そこがたとえ合法の猟場であったとしても通報されかねません。「キジバトに見つからないようにするよりも、通行人に見つからないようにするほうが大事」と揶揄されるほど、近年のキジバト猟は人間に対する“ステルス性”も重要な要素になっています。

ブラインドでステルス性アップ

 キジバト猟ではブラインドテントがオススメです。このテントは主にバードウォッチングで使用されており、縦に長いのでイスに座ることができます。このテントをオススメする理由は『キジバトに見つからないようにするため』‥‥というのもありますが、実のところは『通行人に見つからないようにするため』だったりします。
 キジバトが留まる木を見つけたら、そこから『空気銃をゼロインした距離』にテントを設置して中で待ちます。そして、キジバトが木に留まったのを確認したら、テントの窓から銃口だけを「にゅっ」と出して狙撃をしましょう。

デコイを使う

 キジバトには『仲間が止まっている木を安全と思い込む』という習性があります。そこで、待ちを張った木にハトのデコイをいくつか設置しておくと、捕獲するチャンスが上昇します。
 また2人以上で協猟する場合、1人は木の前に待機しておき、その他の人は猟場を歩いて移動します。人間の気配に驚いたキジバトは仲間が居る安全な場所へ逃げようとするので、デコイを置いた木に留まりやすくなります。
 なお、これは“未検証”なのですが、デコイでなくても『キジバトの写真を張った段ボール』を木にぶら下げているだけでも効果があるという話があります。

すぐに回収しない

 キジバトを空気銃で狙撃した場合は、すぐに回収に向かわずにしばらく様子を観察しましょう。キジバトは元来、警戒心の強い鳥なので、あまりウロウロしすぎると近寄ってこなくなります。そこで、数羽を撃ち落としたら周囲の様子を伺い、素早く回収するようにしましょう。

キジバト肉の味は?

 キジバト肉の味は人によって大きく感想が分かれます。しかし「美味しくない」という人のほとんどは“肉の火入れ”を失敗しているケースであり、キジバト肉自体はちゃんと料理すれば、まぎれもなく美味しいジビエです。

低温でゆっくりと過熱する

 キジバト料理ではローストがオススメです。バターで軽く炒めた玉ねぎやニンニクをキジバトの腹に入れ、180℃に予熱しておいたオーブンに入れて10分ほど加熱します。モモの内側に金串を刺して“赤い汁”が出てこなければ取り出して、しばらく休ませましょう。

 キジバト肉は脂肪分がまったくと言っていいほど無い強い赤身肉です。そのため火を入れすぎてしまうと肉質がパサパサになり、さらに“酸化アラキドン酸”と呼ばれる物質が増えて、俗に「レバー臭」と呼ばれる不快な臭いが強くなります
 よってキジバト料理ではとにもかくにも“ゆっくりと過熱すること”が大事であり、加えて、バターなどで脂肪分を補ってあげることが料理のポイントとなります。

キジバト料理はジビエの基礎が詰まっている

 冒頭で、狩猟は「ハトに始まり、ハトで終わる」という格言を紹介しましたが、ジビエ料理の世界もまた「ハトに始まり、ハトで終わる」です。というのも、キジバト肉は歩留まりが悪く、火入れが難しく、繊細な調味が要求されます。
 しかし逆を言うと、キジバトを美味しく料理できる人は、どのようなジビエでも美味しく料理できる“センス”を持っているといえます。キジバト肉は個体によってほとんど味に違いが無いため、キジバトを「美味しくない」という人は『美味しい料理を“作れない”人』と言っても過言ではありません。ジビエを目的に狩猟をする人は是非、キジバト肉で料理の腕を磨きましょう!
 

アルミホイルで作る!絶品『キジバトのネギ焼き』

 今回はオマケとして、豊和精機製作所の佐藤さんに伺った『超簡単にできるキジバトの美味しい料理法』をご紹介します。本内容は『これから始める人のためのエアライフル猟の教科書 第2版』から転載しています。

水を流しながら羽を剥く

 キジバトの羽は軽くて散りやすいので、水を流しながら剝いていきます。

 翼の部分は肉がほとんど付いていないので、羽をつけたまま調理バサミでカット。

 首には素嚢と呼ばれる胃袋のような器官があるので、首ツルごとカットします。

 足先もハサミでカットし、羽のむしり忘れなどをチェックして完了。ローストにする場合は、内臓を摘出しましょう。

モモ肉を落とす

 胸側を上に向けて置き、足の付け根を動かして関節の位置を確認します。皮に刃を入れて、ボール状の関節をむき出しにします。

 足を背中側に押し込めば、「パキッ!」と足の関節が外れます。

 背中側についている皮を切り取っていきましょう。もう一方の足も同様に処理します。

胸肉を切り取る

 胸骨の突起を確認して、凸になっている左右に切り込みを入れます。この状態では内臓が入ったままなので、刃先で腹を突き破らないように注意してください。

 首元の「V字型」をした鎖骨に沿って刃を入れていくと、上腕骨との大きな関節が見つかります。刃先で関節に癒着した肉を外して、胸肉だけを分離します。

 これで、モモ肉(骨付き)を2つ、胸肉+ささみを2つに落とすことができました。佐藤さんの方法では内臓を取り出さないので、キッチンが糞や内容物で汚染されるリスクが小さくなります。内臓やガラを利用したい場合は、上記の肉をいったん別の場所に退避させた状態で処理しましょう。

アルミホイルで作るお手軽レシピ

 胸肉を一口サイズにカットします。モモ肉は骨が付いたままでもOK。

 フライパンやスキレットの上にアルミホイルを敷きます。その上に、たっぷりとオリーブオイルをそそぎ、キジバト肉を並べたら、塩と黒コショウ、鷹の爪で味付けをします。

 キジバト肉の上にネギを切って並べ、弱火で10分ほど加熱します。

 加熱したらアルミホイルで蓋をして、余熱で10分ほど温めます。

 アルミホイルを使って調理をすればオリーブオイルが適度にキジバト肉に染み込みます。さらに余熱でじっくりと温めるため、レバーのような血っぽい臭いがでることもありません!

まとめ

  1. キジバト猟は空気銃による『待ち猟』がベスト。人目に付かない工夫は必要になる
  2. キジバト肉は火を入れすぎるとパサパサになり、レバー臭が出る
  3. じっくり加熱するローストが鉄板だが、アルミホイルでもお手軽に同様の調理が可能
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この記事を書いた人

東雲 輝之のアバター 東雲 輝之 株式会社チカト商会代表取締役・ライター・副業猟師

当サイトの主宰。「狩猟の教科書シリーズ」(秀和システム)、「初めての狩猟」(山と渓谷社)など、主に狩猟やキャッチ&イートに関する記事を書いています。子育てにも奮闘中。

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