日本のカモ撃ちでは、猟場の立地や射撃できる角度、狩猟者の持っている銃(散弾銃orエアライフル)によって、最適な戦略・戦術が変わります。そこで今回は、カモ撃ちの作戦を立てるコツについて、詳しく見ていきましょう。
この記事の『まとめ』を見る
- カモ撃ちの基本戦略は、散弾銃の場合は『奇襲』、エアライフルの場合は『狙撃』になる
- カモの警戒レベルはLV0「無警戒」、LV1「様子を見る」、LV2「泳いで距離を取る」、LV3「飛んで逃げる」に分けられる。この警戒レベルは、様子を見ることによってある程度わかる
- 『奇襲』では警戒レベルを、LV0→LV3まで急上昇させることがコツ
- 『狙撃』では警戒レベルを、LV1→LV2の間で長い時間キープするのがコツ
- 『奇襲』では、カモを飛ばす方向を考えて攻め込む
- 『狙撃』では、警戒レベルを上げないように接近する、もしくは、遠くから命中させる射撃の腕を磨く
詳しくは、この書籍をチェック!
地形をうまく利用する

散弾銃は、「高速で飛ぶ獲物を撃ち落とすことができる」という長所がある反面、「射程距離が短く、浮かんでいるカモには効果が薄い」という短所があります。そこで有効となる作戦が、死角から近づいて不意をつく〝奇襲〟作戦です。

視力は優れるが、聴力はヒトナミ

カモを含む鳥類は、色覚や視力が人間よりも優れており、広い視野を持っています。そのため、視認されないように接近することはほぼ不可能です。
しかし、カモの聴力や嗅覚は「人間並み」とされており、それほど敏感ではありません。また、カモは夜行性のため、日中は「休息時間」にあたります。そのため、視界に入らないように工夫すれば、接近しても気付かれにくくなります。
土手を利用して忍びよる

奇襲作戦でよく利用されるのが、灌漑用の「ため池」です。ため池は土を盛った土手があり、その先が水面になっています。
この作戦では、土手の上り口からゆっくりと接近し、土手を越えた瞬間に飛び立とうとするカモを狙います。
海の場合は護岸ブロックの陰に隠れる

奇襲作戦はため池だけでなく、防波堤や海岸でも有効です。カモは海にも出ていることがあり、防波堤に群れていることも少なくありません。

このような場合には、護岸ブロックやテトラポッドの陰に隠れながら、休んでいるカモに近づきます。海岸では波の音が足音をかき消してくれるため、奇襲作戦を仕掛けやすいのが特徴です。
エアライフルの場合は河川や用水路

エアライフルでカモ撃ちをする場合は、狙撃作戦が効果的です。エアライフルは射程距離が長いため、遠距離から狙うことが可能ですが、飛び立たれると難しくなります。
狙撃作戦に適しているのは河川や用水路など、視界が開けていて障害物が少ない猟場です。飛び立たないギリギリの距離まで慎重に近づき、正確に射撃を行うことで成功率を高めることができます。
広告
カモの警戒心とフライトディスタンス

カモに限らず、鳥には「フライトディスタンス」と呼ばれる警戒距離があります。この距離は、天敵と判断した相手が接近したさいに「飛んで逃げる」までの距離を指します。
フライトディスタンスはカモの種類によって異なり、さらに周囲の状況や人の気配によっても変化します。
警戒レベルは様子で観察できる

カモの警戒心は、行動や様子を観察することである程度判断できます。具体的には上図のように、レベル0の「無警戒」状態から、レベル1「様子をうかがう」、さらにレベル2「泳いで距離を取る」、そしてレベル3「飛び立つ」という段階に分かれます。
散弾銃の場合はLV0→LV3に急上昇させる
散弾銃を使う場合は、カモを飛び立たせてから撃つ必要があります。そのため、カモの警戒レベル3「飛び立つ」段階にまで引き上げる必要があります。
しかし、警戒レベル2「泳いで距離を取る」の時間が長いと、飛び立ったときに〝すでに散弾銃の射程外〟になる可能性があります。そのため、レベル0「無警戒」の状態から一気にレベル3「飛び立つ」段階まで警戒心を急上昇させる作戦が必要になります。これが、ショットガンナーにとって〝奇襲作戦〟が効果的である大きな理由です。
エアライフルの場合はLV0~1の状態を維持する
エアライフルの場合は、カモに飛び立たれてしまうと狙撃が不可能になります。また、あまり距離を取られると命中率が下がります。
そのためエアライフルマンは、できるだけレベル0「無警戒」の状態からレベル1「様子をうかがう」段階を維持するために、カモとの距離を時間をかけて詰めていく作戦が必要になります。
カモの種類によってフライトディスタンスは変わる

フライトディスタンスは、カモの種類によっても変化します。上図は経験則ではありますが、例えば、マガモやカルガモはフライトディスタンスが長く、ホシハジロやキンクロハジロなどは比較的短い傾向があります。
人の気配の多さでも変化する

フライトディスタンスは、人間の気配の濃さによっても影響を受けます。極端な例で言うと、人が多く集まる公園の池にいるカモは、人間が近寄ってもすぐには逃げません。これは「人間は危害を加えない」と学習しているためです。
これは猟場においても同様で、人の気配が濃い場所、たとえば散歩コースになっている河原や民家の近い用水路では、カモは人に慣れているため、フライトディスタンスが短くなる傾向があります。
人の気配が濃い場所では〝人へのステルス性〟が重要になる
ただし、こうした人目に付きやすい場所で狩猟を行う場合は、〝人へのステルス性〟が重要になることも覚えておきましょう。
一般の人の中には、狩猟に対して〝否定的な感情〟を持つ人も少なくありません。このような人達から「動物を虐待している人がいる」と警察に通報されないためにも、人に見つからないように行動することが大切です。
なお、このような人の気配の多い場所で「発砲する方向に注意する」ことは、言うまでもありません。
〝視線〟によっても変わる

カモに限らずあらゆる動物は、相手の〝眼球の動き〟を察知し、「視線を感じる」ことで警戒心を高める能力を持ちます。
実際に、肉食動物の中には、視線を悟られにくくするために、目の周りが黒い動物が多くいます。これは、獲物から視線が読まれなくする効果があると考えられています。
サングラスなどを着用する
カモ撃ちでも「視線を読みにくくする工夫」が効果的です。例えば、サングラスやフェイスガード、カモフラージュネットなどを着用することで目元を隠し、視線を悟られにくくすることが可能です。
エアライフルマンの場合は、カモに視線を読まれにくくすることで、より近づける可能性をアップすることができます。
広告
カモを目標の方向へ飛ばす

散弾銃でカモを撃つ場合、奇襲を仕掛けて飛び立ったところを狙う方法が有効です。ただし、攻める方向を誤ると、カモが射手から遠ざかる方向に飛んでしまうため注意が必要です。
障害物を背にする方向へ攻める

カモはスズメのような小鳥と異なり体が重いため、すぐに高く飛び立つことができません。そのため、背後に高い木や山がある場所では、高度を稼ぐために必ず「開けた方向」に向かって飛ぶ習性があります。
例:単独で奇襲を仕掛ける場合

例えば、上図のような『ため池』を考えてみましょう。ターゲットのカモは『高い木を背にした窪み』に潜んでおり、狩猟者は死角の土手から奇襲を仕掛けるとします。

この場合、奇襲を受けたカモは飛び立とうとしますが、背後には高い木があるため進行できません。そのため、上昇距離を稼ぐことができる〝開けた方向〟に向かって飛ぶことになります。
待ち受けている方向にカモを飛ばす

複数人でカモ撃ちを行う場合は、メンバーを勢子(奇襲する人)とタツマ(待ち伏せする人)に分けて行動します。このとき勢子は、カモが飛ぶ方向を考えて、攻める方向を考える必要があります。
例:グループで奇襲を仕掛ける場合

例えば、上図のような池を考えてみましょう。勢子が図の方向から攻めると、カモは高度を稼ぐために〝池の奥〟に向かって飛んでいきます。

そこで、タツマ班は池の奥に回り込んでおき、飛んできたカモを迎撃します。
無線があると便利

カモの巻き狩りでは、イノシシやシカの巻き狩りと同様に、情報伝達が作戦成功のカギになります。通信手段としてスマートフォンのグループチャットでも十分ですが、免許不要のデジタル簡易無線機が特に便利です。
猟場の情報を集めておく

奇襲作戦を成功させるためには、事前の下見が欠かせません。猟期前にあらかじめ、猟場の地形やカモの居つきそうな場所、攻める方向・待ち伏せの位置を考えておきましょう。情報の管理には、Googleマップを活用すると便利です。

広告
カモ撃ちで警戒心を抑えながら接近する

エアライフルでカモを狙撃する場合、浮かんでいるカモを遠くから正確に撃つ必要があります。そのため、カモに警戒心を与えすぎないように接近するためのテクニックが重要になります。
時間をかけてジリジリと距離を詰める

理想的には、カモが寝ているタイミングを狙って近づくのがベストです。しかし、実際にはカモは群れで水辺に浮かんでいることが多く、群れの中には常に数羽が〝見張り役〟として周囲を警戒しています。
そのため、どれだけ上手にカモフラージュをしても、完全に気付かれずに接近することは困難です。そこで、焦らず時間をかけて、カモの様子を見ながらじりじりと距離を詰める必要があります。
射程距離はゼロイン距離を基準にする

カモにどこまで接近するかは、銃とスコープで設定した「ゼロイン」を基準にします。ゼロインした距離まで接近できれば、スコープの中心を狙うことで正確に命中させることが可能です。
このとき、距離測定には レンジファインダーが便利です。レンジファインダーはレンズを覗いてスイッチを入れると、前方の障害物との距離を画面上に表示してくれます。
以前は高価な道具でしたが、ゴルフ用として普及したことで、近年では1万円を切る価格で購入できるモデルも増えています。
狙撃作戦では、銃の腕か・獲物に近づくテクニックか
エアライフルによるカモ撃ちは「接近して撃つ」ことに注目されがちですが、必ずしも近づく必要はありません。一般的に、プレチャージ式エアライフルの射程距離は30〜100mですが、もし射撃の腕が卓越していれば 150m以上のロングショットも可能です。
つまり、エアライフルマンは「ロングショットを決めるために射撃の腕を磨く」か「近距離から仕留めるように、獲物へ接近する技術を磨く」かの、いずれかの道を進むことになります。
どちらを選ぶかは、その人が「銃の扱いに興味があるか」それとも「狩猟技術に興味があるか」で変わってくると言えます。
広告
その他のカモ撃ち作戦

カモ撃ちには『奇襲』と『狙撃』の2種類が基本ですが、実はそれ以外にもさまざまな方法があります。ここでは3つの猟法を紹介します。
鳥屋撃ち
デコイとコールを使ってカモを呼び寄せる鳥屋撃ちは、日本では日没後の射撃が禁止されていることもあり、あまりメジャーな猟法ではありません。また、近年ではカモが多く集まる水辺が『銃猟禁止区域』に指定されることも多くなっています。
しかし、カモを〝合法的〟に〝禁猟区から追い散らす〟ことができる場所では、国内でも鳥屋撃ちが行われることもあります。
ゴルフ場を利用した鳥屋撃ち

代表的な例がゴルフ場を利用した鳥屋撃ちです。ゴルフ場内の池はカモが集まりやすいスポットですが、狩猟は禁止されています。
しかし、ゴルフ客が池にボールを打ち込むと、カモは驚いて飛び立ちます。そこで、ゴルフ場の外(狩猟ができるポイント)に鳥屋を設置し、逃げ込んで来たカモを狙うという作戦です。
赤犬猟

赤犬猟は、かつて長野県の野尻湖で行われていた伝統的なカモ猟法です。この猟法では、赤犬(毛並みが茶褐色の犬) を湖畔に放ち、自由に歩かせます。湖にいたカモは、赤犬を天敵である〝キツネ〟と誤認し、追い払おうと岸に近づいてきます。そこで、隠れていた狩猟者が銃によってカモを射止めます。

現在、野尻湖は鳥獣保護区に指定されているため赤犬猟は行われていません。しかし赤犬猟は、鳥が敵を追い払うときに威嚇を行う『偽攻撃(モビング)』という習性を逆手に取った作戦です。先人の素晴らしい知恵として、赤犬猟のことを覚えておくことは、無駄ではありません。
沖き撃ち

一般的にマガモやカルガモは「淡水にいるカモ」と思われていますが、波が穏やかな晴れた日には海岸に現れることもあります。そこで、ボートを使って海岸のカモを狙うのが沖撃ちです。
船頭の経験が猟果を左右する
この猟法では、船頭の経験と技術が重要になります。まず、船頭は天候や時間によってカモが集まるポイントを知っておく必要があります。さらに、『5ノット(時速9㎞)以上のスピードで走るモーターボート』からは銃猟が禁止されているため、エンジンを切って〝潮や風の流れ〟に乗って、カモの群れに近づかなければなりません。
近年の沖撃ちは、ベテランの船頭を見つけることがかなり難しくなっており、あまり「一般的」とは言われないようになりました。しかし、カヤックやゴムボートを利用して沖撃ちを行う狩猟者がいます。
広告
まとめ
- カモ撃ちの基本戦略は、散弾銃の場合は『奇襲』、エアライフルの場合は『狙撃』になる
- カモの警戒レベルはLV0「無警戒」、LV1「様子を見る」、LV2「泳いで距離を取る」、LV3「飛んで逃げる」に分けられる。この警戒レベルは、様子を見ることによってある程度わかる
- 『奇襲』では警戒レベルを、LV0→LV3まで急上昇させることがコツ
- 『狙撃』では警戒レベルを、LV1→LV2の間で長い時間キープするのがコツ
- 『奇襲』では、カモを飛ばす方向を考えて攻め込む
- 『狙撃』では、警戒レベルを上げないように接近する、もしくは、遠くから命中させる射撃の腕を磨く
次の記事を読む

前の記事に戻る

まとめ記事にもどる
関連記事





