狩猟者ならば誰しもが一度はお世話になる猟友会。しかし狩猟を長く続けていると「猟友会って必要なのだろうか?」という疑問が湧くこともあります。そこで今回は、猟友会という組織の必要性について考えていきましょう。
『猟友会』ってなんだ?
本題に入る前に、まず猟友会とはどういった経緯で生まれた組織なのか、見ておきましょう。
元は軍に毛皮を供給する組織
猟友会はもともと、1910年に、日本各地で組織化された日本軍予備役の団体(帝国在郷軍人會)が、軍に毛皮を安定供給するために地元の狩猟者をとりまとめたことが始まりとされています。
この在郷軍人會が管理する「猟友会」は、それぞれ独自のルートで軍に毛皮を供給していましたが、第一次世界大戦終結後に、より効率よく全国から毛皮を集めるため、 統括組織として大日本聯合獵友會が 1929年に 設立されました。
大日本聯合獵友會は1945年の終戦後、軍へ毛皮を供給するという本来の目的は失いましたが、狩猟者の道徳心向上(密猟行為の抑止)や狩猟の適正化(乱獲の防止)を新しい目標に掲げ、名称も大日本猟友会に変えて再スタートを果たしました。
猟友会は3構造
現在の猟友会は、政府へ狩猟者の権利や要望を伝える一般社団法人大日本猟友会、各都道府県に支部を置き地方行政と狩猟者を結ぶ47の都道府県猟友会、そして、市区町村レベルで設置され、狩猟者と猟友会の窓口となる支部猟友会の3構造になっています。
猟友会へは、住んでいる場所を管轄する支部猟友会へ1年間の加入料を支払うことで入会できます。 支部猟友会に入会すると、大日本猟友会と所轄の都道府県猟友会にも自動的に 入会することになるため、加入料は大日本猟友会費(3,000円)、都道府県猟友会費(約4,000~6,000円)、支部猟友会費(約3,000~5,000円)の、計15,000~20,000円になります。
「猟隊」と「猟友会」は同じ意味じゃないので注意!
よく勘違いされていますが、猟友会と猟隊は同じ意味を指す言葉ではありません。 わかりやすく言えば 、「猟友会」は狩猟者による共済事業をする『ハンターの保険屋さん』で、「猟隊」は、集団で山で狩りをしたり、池でカモを撃ったりする『ハンターのサークル団体』です。
なので、よく初心者ハンターさんに「どこの猟友会に入れば、巻狩りに連れて行ってもらえますか?」と質問されますが、猟友会に入っても猟隊に入れるわけではありません。しかし、多くの支部猟友会は、地元の猟隊と密接に関わっているため、猟隊を“斡旋”してくれることはよくあります。
『支部猟友会』って必要なの?
さて、猟友会の必要性を検討するためには、大日本猟友会、都道府県猟友会、支部猟友会の3つに分けて検討しなければいけません。 それではまず、ハンターとの窓口業務を請け負う支部猟友会について考えてみましょう。
インターネットの普及で窓口業務の重要性は低下
狩猟者登録の手続きなどの事務手続きを代行してくれる支部猟友会は、狩猟者にとってはありがたい存在です。しかし、情報はインターネットでやりとりできる現代において、手続き代行が主な業務である支部猟友会が、本当に必要なのかは疑問です。
確かに、申請書類を手に入れるのも一苦労な30年前までは、書類手続きを代行してもらえるサービスは、とてもありがたいものだったと思います。
しかし現在では、狩猟者登録にかかわる情報はすべて都道府県庁のHPに掲載されており、必要書類もダウンロードで簡単に手に入ります。
そもそも支部猟友会は存続できるのか?
支部猟友会は”必要性”よりも、そもそも『存続できるか?』という問題があります。一般的な支部猟友会は、1~2人の専属スタッフで業務を回していますが、近年の狩猟者人口の超高齢化もあいまって、 支部を任されている人はことごとく70~80代の高齢者です。よって、支部猟友会の必要性を語る以前に、現状のままではあと10年足らずで全国の支部猟友会は自然消滅するのではないかと思います。
支部猟友会の役割はIT化されるべき
支部猟友会が無くなると、狩猟者登録やハンター保険の手続きを個人でしなければならないため、狩猟者の手間が非常にかかります。しかし、おそらく10年後には、狩猟者登録等をインターネット上で代行するサービスが広まるか、行政側もネットを通じて申請を受け付けるプラットフォームを準備するようになる気がします。
現在、60代より若い世代のインターネット普及率は90%以上だと言われています。正直な話、現在の支部猟友会を「どうやって延命するか」を考えるよりも、その業務フローをIT化した方が、狩猟者にとっても喜ばしいことなのではないかと思います。
『都道府県猟友会』って必要なの?
都道府県猟友会は、都道府県政の出す条例や告示などを取りまとめて、情報誌を発行したり、キジやヤマドリの放鳥、また射撃会の開催などを行っています。
活動内容が不明瞭
都道府県猟友会に対する率直な感想は、「どんな活動をしているのかよくわからない」です。 一応、都道府県猟友会の主な活動内容としては、大日本猟友会の公式HPに「キジ・ヤマドリの放鳥」や「キジとウズラの飼育」といったことが書かれています。しかしこの情報はどれも20~30年前の活動内容で、今現在、どのような活動をしているのか把握できません。
情報収集だけならインターネットで十分
先ほどの支部猟友会の話でも述べましたが、行政から出される狩猟関連の情報は、現在、どこの都道府県でも行政のHPで公開されています。これら”フルカラー”で公開されている情報を白黒で印刷し、冊子にして配布することに、都道府県猟友会費を支払う意味があるように思えません。
積極的に活動している都道府県猟友会もある
しかし、けしてすべての都道府県猟友会の活動が不明瞭なわけではありません。例えば公益社団法人大阪府猟友会は、47ある都道府県の中でも、もっとも精力的に活動している組織です。
ここの猟友会は活動内容をHPやSNSで配信しているほか、会員・非会員関係なく参加できるフェスや講習会を開催し、狩猟に関する様々なコンテンツを提供しています。
都道府県猟友会は5,000円に見合うサービスを提供できるか?
ホームページやSNSで情報を発信している都道府県猟友会は、大阪府猟友会以外にもいくつかあります。しかし、やはりその多くの活動内容は不明確で、年会費を5,000円近く出して得るサービスだとは思えません。
都道府県猟友会に必要なのは、体外的に向けたサービスの拡充でしょう。大阪府猟友会のような狩猟フェスやジビエBBQとまではいかなくても、キジ・ヤマドリの放鳥事業を行っているのであれば、その情報をより多くの人が目にできるように、対外的な宣伝をするべきだと思います。
結局のところ都道府県猟友会の存在意義は、『出資者である猟友会員が満足できるサービスを提供できるか?』にかかっていると言えるでしょう。
『大日本猟友会』って必要なの?
大日本猟友会は、支部猟友会や都道府県猟友会のように、狩猟者に対してサービスを提供する組織ではありません。なので、「大日猟って本当に必要なの??」と感じる人も多いと思います。
・・・ですが、はっきり言いましょう。大日本猟友会は絶対に必要な組織です。
狩猟の“権利”を守る
大日本猟友会が必要な理由は『狩猟者の権利を政府に訴えかける圧力団体』だからです。
例えば、将来『狩猟の全面的禁止』を訴える政党が現れ、国会で議席を増やしたとします。そのさい『狩猟は日本国民の権利である』として、ロビー活動ができるのは大日本猟友会しかありません。
現在の大日猟は“迷走”している
このように大日本猟友会は、狩猟者の権利を守るためにも絶対に必要な組織なのですが・・・正直言って、現在の大日本猟友会は迷走しています。
例えば、2018年度に大日本猟友会からハンタージャケットが無料配布されましたが、ハッキリ言って「それは大日猟の仕事じゃないだろ!」という話です。
狩猟者に対するサービスや、対外的なアピールは、本来、都道府県猟友会が行うべきこと。大日本猟友会がやらなければならないのは政界へのパイプを強めることです。
佐々木会長は果たして狩猟業界に貢献できているのか?
大日本猟友会の会長は元・衆議院議員の佐々木 洋平氏なのですが、正直言って彼の現在の働きを見る限り、あまり狩猟業界に貢献できているとは思えません。
一応、2022年に自著を出されており「ぱらぱら」と目を通してみたのですが・・・ううむ。確かに激動の時代は彼のようなワンマンな男が必要だったかもしれませんが、現代において彼のやり方が通用するのかと問われると・・・正直そうは思いませんね。
先に述べたように大日本猟友会の必要性は政府とのコネです。であれば、彼が持っているコネクションが果たして現在の政治活動の中枢に達しているのか?疑問視する声は多数聞かれます。
大日猟を変えるには、猟友会員になって発言するしかない
狩猟者として大日本猟友会の必要性を考えると、この組織はなんとしても潰すわけにはいきません。とはいえ、現状のように突き進んでいては、その存在も無いに等しいと言えます。これを修正するためにはただひとつ、あなた自身が猟友会員になり、発言権を持つしかありません。
ちまたでは「猟友会なんて存在する意味はない」と言われることがありますが、そうではなく「猟友会を意味のある存在に作り替えよう!」という考えが、これからの狩猟を支えていく力になるのです。
まとめ
- 『支部猟友会』は10年もすれば消滅の危機!行政手続きのデジタル化が必須
- 『都道府県猟友会』は、行政との情報共有で必要な組織だが、地域差でサービスの質にバラつきが大きい
- 『大日本猟友会』は、政府との交渉の窓口として必須だが、現状の組織には不満しかない。猟友会員はしっかりと声を上げて改革を進めるべき