旬のイノシシを解体すると、分厚い「脂」が手に入ります。そのままかぶりつくのも一興ですが、翌日辛い胃もたれが‥‥。そこで、余った脂身は「自家製ラード」へ昇華させましょう。
今回は、イノシシの脂身からラードを精製する方法に加え、サバイバルにも役に立つ動物油脂の利用方法についてもご紹介します。
脂身からラードを精製する
脂身からラードを精製する方法は非常に単純。
一旦水を入れて煮詰めていき、自身から染み出た油で脂身を揚げるようにしていきます。
コツとしては、一度溶かして冷やしたラードを再度加熱し、水分を徹底的に抜くこと。
瓶に詰めた状態で湯煎をすれば、瓶の煮沸消毒も兼ねられるため、保存性が格段に上がります。
ラードの精製に利用する「ケンネ」

ラード精製には、腎臓の周りに付着している内臓脂肪が使われます。
この脂は「ケンネ」とも呼ばれ、不純物が少ない脂肪分です。
精製すると透き通ったラードに仕上がります。
トリミングした脂身も利用する

ラードを作る脂身は、「トリミング」で取り除いた部位も利用します。
肉から脂身を取るのはもったいないような気がしますが、剥皮した脂身の表面には微細なゴミや汚れが付着しています。
そのまま食べるのはいささか不衛生なので、ラードに再利用しましょう。
精製する際には一度油を濾すため、脂身に汚れや毛が少々付いていても問題ありません。
皮目の脂を利用する

「焼き剥ぎ」や「湯剥き」といった皮を残す手法で解体をしているなら、皮目に付いた脂身も利用しましょう。
猟師の間では「ねぶり」などとも呼ばれるこの部位は、熱を通すとコリコリとした独特の食感が際立ち、美味しい部位です。
少しはおつまみ用に残しておき、食べきれない分はラードに加工しましょう。

ラードを絞り出した後に残る「肉かす」

ラードを絞り出した後に残る「肉かす」は、沖縄をはじめとする地域で人気の食材です。
脂が抜けきっているため、それ自体に旨味があるわけではありませんが、サクサクとした独特の食感があり、
塩とうま味調味料を振りかけると、良いおつまみになります。
また、富士宮焼きそばや、お好み焼き、炒め物、うどんなど、トッピングや「隠し味」にも利用されます。
自家製ラードで作る「非常食レシピ」

精製したラードは、普段の料理に利用できます。真空パックして冷凍保存すれば、1年以上持たせることも可能です。
しかしここはもう一歩前進して、ラードを利用した「保存食」作りに挑戦してみるのはいかがでしょうか?
冷蔵庫が無くても1年以上持つ「油瓶詰め料理」
食糧事情が厳しかった旧ソビエト連邦において、人々の命を繋いできた「トゥションカ」という非常食があります。
これは、瓶の中に肉などの食材と油脂を詰め込み、瓶ごと煮沸する保存食です。
この調理法の最大の特徴は「分厚い油の層」にあります。
油脂の膜が外気をシャットアウトし、酸化と腐敗(微生物の増殖)を抑えてくれます。
このような加工をしておけば、常温で1年以上も保管することが可能になります(動画内では「2年以上持つ」といわれています)。
ネイティブアメリカンの知恵「ぺミカン」
保存性と高エネルギーを極限まで追求したサバイバル・フードとして忘れてはならないのが、ネイティブアメリカンに伝わる「ペミカン」です。
ペミカンは、カラカラに乾燥させて粉砕した肉やナッツ類を、熱して溶かした油脂で練り上げ、ブロック状に固めたもの。
言わば「元祖エネルギーバー」とも呼べるこの食べ物は、軽量ながら凄まじいカロリーを誇り、かつては極地探検や戦場での貴重な栄養源として重宝されてきました。
なお、本格的なぺミカンには、イノシシ(ブタ)よりもシカの脂の方が向いています。
これはシカの脂の方が融点が高いため、常温でも変質しにくいからとされています。
サバイバルに興味があるなら「獲る」より「保つ」技術
今回、イノシシのラード精製というテーマに、あえて「保存食」というテーマを加えたのには理由があります。
それは、狩猟に興味を持つ人の中には一定数「サバイバル」に興味がある方がいるためです。
しかし、正直に申し上げれば、ただ獲物を仕留めるだけの狩猟技術は、サバイバルにおいてそれほど役に立ちません。
真のサバイバルで最も役に立つのは、獲物を「獲る」よりも、獲った獲物を「保存する」ことにあるためです。
「イントゥ・ザ・ワイルド」から見る食料備蓄の難しさ

私はこの話をする際に、よく『イントゥ・ザ・ワイルド』というノンフィクション映画を例に出します。
この映画は、裕福な家庭を捨てた青年が、アラスカの荒野でたった一人、自給自足の生活に挑む実話です。
ネタバレになりますが、彼は荒野での生活の中、ライフルでヘラジカを仕留めることには成功します。
しかし、その膨大な肉を適切に加工・保存することができずに腐らせてしまい、飢餓に追い込まれた末に、有毒な植物を口にして命を落とします。
有事において本当に恐ろしいのは、食料が不足することによる「栄養失調」以上に、食料の保管・管理の失敗から招く「食中毒」です。
たとえ大量の穀物を備蓄していたとしても、冷蔵などの管理されていなければ、あっという間にカビの餌食となります。
穀物に発生するカビ毒は人間にとって極めて強力な毒素であり、これを口にして命を落とす事例は決して珍しくありません。
獲る技術と合わせて「備蓄する技術」を学ぼう!
もしサバイバルに興味をあって狩猟を始めたいというのであれば、捕獲する技術以上に、獲物をいかに長く、安全に食いつなぐかという知恵に目を向けるべきです。
食料の保存方法には、塩漬け、油漬け、灰汁漬け、燻製、発酵など様々な技術があります。
今回お話した「ラードを作る」という行為は、単なる料理の話だけではなく、限られた食料(獲物)をいかに無駄なく活用するか、といった話でもあります。







