【クレー射撃実践編その1】『トラップ競技』をはじめよう!

 クレー射撃の中でも一番人気なのが『トラップ競技』です。そこで今回は、トラップ競技の基本ルールから、具体的な競技の流れやコツまでを徹底解説します。

目次

トラップ競技を始めよう!

 クレー射撃競技には数多くの競技がありますが、中でも断トツで競技人口が多いのがトラップ競技です。本節では日本で最も一般的なトラップ競技のルールである、国際射撃連盟(ISSF)によって定められたオリンピックトラップについて解説をします。

トラップ射台のつくり

 オリンピックトラップ(以下、「トラップ」)は、トラップ射台と呼ばれる専用のコートで行われます。この射台には5つの射座(ステーション)があり、最大6人まで参加できます。
 競技を行う射手は、射座の上に立って射撃を行います。射撃の順番は1番射座から右方向に移っていき、5番射座が終わったら再び1番射座から射撃を行います。

射座からトラップ放出機までの距離

 射座からクレー放出機までは、正式なルールでは「15m」です。しかし、練習目的でトラップ競技を行う人々のために、5mや10mの地点に射座が設置されている場所もあります。クレーが放出される場所はトラップピッド(または「トレンチ」)と呼ばれ、地面の下にあるため射手から直接見ることはできません。しかし、各々の射座の正面には白い中央表示線があり、これを目印にして放出機の位置を把握することができます。

トラップの点数

 クレーは1射手につき25枚放出され、クレーを1枚撃破するごとに1点となります。全て撃破すると「満射」と呼ばれ、最高点は25点となります。
 トラップ競技では、1枚のクレーにつき2発まで発射でき、1発目の発射は「初矢」、2発目の発射は「追い矢」と呼ばれます。クレーの撃破は初矢、追い矢のどちらであっても点数差はなく「1点」です。
 クレーの命中判定は、クレーが〝完全粉砕〟された場合だけでなく、一部が欠ける程度の命中でも点数になります。割れ方が微妙な場合は、その射台を管理するプーラーが撃破の判定を行います。

クレーの放出方向と角度

 クレー放出機は、1つの射座に3台設置されており、正面、右、左に向けて配置されています。各クレー放出機は、正面から5枚、右方向から10枚、左方向から10枚のクレーが放出されるよう設定されており、放出される順番はランダムですが、特定方向の放出数が増減することはありません。


 クレー放出機は上下角度にも動くようになっており、トラップピッドから10メートルの地点で上限3.5m、下限1.5mを通るように設定されています。クレーは75~77mの距離に到達する速度で放出されるように決まっているため、低い軌道で放出されたクレーは初速が速く、高い軌道で放出されたクレーは初速が遅くなります

トラップ競技の流れ

 本節では、より具体的にトラップ競技の流れを解説します。競技の流れは、実際に1、2回参加する程度で覚えられるぐらいシンプルですが、初めてのクレー射撃で混乱しないよう、事前に流れを理解しておくことが大切です。

競技開始までの流れ

 トラップ射台に入ってプーラーにスコアカードを渡したら、準備を済ませて射台の中で待機しておきましょう。参加者が揃ったらプーラーから名前が呼ばれるので、指定された射座に立ちましょう。
 同じ射台に入る人たちのことは射団と呼びます。その日の混雑具合によっては初めて合う人と射団を組まされることもあるので、プレーの合図があるまでに挨拶を済ませておきましょう。

射座の移動ルール

 射撃は以下の図のように進行します。射団が6人以下であれば、『右隣りの人の射撃が終わったら射座を出る』というルールで動きましょう。

トラップ競技のコツ

 トラップ競技を体験した後、皆さんはどのように感じましたか?「思ったよりも当たった」と感じた方もいれば、「クレーが全く見えなかった」や「クレーに照準が追いつかない」と感じた方も多いでしょう。ここでは、トラップ競技で成功するための「コツ」について詳しく説明します。

射座には常に一定のフォームで入る

 トラップ競技に限らず射撃スポーツでは、「失中の原因を探して少しずつ改善していくこと」が大切です。よって射撃を上達させたいのであれば、失中の原因となる要素にバラつきが生じないようにすることが非常に重要です。
 例えば、射座に入る際にまったく意識していないと、毎回異なる位置に立ってしまう可能性があり、これが要素のバラつきを生んでしまいます。そこで、射座に入るときは常に同じ入り方をするように、自分自身でルーティンを考えておくようにしましょう。
 以下は、射座に入るときのルーティンの例です。「このようにするのが正解」というわけではなく、自分なりに意識してルーティン化し、それを遵守してください。

STEP
両足を射座の枠線中央に揃えて立つ
STEP
利き手側の足を射座の中心に出す
STEP
逆側の足を射座の端に出す
STEP
足を約45°に開いて、正面を向いて立つ

コールまでの動作と呼吸


 コール前の姿勢は、まず深く息を吸いながら銃口を高い位置に向けて構え、ゆっくり息を吐きながら照星を中央表示線の約20cm上にセットします。ここで再びゆっくりと息を吸い、照星から背景に目の焦点を切り替えます。すべての準備が整ったら、吸っていた空気を「ハー」や「ホー」といった声にしながらコールを行います
 トラップ競技では据銃姿勢をとるまでの時間制限はありません。もちろん遅すぎるのは他の射手に迷惑をかけますが、初心者のうちはゆっくりでよいので、自分なりのルーティンを固めるようにしてください。

放出方向は〝目で追う〟

 初心者によくある失敗に、「クレーがどの方向に飛んでいったかわからない」ということがあります。この失敗を防ぐためには、クレーが放出されたら、まず、クレーがどの方向・角度で飛んでいくかを、しっかりと見るようにしましょう。
 「ゆっくりクレーを目で追っていると、銃の振り出しが間に合わない」と感じるかもしれませんが、実際にはそれほど焦る必要はありません。むしろ、しっかりと目で見てクレーを認識することで、体の動き出しに迷いがなくなり、失中の最大の原因となる〝スイングの停止〟というトラブルを防ぐことにつながります

スイング射法をマスターする

 クレー射撃は、動いている物体を狙うために、照準を付けたまま体を大きく動かす必要があります。このような射撃方法は「動的射撃」と呼ばれており、さらにこの動的射撃の中でトラップ競技に向いた射法の一つが「スイング射法」です。
 スイング射法は、照準をクレーの軌道に沿ってゆっくりと追い始め、徐々に速度を上げていきます。そして〝クレーに照準が重なった瞬間〟に引鉄を引きます
 銃は、引鉄を引かれた瞬間から火薬が燃焼して弾が発射されるまでの間に、極微小な〝時間差〟があります。この極微小な時間差が適度な〝見越し〟の距離となり、クレーの進行方向に重なるように散弾を飛ばすことができます。

「フォロースルーができている」と正しいスイング射法ができている

 スイング射法は、引鉄を引く瞬間まで体が照準に合わせて動いていなければなりません。なぜなら、照準がクレーに重なる手前で体の動きが止まってしまうと、発射された弾は進行するクレーの後方を通ってしまい、〝必ず失中になってしまうから〟です。
 この「スイングが停止していないこと」を知る手段として、フォロースルーの確認があります。フォロースルーは、射撃後の体の動きを指します。スイング射法では体を大きく動かしながらクレーを追うため、射撃後もその慣性が残っているため体が動き続けます。逆に言うと、このフォロースルーが見られない場合は、〝体の動きが射撃前に減速している〟ということなので、正しいスイング射法ができていないことを意味しています

フォロースルーができているかを確認する方法

 「フォロースルーができているかどうか」は自分自身ではわかりにくいので、射撃指導員に見てもらうようにしましょう。しばしば射撃指導員から「クレーの後ろを撃っている」という指摘を受けることがありますが、これは「フォロースルーができていないから、弾はクレーの後ろを飛んでいる」ということを意味しています。射撃指導員は、決して高速で飛んでいく弾の軌跡が見えているわけではありません。
 同行者と練習をする場合は、スローモーション動画やバースト写真機能を使って、自分の後ろ姿を撮影してもらいましょう。近年のスマートフォンであれば、かなりの高速撮影ができるため、発射後にフォロースルーをしているか確認することができます。

フォロースルーができている射撃の実例

 以下は、高速カメラ(1/200秒、f=11)で射撃の一連を撮影した写真です。写真でフォロースルーを確認するときは、背景を基準に写真を重ね、銃口がどのように動いているか確認をしてみてください。

STEP
クレーが放出された直後の銃口の位置
STEP
射撃直後の銃口の位置
STEP
クレー撃破直後の銃口の位置
STEP
クレー撃破後の銃口の位置
STEP
体の動きが停止したときの銃口の位置

フォロースルーができていない射撃の例

 前の例と同様に、高速カメラで撮影した〝フォロースルーができていない〟(正しいスイング射法ではない)射撃の写真です。発射直後から銃口の位置が変わっていないことから、正しくフォロースルーができていないことを確認することができます。

STEP
クレーが放出された直後の銃口の位置
STEP
射撃直後の銃口の位置
STEP
クレー撃破直後の銃口の位置
STEP
体の動きが停止したときの銃口の位置

フォロースルーができない場合のヒント

 どうしてもフォロースルーができていない場合は、体が射撃の反動や轟音で委縮している可能性が考えられます。体の防衛反応は意識的に直すのは難しいので、弾を弱装弾に変えて練習したり、反動を感じにくいように銃を調整するといった工夫をするとよいでしょう。

撃破のポイント

 トラップ競技におけるクレーの撃破タイミングは、「ここで撃たなければならない」という決まりはありません。まずは当てる経験を積み重ねて、どのタイミングが一番ヒット率が高いのかを見つけましょう。その経験を繰り返すことで、当たるリズムを体に覚えさせることが、点数を伸ばすコツとなります。

正面のクレー

正面に放出されるクレーは、射手から見て、初めに急角度で上昇した後に、徐々に平行な軌道になります。よって、初矢は照準器がクレーを追い越して完全に被ったぐらいのときに発射し、下からクレーが上がってきて照準器に乗ったら追い矢を発射するのが、セオリーとなります。

 正面に放出されるクレーには、低軌道と高軌道の2種類があります。どちらの場合でも初矢は上昇するクレーを照準で追い越した後に発射しますが、高軌道のクレーの方が大きくかぶらせて撃つ必要があります。

 低軌道のクレーは上昇角度は緩いですが、その分スピードが速いため、初矢・追い矢をできるだけ短い間に発射する必要があります。

左右のクレー

 左右に放出されるクレーは、スイング射法がしっかりと身についていれば、難しくはありません。照準がクレーに追いついたタイミングで初矢を発射します。追い矢に関しては、「初矢よりも少し下目を狙うのがコツ」と言われています。

 追い矢を下目に狙う理由は、クレーの軌道が平行から下降に移行するためです。しかし、ベテラン射手の中には、「追い矢を意識的に狙うと体の動きに迷いが生じ〝引き止まり〟が発生してしまう」という意見もあり、追い矢は初矢から間を置かず連発する人もいます。
 どちらを採用するかはその人次第ですが、経験を重ねて「追い矢が一向に当たらない」という人は狙いすぎて引き止まりが発生している可能性があります。その場合は、追い矢を豪快に放った方がヒット率は高くなると言えるでしょう。

スコアカードの読み方

 クレーが発射された方向と、命中または失中の結果はスコアカードに記録されます。ラウンドが終わると、このスコアカードが返却されるため、どの方向に弱点があるのかを分析に役立てましょう。このスコアカードは火薬消費の証明としても重要な書類です。毎年行われる銃砲検査の際には、火薬類の帳簿とともに提出する必要があるため、1年間大切に保管しましょう。

まとめ

  1. トラップ競技の射台と、進行のルールを覚えておく
  2. 〝失注する原因〟を探るため、射座への入り方や発砲までの一連の動作は〝ルーティン化〟しておく
  3. スイング射法は「フォロースルーができているか」で判別できる。スローモーション動画や高速カメラを使って、自分の射撃風景を撮影する練習が◎

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この記事を書いた人

学生時代に空気銃競技をはじめ、20代でクレー射撃を始めました。狩猟はやっていません。火薬代が高騰しすぎていつも金欠。

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