くくり罠のワイヤロープ、『ステンレス製』と『亜鉛メッキ鋼製』はどう違う?オススメの使い分け方も解説します。

 くくり罠に使用するワイヤロープには、『ステンレス製』と『亜鉛メッキ鋼製』の2種類があります。しかし、素材の違いによるワイヤロープの性能の変化については、ベテランのくくり罠猟師であっても十分に理解されていないことがあります。そこで今回は、この2種類の素材について、特性の違いや使用目的に応じた選び方について詳しく解説します。

目次

ワイヤロープの基礎知識

 『ステンレス製・亜鉛メッキ鋼製の違い』という本題に入る前に、まずはくくり罠に使用されるワイヤロープの基礎知識をおさえておきましょう。

強度・柔軟性が高い『ワイヤロープ』

 ワイヤロープは、複数の細い金属ワイヤ(素線)をより合わせて作成されます。この素線をより合わせてできた綱はストランド(小綱)と呼ばれ、ワイヤロープはこのストランドを芯線に複数本より合わせて作られます。
「素線とストランドをどのように編み合わせるか?」は、ワイヤロープの用途によって大きく異なりますが、くくり罠においては普通Zよりと呼ばれる編み方が一般的です。この編み方は、素線がワイヤロープの向きと並行になっており、さらにストランドが反時計回りになっているため、「捩じられたときにストランド・素線がほつれにくくなる」という特徴があります。

ワイヤロープの表記方法

 

 ワイヤロープは「ストランド数×素線数」で表記されます。例えば、「6×24」と表記されたワイヤーロープは、「6本のストランドがあり、各ストランドに24本の素線がある」ことを意味します。
 くくり罠のワイヤロープを考えるうえで重要なのが、ワイヤロープの太さは一定であるという点です。例えば、「6×19」と「6×24」のワイヤロープを比較すると、「6×24」の方が素線数は多くなります。そのため、一見すると「6×24」の方が強度が高いように思われますが、ワイヤロープの直径は「4mm」(場合によっては5mmが使用されることもある)で一定のため、「6×24」の方が〝素線1本あたりが細く〟なります。このため、「6×24」は「6×19」に比べて引張強度は高くなりますが、素線が細くなるため、摩擦による剪断が発生しやすくなるというデメリットが生じます。

素線・ストランドによるワイヤロープの特性変化

構造長所短所
素線1本の太さ太いほど『強度が増す』太いほど『曲がりにくくなる』
素線の数多いほど『柔軟性が増す』多いほど『摩耗に弱くなる』
ストランドの数多いほど『強度は増す』多いほど『柔軟性が落ちる』

 同じ径のワイヤロープで考えた場合、素線とストランドの違いによりワイヤロープの特性は上表のように変化します。
 くくり罠にワイヤロープを使う目的は、「獲物がかかったときに引きちぎられないようにする」だけでなく「スネア(輪)が早く締まるように柔軟性を持たせる」や、「捩じり切られにくくする」などもあります。そのため、くくり罠で捕獲する獲物の種類や環境によって、ワイヤロープの素線・ストランドの組み合わせを考える必要があります。

素材の違い

 くくり罠に使用するワイヤロープは、『素線数・ストランド数』で性能が変化しますが、これに加えて素材の違いも性能に大きな影響を与えます。ワイヤロープの素材には、アルミやタングステン、ポリマー繊維など様々なものがありますが、くくり罠に使用される主流の素材は『亜鉛メッキ鋼』と『ステンレス』の2種類です。

亜鉛メッキ鋼とは?

 亜鉛メッキ鋼は、鋼を亜鉛の溶液に漬けて電気を流し、表面に亜鉛を薄くコーティング(メッキ)した金属です。用途としては、特に雨風が当たるような野外で多く使われており、特にフェンスなどに使われる『金網』として一般的に目にします。
 亜鉛メッキ鋼製のワイヤロープは、素地の鋼が持つ強度と、亜鉛メッキの耐腐食性を兼ね備えています。コストパフォーマンスにも優れているため、現在、一般的な「くくり罠のワイヤ」には、この亜鉛メッキ鋼が使われています。

ステンレスとは?

 ステンレスは、鋼にクロムやニッケルなどの添加物を加えた合金です。金属自体は非常に〝錆びやすい〟という特徴があり、空気に触れると瞬時に酸化して保護膜を形成することにより、結果的に〝内部まで腐食しにくい〟という特徴があります。用途としては建築物や電車、自動車、水道の蛇口や流し台など、特に水気が多い場所で使用されることが多く、一般的に目にすることも多い金属です。
 ステンレスには添加物の含有率によって様々な規格がありますが、くくり罠には標準的なステンレスである『SUS304』と呼ばれる規格品が使用されます。

くくりわなにおけるワイヤロープの評価方法

 くくり罠に使用されるワイヤロープは、単に〝強度〟だけでは評価できません。なぜなら、くくり罠にかかった獲物はワイヤを引っ張るだけでなく、加速をつけて突進したり、転げまわったり、噛みついたりと、様々なアクションを起こすためです。
 くくり罠にかかった獲物は複雑な動きをするため、工業的な試験結果だけでは、その良し悪しを判断することはできません。しかし経験的に、くくり罠のワイヤには次にあげる性能が求められています。

引張耐性

 引張耐性は、ワイヤロープが引っ張られたときに破断するまでの耐久性能です。工業試験的には引張試験機を用いて、ワイヤロープを破断するまで徐々に引っ張り、その最大力を測定して評価されています。
 一般的に、くくり罠に使用されるワイヤロープの計算上の切断荷重は約720kg前後であり、実際の引張試験では1トン以上の荷重に耐えることもあります。獲物の体重が大きくても100kg程度であることを考えると、たとえ獲物が釣り下がったとしてもワイヤが切れることはありません。しかし、くくり罠では衝撃や捩じり、摩耗といった多様な要素が含まれるため、試験的な数値だけでくくり罠のワイヤを評価することはできません

衝撃耐久

 くくり罠にかかった獲物は、一定の力でワイヤを引っ張るだけでなく、加速をつけて突進を繰り返すこともよくあります。そのため、くくり罠のワイヤには、衝撃に耐える能力(衝撃耐久)も重要な要素となります。
 工業的には『衝撃試験機』によって瞬時に発生する応力への耐久性がテストされますが、ワイヤロープはそもそも繰り返し衝撃を受けることを前提として作られていないため、具体的な評価基準はありません。

キンク耐性

 くくり罠のワイヤは、引っ張る方向だけでなく、獲物が転げまわることでワイヤに捩れ(キンク)を生じることもあります。このキンクができた部分は応力が集中するため、他の部分よりも切れやすくなります。このため、〝キンクができたときの粘り強さ〟も、くくり罠のワイヤを考える重要な性能の一つです。

摩耗耐久

 獲物がワイヤを木などにこすりつけたり、キンクやストランドのほつれができて隙間に土や砂が入ると、素線が擦れて切れやすくなります。ワイヤロープはその構造上、素線が1本切れると他の素線に応力が分散されるため、雪崩を起こすように他の素線が切れてしまいます。そのためワイヤロープは素線1本の摩擦に対する耐久性も重要な要素です。
 ただし、ワイヤロープにおいて素線1本1本は細い針金で作られているため、材質の違いによる摩擦強度の差はそれほど大きくありません。一般的に、素線は太いほど摩擦への耐久性が向上し、細いほど耐久性は低下します。

耐腐食性

 くくり罠のワイヤは長期間土中に埋めておくため、 必ず腐食が進行します。腐食が進んだワイヤは脆くなるため、各強度が大きく低下します。
 くくり罠のワイヤにおける耐腐食性の評価はかなり難しく、使用する土地の酸性度や湿気の多さなどによっても大きく変化します。

柔軟性

 くくり罠のワイヤロープは『獲物がかかったとき』だけでなく、かかる前のことも考える必要があります。例えば、どんなに引張・衝撃に対する強度があり、捩じれにくく摩擦に強いワイヤロープだったとしても、硬くて曲げにくくスネアや根付(リード)に加工できなければ意味がありません。また、硬くて曲がりにくいワイヤロープは、スネアが締まる際の抵抗が大きくなるため、空ハジキやスッポ抜けなどのトラブルを発生させるリスクが高くなります。

コスト

 獲物がかかったワイヤはキンクや金属疲労、目に見えないぐらい小さなマイクロクラック(ひび割れ)が発生するため、原則として全交換することが推奨されます。しかし、都度ワイヤを交換するのは金銭的になかなか厳しいものです。そのためくくり罠のワイヤには、交換しやすいコストの低さという要素も求められます。

亜鉛メッキ鋼とステンレスの性能比較

  くくり罠のワイヤに求められる性能を『メッキ鋼製ワイヤロープ』と『ステンレス製ワイヤロープ』に当てはめた場合の比較が上図のようになります。
 メッキ鋼製・ステンレス製の長所短所を要約すると、メッキ鋼製は『引張耐久と安さが長所だが、そのほかの点でステンレスに劣る』ステンレス製は『キンクへの耐久は強いが、引張耐久はメッキ鋼に劣り、コストも高い』という結論になります。
 

〝使い分ける〟が肝

 メッキ鋼とステンレスを上手く使うコツは、スネア側とリード(根付)側で使い分けることです。くくり罠は、獲物を捕縛するワイヤ(スネア)と、獲物を木などに繋ぎ止めておくワイヤ(リード)が、〝よりもどし〟で連結された造りになっています。そのため、リード側は獲物が転げまわったとしてもキンクができる危険性が小さく、加工のための柔軟性も低くても問題ありません。

用途別オススメのワイヤ

 スネアリード
ステンレス製φ4.0㎜ 6×24 φ4.0㎜ 7×19 (あえて使うなら)
亜鉛メッキ鋼製φ4.0㎜ 7×24
φ5.0㎜ 6×24 (エゾジカ向け)
φ4.0㎜ 6×19 (コスパNO.1)

 スネア側、リード側ワイヤロープのオススメの組み合わせは上表のとおりです。スネア側には柔軟性が高く、キンク時の耐久の高い『6×24のステンレス製』をオススメします。もしメッキ鋼を使用するのであれば、ストランドが1本多い『7×24』が良いでしょう。リード側は、引張強度が高く安価な『6×19』がオススメです。

ワイヤロープは腐食が出たら即交換

 メッキ鋼は野外に放置しているだけでも表面に白い錆が浮いてきます。また、ステンレス製であっても、ワイヤロープは野外に放置すると少しずつ腐食が進みます。このような腐食が見えてきたら、キンクや破断が無くても交換するようにしてください。

まとめ

  1. ワイヤロープのストランド数・素線数は組み合わせによって性能が変化する。
  2. メッキ鋼製は引張耐久が高く安価、ステンレス製はキンク耐性と耐腐食性に優れる。
  3. スネア側『6×24ステンレス製』または『7×24メッキ鋼』、リード側は『6×19メッキ鋼』がオススメ。
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この記事を書いた人

罠猟師見習いです。
はじめての人でも役に立つような罠猟の情報を発信しています。

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