くくり罠のワイヤロープ、『ステンレス製』と『亜鉛メッキ鋼製』はどう違う?オススメの使い分け方も解説します。

くくりわなのワイヤロープはステンレス?メッキ鋼?

 くくり罠に使用するワイヤロープには、ステンレス製亜鉛メッキ鋼製の2種類があります。しかし、素材の違いによるワイヤロープの性能の変化については、ベテランのくくり罠猟師であっても十分に理解されていないことがあります。そこで今回は、この2種類の素材について、特性の違いや使用目的に応じた選び方について詳しく解説します。

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  1. メッキ鋼製は『引張耐久と安さが長所だが、そのほかの点でステンレスに劣る』
  2. ステンレス製は『キンクへの耐久は強いが、引張耐久はメッキ鋼に劣り、コストも高い』
  3. スネア側には柔軟性が高く、キンク時の耐久の高い『6×24のステンレス製』をオススメ
  4. リード側は、引張強度が高く安価な『6×19』がオススメ

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目次

ワイヤロープの基礎知識

「ステンレス製・亜鉛メッキ鋼製の違い」という本題に入る前に、まずはくくり罠に使用されるワイヤロープの基礎知識を確認しておきましょう。

強度と柔軟性を兼ね備えるワイヤロープ

 ワイヤロープは、複数の細い金属ワイヤ(素線)をより合わせて作られます。この素線をより合わせてできた綱はストランド(小綱)と呼ばれ、ワイヤロープはこのストランドを芯線に複数本より合わせて作られます。

ストランドの捩じり方による違い

「素線とストランドをどのように編み合わせるか?」は、ワイヤロープの用途によって大きく異なりますが、くくり罠においては普通Zよりと呼ばれる編み方が一般的です。
 この編み方は、素線がワイヤロープの向きと並行になっており、さらにストランドが反時計回りになっているため、「捩じられたときにストランド・素線がほつれにくくなる」という特徴があります。

ワイヤロープの表記方法

 ワイヤロープは「ストランド数×素線数」で表記されます。例えば、「6×24」と表記されたワイヤーロープは、「6本のストランドがあり、各ストランドに24本の素線がある」ことを意味します。

素線が増えるほど、素線は細くなる

 例えば、「6×19」と「6×24」のワイヤロープを比較すると、「6×24」の方が素線数は多くなります。そのため、一見すると「6×24」の方が強度が高いように思えますが、〝ワイヤロープの直径は一定〟(4mmまたは5mm)であるため、「6×24」の方が素線1本あたりが細くなります
 このため、「6×24」は「6×19」に比べて引張強度は高くなりますが、素線が細くなるため、『摩擦による剪断が発生しやすくなる』というデメリットがあります。

素線・ストランドによるワイヤロープの特性変化

構造長所短所
素線1本の太さ太いほど『強度が増す』太いほど『曲がりにくくなる』
素線の数多いほど『柔軟性が増す』多いほど『摩耗に弱くなる』
ストランドの数多いほど『強度は増す』多いほど『柔軟性が落ちる』

 同じ径のワイヤロープで考えた場合、素線とストランドの違いによりワイヤロープの特性は上表のように変化します。
 くくり罠にワイヤロープを使う目的は、「獲物がかかったときに引きちぎられないようにする」だけでなく「スネア(輪)が早く締まるように柔軟性を持たせる」や、「捩じり切られにくくする」などもあります。そのため、くくり罠で捕獲する獲物の種類や環境によって、ワイヤロープの素線・ストランドの組み合わせを考える必要があります。

素材の違い

 くくり罠の性能を大きく左右する要素の一つに、ワイヤロープの素材があります。ワイヤロープには、アルミやタングステン、ポリマー繊維など様々な素材が用いられますが、くくり罠で主流なのは「亜鉛メッキ鋼」と「ステンレス」の2種類です。それぞれの素材が持つ特徴と、くくり罠における性能への影響について詳しく解説します。

亜鉛メッキ鋼とは?

 亜鉛メッキ鋼は、鋼の表面を亜鉛でコーティングした金属です。鋼を亜鉛の溶液に浸し、電気を流すことでメッキ処理を施します。雨風にさらされる屋外での使用に強く、フェンスなどに使われる金網として、私たちの生活の中でもよく見かける素材です。

野外に使用する金属素材としてコスパに優れる

 亜鉛メッキ鋼製のワイヤロープは、鋼が本来持つ強度と、亜鉛メッキによる耐腐食性を兼ね備えているのが特徴です。コストパフォーマンスにも優れているため、現在のくくり罠では、この亜鉛メッキ鋼製のワイヤが広く使用されています。

ステンレスとは?

 ステンレスは、鋼にクロムやニッケルなどの添加物を加えて作られた合金です。金属自体は非常に錆びやすい性質を持ちますが、空気に触れると表面に酸化被膜が形成され、内部の腐食を防ぐという特徴があります。建築物や電車、自動車、水道の蛇口や流し台など、水気の多い場所でよく使用されるため、こちらも私たちの生活の中で目にする機会が多い金属です。
 ステンレスには、添加物の含有率によって様々な規格が存在しますが、くくり罠には、標準的なステンレスである「SUS304」という規格のものが一般的に使用されます。

くくりわなにおけるワイヤロープの評価方法

 くくり罠に使用するワイヤロープは、単純な強度だけでは評価できません。獲物は罠にかかると、引っ張る、突進する、転げ回る、噛みつくなど、予測不能な動きを見せます。そのため、工業的な試験結果だけでなく、実際の使用状況を考慮した評価が不可欠です。本記事では、くくり罠用ワイヤロープに求められる性能と、その評価方法について解説します。

引張耐性

 引張耐性は、ワイヤロープが引っ張られた際に破断するまでの耐久性能です。工業試験では、引張試験機を用いて最大荷重を測定します。くくり罠用ワイヤロープの切断荷重は、一般的に約720kg以上とされています。
 実際の試験では1トン以上の荷重に耐える場合もあり、獲物がぶら下がっても切れる心配はほとんどありません。しかし、実際の使用では衝撃やねじれ、摩耗などが複合的に作用するため、試験結果だけで評価することはできません。

衝撃耐久

 獲物は罠にかかると、一定の力で引っ張るだけでなく、加速をつけて突進を繰り返します。そのため、衝撃耐久も重要な評価基準となります。
 工業的には衝撃試験機で瞬時の応力への耐久性を測定しますが、ワイヤロープは繰り返し衝撃を受けることを想定していないため、具体的な評価基準はありません。

キンク耐性

 獲物が転げ回ると、ワイヤロープにねじれ(キンク)が生じます。キンク部分は応力が集中しやすく、切断のリスクが高まります。そのため、キンクが生じた際の粘り強さも重要な評価項目となります。

摩耗耐久

 獲物がワイヤロープを木に擦り付けたり、キンクやほつれ部分に土砂が入り込むと、素線が摩耗しやすくなります。素線が1本でも切れると、他の素線も連鎖的に切断してしまうため、摩耗耐久性も重要な要素です。
 素線の太さが耐久性に影響しますが、材質による差はそれほど大きくありません。

耐腐食性

 くくり罠用ワイヤロープは長期間土中に埋めて使用するため、腐食は避けられません。腐食が進むと強度が低下するため、耐腐食性も重要な評価基準です。
 ただし、土壌の酸性度や湿度など、使用環境によって腐食の進行速度は大きく変化します。

柔軟性

 くくり罠のワイヤロープは『獲物がかかったとき』だけでなく、かかる前のことも考える必要があります。例えば、どんなに引張・衝撃に対する強度があり、捩じれにくく摩擦に強いワイヤロープだったとしても、硬くて曲げにくくスネアや根付(リード)に加工できなければ意味がありません。また、硬くて曲がりにくいワイヤロープは、

 くくり罠に使用するワイヤロープは、〝設置時の扱いやすさ〟も考慮する必要があります。硬すぎるとスネアや根付けの加工が難しくなり、また、スネアが締まる際の抵抗が大きくなるため、空ハジキやスッポ抜けなどのトラブルリスクが高くなります。そのため、柔軟性も重要な要素となります。

コスト

 獲物がかかったワイヤロープは、キンクや金属疲労、マイクロクラックなどが発生するため、交換が推奨されます。しかし、頻繁な交換は経済的な負担が大きいため、コストも重要な選択基準となります。

亜鉛メッキ鋼とステンレスの性能比較

  くくり罠のワイヤに求められる性能を『メッキ鋼製ワイヤロープ』と『ステンレス製ワイヤロープ』に当てはめた場合の比較が上図のようになります。
 メッキ鋼製・ステンレス製の長所短所を結果にすると、メッキ鋼製は『引張耐久と安さが長所だが、そのほかの点でステンレスに劣る』ステンレス製は『キンクへの耐久は強いが、引張耐久はメッキ鋼に劣り、コストも高い』という結論になります。
 

〝使い分ける〟が肝

 亜鉛メッキ鋼とステンレス鋼のワイヤロープを効果的に使用するためには、スネア側とリード(根付け)側で使い分けることが重要です。
 くくり罠は、獲物を捕獲するワイヤ(スネア)と、獲物を木などに繋ぎ止めるワイヤ(リード)が、よりもどしで連結された構造になっています。リード側は、獲物が転げ回ってもキンクが発生するリスクが低く、加工のための柔軟性もそれほど必要ありません。

用途別オススメのワイヤ

 スネアリード
ステンレス製φ4.0㎜ 6×24 φ4.0㎜ 7×19 (あえて使うなら)
亜鉛メッキ鋼製φ4.0㎜ 7×24
φ5.0㎜ 6×24 (エゾジカ向け)
φ4.0㎜ 6×19 (コスパNO.1)

 スネア側、リード側ワイヤロープのオススメの組み合わせは上表のとおりです。スネア側には柔軟性が高く、キンク時の耐久の高い『6×24のステンレス製』をオススメします。もしメッキ鋼を使用するのであれば、ストランドが1本多い『7×24』が良いでしょう。リード側は、引張強度が高く安価な『6×19』がオススメです。

ワイヤロープは腐食が出たら即交換

 メッキ鋼は野外に放置しているだけでも表面に白い錆が浮いてきます。また、ステンレス製であっても、ワイヤロープは野外に放置すると少しずつ腐食が進みます。このような腐食が見えてきたら、キンクや破断が無くても交換するようにしてください。

まとめ

  1. メッキ鋼製は『引張耐久と安さが長所だが、そのほかの点でステンレスに劣る』
  2. ステンレス製は『キンクへの耐久は強いが、引張耐久はメッキ鋼に劣り、コストも高い』
  3. スネア側には柔軟性が高く、キンク時の耐久の高い『6×24のステンレス製』をオススメ
  4. リード側は、引張強度が高く安価な『6×19』がオススメ

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