狩猟者はよく理解して欲しい「緊急銃猟」って狩猟者が担っていいことなのか?

先日、某メディアから取材の申し込みを受けました。テーマは、近年ニュースでもたびたび取り上げられる「緊急銃猟」についてです。ひとまず取材の趣旨を確認してみると、「街中に出没したクマにどうやって近づくのか」や「市街地で猟銃を使う際に何に気を付けるべきか」といったものでした。
この話を聞いた時、私は「自分にはそれに意見を述べる適任者ではない」として取材をお断りしました。というのも正直な話。私は「緊急銃猟」を狩猟者が担うことに反対だからです。今回は「緊急銃猟」について、狩猟者が携わることの問題点について、私の意見を述べたいと思います。

目次

「緊急銃猟」とは?

本題に入る前に、まずは「緊急銃猟」の制度について簡単に解説します。

令和7年度に新設された制度

近年、クマやイノシシなどの大型野生動物が、市街地を含む人の生活圏へ出没するケースが全国的に増加しています。
こうした事態は、単なる鳥獣被害に留まらず、時には人命に関わる深刻な危険を伴うため、社会問題として大きく注目されるようになりました。
そこで令和7年度、新たに創設されたのが「緊急銃猟」という制度です。
これは本来、法律で禁止されている以下の要件を、人命への危険が差し迫っている場合に限り、例外的に認める制度です。

  • 住宅地などの「住居集合地域」での銃猟
  • 建物方向への発砲

緊急銃猟を実施するための条件

ただし、この制度は「街中で自由に発砲できる」というものではありません。
緊急銃猟を実施するには、市町村長が必要性を判断したうえで、一定の技能要件を満たした捕獲従事者へ委託する必要があります。
さらに、実施にあたっては安全確保のため、以下の措置を講じることができるとされています。

  • 住民への避難指示
  • 現場周辺の通行制限
  • 都道府県への応援要請

また、緊急銃猟によって万が一、建物や物品への被害などが発生した場合には、市町村長が補償を行うことも制度上明記されています。

緊急銃猟を狩猟者が担うことの問題点

緊急銃猟

さて、上記のような緊急銃猟が始まり、その実行役として一般狩猟者が担うことになっています。しかし、私は、この緊急銃猟を民間人にゆだねるべきではないと考えています。

緊急銃猟は「治安維持」の問題である

まず、緊急銃猟は通常の鳥獣被害対策の延長線上にはありません。
山林などの猟場における有害鳥獣捕獲であれば、狩猟者が地域の鳥獣管理を担うのは重要な役割です。
しかし、野生動物が「街中」に現れた時点で、それはもはや鳥獣被害対策ではなく「治安維持活動」です。
治安維持である以上、民間人の役割ではなく、警察や自衛隊が対応すべき領域であるはずです。

猟銃は「市街地戦」に適した道具ではない

また、狩猟者が所持する「猟銃」という道具は、市街地での緊急銃猟に適していません。
ライフル銃や散弾銃(スラッグ弾)は、広大な自然の中で獲物を確実に仕留めるパワーと射程距離を前提に設計されています。
そのため、障害物が多く跳弾のリスクも高い市街地で、動き回る標的に向けて使うことには無理があります。
強烈な威力を持つ猟銃で市街地の動物を正確に撃ち抜くのは、例えるなら「スレッジハンマーで釘を打つ」ようなもの。
緊急銃猟を行うのであれば、より精密に釘が打てるハンマーのような道具を利用するべきです。

なぜ民間ハンターが前面に立たされるのか

では、なぜ国や自治体は、一般の狩猟者に緊急銃猟を担わせようとしているのでしょうか。
その背景には「責任の所在」の問題があると思っています。
「万が一、事故や被害が発生した場合に、警察や行政が直接責任を負う構図を避けたい」という思惑があるからでしょう。
何か問題が起きた際に狩猟者を「スケープゴート」にする。
先に北海道で発生した猟銃所持許可の取り消し騒動を見ていると、どうしてもそう感じざるを得ないのです。

本当に必要なのは「現実的な議論」

私は緊急銃猟を「有害鳥獣捕獲の一貫」として一般の狩猟者ではなく、「治安維持活動」と認めて警察や自衛隊のような公的な機関が担うべきだと思います。
しかし、現在の日本でそれらの組織が緊急銃猟を行うのは、法律上や人的な問題で厳しいことは理解できます。
そうだとしたら、緊急銃猟について一般狩猟者に明確な権限と、使用する道具の最適化を行う必要性があると思います。

緊急銃猟用の銃を貸し出す

先述の通り、市街地で通常の猟銃を用いて周囲に被害を出さずに射撃しろというのは、スレッジハンマーで釘を打てと強要するようなものです。
そのため、行政は市街地戦に特化した銃器を、緊急銃猟時に限って貸し出すような制度を構築すべきです。
例えば、海外でクマの自衛用に用いられる大口径拳銃などが選択肢に挙がります。
当然、これらの銃は猟銃とは扱い方が根本的に異なるため、専門的な訓練ができる環境を整備する必要があります。

コラテラルダメージは発生する前提

もう一つの重要なポイントは、緊急銃猟が治安維持の問題であることを、一般社会に広く理解してもらうことです。
治安維持の局面に至っている以上、その対策において「コラテラルダメージ(巻き添え被害)」が発生し得るという現実を避けて通ることはできません。
たとえばテロ組織と市街地戦で戦闘が行われた場合、コラテラルダメージは必ず発生します。
それと同様に、人間の生命を脅かす「猛獣」を街中から排除するにあたって、付随的な被害をゼロにすることは限りなく不可能です。
この厳しい現実について、有事には一定の物的被害やリスクが発生し得るという事実を、国や自治体、そしてメディアは住民に対して事前にしっかりと説明する義務があります。

この問題は狩猟者自身が主張しないといけない

繰り返しになりますが、狩猟者は「自然の中で獣を捕獲する」技術を持った民間人であり、街中に現れた猛獣を制圧する特殊部隊ではありません。
また、私たちが所持している猟銃も、市街地のような場面において最適な道具ではないのです。
そして、この現実は、狩猟者自身が最もよく理解しておく必要があります。
現状のまま一般狩猟者が緊急銃猟を行うようになると、「不適切な道具(猟銃)の使用」というハンデを背負ったまま、重い責任だけを押し付けられる存在になりかねません。
もし今後、社会的な役割として緊急銃猟に協力していくことになるとしても、狩猟者は自身の権利と社会的な保障を強く要求していく必要があるはずです。

まとめ

  1. 緊急銃猟は令和7年度が新設された、危険鳥獣を市街地で銃猟することができる制度。
  2. 緊急銃猟は「治安維持活動」であり、本来は有害鳥獣捕獲の領域ではない。
  3. 緊急銃猟を一般狩猟者が行うのであれば、猟銃ではない専用の銃器の貸出し等が必要になる。
  4. 緊急銃猟は治安維持活動であり、それに伴うコラテラルダメージは避けようがない。
  5. 狩猟者はこれらのことをよく理解して権利を主張するべき。

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