3月某日に開催したキャンプ泊の狩猟ツアーでは、お客様から「お酒に合うジビエ料理」をリクエストいただきました。 「酒」といえば日本酒。そして、日本酒に合わせるならイノシシ料理の代名詞「牡丹(ぼたん)鍋」で間違いありません。そこで今回は、本格スタイルのボタン鍋のレシピをご紹介します。
「本流」のボタン鍋
イノシシ肉を使った鍋、いわゆる「牡丹鍋」には数多のレシピがあります。しかし、私が「これこそ本流」と信じているのは、今回ご紹介するネギと一緒に濃厚な味噌でくたくたと煮込むスタイルです。
準備する材料
- イノシシ肉: 脂ののったロースやモモ肉(1人前200〜300g)
- 長ネギ: できれば下仁田ネギのような太く甘みのあるもの
- 具材: 豆腐、ゴボウ、里芋、キノコ類、お好みの葉野菜
- 調味料: 味噌、砂糖、みりん、酒
ネギで巻く

イノシシのブロック肉を半解凍の状態で薄くスライスし、カットした白ネギを丁寧にぐるぐると巻いていきます。
この「肉巻き」作業は、手間がかかりますが、牡丹鍋の真価を引き出すために非常に重要です。
というのも、脂の強いイノシシ肉を単体で食べ続けると、どうしても口の中が重くなります。
そこでネギを一緒に食べてもらうことで、最後まで飽きることなく箸を進めることができるようになります。
もちろん、お客様へ常に「肉とネギ」を一緒に食べてもらえばよいだけですが、それは少々野暮というもの。
「最高のひと口」という完成された状態で提供することこそ、扱いの難しいジビエを提供する者のコダワリです。
イノシシの脂で材料を炒める。
鍋にネギ巻き肉を敷き詰めたら、まずはじっくりと火にかけていきます。
熱が通るにつれて、イノシシ特有の良質な脂が染み出してくるため、他に油を敷く必要はありません。
肉にしっかり火が通ったら、他の食材を炒めていきましょう。
牡丹鍋においては、「ゴボウ」もネギと同じく欠かせません。
ゴボウは旨味を吸い込む力が強いため、イノシシの脂とネギの甘みを余すところなくキャッチしてくれます。
ここに里芋や豆腐、キノコなども加え、全体に脂をコーティングするように馴染ませていきます。
水を一滴も加えない「田楽」スタイル
具材に脂が回ったら、味噌、酒、みりん、砂糖を投入し、くたくたになるまで煮込んでいきます。
ここで最大のポイントになるが「水を加えないこと」です。
一般的に「牡丹鍋」というと、汁たっぷりの「豚汁」のような料理がイメージされます。
しかし今回ご紹介する牡丹鍋は、素材から出る水分と調味料、そしてイノシシから染み出た油が一体となり、ブツブツと煮詰まった濃厚な甘味噌でいただくスタイルです。
いわば「田楽」に近い仕上がり。
この濃厚な味噌のコクこそが、野性味あふれるイノシシ肉に負けない味付けになります。
熱燗との相性抜群

調味料が煮立ったら、いよいよ「ネギ巻き肉」から箸をつけましょう。
すべての具材が煮えるまで待つ必要はありません。
煮汁が煮詰まるほど味わいが変わってくるため、その変化も併せて楽しんでください。
純米酒の「燗」が、濃厚な猪肉を受け止める
今回、お酒好きのお客様のために用意したのは「純米酒」です。
フルーティーでスッキリした吟醸酒も美味しいものですが、味の濃い牡丹鍋には、どっしりとした味わいのある純米酒を「燗」にするのが正解。
猪脂の力強さに負けない純米酒のボディが、口の中で見事にマリアージュします。
やけどに注意して「ハフハフ」食べよう
食べる際に一点だけ、絶対に注意していただきたいことがあります。それは、アツアツの「ネギの芯」による火傷です。
落語の『ねぎまの殿様』にもある通り、不用意に噛むと中からネギの芯が勢いよく飛び出し、喉を直撃してやけどします。
この「凶器」に細心の注意を払いながら、ハフハフと慎重に口へ運びます。
イノシシ・ネギ・酒のコンビネーションがたまらない!
トロトロになったネギの甘みと猪肉の旨味を存分に味わい、そこへ熱々の熱燗を「ギュッ」と流し込みましょう。
「うっ!もう、たまらん……!」
日頃の鬱憤をすべて吹き飛ばすような、まさに極楽の味わいが全身に広がります。
……まあ、私はあくまで「作る側」の人間なので、ただひたすら鍋の仕上がりを見守っているわけですが。
それでも、真っ赤な顔をして黙々と牡丹鍋を平らげていくお客様の表情を見れば、言葉など不要。
その満足げな顔こそが、猟師として、そしてガイドとして最高のご馳走です。




