皆さんが好きなジブリ作品はなんですか?
私は断然『もののけ姫』。
あの「絶望的」な終わり方がたまらなく好きです!
……え? もののけ姫は「ハッピーエンド」じゃなかったのか、ですって?
いえいえ、あの作品は、登場人物全員がその後悲惨な未来が確定した、壊滅的なバッドエンドです。
ラストシーンの展開を少しおさらいしておきましょう。
首を取られた怒りで「死の呪い」を撒き散らすシシガミに対し、主人公のアシタカとサンが首を返却します。
そして消滅していくシシガミは最後に「生の呪い」を振りまき、死の呪いによって荒れ果てた土地に緑が戻って「おわり」という流れです。
ここで決定的に重要なのは、シシガミが戻したのはかつての「森」ではなく、ただの「草原」だったという点。
『もののけ姫』で描かれていた二大勢力、エボシ御前率いる「タタラ場」と、半精霊化した動物である乙事主やモロの君が率いる「動物連合」が血で血を洗う争いをしていたのは、その土地に生い茂る「原生林」の存在があったからです。
したがって、最大の争点であった原生林が消滅した時点で、両者ともに「完全敗北」となります。
タタラ場衆は鉄を精錬するための膨大な薪材を失っただけでなく、本拠地であるタタラ場も壊滅しました。
一方で、半精霊の動物たちは、原生林が持つ絶大な霊気を失うため、作中の乙事主のセリフにもあった通り、いずれ知性を失って単なる「言葉も話せない野生動物」へと退化していく運命にあります。
さらに、タタラ場の利権を狙っていた地場勢力「浅野公方」のその後も破滅的です。
これも作中で言及があった通り、水源となる森が消滅したことで、洪水や干ばつによって領地の田畑は壊滅的なダメージを受けます。
加えて、帝の密命を受けてシシガミの首を狙っていた「唐傘連」も、大量の犠牲を払った挙句、作戦は完全失敗。
現場責任者だったジコ坊も、その責任を問われて処刑される未来しか見えません。
このように、『もののけ姫』は一見すると緑が蘇って「ふんわりと救われた」ように見えるラストですが、劇中のあらゆる勢力が共倒れする「最悪のバッドエンド」なのです。
ただ、私がこの作品を好きなのは、単に「退廃的だから」ではありません。
あの作品には、「安寧の死を受け入れる」よりも、「絶望的に苦しい未来を生き抜く」という姿を描いているからです。
シシガミが最後に遺した「生の呪い」によって、タタラ場で働く人々を苦しめていた不治の病(おそらくハンセン病)は消え、アシタカの死の呪いも消えました。
しかし、拠点も資源も失ったタタラ場衆は、あの絶望的な状況で生きていくことになります。
草原しかない土地では農業はできません。
おそらく彼らは野盗や傭兵集団のような過酷な生き方へ身を落としていくしかありません。
タタラ場の人たちは思うはずです。
あのとき「安らかに命を吸われた死の呪いを受け入れるべきだった」と。
しかし、そんな絶望的な未来が決定づけられた中でも、泥をすするような思いをしながら、どうにかこうにか生きていくのでしょう。
シシガミが最後に残したのは、希望的な「生の祝福」などではなく、絶望的で苦しい「生の呪い」なのです。
『もののけ姫』の有名なキャッチコピーである「生きろ。」は、コピーライターの糸井重里氏が何十もの案を出し、宮崎駿監督とすったもんだの激論を重ねた末に決定したという有名なエピソードがあります。
どれほど厳しい現実に直面しようとも、命ある限り生き抜くしかない。
そのようなキャッチコピーまで素晴らしい、至高の名作だと思います。




