視差(Parallax)
視差(パララックス)は、ピントが合っていない状態で照準器を覗き込むと、レティクルが標的の像とズレてしまう現象です。このズレが起きてしまうと、例えば標的をレティクルの中心に合わせて撃ったとしても、実際の照準と少しズレがでているため着弾点が外れてしまうといった問題が生じます。
視差の原理
スコープには、対物レンズが集光して像を作る標的の面と、スコープ内部に設置されたレティクルの面の、2つの平面を持っています。この平面がピッタリと重なっている(レティクルと標的のフォーカスが一致している)場合は2つの平面に奥行きの差は無いため、スコープを覗く角度が変わっても両方の像は重なって見えます。
しかし2つの平面に奥行きの差がある(レティクルと標的のフォーカスがズレている)場合は、のぞき込む方向によって2つの像がズレて見えてしまいます。このときの見え方のズレが視差(パララックス)であり、視差が出ている状態で像を重ねようとすると視差の分だけ照準が狂ってしまいます。
視差の実験
いまひとつ視差についてピンとこない人は、2枚の透明なプラ板を使って実験してみましょう。レティクルと標的の絵を描いたプラ板をピッタリと重ね合わせた状態が『フォーカスが合っている状態』。レティクルの絵と標的の絵に奥行きの差を付けた状態が『フォーカスがズレている状態』です。
フォーカスがズレた状態でレティクルを見る向きを変えると、レティクルと標的の絵がズレて見えるはずです。このズレが視差(パララックス)です。この視差ができている状態で、レティクルと標的の絵が重なるように動かすと、正面から見たときは視差ができていた方向とは逆にレティクルが標的からズレてしまいます。すなわち視差が出ている状態で照準を合わせると、弾道は照準から大きくズレてしまいます。
エアライフルでの視差の影響は大きい
装薬銃(散弾銃やライフル銃)によるハンティングでは、標的がシカやイノシシといった大きな獲物がターゲットになるため、視差の影響はそれほど大きくはありません。そのため装薬銃専用のスコープは、構えたときに素早く動く標的を見やすくする(どのような距離でもザックリとフォーカスが合う)ことが重視されているため、”もともと視差は出るもの”として設計されています。
対してエアライフルハンティングでは小動物がターゲットになるため、わずかな着弾点のズレが猟果に大きく影響します。そのためエアライフル専用のスコープは、フォーカスを細かく調整できるようにして視差を極力無くすように設計されています。このような違いがあるため、装薬銃用の高級なスコープをエアライフルに乗せると、”逆に精密性が落ちる”といった問題を起こす場合があります。
視差の軽減はほほ付けをしっかりすること
視差が発生する原因は、『フォーカスがズレている』ことと『スコープを覗き込む位置がズレている』ことの2つなので、どちらかを補正すれば視差を無くすことができます。現実的なハンティングでは、獲物を狙いながらじっくりとフォーカスを調整することは難しいため、スコープを覗き込む位置を決めるほほ付けをしっかりとマスターすることをオススメします。
ほほ付けをする銃床にはスコープが覗き込みやすいように、一段高くなったモンテカルロ型ストックや可変式チークピースといったものがあるので、有効に利用しましょう。
ホログラフィックサイト
スコープやリフレクタサイトでは問題になる視差ですが、ホログラフィックサイトと呼ばれる種類の照準器では原理上、視差が発生しません。このホログラフィックサイトはイメージセンサで取り込んだ画像とレティクルの画像を、レンズに投影する仕組みになっています。そのためレティクルは必ず取り込んだ画像の中心を示すため、どの方向から覗き込んでも視差は発生しません。