2022年7月8日 安部元首相暗殺事件から思うこと…犯行に使われた凶器は”散弾銃”ではありませんッ!

犯罪に使われた凶器を散弾銃って言わないでください

 2022年7月8日、奈良市内の路上で安倍元首相が暗殺される事件が起こりました。”銃”を使った卑劣な犯行…猟銃や空気銃を所持する者にとっては、なんとも苦々しく思える事件です。
 ん?ちょっと待ってください。この事件について巷では「散弾銃を使った犯行」と報道されることがありますが、犯人が使った凶器は散弾銃ではなく、ましてや「銃」と呼べる代物ですらありません。
「そこが問題?」と思われれるかもしれませんが、狩猟業界に身をささげる者として「銃は意外と簡単に作れる」といった誤認識が広がることは看過できない!
 そこで今回は事件に使用された凶器をもとに、散弾銃とはどういった道具なのか?また、銃という道具の特徴について詳しく解説をしたいと思います。
 


この記事の3つのポイント

  1.  件の事件で使用された凶器は「打ち上げ花火」。銃、ましてや散弾銃と呼べる代物ではない

  2.  散弾銃の定義は「散弾実包」を装填できること

  3.  銃という道具は、弾を正確に、かつ、射手にとって安全に発射できる機能を持つ必要がある



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犯行に使われた凶器

 まずは犯行に使われた凶器について考察してみましょう。犯行に使われた凶器は、一般的に狩猟やクレー射撃に使用される散弾銃ではありません。
 では何と呼ぶべきなのかは判断が微妙なのですが、一応、銃メーカーやガンスミス(銃職人)が製造していない、いわゆる密造銃のことを海外ではジップガンと呼びます。

犯罪で利用されたジップガン(想像図)

 今回の凶器がどのような構造だったのかについて、ニュースなどから見聞きした情報をもとに、想像を交えて書き起こしてみました。
 なお、この図は凶器の正確な見取り図では無く、ジップガンの作り方を紹介するような目的もありません。あらかじめご理解ください。

 報道で確定している情報として、

  • 銃身はホームセンターで買えるステンレス製の単管(パイプ)
  • 端はねじ込み式のステンレスエンドキャップ
  • 木を削り出して作った先台一体型のグリップに、ビニールテープをぐるぐる巻きにして固定
  • 電気のスパークを利用して火薬を発火
  • 火薬は手製の黒色火薬(硝酸カリウム、硫黄、木炭で合成)

といったことがわかっています。
ただ、これだけだと弾を発射する十分な推力を生むことはできないため、おそらく

  • 黒色火薬にモデルガン用のキャップ火薬を混合
  • 火薬と散弾の間にワッズを仕込んでいた

 のではないかなと思います。

正確に・安全に扱えない代物は「銃」とは言えない

 ニュースなどの報道では、上述の凶器から散弾を発射していたことから、「散弾銃を使った犯行」と報道されているわけですが、こんなのは散弾銃ではありませんし、ましてや「銃」と呼べる代物ではありません!
 銃という道具には、もちろん色々な定義の仕方がありますが、かねがね次に示すような特徴を持っていなければなりません。

  1.  照準を付けた場所に正確に弾を発射する
  2.  射手が安全に取り扱いができる
  3.  繰り返し使用できる(1発撃っただけで故障することがない)

 この定義から言うと、凶器は数メートルまで近づかないと弾が当てられないような代物であり、また、発射の反動で射手自身が大ケガをする危険性の高い構造です。このような代物を「散弾銃」と呼ぶのは、世の銃メーカーやガンスミスに対してまったく無礼な話です。
 では、この凶器は「銃」で無いとしたら何なのか?・・・あえて言い表すと「打ち上げ花火」です。

散弾銃とは何か?

 ここまでで「犯行に使われた凶器は散弾銃ではない!」とお話してきましたが、それでは『散弾銃』とはいったいどういった道具なのでしょうか?

散弾銃の定義

 散弾銃の定義は非常にシンプルで、それは「散弾実包が使えること」です。「散弾を撃ち出すことができること」ではありません。
 件の凶器は散弾実包ではなく、銃口から火薬と弾を詰め込む「先込め式」と呼ばれる構造です。そのため、たとえ散弾を発射していたとしても「散弾銃」とは言えないのです。

散弾銃ではない散弾を発射できる銃

散弾を発射できる銃

 散弾を発射できる銃には散弾銃以外にも色々あります。例えば、19世紀以前に水鳥を撃つ目的で使用されていた鳥撃ち銃(フォーリンピース)やパントガン。ラッパ銃(ブランダーバス)やスキャターガンなどがあります。
 これらの銃は散弾を発射することはできますが、散弾実包を装填する仕組みはありません。そのため「散弾銃」ではありません。

散弾実包

 それでは散弾実包(ショットシェル)とはいったいどういった物なのでしょうか?一見すると単なる筒のようにも見える散弾実包ですが、実に様々な工夫が施されています。

爆轟を引き起こす仕組み

 散弾実包には「保管のしやすくするため」や「持ち運びしやすくするため」といった目的もありますが、最大の目的は火薬を効率的に燃焼させることにあります。

 その立役者となるのが雷管(プライマー)です。雷管は衝撃を与えると高温の火花を発する仕組みになっており、これにより火薬を瞬時に加熱することが可能です。
 雷管に入っている化学物質は色々なタイプがありますが、一般的にはトリニトロレゾルシン鉛(トリシネート)などの複合系化学物質が用いられています。

 雷管の目的は火薬を爆轟させることです。爆轟(デトネーション)とは、物体の燃焼速度が通常の燃焼(デフラグネーション)よりも早く行われる反応で、一般的な「爆発」と意味は同じです。


 銃は、固体の火薬が燃焼して気体分子になることにより、その圧力で弾を飛ばす仕組みになっています。ただし、弾を高速に発射するためには火薬をゆっくりと燃焼させるのではなく、爆轟させて強力な衝撃波を生み出さなければなりません。

 さて、現在、銃に使用される火薬はニトロセルロースと呼ばれる物質なのですが、実をいうと、ニトロセルロースは単純に熱しても爆轟しません。
 例えマッチの火を近づけたとしても「シュボボボ!」と花火のように燃えるだけで(※)、弾を一気に加速するための推力を生み出すことはできません。そのため散弾実包では、雷管で火薬を一瞬のうちに加熱して爆轟反応を生み出し、弾を射出するための高圧を生み出すようにしています。
(※ 猟銃用火薬の使用は許可が必要なので、実包をばらして燃やしてはいけません。)

 ちなみに、散弾実包では『瞬時に高圧を作る』必要がありますが、 ライフル実包の場合は逆に『ゆっくりと燃焼させる』必要があります。この違いにより、散弾実包とライフル実包では使用される火薬の種類や薬莢の形状などが異なります。この違いについては長くなるので、また別の機会にお話ししましょう。

ワッズカップ

 散弾実包の工夫は『火薬の効率的な燃焼』だけではありません。例えば散弾を収納しておくワッズカップ。火薬が燃焼すると実包の内部は瞬間的に2000℃近くになります。この熱が発射体(ショット)に直接伝わると、弾同士が溶けてくっ付いてしまい、銃身の内部に張り付いてしまいます。そこでワッズカップを間に挟むことで、熱からショットを守っているのです。

 また、ワッズカップは発射された後の弾の散らばりを防止する効果があります。
 散弾銃では弾が広範囲にばらけて飛んでいくイメージがありますが、実際はワッズカップと一緒に飛んでいくため、実はそれほど広く散らばることはありません。しぼりによっても異なりますが、だいたい20~30m先で1m程度にしか広がりません。

ケース

 火薬を雷管の熱で瞬時に燃焼させ、ワッズカップごとショットを正確に撃ち出すためには、散弾実包の薬莢(ショットシェル)も重要な要素です。
 散弾薬莢はかつては厚紙でできていましたが、現在はプラスチックを主原料としており、何度か使いまわすことができます。

 薬莢は先端の”閉じかた”も精度に対する重要な要素になります。この部分はクリンプと呼ばれており、散弾を込める場合はスタークリンプと呼ばれる蛇腹型で閉じられています。

 このクリンプは火薬が燃焼しきって高圧になるまで、ワッズカップの放出を抑えておく効果があります。

銃の構造

 先に「件の凶器は『銃』とは言えない」と述べましたが、その理由は、現在の銃にはかねがね上図のような構造を持っているからです。
 これらの構造はひとえに、発射物を正確に飛ばすためであり、また、射手が安全に銃を使うために必要な仕組みです。こういった構造をしていない道具は、例え弾を撃ち出せたとしても「銃」とは呼べません。

銃尾の安全性は銃の肝

 銃という道具において最も重要となる部分が銃尾(ブリーチ)です。銃尾とは、実包を閉鎖する部分のこと。先にもお話した通り、実包内部は火薬の爆轟反応で超高圧の衝撃波が発生します。そのため実包を支えている銃尾が虚弱だと発射の反動で銃尾が爆ぜ、銃の部品や燃焼ガスが射手に向かって吹き飛んで来てしまいます

 銃尾にかかる圧力がどのくらいかは火薬の量などによっても変わりますが、だいたい1~2トンぐらいと言われています。
 件の凶器では銃尾を止めるのにステンレスキャップを使っていたみたいですが、「よくもまぁ自爆しなかったな」というのが私の感想です。
 おそらくもう少し銃尾に圧力がかかっていたら、発射の衝撃でステンレスキャップが飛び出し自分自身の胸にブチ当たっていたことでしょう。

スライドアクションの封鎖例

 ちなみに、一般的な散弾銃であるスライドアクション式やセミトート式、ボルトアクション式ではボルト(遊底)という部品が銃尾に使われます。
 このボルトは銃尾を閉鎖する役割に加え、撃針を叩く撃鉄(ハンマー)を起こす役割も持っています。この機構により『ボルトが閉鎖されていない限り撃鉄が落ちない』ような仕組みになっています。

銃身

 件の凶器は銃身をステンレス製のパイプで作っていたみたいですが、これについても銃尾と同じように、無茶な設計だといえます。
 もちろん海外には銃身に鉄パイプを使ったパイプ銃というジップガンの一種もあるのですが、あれらは散弾実包を使っているから衝撃に耐えられるだけであり、手製の黒色火薬で弾を撃ち出すのは無謀以外の何物でもありません。

銃身が破裂すること

 ただの筒のように見える散弾銃の銃身ですが、その構造を詳しく見てみると上図のような造りになっています。
 この図からわかる通り、銃身は最も高圧になる薬室部分が他の部分よりも厚く作られており、銃身本体は比較的薄く作られています。

 なぜ銃身が薄く作られているのかというと、それは裂けやすくするためです。
 「壊れやすいことに何のメリットが?」と思われるかもしれませんが、例えば銃身に泥などが詰まっていた場合、弾を発射すると銃内部が異常な高圧になって破損してしまいます。このとき、射手に近いところが破裂すると、射手に高圧ガスや爆ぜた部品が当たって死傷してしまいます。
 このような事故が起こらないように、銃身は内部が異常な高圧になると『真っ先に』壊れて圧力を逃がすようになっているというわけです。

おわりに

 今回は『散弾銃の仕組み』についてお話をしました。再三述べていることですが、犯行に使われた件の凶器は「銃」ではありません。銃は”正確”、かつ、”射手が安全”に弾を飛ばすための道具であり、長い年月をかけて研究開発が行われてきた道具です。「銃は簡単な道具で手作りできる」といった誤った考えを持たないようにしましょう。

それでは今回はこのへんで。


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この記事のライター

東雲輝之

株式会社チカト商会の代表取締役兼、副業猟師。狩猟の継続発展・産業化・国際展開などを目標に事業展開をしています。 本人著書として『狩猟の教科書シリーズ』(秀和システム)、『初めての狩猟』(山と渓谷社)など。子育てにも奮闘中。

Twitter:東雲輝之



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