ゴミ集積場を漁るドス黒い『カラス肉』でも、「知らない」ことで”美味しい肉”となる

 ”Eating crow”(カラスを食べる)とは、日本語で「あまんじて屈辱を受け入れる」という慣用句です。カラス肉に対するネガティブなイメージは全世界共通ということでしょうか。それでは実際のカラス肉とは、はたしてどのような食味なのでしょうか?今回はカラス猟とカラス肉について、お話をしたいと思います。

目次

カラスってどんな動物?

 日本人ならカラスについて知らない人はいないはずです。しかし、日本で見られるカラスには、大きく5種類の鳥がいることについて知っている人は、ほとんどいないと思います。カラス猟をする場合は、狩猟鳥に指定されていないカラスのことも、よく知っておかなければなりません。

狩猟鳥のカラス3種

ハシブトガラス

 まず、私たちの生活の中で最も身近に見られるのが、ハシブトガラスです。ハシブトガラスは人間の生活圏に近い場所に多く、都心部でもよく見かけます。ゴミ袋をあさるカラスも、だいたいはこのハシブトガラスですね。

ハシボソガラス

 次に、農耕地帯など、人間界と自然界が適度に混じったところに多く生息するのがハシボソガラスです。羽の色合いがよく似ていますが、ハシブトに比べてクチバシが細くなっており、また、ハシブトが「カーカー」と澄んだ声で鳴くのに対し、ハシボソは「ガーガー」としゃがれた声で鳴くのが特徴です。

ミヤマガラス

 冬になるとユーラシア大陸から渡ってくるのがミヤマガラスです。農耕地帯に群れでやってきて昆虫や幼虫を食べることから、昔は畑から害虫を退治する”益鳥”とされていました。しかし近年は、集団で電線に留まって糞をまき散らすことから、”害鳥”と見られることが多くなりました。・・・なんとも人間勝手な話ですね~。

非狩猟鳥のカラス2種

 ハシブト、ハシボソ、ミヤマガラスの3種は狩猟鳥獣に指定されているため、狩猟により捕獲することができます。しかし日本には、狩猟鳥獣に指定されていないカラスもいるので注意しましょう。

コクマルガラス

 特に狩猟鳥と間違えやすいのがコクマルガラスです。コクマルガラスは、ミヤマガラスの群れに混じって日本に渡ってきます。見た目は、上の絵のように白黒のコントラストがはっきりとした個体が居る一方で、全身がほぼ真っ黒のタイプもおり、パッと見では他のカラスと見分けがつきません
 間違えて捕獲してしまうと密猟になってしまうため、カラスを銃で狙撃するときは、十分に群れを観察するようにしましょう。
 

ワタリガラス

 ワタリガラスは、ハシブトよりも4割ほど巨大で、その姿から「オオガラス」と呼ばれることもあります。知能も他のカラスに比べて高いと言われており、一説には人間の4歳児に匹敵するのだとか。
 ワタリガラスは、ユーラシア大陸や北米大陸に生息しており、日本には冬にやってくる渡り鳥です。渡りのほとんどは北海道ですが、稀に本州にやってくることもあるので注意しましょう。
 

「カラス」の英語は色々ある

 日本では「カラス」の一言でまとめられるカラス達ですが、英語では体が大きい順に、ワタリガラスを”Raven”(レイヴン)、ハシブトやハシボソを”Crow”(クロウ)、コクマルガラスを”Jackdaw”(ジャックドゥ)、ミヤマガラスを ”rook”(ルーク)と呼び分けされています。
 英語でカラスを指す言葉はどれも「不吉の前兆」みたいなニュアンスがありますが、大きな ”Raven” に対しては、「死神」や「神の使い」といった神聖的なイメージがあったりもします。

カラス猟

 カラス猟は、駆除の場合は網を張った大型の箱罠が使われれることもありますが、一般的には散弾銃による銃猟です。広大な畑には、必ずと言っていいほどカラスが群れをなしているので、飛んでいる所を散弾銃で撃ち落としましょう。

カラスの葬式

 カラスを何羽も捕獲したいのであれば、1羽を仕留めたあと、しばらく隠れて様子を見ましょう。カラスは仲間の死に対して過敏な動物で、『なぜ仲間が死んだのか』を調べようとします。
 そのため、カラスの死体をしばらく放置しておくと、カラス達がどんどん集まってきます。「ギャーギャー!」と警戒声を上げて飛び回る光景はなんとも異様ですが、獲物から近づいてくるチャンス!次々に狙撃していきましょう。

カラスのデコイ&コール


 カラス猟ではデコイ(模型)を使うのも有効です。仲間を引き寄せるためには、初めの1羽をどうにかして捕獲しなければなりませんが、デコイを使えば群れをおびき寄せることが可能です。

コール(笛)を使う

 デコイを使った狩猟法では、コールも必要になります。このコールは、動物の声マネをすることができる笛で、カラス専用のコールが売られています。

カラス語を使いこなす

 コールの使いかたは様々ですが、デコイと併用する場合は警戒声(アラームコール)を鳴らすようにします。警戒声は「カァ ! カァ!」と大きく短い音を2回出すのが特徴で、上手く群れをおびき寄せることができれば、カラスの葬式と同じ状況を作り出すことができます。

エアライフルによるカラス猟

 駆除目的でカラス猟をする場合は、民家が近くなるため散弾銃を使うことができません。そこで近年では、エアライフルによる猟が多くなっています。
 ただしカラスは、ヒヨドリやキジバトなどに比べて”矢に強い”ため、高威力のPCPエアライフルを使うことをオススメします。捕獲方法は散弾銃と同じく、1羽を仕留めたあとに身を隠し、降りてきたところを狙撃していきましょう。

カラス肉の味

 全身真っ黒な羽でおおわれたカラスは、食材として見るには、どうしても抵抗があります。しかし、食べる人が生前の姿を知らなければ、普通の「美味しい肉」と思うことでしょう。

カラス肉は濃い赤身

 鳥類の肉には白身と赤身の2種類があります。いわゆる速筋と遅筋というやつで、優れた瞬発力(速筋)を必要とする鳥は白身になり、長時間飛ぶスタミナ(遅筋)が必要となる鳥は赤身が強くなります。前者はキジ科の鳥(ニワトリなど)、後者はカモ科の鳥がその代表的存在です。

 カラスは赤身に分類されます。しかも、結構強めの赤身・・・赤身というかドス黒身ですね。シカ肉でも同じですが、赤身の肉は脂肪分がほとんどないため、熱を加えすぎるとパサパサになります。
 また、旨味成分であるアレキドン酸が筋肉中に含まれる鉄分と結合して酸化アレキドン酸となり、「レバー臭」と表現される臭気が出るので、調理方法には工夫が必要です。

胸肉はシカの背ロースと同じ味わい

 火加減に十分注意してカラス肉を調理すると・・・これが意外と美味しいです!カラスの胸肉は、シカの背ロースと似た味わいがあり、柔らかくて旨味が強いです。
 モモ肉の方は筋肉があまり付いておらず、スジが多いので食べ応えはありません。しかし、肉質的には上品で、旨味も申し分ありません。

皮はゴムのような食感

 ただし、カラスの皮はゴムのように固いため、調理するときは皮を取り外した方がよいでしょう。もしくは、カラスを処理するときに、皮ごと羽を剥いでしまいましょう。

調理方法は濃いめの味付けで

 カラス肉は鹿肉と同様に脂肪分がほとんどないため、脂っ気の強いソースを絡めて調理しましょう。具体的には、パイのような料理がオススメです。
 パイはソースを濃いめに作ることができる上に、熱の通りが緩やかなので、肉質のパサつきを抑えられます。また、可食部の少ないモモ肉も細かく切ってパイ種に混ぜることができるので、無駄が出ません。

山のカラスと都会のカラスに味の違いはあるのか?

 余談ですが、都会で生ゴミを漁るハシブトガラスと、森で木の実を食べるハシボソガラスは、どちらの方が美味しいのでしょうか?おそらく多くの人は、「生ゴミを食べるハシブトは臭くて、木の実を食べるハシボソは美味しい」と答えるはずです。
 しかしながら、実際はハシブトもハシボソも違いはありません。むしろ、地球上でもっとも”栄養価の高い”人間の残飯を食べているカラスの方が、自然界で粗末な物を食べてるカラスよりも肉付きが良かったりします。

私たちは『情報』を食べている

 私たちは物を食べるとき、併せて情報も食べています。どういうことかというと、例えば、「カラスはマズそうだ」という人に対して、カラスのパイを「普通のミートパイ」だと偽って食べさせたとします。おそらくほとんどの人は、そのパイを「美味しい」と答えるはずです。
  また、パイにカラス肉が入っていたことを告げるさいに、「山で獲れた自然の物しか食べていないカラスだ」と 告げるのと「都会でゴミ捨て場を漁っていたカラスだ」と告げるのでは、その後の反応も変わってくるはずです。
 このように、私たちは食べ物の味を評価するさいに、その食物の旨味成分や栄養素といった物質的な要素よりも、『先入観』といった情報を重視する傾向にあります。
 つまり、世界的に見てカラス肉の評価が悪いのは、「美味しくないから」ではなく、「美味しく”なさそう”だから」であり、”情報”という味付けに問題があるからだといえるのです。

まとめ

  1. 日本には、ハシブト・ハシボソ・ミヤマ・コクマル・ワタリガラスの5種類がいる
  2. カラス猟は『カラスの葬式』を上手く利用して、大量捕獲を狙おう
  3. カラス肉は赤身で旨味もある。イメージは悪いが、決して味は悪くない

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この記事を書いた人

東雲 輝之のアバター 東雲 輝之 株式会社チカト商会代表取締役・ライター・副業猟師

当サイトの主宰。「狩猟の教科書シリーズ」(秀和システム)、「初めての狩猟」(山と渓谷社)など、主に狩猟やキャッチ&イートに関する記事を書いています。子育てにも奮闘中。

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