【 2021年6月22日千葉・空気銃ネコ連続殺傷事件】狩猟者にとっては”明日は我が身”になる問題かもしれない…という話

空気銃ネコ連続死傷事件

 2021年6月22日、千葉県千葉市で空気銃を使い、2年間にわたり10匹以上の猫を死傷させた疑いで40台の男が逮捕されました。なんとも痛ましく、また怒りを感じる事件です。
 しかし、このニュースを狩猟者の目線からよく読んでみると、この容疑者の男は『楽しみで猫を殺すシリアルキラー』ではなく、『”頭は悪い”けど”純粋な狩猟者”』だった可能性が見えてきます。もしそうだとすると、この事件は容疑者の個人的な問題ではなく、狩猟・銃業界が解決すべき課題が含まれているように思えました。
 そこで今回はこの事件の内容を深堀するとともに、「明日は我が身」になるかもしれない問題点についてお話をしていきたいと思います。

この記事の3つのポイント

  1.  事件の詳細を見ると、容疑者の男は純粋に狩猟を楽しみたかっただけなのかもしれない

  2.  純粋に狩猟を楽しみたかったのであれば、容疑者は法律・一般常識を理解できてなかっただけである

  3.  知識不足によって起こった事件なのだとしたら、再発防止には業界の仕組み自体を変えていく必要がある


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事件の概要

 さて、まずは本事件のあらましについて見ておきましょう。以下、6月22日の読売新聞オンラインからの抜粋です。

ネコを空気銃で射殺した男を逮捕…千葉市周辺、2年間に10匹以上が殺傷

 空気銃を使って猫を射殺したとして、千葉県警は22日、千葉市、40歳代の男を動物愛護法違反(殺傷)と銃刀法違反(発射制限)の両容疑で逮捕した。同市や周辺では昨年末までの約2年間に、10匹以上の猫が同様の手口で殺傷されており、県警は関連を調べている。
 捜査関係者によると、男は昨年12月中旬、同県八千代市内で、空気銃で鉛の弾を野良猫に向けて発射し、殺した疑いが持たれている。死骸の胸から見つかった弾は直径約5・5ミリで、殺傷能力が高かった。

(中略)

 男は県公安委員会から許可を得て、猟などの目的で空気銃を所持していた今年1月頃に男の免許が失効した後、猫の殺傷事案は確認されていないという。

(後略)

読売新聞オンライン(2021年6月22日)https://www.yomiuri.co.jp/national/20210622-OYT1T50161/
なぜこの男はエアライフルを犯行に使ったのか?

 この事件を見た多くの人は、「この男は楽しみで弱い動物を殺すシリアルキラーに違いない!」と思われるはずです。
 ただ、狩猟者の目線からこの事件を見たとき、少し疑問に思うところがあります。それはネコの殺害に、なぜ空気銃を使ったのか?という点です。
 というのも、もし、この男が単純にネコを殺したかったのであれば、毒餌を使うなり、自宅に連れ去るなり、もっと上手なやり方があったはずです。どうしても銃を使いたかったにしても、強力なエアガンやスリングショット、クロスボウの方が手軽です。
 このように『ネコを殺したいだけ』であれば、簡単で安価な方法はいくらでもあります。それではなぜ、所持許可を受けるという手間を挟んでまで、空気銃を使うことにしたのでしょうか?

容疑者が使った空気銃

 上は、千葉の公安委員会が公開した容疑者が使用した銃の写真です。この写真から推測するに、使用されたエアライフルはイギリス・エアアームズ社のS410(ボルトアクション方式)ですね。握りと先台のチェッカリング、先端が丸く加工された先台、ボックス型の回転弾倉から判別できます。
 使用しているスコープは詳しくわかりませんが、大きめの対物レンズを持ったライフルスコープであることを見ると、おそらく10万円台のミドルスペックだと思います。S410は中古でも28万円ぐらいするので、総額40万円近くの出費をして装備を揃えていたことになります。

 エアアームズS410(↑の絵はS510ですが)は、射撃大会ではいつも上位に入ると言われる高精密な空気銃で、非常に人気のあるモデルです。
「こんな名銃を犯罪に使うなんて許せんッ!」・・・という怒りは脇に置いといて、『ノラネコを殺す』という目的を達成するためだったにしては、空気銃を所持する手間や出費が明らかにアンバランスのように感じます。

男の目的は、純粋に『狩猟』だったのではないか?

 先ほども述べましたが、もし容疑者が「近所のノラネコにイライラして殺意が沸いた」といった理由で犯行に及んだのだとしたら、わざわざ公安委員会から正式に空気銃所持の許可を受け、高性能で高額なエアライフルを買う必要は無かったはずです。
 この矛盾から想像される仮説として、もしかすると容疑者の男は『ネコ殺しのシリアルキラー』ではなく、『”頭は悪い”けど”純粋に”狩猟を楽しみたかった狩猟者』であった可能性があるのです。

ノラネコとノネコの補足説明

 狩猟免許を所持した人にとっては”あたりまえ”の話ですが、ここでノラネコとノネコについて補足説明をしておきます。
 狩猟鳥獣に指定されているノネコは、人に飼われていないネコ、通称「ノラネコ(野良猫)」と呼び名はよく似ていますが、”法律的”に分けられています。
 もちろん、ノネコとノラネコは生物学的には同じ『イエネコ』なので、見た目からは判断できません。しかし、民家周辺に生息するイエネコは『ノラネコ』であり、周囲に人が生活をしていない場所に生息しているイエネコは『ノネコ』という社会通念で判断されています。

容疑者はノネコとノラネコを区別できていなかった?

 さて、『”頭は悪い”けど純粋な狩猟者』とは、どういう意味なのか?結論から言うと容疑者の男はノネコとノラネコの区別をせずに狩猟をしていた可能性があるのです。つまりは、ネコをエアライフルで撃つさいに、ネコに対して憎悪を持っていたのではなく、狩猟者として『狩猟を楽しんでいた』可能性があるというわけです。
 仮に上述の仮説が正しかったとしたら、この事件は100%容疑者の男に問題があったとは言えません。少なくとも容疑者の男は、法律的に正しい手順で狩猟免許を取得し、空気銃の所持許可を受けています。よって、知識不足の行動については、現在の狩猟・銃所持許可の制度自体にも穴があるということになります。

純粋な狩猟者であったとしたら、狩猟業界にも問題があるのでは?

 念のために言っておくと、私はこの容疑者を擁護しているわけではありません。例えば、車で人をひき殺してしまったとして「運転免許を発行した行政の責任だ!」という理論展開にならないように、狩猟や銃所持で違反を犯した場合に罪に問われるのは本人です。ノネコとノラネコの区別ができていなかったことが事件の原因だとしても、それを理解できていなかったのは容疑者の頭が悪いからです。むしろ、『ネコ殺しのシリアルキラー』説の方が濃厚でしょう。
 ただ、もし容疑者の男性が『純粋な気持ちで狩猟を楽しみたかった』のだとすると、その気持ちを犯罪という形で終わらせてしまったことには、とても残念に感じます。もし彼に知識不足を補う機会や、狩猟仲間が集える場所が提供されていたら、今回のような事件は避けられたかもしれないのです。

間違った法律の知識・モラルは現在の狩猟業界で広く見られる

 また、『知識不足』という面で現在の狩猟業界を見ると、他人事とは言えない様相があります。例えば、裸銃で路上を歩いたり、装填したまま銃を保管をするなど、それが明るみになっていないだけで、刑事事件として取り上げられるような行為は日常的に起こっています。こういった問題は本人が『鳥獣保護法違反・銃刀法違反』を認識しているわけではなく、単純に理解不足やモラル不足であることがほとんどです。
 今回の事件の話を聞いて、容疑者を「ネコ殺しのシリアルキラー」と糾弾するのは簡単なことだと思います。しかし私たち狩猟者は、あらためて今回の事件を教訓に、狩猟・銃所持を再度身に付ける機会が必要になると思います。そうでなければ、今回のような犯罪が『明日は我が身』になる可能性もあるのです。

おわりに

 今回は『2021年6月に起きた、エアライフルによるネコ連続死傷事件』について、『もし容疑者の男が純粋な狩猟者だったとしたら』という視点でお話をしました。
 知識不足・認識不足というのは、誰でも起こりうる話です。もちろん今回の話は仮説を前提にしたものですが、もし事件の原因が知識不足・認識不足だとしたら、その原因を属人化で済ませるのではなく、制度や仕組み自体を変革することで改善していくべきだと思います。


Author情報
東雲輝之

株式会社チカト商会の代表取締役兼、副業猟師。狩猟の継続発展・産業化・国際展開などを目標に事業展開をしています。 本人著書として『狩猟の教科書シリーズ』(秀和システム)、『初めての狩猟』(山と渓谷社)など。子育てにも奮闘中。

Twitter:東雲輝之



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