猟師(プロハンター)の存在意義を、2018年に北海道でおこった『市の要請でヒグマを駆除→ライフル銃取消し』事案から考えてみた

 2019年6月13日、『市の職員と警察官の立ち合いのもとヒグマを駆除した駆除隊員が、後になって公安委員会からライフル銃の所持許可を取消された』というニュースが話題になりました。
 この件について世間では「ライフル銃を所持させたくない公安委員会によるマッチポンプだ!」という意見が大半をしめていますが、私はこのニュースを聞いたとき、どう考えても「このプロハンター(猟師)に問題がある」と思いました。この理由について、事件の流れを踏まえて詳しく見ていきましょう。

この記事の3つのポイント

  1.  2018年北海道でおこったライフル銃取消し事案は、”事件”ではなく公安委員会による銃所持取消の行政処分

  2.  ニュースでは「発砲の許可」と言っているが、日本の公安委員会には『民間人に発砲を許可する』なんて権限はなんてない。

  3.  現場にいる鳥獣捕獲の責任者は鳥獣駆除従事者。「何を信用してよいかわからない」はプロの発してよい言葉ではない。


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事件の概要

 2018年に北海道で発生した事案は、いったいどういったものなのでしょうか?まずはニュースを引用するかたちで、まとめていきましょう。

ニュースの報道

「何を信用したら?」市の要請でクマを駆除したのに銃所持許可が取消に 北海道

 2018年、砂川市で市や警察の立会いのもと要請に応じてクマを駆除したハンターが、鳥獣保護法違反の疑いで書類送検され、その後不起訴になったものの、銃の所持許可が取り消されるというトラブルがありました。 住民の命を守るためのハンターの行動がなぜ問題視されてしまったのでしょうか。

  田中うた乃記者:「このあたりには果樹園も多くあり、たびたびクマが目撃されていました。男性は市の要請を受け警察立会いのもと10数メートル先にいた子グマを駆除しました」
 北海道猟友会 I部長:「ハンターに頼んでいると片方で言っておきながら撃ったらダメみたいなことを言ったら、何を信用してやればいいのか。おかしいんですよ」
 こう話すのは、北海道猟友会砂川支部長の Iさん。Iさんは2018年8月、砂川市からの連絡を受け砂川市宮城の沢のクマの出没現場に出動し、1頭のクマを駆除しました。

 Iさんによりますと、市の担当者や警察官が周辺住民に注意を促し、現場で安全を確認した後、市が依頼する形で駆除したということです。しかし、 Iさんはその後、公安委員会の許可なしに発砲したなどとして、鳥獣保護法違反の疑いで書類送検されました。不起訴にはなりましたが建物の近くで発砲したことが問題視されライフル銃の所持許可が取り消されてしまいました。

 北海道猟友会 I支部長:「何がなんだかわからない、市の要請で駆け付け駆除するだけの話しですから、じゃあクマが出たら、人を襲うまで対応できないのか。私たちは、市民のためにクマを駆除して警察官もよかったよかったと言っていた」

 今回の件について警察は、現場で発砲を同意した事実はないとコメントしています。住民の命を守るためのハンターの行動が、問題視されてしまった今回のケース。クマの出没が相次ぐなか、道内のハンター達に動揺が広がっています。

2019年6月13日 UHB 北海道文化放送   https://uhb.jp/news/8634/
取消にいたる理由が書かれた公開聴聞文

不利益処分の原因となる事実

 あなたは、北海道公安委員会から許可を受けて狩猟及び有害鳥獣駆除の用途に供するためライフル銃(銃番号××××)を所持していたものであるが、平成30年8月21日午前7時45分ころ、北海道砂川市宮城の沢9番10において、弾丸の到達するおそれのある北海道砂川市宮城の沢14番9所在の菊地栄治方居宅等に向かって、前記ライフル銃を使用しライフル実包1個を発射して同所付近にいたヒグマ1頭を捕獲し、もって、弾丸の到達するおそれのある建物に向かって銃猟をするとともに、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の規定によらない銃猟をして銃砲を発射し、前記公安委員会の許可を受けないで火薬類を燃焼させたものであり、当該行為は、銃砲刀剣類所持等取締法第10条第2項に違反し、同法第11条第1項第1号に規定する所持許可の取消事由に該当するに至ったものである。

2019年6月13日  https://www.youtube.com/watch?v=jNWD1Poqd-Y
現場検証
現場検証

 聴聞文に記載されている住所から、発砲した現場(赤〇)と、発射方向(赤矢印)は、上図のようになっています。なお、青矢印方向には民家等はありません。

刑事事件として立件された根拠

 事案の発生順に整理すると、まず鳥獣保護管理法第38条3項に抵触したことで、立件されています。

鳥獣保護管理法第38条

日出前及び日没後においては、銃器を使用した鳥獣の捕獲等(以下「銃猟」という。)をしてはならない。
(中略)
 弾丸の到達するおそれのある人、飼養若しくは保管されている動物、建物又は電車、自動車、船舶その他の乗物に向かって、銃猟をしてはならない

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=414AC0000000088

 これについては『不起訴』となっているので、検察側の見解としては、『事件性はなかった』(ライフル銃の発砲方向が有害駆除として認められる範囲であった、もしくは、起訴するための十分な証拠がない)と判断されたことになります。

ライフル銃の取り消しとなった根拠となる条文

 検察側では、鳥獣保護管理法違反として事件性はないと判断した事案(起訴されていないので事件ではない)ですが、北海道公安委員会は違法性があると判断しました。その根拠となるのが、銃刀法第10条第2項です。 

銃砲刀剣類所持等取締法第10条

 第四条又は第六条の規定による許可を受けた者は、それぞれ当該許可に係る用途に供する場合その他正当な理由がある場合を除いては、当該許可を受けた銃砲又は刀剣類を携帯し、又は運搬してはならない。

 第四条又は第六条の規定による許可を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合 を除いては、当該許可を受けた銃砲を発射してはならない。
一 第四条第一項第一号の規定により狩猟又は有害鳥獣駆除(政令で定めるものを除く。)の用途に供するため猟銃又は空気銃の所持の許可を受けた者が、当該用途に供するため、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の規定により銃猟をする場合。(後略)

銃砲刀剣類所持等取締法   https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=333AC0000000006#428


 これによりIさんが所持許可を得ていた当該ライフル銃の所持許可が取り消されましたが、『都道府県公安委員会の判断で、銃の所持許可を取消すことができる』とする根拠は、銃刀法第11条第1項になります。

銃砲刀剣類所持等取締法第11条

都道府県公安委員会は、第四条又は第六条の規定による許可を受けた者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その許可を取り消すことができる
1 この法律若しくはこれに基づく命令の規定若しくはこれらに基づく処分(前条第一項の指示を含む。)又は第四条第二項の規定に基づき付された条件に違反した場合

銃砲刀剣類所持等取締法   https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=333AC0000000006#428
事案の要約

 この事案を要約すると、次のようになります。

  • いつ:2018年8月(猟期中ではなく有害鳥獣駆除中に発生)
  • どこで:北海道の砂川市某所(ライフル弾が民家に当たる危険性がある場所)
  • 誰が:市町村の許可捕獲を受けた鳥獣被害対策実施隊員のIさん
  • なにを:有害駆除で許可を受けたライフル銃
  • どうした:発砲した
  • 結果どうなった:刑事事件(鳥獣保護法違反)では不起訴だが、銃刀法違反(第10条)により、公安委員会の判断でライフル銃の所持許可が取り消された(第11条)


 この事案は単純にいうと、公安委員会による銃所持許可の取り消しです。「検察は事件性は『無い』と言ったのに、警察は『ある』と判断するのはおかしい」という意見もあるかと思いますが、司法権の独立(憲法)がある以上、議論する余地はありません。

発砲の”責任”はだれにあるのか?

 さて、本題はここからです。この事案がなぜここまで大きくなっているかというと、これには『発砲するに至った責任は誰にあるのか?』という責任論が混じっているためです。そして結論から言うと、発砲したことに対する責任は、同行していた市職員や警察官ではなく、まぎれもなく発砲した駆除従事者にあるということです。

『猟銃発砲の許可』なんて、日本には存在しない

 冒頭のニュースでは、『 警察の立会いのもと 』と『現場で発砲を同意した事実はない』という矛盾があるため、あたかも公安委員会が”騙して”銃を発砲させたように捉えられています。しかし、これはニュースが間違っています

 まずここで言う「公安委員会の許可」とは、「鳥獣保護管理法違反(建物に向けた発砲)」と公安委員会が判断したことを前提に、「鳥獣保護管理法に基づいた発砲(有害鳥獣駆除による発砲)ではない」→「公安委員会が所持許可を出す、狩猟・有害鳥獣駆除・標的射撃のいずれにも当てはまらない」→「だから”許可”を受けてない発砲」という意味です。

 一般の人たちはこのニュースを聞いたとき、現場の司令官(警察官)が「構え筒!撃てぇー!」と言って発砲させたイメージが定着していますが、日本の公安委員会には『民間人に発砲の許可を与える』なんて権限はありません。
 同様に市役所の職員も、『小ヒグマを許可捕獲の権限で捕獲できるか否か』を判断する権限は持ちますが、民間人に発砲を許可する権限なんてものはありません。

 日本の法律では、銃を発砲する判断ができるのは、その銃を所持する本人だけであり、
誰かが「良い」と言ったから発砲していいわけではありません。
これは日本の銃所持者の大原則なので、必ず理解しておきましょう。

違和感の正体はプロ意識がないこと

 さて、私がこの事案について感じた大きな違和感とは、Iさんが「何を信用してやればいいのかわからない」と発言したことです。ハッキリ言っておきますが、その場で一番信用しないといけないのは、”プロ”としてその場にいたIさん自身です。
 この場に居た市役所の職員は行政を運用するプロです。そして警察官は刑法を扱うプロです。そして鳥獣を捕獲するプロとしてその場にいたのが、このIさんです。なので、Iさんは信用はする側ではなく、周囲の人たちから信用される側に立っていた人なのです。

「誰もできない」、だから仕事になる

 おそらくこのIさんは、別に「プロハンターになりたい!」と思って活動しているわけではなく、単純に善意で駆除活動に参加している方なのだと思います。しかし、この活動が趣味の狩猟ではなく、業務として引き受けた有害駆除である以上、雇われたからにはプロ意識を持って責任を負わなければなりません。
 この話を読んだ方の中には、「そんな責任を負ってまで、プロハンターになる奴はいない」と思われたかもしれません。

 そうですよ。プロハンターって簡単になれるもんではないんですよ。だからこそ猟師は今後、ビジネスとして成り立つのです。

 近年プロハンターというと、「ジビエをどう売るか」や、「1頭捕獲したらいくらお金が入るか」などの話題ばかりですが、はっきりいってそんなのは、ビジネスを考えるうえで些末な話です。
 なぜ現在になってプロハンターが必要とされているのか?なぜビジネスとして成り立つのか?それは、今現在日本には、有害鳥獣駆除や保護管理事業に関して、責任を負って活動できる人材が少ないからです。そして、少ないからこそ専門家として高い報酬を要求でき、ビジネスとして成立するのです。

おわりに

 今回は「プロハンター(猟師)とは?」についてお話ししました。改めて言いますが、発砲の判断をするのは、その銃の所持者自身です。そして、有害駆除という業務に携わることは、自分の責任で業務を遂行し、その場にいるメンバーの指揮をとることが必要とされます。
 これは難しいことではありますが、それができるからこそ、猟師はプロフェッショナルとして、高い報酬を得ることができるようになるのです。

それでは、今回はこの辺で。


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5 Comments

    • コメントをありがとうございます!
      申し訳ありません、今回は北海道の事案から見る『プロハンター(猟師)の存在意義とは?』というのがメインテーマになっています。そのため、この件でIさんが『警職法による命令を受けていたのか?いないのか?』という事実検証をする意味がなかったため、警職法については触れませんでした。

      補足説明を加えておくと、警察が例え「撃て!(警職法第4条を適用するから刑事責任は問わない)」と言ったとしても、駆除者が「撃つべき場面ではない」と判断したら、撃ってはいけません。
      なぜなら、鳥獣の捕獲方法を決めるのは”プロ”である駆除者であって、公安委員会が判断することではないためです。
      Twitterに流れてきた、この話が良い例ですね。
      https://twitter.com/ray_channel870/status/1139142376796987393

      ちなみにですが、ニュースでは「市の要請を受け警察立会いのもと」や、「現場で安全を確認した後、市が依頼する形で駆除した」と書かれていますが、「立ち合いの警察から”警職法による命令”を受けていた」とは書かれていません。
      ここから推測するに、おそらくIさんは警職法の適用を受けずに発砲(プロとして間違った判断)をしたのだと思います。
      もちろん、私は当事者でも検察でも弁護士でもないため、その真相を議論できる立場ではありません。

      TwitterやDMの方で、警職法については色々と質問があったので、来週あたりに今回の件の補足をまとめたいと思います!

  1. 発砲の責任は最終的に引き金を引く判断をする射手にある、というのは同意です。

    補足があるというのでこれ以上のコメントはやめときますが、警職法に軽くでも触れないのは記事として片手落ちかな、と思いました。事実検証をしろと言っているのではなく、前提知識として記載があった方が、読み手としては考えが深まる気がします。

    • ご指摘いただき、ありがとうございました。
      次回、そのあたり詳しくご紹介したいと思います。

  2. 発砲の責任がハンターにあるとして、帯同している警察官がその場で止めないのは不自然。違反の可能性があるなら、帯同している市の職員も警察官も指摘すべき。指摘の義務がないとしても、道義的責任がないとは言わせない。

    そうでなければ何のためについてきている?カカシか何かか?

    常識で考えて、民間のハンターに行政が駆除依頼して、その場に警察官や市の職員がいて、発砲しようとしてそれが違反になる可能性があるなら、普通止めるのが当たり前だろ。

    現場にいるにもかかわらず違反になる可能性をなんら指摘せず、後から違反だと言われてハンターだけ処分され、一緒にいた公務員が処分されない現状の不公平感が大きいので、わけのわからない事件となってるのだよ。

    いくら理屈が通っていようが、理不尽なことには変わりない。ハンターを処分するなら一緒にいた公務員を罪なしとするのが解せない。

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